《君に触れたい〜逃した未来は大きかった〜》全部章節:第 101 章 - 第 110 章

116 章節

101話

〈了解。ところで、街中を疾走して回った結果かすみさんには会えたのか?〉 その三雲のメッセージに、弥一は猫が親指を立てているスタンプを送ると、立て続けに、 〈なんなら今一緒に本家にいる。〉 三雲は吹き出しに"⁉︎"がついたパンダのスタンプを送ってきてから、 〈まじかよっ!すごい急展開だな!〉 〈だな。俺自身も驚いてる。けど、両親もちょうど帰国してたからさ、ちょうどいいかなとも思って。それはそうと、仕事が終わったらお前もウチに来るのか?〉 〈まあ、何はともあれ良かったじゃないか!ん?俺がお前の家に?何で?〉 〈両親もだけど、先週から咲希もこっちに帰ってきてるからさ。〉 三雲が何と返そうかと考えているうちに、 〈俺とかすみさん、お前と咲希とでダブルデートってのも楽しそうじゃない?〉 三雲は目を見開くと、 〈いつから?〉 いつから自分と咲希との関係に気づいていたのか。 〈俺のこと舐めすぎ。咲希が帰ってくる度に有休取られたんじゃ、気づかないほうが無理がある。そこまで鈍くないっての。〉 三雲は苦笑して、 〈悪かったよ、黙ってたこと。とりあえず、俺は、今日仕事が終わった後は真っ直ぐ家に帰るよ。お前は久々の家族水入らずなんだろ?楽しめよ!〉 〈ああ、ありがとう。じゃあ、また来週な。〉 三雲が送ってきたゴリラが車で走り去るスタンプに、弥一はフッと笑うと、携帯電話をデニムのポケットにしまう。 そろそろ晩御飯の時間だな、そう思った弥一は部屋を出ると階下へと降りて行った。 そしてリビングのドアを開け中へ入ると、皆もうすでにダイニングテーブルの椅子に座っているのが目に入る。 かすみの左隣には咲希が、正面には巴が座り、斜め左にジョンが座っている。かすみの右隣の空いた席に座ろうと弥一が動いたのも束の間、その席に早苗がサッと腰をおろした。 「ん?」 早苗がかすみの右隣に座ったことにも驚いたが、それよりなにより、 「あれ?俺の席は?」 その一言に、ジョンは弥一を可哀想なものを見るような目で見てきた。 再度弥一が「俺の席は、って聞いてるんですけど?」 巴は厳しい目を弥一に向けると、顔は弥一に向けたまま左を指差した。 弥一が巴のその指を辿った先で、リビングの奥の小上がりになった座敷に食器が置かれ
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102話

弥一の視線に気づいた巴は、「何よ?」 「今日の母さんおかしくない?」 「な、何がー」と、巴が言いかけたところで、ジョンが、 「巴、弥一は反省してる。人は誰しも間違う。僕らだってそうだ。」 静かに、巴に向けてそう言った。 巴はジョンの銀灰色の瞳を見つめ返しながら、 “そう。私は間違えた。あの時、あの女の本性を見抜けていたらー” 巴は目を伏せ、それからゆっくりその目を開くと、 「弥一、ごめんなさい。過去の自分の過ちをあなたに乗っけてしまっていたわ。」 そう言って、弥一の分の食器を取りに行こうと立ち上がる。 どういう意味だろう、と食卓を囲む皆がジョンに目を向けたが、彼は静かに微笑むだけだった。 弥一は巴の後に付いていきながら、 「どういう意味?」と、ストレートに聞く。 巴は弥一の食器を手に取りながら、 「何でもないわ。子どもには関係ないことよ。」 「俺はもう子どもって年じゃないんだけど?」 巴はクスッと笑って、 「はいはい、そうでしたね。いつの間にかこんなに大きくなちゃって、自慢の息子ですよ!」 そう言って、空いてる方の手で弥一の頭をわしゃわしゃと撫でた。 やめろよ、という弥一に、巴はまたも笑うと、 「さあ、ご飯にしましょう!お腹ペコペコだわ!」 何だかはぐらかされた気もするが、雰囲気も良くなったしいいか、そう思った弥一は、その後咲希から無理矢理席を奪うとかすみの左隣に腰を下ろしたのだった。 一歩その頃、とある御子柴グループが運営するホテルのVIP専用バーにて。 黒スーツに身を包んだ男たちは、入り口に現れた男の姿に一斉に立ち上がると、 「お待ちしておりました、櫂斗様。」 そう言って深々と頭を下げる。 櫂斗は手で頭を上げるよう指示すると、 「どうだ?かすみは見つかったか?」 あの日保と別れてから、櫂斗は敢えて真っ直ぐ日本へと向かわずわざと何ヶ国か経由した後、つい先程日本へ着いたのだった。 全てはあの女の目を撹乱させるため。やり過ぎるに越したことはないのであった。 そして先に日本へと向かわせていた部下たちにかすみのことを探らせていた。 バーのソファに櫂斗が座ったのを見届けてから、黒スーツの男の一人が今まで調べ上げたことの報告をする。 「かすみ様は現在
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103話

