Semua Bab 君に触れたい〜逃した未来は大きかった〜: Bab 111 - Bab 120

144 Bab

111話

それから、水族館を好きに見て回る加島とかすみの後ろを、弥一と愛蘭は宣言通りに、付かず離れずの距離でついて行った。 だが、サングラスをしているとはいえ、さすが有名人。弥一に気づいた人々は、最初は遠巻きに見てこっそり撮影しているくらいだったが、ある人が「ファンです。」と言って弥一に話しかけたことを皮切りに、続々と彼の周りに人が集まり出した。 「あの、この間ミコ様が女性を探して街中を走り回っている記事をネットで見たんですけど、もしかしてこの方がその時の女性ですか?」 弥一の隣に立つ、モデル並みのスタイルと美貌の愛蘭を目に、期待を込めた目で皆が弥一を見る。 だが、その問いに対し愛蘭がばっさりと、「違います。」と答え、その声の冷たさに、皆はピタリとはしゃぐのを止めた。 さらに愛蘭は腕を組むと、 「明らかに彼がプライベートだってことわかりますよね?それなのに話しかけてくるってことは、皆さんは記者の回し者か何かなんですか?」 サングラス越しとはいえ、背の高い愛蘭に見下ろされがらの説教を喰らった野次馬たちは、途端に罰が悪くなったような顔をした。 と、その時。 人だかりを掻き分けるように、加島が、「すみません、ごめんなさい。」と言いながら、輪の中心となっている二人の元まで来ると、 「僕の連れがすみません。この子、今日朝ごはん食べてくるの忘れちゃったらしくて、だからお腹が減ってて攻撃的になっているだけなんです。ごめんなさい。」 そう皆に説明すると、自身の言ったことに反発する愛蘭の手首を掴んで、その背中へと彼女を隠した。 「すみません、僕が責任持って彼女に餌やりをしますので。」 そう言うと、加島はその場から愛蘭と弥一を連れ出した。 加島に言われて、離れた所からこの様子を見守っていたかすみにも加島は、「行こう。」と声をかけると、彼に連れられ、四人はその場から一目散に離れる。 加島は幻想的な空間が作り出されたクラゲの展示場まで皆を引き連れてくると、そこで急に振り返って、 「なんでちょっと目を離しただけで、こうも騒ぎを起こすわけ?」 まだ加島に手首を握られていた愛蘭は、なぜか少し顔を赤くして、 「痛い!離してよ!」 だが、加島は手首を離す代わりに、その手首をグイッと引っ張って愛蘭を自身に引き寄せると、 「嘘吐くな
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112話

巴に手を握られながらかすみは、 「巴さん、どうしてここに?」 巴はイタズラっ子のように笑うと、 「あの日、かすみちゃんが水族館に行くって聞いてから、私も久々行ってみたくなっちゃって。ジョンに頼んで連れて来てもらったの!あ、彼は今トイレで席を外してるんだけどね。」 そう答える巴に、かすみは微笑むが、その顔はどこか浮かない。 巴はそんなかすみの顔を覗き込むと、 「かすみちゃんこそ、みんなから離れてどうしたの?もしかして、ジョンみたくかすみちゃんもお手洗いに行く所だった?」 かすみはその巴の目を見つめ返すことができず、俯くと、 「あ、いえ。違うんです、私はー」 「あ、いたいた!おーい、どうしたのかすみ!」 その愛蘭の声に、かすみは瞬間ビクついた。 言い合いに夢中になっていたところ、いつの間にかかすみが居なくなっていることに気づいた弥一が、急に青い顔になって走りだしたので、愛蘭と加島は顔を見合わせると、二人もかすみを探しに後へと続いた。 ただ、幸いにもかすみは近くにいて、彼女のそばには見知らぬ綺麗な女性が立っていたが、彼女がとにかく無事であることに、愛蘭は安堵の息を吐く。 それから、愛蘭は自分と反対方向に走って行った二人に、メッセージで、かすみが見つかったことを報告した。 二人への報告を素早く済ませると、愛蘭はツカツカとかすみたちに向かって歩いて行く。 だが、かすみが自分の方を見ようとせず、顔を下に向けたままであることに愛蘭は違和感を覚えた。 だが、歩みを止めることなくかすみの元へと近づくと、 「こんにちは。」と先ずは巴に向かって挨拶をすると、 「どうしたの、かすみ?急にいなくなってたからびっくりしちゃったよ!」 そう言って、愛蘭もかすみの顔を覗き込んだ。 かすみは眉を下げで笑うと、 「ごめんね、何だろ。急に明るい所に行きたくなっちゃって、気づいたら何も言わずに展示場から出ちゃってたみたい。ごめんね?」 そう口では笑っているものの、その目は相変わらず自分とは合わないことに、愛蘭はたまらずグイッとかすみの顔を掴んで無理矢理自分へと向けさせた。 「私に何か怒ってる?」 真っ直ぐな目でそう聞いてきた愛蘭に、かすみは思わず眉根を下げる。 「全然、怒ってなんてないよ。」 「じゃあ何
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113話