櫂斗は暴れる女性をひとまず取り押さえようとするスタッフたちの間に割って入ると、 「彼女から離れろ。彼女は俺の連れだ。」 突如現れた男に、雪菜は睨みつけるようにして男を見やったが、その男の整ったルックスに瞬時に目を和らげた。 ホテルのスタッフたちは、その男が今日から向こう一ヶ月間、スイートルームを押さえた人物と気づくや否や、顔を伏せて道を譲る。 櫂斗はそんなスタッフたちを見下ろしながら、「さあ、行こう。」というと、雪菜の肩を慣れた手つきで引き寄せる。 雪菜は色気漂う大人の男のエスコートに、悪い気など起きるはずもなく、すんなりと身体を預ける。そして、自分を追い出そうとしたホテルのスタッフたちに侮蔑の目を向けた。 「ここではちょっと人目を集めすぎた。最上階に部屋を取ってあるんだ。よければそこで飲み直さない?」 ここのホテルは御子柴家が運営する中でも随一の高級ホテルであった。そんなホテルのスイートルームとなると、一泊200万近くする。 男の財力に雪菜は心の中でニンマリと笑うと、「いいですよ。」と、上目遣いに二つ返事をし、 「ところで、あなたの名前を伺っても?」 男はフッと笑うと、雪菜の耳元に唇を近づけ、 「それはこの後、ベッドの上でのお楽しみかな?」 低く掠れたような色っぽい男の声に、雪菜はくすくすと笑うと、 「優しくしてくださいね?私、初めてなんですから。」 その後、ベッドの中で散々雪菜を抱いた櫂斗は、下着のみ身に付けると、ベッドの脇に腰をかけてタバコに火をつける。 そんな櫂斗の背中を、まだその頬を蒸気させたままの雪菜が潤んだ目で見つめる。 「ねえ、結局名前教えてもらってないんだけど?」 櫂斗は、いつの間にか敬語で話すのをやめている雪菜の態度が鼻にかかったが、 「そうだったか?」 雪菜は頬をぷくっと膨らませると、 「まさか裏の組織の人間とかじゃないよね?タトゥーとか入ってなかったし、大丈夫だと思うけど。言っとくけど、私に何かあったらウチのパパが黙ってないからね!」 櫂斗は可笑しそうにケタケタと笑っている。 「何笑ってんの?」 「いや。機嫌が直ったみたいで良かったな、って。」 本心は、扱うのがラクそうなバカ女でよかったと思って笑ったのだったが、彼の言葉を間に受けた雪菜は、 「
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104話

「泊まっていったらいいのにー!」 玄関口で靴を履くかすみに、咲希が唇を尖らせる。 かすみは見送りに来てくれた御子柴家の皆に微笑むと、 「いえ、せっかくの家族水入らずなのですから、これ以上お邪魔はできません。」 「邪魔だなんて!」と、御子柴家の全員が口々に否定したことにかすみは、ふふっと笑うと、 「美味しいごちそうに、皆さんとの楽しい会話にも加えていただいて、今日は本当に楽しかったです。どうもありがとうございました。」 そうお礼を述べるかすみに、それぞれが声を掛ける。 「かすみちゃん(この数時間で打ち解けた巴はさん付けからちゃん付けにしれっと替えていた)、社交辞令じゃなくいつでも家に遊びに来てね!あと、困った時はすぐに頼ってね?」 そう言って、巴はかすみの手を握る。 かすみは御子柴家の皆の対応に心が温かくなると、 「ありがとうございます。ぜひ、またお邪魔させてください。」 その後、かすみはもう一度頭を下げてから、「では。」と言って去ろうとしたところで、 「俺が家まで送ってくよ。 私がお家まで送ってくね!」 弥一と咲希が同時に申し出た。 「いえいえ、そんな。お構いなくー」と断るかすみを置いてけぼりにし、 「お兄、ペーパードライバーじゃん!無理無理!かすみさんをそんな危険に晒せない!」 「失礼な、誰がペーパードライバーだ!普段は運転しないってだけで、休みの日はいっつも乗ってますー!」 そうだったのか、という目でかすみは弥一を凝視した。正直彼が運転しているところを見たことがなかったので、失礼にも、てっきり運転できないものだと思っていた。 とはいえ、確かに海老原市の車庫には黒のRV車が停まってはいたが、あれはただの飾りではなかったのか。 そうか、彼は運転ができたのか、とかすみは弥一の新たな一面を知り、一人ふむふむと頷くのだった。 「そもそもで、お兄今ここに車ないじゃん!」 「お前のを貸せ。」 「やだ!」という咲希に、ジョンが、 「弥一!僕のを貸してあげる!」そう言って、ジョンは車の鍵を取りに行く。 弥一はその背中に「ありがとう、父さん!」と叫んだ。 それから弥一は咲希に向き直ると、 「頼むから、少しは空気を読んでくれ。お前が過去の俺の態度を知ってるからこそ妨害してきてる
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105話

弥一の運転する車が、かすみのアパートの前に到着した。 果たして彼は運転が本当にできるのだろうかと、疑ってしまったことが申し訳なくなるくらいに、弥一の運転は文句の付け所がなかった。 かすみはシートベルトを外しながら、 「御子柴さん、わざわざ送っていただきありがとうございました。それと、今日ご実家に誘ってくださったことも。すごく楽しかったです!ありがとうございました。」 そう言って頭を下げる。 弥一はハンドルを握ったままに、何やらゴソゴソとデニムのポケットを探りながら、 「こちらこそ、嫌がらずに実家にまで来てくれてありがとね!」 「嫌がるだなんて!私も咲希さんや早苗さんにお会いしたかったですし、御子柴さんのご両親も美男美女のすごく素敵な方々でしたし。こうしてお会いできる機会をもらえて、感謝しかないですよ!」 弥一は、ふふっと笑うと、 「なら良かった。なんか女性を実家に連れて行くとか結構特別なことじゃない?だから、構えられたりしたらどうしようかなってちょっと不安だったけど、かすみさん、終始楽しそうにしてくれてたからさ!俺も楽しかったし、家族もすごい楽しんでたし、なんかすごく、嬉しかった。それでさー」 そう顔を綻ばせる話す弥一に、かすみは、今さならながら何の考えもなく彼の実家にまで足を運んでしまったことを恥じた。 なので、かすみは無意識にバッグの取手をギュッと掴むと、弥一の言葉を遮って、 「あの、御子柴さん?」 「ん?」 「あの、御子柴さんと私は年齢も離れてれば、身分に於いてもすごく差があります。」 「え、何急に?」 「私が御子柴さんに何も言わずに出て行ったことで、きっと御子柴さんをすごく傷付けたんだと思うんです。それに関してはすごく申し訳なく思っています。本当です。」 「……」 「だから、その。御子柴さんの今の状態は、親に置いてかれた子供のような心境にあるのかな、と思うんです。置いてかれたことにすごい傷つけられたからこそ、置いていった親を何としてもでも探し出そうとする、みたいな。」 そこまでかすみが言うと、弥一は静かに、 「つまり、俺のこのかすみさんに対する感情は、ただの執着であって、恋愛感情なんかじゃない、って。そう言いたいの?」 少し温度の下がった弥一のその言い方に、かすみは緊張したよ
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106話