「え?」 かすみを探すのに必死だった加島は、荒くなった自分の呼吸音で、愛蘭の言ったことが聞こえていなかった。 加島は手の甲で汗を拭いながら皆に歩み寄ると、 「今なんて言った?というか、こちらの方は?」 「こちらは巴さん。御子柴君のお母さん。」 「ええっ!?」 そう驚く加島に愛蘭は、 「で、あんたのことは、間男の加島ですって紹介しといてあげたの。」 「誰が間男だよっ!どちらかっつーとあいつの方がー」 そう言いかけて、弥一の母親が目の前にいることを思い出した加島は、弥一に向けた指を素早く引っ込めると、 「ご挨拶が遅れて申し訳ありません。先程彼女が言ったことはすっぱり忘れてください。改めまして、僕は加島真琴と言います。普段はエートル・カプティヴェというスイーツ専門店でオーナー兼パティシエをしています。」 少しでも自分の素性をわかってもらおうと、加島はそう巴に自己紹介をした。 「え?あのすごく美味しいって有名なスイーツ店の?あなたのような若い方がオーナー兼パティシエだなんて。それに、すごくイケメンさんじゃない⁉︎天は二物も三物も与えてくださったのね〜!」 加島をまじまじと見つめる巴だったが、ふいにそんな彼女の携帯が鳴った。 巴が「失礼。」と携帯電話を取り出し確認すると、ジョンからのメッセージで〈怪しい男を確保した。今は薬で眠っている。この間に場所を移したい。〉 巴は短く〈了解。〉と返すと、 「ご丁寧に自己紹介くださりありがとうございます。夫からのメッセージで、どうやら彼、お腹を下してしまったみたいで。私はここでお暇しないとなんですけど、加島さんに、円城寺さん。かすみちゃんと仲良くするついでに、ウチの愚息のことも、どうぞよろしくお願いしますね?」 加島と愛蘭は二人とも「はい!」と元気よく返した。 そんな加島に弥一はスススッと近づくと、小声で、 「仲良くしてくださいね、加島さん?」 加島は口だけで笑ってみせると、 「もちろんだよ、愚息の御子柴君。」 そんな男二人に巴は笑って、 「じゃあ、私は行くわね。弥一、あまり遅くならないようにね?」 弥一は呆れ顔で「小学生じゃないっつーの。」と呟きながらも、じゃあね、というように手を上げた。 それから、巴は最後にかすみのそばによると、
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114話