次の日、巴とジョンは早速行動に出た。 先ずはじめに、かすみのアパートの大家に会いに行くと、そこで二人は自分が御子柴八重子の娘とその婿であることを告げ大家の警戒を解くと、かすみの部屋だけ何かしらの不都合により、住み続けることが困難になったと伝えてしてほしいと頼んだ。 あの御子柴グループの一員とはいえ、さすがの大家も、二人のその申し出に訝しむような表情を浮かべたが、そこで巴は弥一の名前を出すと、 「実はうちの子が彼女とイイ感じなんですけど、二人とも何せ奥手で。おせっかいとは思いつつ、二人をウチで一緒に暮らさせちゃおうと企んだ次第なんです。」 前半は巴の願望だったが、後半は事実であった。 アパートの大家は50代くらいの女性で、ゴシップ好きな彼女は当然、ミコ様こと、弥一のことをよく知っていた。そして、そんな彼が、まさかあの平凡な彼女と恋仲になるなど予想もしていなかったため、誰も知らないであろうそのゴシップネタに、内心、興奮が抑えられなかった。 さらには、自分にもいい歳ながらまだ結婚しない息子がいることから、二人の親心も十二分に理解できるとあって、最終的にはその申し出に快く賛同してくれた。 大家はすぐさまかすみの部屋を訪ねると、インターホンを鳴らす。 しばらくした後、玄関のドアを開け、そこからかすみが姿を現した。 その光景を巴とジョンは一階の物陰から見守っている。 「大家さん、おはようございます。どうかされましたか?」 そう尋ねるかすみに、大家は申し訳なさそうに眉根を下げると、 「かすみちゃん、ごめんなさいねえ。実はウチのアパート、かすみちゃんの部屋だけ構造的欠陥が見つかってしまって、直ちにここから出て行ってもらわなくちゃいけなくなってしまったの。」 「え⁉︎」と驚くかすみに、大家は、 「だからね、急で申し訳ないんだけど、今日中に荷物をまとめてもらえるかしら?」 あまりに突然な出来事に、まだ理解が追いつかないかすみがその場で固まっているのを目に、巴はあたかも通りすがりを装って、 「あら、誰かと思えばかすみちゃんじゃない?昨日の今日で偶然ねえ!おはよう、かすみちゃん!昨日は遊びに来てくれてありがとうね!」 そう言いながら巴は階段を上がると、二人の前まで歩いて行った。 出るタイミングを失ったジョンは、大人し
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107話

昨日の今日でまたしても御子柴家に来た弥一は、ため息を吐いた。 別に実家が嫌だとか、そういうわけじゃない。家族のことは好きだ。でもー 自分まであそこの生活から離れてしまったら、あの日々を証明するものがなくなってしまうような気がした。だから、通勤するのに全く以って便利でもなんでもない海老原市に残ることを決めたってのに、暮らせないんじゃどうしようもない。 そんなことを思い、思考をぐるぐるさせながら玄関の戸を引くと、 「あれ?」 そこには見に覚えのある靴が綺麗に揃えら置かれていた。 そして、玄関にまで響く家族の賑やかな声に耳を澄ますと、 「それでね、かすみちゃんー」 その名前に、弥一は急いで自分も靴下を脱ぎ、揃えると、廊下を走り、リビングのドアを勢いよく開けた。 バッと開けられたリビングのドアに、皆驚いたようにそこに立つ弥一に注目した。と、その中にー 「やっぱりかすみさんだ!あれ、でも何でここに?」 弥一は素早くかすみの傍まで歩いていくと、さりげなく、ソファに浅く腰掛けるかすみの隣に、深く腰掛けた。 かすみは気まずそうに弥一をおずおずと見ながら、ここに来ることになった経緯を説明する。 「ーというわけで、偶然通りかかったお二人のご厚意に甘えて、今ここにいる次第です。」 弥一は首を捻ると、 「俺も似たような理由でさ、シャワー浴びようと思ったら、水が一滴も出なくて。早苗さん曰く、どっかで水道菅が破裂したんじゃないか、って。で、早苗さんの提案もあって、しばらくここで生活することになったんけど、俺たち二人とも同じ日に同じようなこと理由でここに来ることになるなんて、なんだか不思議だね。」 だが、すぐさまその顔が明るくすると、 「けど、そのおかげで昨日の今日でかすみさんに会えちゃうとか!俺ってかなりツイてるのかも!」 弥一の屈託のない笑顔に、かすみも思わず釣られて笑ってしまった。 そんな二人を前に巴は、かすみには悪いことをしてしまったかなと思う反面、弥一には今一度社会を生き抜くための常識と知恵というものを叩き込まなければならないな、とそう思うのであった。 弥一は急に辺りをキョロキョロと見回すと、 「あれ?ウチの暴れ馬はどっか行ったの?」 「咲希なら朝早くから出かけたわよ。何でも、彼氏君とお隣の県に新し
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108話

「はい、そこまで。」 巴が、パンっと手を叩く。 それから、 「かすみちゃん、部屋に案内するわ。着いてきて。」 そう、かすみに微笑みかける。 弥一は身を乗り出すと、 「まだ話が済んでないんですけど!」 そんな弥一の肩にジョンは手を置くと、 「弥一、醜い嫉妬はnonsenseだ。」 「そういうこと!」と、巴もジョンの意見に同意し、再度かすみに振り返ると、 「さ、行きましょう!」 そう手を差し出す。 かすみがその手を取ると、巴はかすみの手を自身の腕に絡めるようにして、リビングを後にした。 「見た?あの二人の仲良く手を取り合う様子!まるで娘がもう一人出来たみたいな気分だよ。僕感動しちゃった。」 と、ジョンは胸に手を当て、目元を潤める。 確かに、その点に関しては弥一自身ほっこりしたので同意するとしてー 「あんなの絶対デートじゃん。」 そう意気消沈すると、リビングのテーブルに突っ伏した。 と、弥一の携帯電話がメッセージを受信する。 突っ伏したままで、弥一はパンツのポケットを漁るとそこから携帯電話を取り出した。そして、顔の向きだけを変えると、メッセージを確認する。 だが、見に覚えのない人物からのものであることに気づくとその身体を起こした。 誰だろう、と弥一は訝しがりながらもそのメッセージを開く。「は?」携帯電話の画面を目に眉根を寄せる弥一に、ジョンも何事かと背後からその画面を覗き込んだ。そのメッセージには一枚の写真が載せられていた。その写真は、男性がうしろから女性を抱きしめる様子を正面から撮影したもので、男性と女性の顔がはっきりと写っている。弥一とかすみであった。二人はその写真を目にすると、次に互いの顔を見合わせた。すると、またしても弥一の携帯電話にメッセージが届く。そこには一言、〈彼女が大事ならば手を引け〉すぐさまピンときたジョンは、巴に向けて〈弥一宛に奴から警告メッセージが届いた〉と、メッセージを送った。弥一も送られきたメッセージに、〈誰だ?〉と、送る。〈知らないままでいられるのがお前のためだと思うぞ?警告はした。無視するなら、自身の不甲斐なさを味わうことになるだろうな〉その後すぐさま弥一がメッセージを送ったが、その後何度送っても相手からは既読すら付かなかった。「く
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109話