その後、四人は加島のおすすめのお蕎麦屋さんで美味しいお蕎麦を食べ、海沿いをドライブしながら所々でサービスエリアに寄っては買い物などを楽しんだ。 時間はあっという間に過ぎ、時刻は間もなく、加島がディナーにと予約したレストランの予約時間へと近づいていっていた。 加島はハンドルを握りながら、バックミラーにちらりと視線を向け、後部座席に座るかすみに目をやる。 そんな彼女は、目の前の助手席に座る弥一を見つめていた。 赤信号で車を止まると、加島が唐突に、 「あーっと、いけない。俺としたことが忘れてた。」 助手席の弥一は加島を見ると、 「何をです?」 「店のことだよ。今日休みなの忘れてて、納品頼んじゃったんだった。」 「そんなことあります?」 「あるんだよ、ごくごくたまーにな。年に一回あるかないかくらいでさ。てことで、次のコンビニでお前とかすみのこと降ろしていい?」 「良ければ手伝いますけど?」 加島はしっしっと手を振って、 「いらない、いらない。素人がほいほい触っていいもんじゃないの!悪いけど、コンビニで降ろすから、自力でタクシーでも捕まえてくれる?」 「俺は構いませんけど。って、あれ?今日ってディナー予約してるんじゃなかったんですか?」何で知ってるんだよ、と加島は思いながら、 「あー、するの忘れてたわ。ダメだな、今日はなんかうまくいかねーわ。疫病神が付いてるからかな?」 そう弥一を揶揄うと、加島は宣言通りにさっさとコンビニに車を停め、 「はい、じゃあ降りて。」 と、弥一に言ってから、かすみに振り返ると、 「てことで、ごめんね、かすみ?彼と一緒にここで降りるてくれる?」 かすみはハッとすると、 「え、あ、うん!こちらこそ、ごめんね、約束守れなくってー」 加島はフッと笑って、 「大丈夫だよ、なんとなくそんな気はしてたからー」 「え?」 「なんでもないよ!ほら、降りた降りた!業者さん待たせちゃってるかもだからさ!」 そう加島に言われ、かすみは急いで後部座席から降り、弥一も「楽しかったです。」と言って車から降りた。 そして、かすみに続いて愛蘭も降りようとすると、 「お前は俺と一緒に来るんですー。」 「嫌よ。」 「それぐらい付き合えっての。共同経営だろ?」 その言葉に、愛蘭は唇を軽く噛むと、 「誰と組むかはちゃんと考え
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115話

コンビニに降ろされた二人はというと、一定の距離を保ったままその場に立ち尽くしていた。 そんな中、弥一はおもむろに携帯電話を取り出すと、 「今タクシー呼ぶね。」 そう言って、いつものアプリを開こうとしたのだったがー かすみが「あっ。」と言ったことに、その手を止めた。 「どうかした?」 「あ、いえ。そのー」 時刻はまもなく午後の七時を迎えようとしていた。 弥一は明日仕事なわけで、早く帰るに越したことはない。 だが、まだ帰りたくない、とかすみは思ってしまったのだった。 とはいえ、一向に弥一の方を見れないくせにまだ帰りたくないだなんて、一体自分は何がしたいというのだろうか。 かすみは「ごめんなさい。」と言って謝ると、 「帰りましょう。」そう、口にした。弥一はそんなかすみの横顔をじっと見ていたが、何も返すこともなく、顔を携帯電話に戻すと、アプリを起動して操作を再開した。しばらくしてタクシーが到着すると、弥一はかすみを後部座席に乗せ、自身は助手席にと乗り込んだ。かすみはそんな弥一を後ろから見つめていたが、自身の態度のせいだと理解すると、その視線を下へと移す。二人を乗せたタクシーは、ゆっくりと事前に伝えられていた目的地へと向かって走り出した。「着きましたよ。」そう言われ、かすみが顔を上げ窓の外を見ると、「え?」 驚くかすみに、運転手にお礼を言って先に降りていた弥一は、後部座席のドアを開けると、何も言わずかすみに向かって手を差し出した。かすみはその手にそっと自身の手を添えると、弥一は乗せられたかすみの手を、優しくそっと包む。弥一にリードされ、かすみも運転手に向かってお礼を言ってタクシーを降りた。そして、降りた先に佇むお店を前に、かすみは弥一に目をやる。「この間食べられなかったでしょ?あれからずっと気になってたんだ。」そのお店は、この間定休日のために入ることができなった、かすみが弥一を連れて行こうとしていたあの喫茶店であった。「中入ろ?」そう言って、弥一は喫茶店のドアを開けて中へと入ったので、かすみも後へと続いた。店は昭和レトロな趣きのある雰囲気で、弥一は物珍しいその店内に、楽しそうに目を輝かせた。この店のマスターである、白髪の紳士的な男性がカウンターから、「いらっしゃい。」と言うと、弥一もかすみも微笑を浮かべて会
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116話

部屋の扉がノックされたので、櫂斗は「入れ。」と指示を出した。 「失礼します。」と入ってきたのは、櫂斗の部下の一人で、男はスイートルームのソファに深く腰かける櫂斗の前まで来ると、緊張した面持ちで手を身体の前で組んだ。 「何だ?」 櫂斗は書類から目を離さず尋ねる。 部下はゴクリと一つ唾を飲み込むと、 「かすみ様を見張らせていた男との連絡が、一時間ほど前から途絶えました。」 櫂斗はピタリと動きを止めると、ゆっくりと視線を上げ、部下の男に目をやった。 男は思わずサッと目を伏せると、 「どういたしましょうか?」 櫂斗はクッと笑うと、人差し指をくいくいっと動かして、男に傍へ来るよう指示を出す。 男は慌てて櫂斗の元へと走り寄ったのだったがー 「がっー」 櫂斗に顔面を殴られた男は、痛みに呻いた。 櫂斗はいつも両手の中指にゴツゴツとした指輪を嵌めているのだが、それが見事に前歯に直撃したことで、男の前歯は2本とも折れ、そこからダラダラと血が流れ出す。 男は涙目になりながらも、すぐさま櫂斗に向かって、「申ひはけありまへんでひた。」と、その足元にひれ伏すようにして謝罪した。 櫂斗はそんな男を、まるで汚いものを見るかのような目で見下ろすと、 「何のために金を払ってお前らを雇ってると思ってるんだ?それとも何か?俺は自分の仕事の傍ら、お前らの取るべき行動までも一語一句教えてやらないといけないのか?あ?」 男はブンブンと顔を振る。 そんな男に、腹の虫が治らない櫂斗は瞳孔を開いて、 「お前、俺を舐めているのか?俺にはジェスチャーだけで十分だとでも?」 再び拳を強く握り締めた櫂斗の姿に、男は口を抑え、そ両目から涙を流して必死に詫びた。 その時だった。 軽いノックの後、櫂斗の返事を待たずして、部屋のドアがそっと開けられた。 扉を開けた人物は、櫂斗よりもずっとずっと身体の大きな男が、その足元で怯える様を目にし、眉根を寄せた。 その男は血を流す男に近づくと、胸ポケットからハンカチを取り出し、男の口に充てるようにした。 それから、「歯はあるのか?」と、血を流す男に聞き、男が首を横に振ると、 「ならば、さっさと病院に行くことだ。急ぎなさい。」 男の言葉に、血を流す男はちらりと櫂斗を見たので、 「人の顔
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117話