かすみが御子柴家に越してきたのが日曜日、そして今日がきたる水曜、かすみと加島が水族館に出かける日だった。 あのメッセージが届いた日、弥一はかすみに家の中を案内しながら、何か困り事はないか、誰かに付き纏われたりしていないかなどそれとなく探ってみたが、かすみはそのどちらにも首を横に振った。 むしろ、どうしてそんなことを聞くのかと問われ、弥一は言葉を濁した。 あの写真をネット上にばら撒くなどして脅してくるのだろうか、とここ数日警戒してみたが、そんな心配もなかった。 肩透かしを喰らったような気にもなったが、なぜだかこれでもう安心だという気持ちにはどうもなれなかった。 嵐の前の静けさのような、そんな不穏な空気を纏っているようだった。 かすみにはあのメッセージのことは言えない。だから、誰に狙われているのかもわからないからとはいえ、水族館に行くのをやめてとは言えなかった。 言ったならきっと、嫉妬しているのかと思われるだけだろう。 だからそう、この選択こそがベストな選択なのだー 加島は眉間にしわを寄せる。 もう、この男を前に繕ったりすることをやめた加島は、 「おい、どういうつもりだお前?」 そう問い詰める加島に、おろおろとかすみは交互に男たちを見た。 朝、出かけようとするかすみに急に、今日は仕事のはずの弥一が自分も着いて行くと言い出した。 加島と約束した手前、連れて行くことはできないと言っても、弥一は一向に言うことを聞いてくれない。 困ったかすみは、仕方なしに弥一を連れて来た次第なのだが、険悪な態度の加島を前に、後悔が募る。 加島に睨まれた弥一は、サングラス越しに彼を見やると、 「勘違いしないでください、加島さん。いや、してもらっても最悪構わないんですけど。邪魔しようとかそんな気はさえらさらなく、訳あって、今日は僕らも参加させてもらいます。」 「参加させてもらいます、じゃねえよ。邪魔。ホント邪魔!帰って!ん?てか、僕らもってなんだ?」 そう詰め寄る加島に、弥一は真面目な顔で、 「帰るわけにはいきません。僕らが参加するのはそうする必要があるからです。」 「だから!さっきからその、僕らって何なんだよ?」 その時、 「ごっめーん、待たせちゃった?早く行こ!」 ものすごく聞き覚えのある声に、加島
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110話

平日だというのに、水族館は小さな子ども連れの親子や、学生のカップルなどでわりと混んでいた。 四人はエントランス付近に設置されたタッチパネル式の券売機の前に来ると、加島が自身とかすみの分を、弥一が自身と愛蘭の分のチケットを買った。 弥一からチケットをもらった愛蘭は、「ありがとう。」と素直にそれを受け取ったが、かすみは「ありがとう、まこちゃん。」と受け取ると、自身のお財布からチケット代であるお金を出して、加島へと寄越した。 そんなかすみに、加島は笑って、いらないよ、というように首を振って見せた。 それから、加島は愛蘭へと顔を向けると、 「こういうところで差がつくよな。この機会に、かすみからいろいろと学んどけば?」 そう言って小馬鹿にするように笑う加島に、愛蘭は弥一の肩に手を掛けながら、 「さっすが、生粋の御曹司はどっかの成金野郎とは違うわ〜。こっちが財布を出さなきゃいけないのかしら、なんていう気回しを一切しなくていい空気感を出してくれるんですもの。若いのに、たいしたものね?」 そう言って、いい子いい子、と弥一の頭を撫でる。 「だーれが、どっかの成金野郎だ!俺だってかすみからお金を受け取る気なんてさらさらないですけど?まあ、お前からだったら絶対取るけどな!」 「そういう、人を選んで払う払わせないってやってるあたりで、人間が小さいって言ってんの!」 ヒートアップする二人に弥一が、 「お二人とも、夫婦喧嘩は家に帰ってからやってくださいよ!」 すると、同時に二人が、 「「夫婦じゃないっ!」」 息ぴったりな二人に弥一もかすみも笑ってしまうのだった。 一頻り笑い終えた後、弥一は加島に向き直ると、 「僕は愛蘭さんと付かず離れずの距離でお二人に付いて行きます。なので、お二人は僕らのことは気にせず自由に館内を回ってください。」 「お前らが付いてこないって選択肢はないの?」 「ありません。」と、笑顔で弥一。 加島は、はあ、とため息を吐くと、 「てか、ずっと気になってたんだけど。二人してサングラス掛けてんの何なの?外ならわかるけど、建物の中でまでいらないだろ?」 そう聞かれ、弥一は髪を掻き上げると、 「すみません、加島さんはご存知なかったですよね。実は、僕とてつもないイケメンな上に有名人なんですよ。愛
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