「ナポリタンすっごく美味しかったね!」 喫茶店を出た弥一は、そう言ってかすみに振り返った。 そして、そんな弥一の目に、かすみがかばんから財布を手に取る姿が映ったので、 「かすみさん、お金なら要らないよ?」 喫茶店の代金は弥一が払った。 もちろん、そうしたかったからだった。 この喫茶店では支払いの際にクレジットカードが使えなかったのだが、弥一は現金をいくらか持ち歩くようにしていたので問題なかった。 「いえ、年下の方に奢らせるわけにはいきません。せめて自分の分だけでも払わせてください。」 弥一はかすみを真っ直ぐに見つめると、 「かすみさんのそういう、人を頼らない自立心?すごくかっこいいと思うよ。俺は、小さい頃からお金は男が払うものだって教わってきたし、なんなら俺って結構お金持ちなほうじゃない?だから一層、払って当然だって思うし、思われてると思う。そんな俺にとって、自分の分は自分で、って徹底してるかすみさんはかっこいいよ。」 弥一に褒められたかすみは、照れたように笑った。 だが、次に弥一はかすみと目線を合わせるべく、少しかがんでみせると、 「けど、俺はかすみさんのことが好きな男だからさ。好きな人からは頼られたいし、デートの時はお金を払いたいもんなんだよ。例え自分のほうが年下だといえどもね。知らなかった?」 弥一のストレートな言葉に、かすみは嬉しいのと恥ずかしいのとで、目が泳いでしまう。 「ーどうしてこんなおばさんを?前にも言いましたが、御子柴さんなら引くて数多です。わざわざこんなのを選ばなくても。」 弥一は小さく笑うと、 「かすみさんって、自分に自信がないみたいに言うけど、いつも意外だなって思ってたんだ。」 「え?」 「だって、かすみさんってかなり我が強いじゃない?俺と会わないようにしようって決めたら、同じ家に住んでても本当に会えないし、この日に出ていくって決めたら、そうしちゃうからさ。我の強い人だな、ってずっとそう思ってたよ。」 「それは、その。すみませんでした。」 「ごめん、ごめん。謝らせるような言い方しちゃった。けどね。過去の自分のせいだって分かってても、好きな人がある日忽然と姿を消しちゃったっていうのは、俺の中でも今もかなりのトラウマでー」 「本当に申し訳ありませんでした。」
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118話

かすみが御子柴家で暮らし始めて早半月が経とうとしていた。 あれから何度か大家さんに部屋のことを聞いてみたものの、まだまだ時間がかかるとしか言ってもらえなかった。 さすがにこれ以上かかるようなら、新たに部屋でも借りようかな。 そう、かすみが思うであろことなど御子柴家の人々はお見通しであったようで、皆から口々に遠慮はなしだと言われてしまうのであった。 「では、せめて何かお家のことをさせてください。掃除とか、料理とか!」 ジョンは困ったように笑うと、 「家事は一通り家政婦さんたちがしてくれるんだ。それに、彼女たちの仕事は奪えないよ。」 「では、せめて家賃はお支払いいたします!」 「空いてる部屋を貸してるだけだもの。それに、家族同然のかすみちゃんからお金なんてもらえないわ。」と、巴。 咲希は先週A国に帰ってしまっていなかったが、きっと同じことを言っていただろう。 そんな中、弥一は軽く手を上げると、 「毎日とは言わないけど、俺はかすみさんの作るご飯が食べたいです!」 巴は呆れたような表情を浮かべると、 「何を言い出すのかと思ったら。それこそ、お金を払って食べに行ったらいいでしょう?」 その巴の言葉に、かすみは「あ。」と言って反応したが、すかさず弥一が、 「食べに行く、って。どこに?」 巴とジョンは思わず弥一を凝視した。 「あなた知らないの?」と聞く巴に、「何を?」と、弥一は少し眉間にしわを寄せる。 かすみは申し訳なさそうに、小さな声でおずおずと、 「実は、来月からお店を出すんです。」 「はい⁉︎」 驚く弥一に、「大きな声出さないでちょうだい。」と、巴は不機嫌そうに言った。 「いやいやいや、無理でしょう。びっくりしすぎたんだから、そりゃ大きな声だって出るでしょうよ!」 弥一はそう巴に文句を言ってから、かすみに向き直ると、 「お店を出す、ってかすみさんが?」 「はい。」 「どこに?」 「あ、えっと。緑王市に、です。」 "うちの会社があるところの隣の市じゃないか" そう思った弥一は、 「何のお店?」 「あ、カフェです。」 「カフェ!!」 弥一があまりにキラキラとした目でかすみを見るものだから、かすみは黙っていたことへの申し訳なさが増してしまう。
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119話

とある平日。 弥一は仕事へと出勤し、かすみはカフェのオープンへ向けて最終確認をしておきたいからと言って出かけようとしていたので、巴もそれに同行していた。 そんなわけで、御子柴の邸宅には、早苗をはじめとする家政婦や執事が数名とジョンが残っていたのである。 すると、そんな中突如としてインターホンの音がリビングに鳴り響いた。 近くにいた執事がインターホンのモニターを確認する。 それから、執事はジョンに振り返って、 「旦那さま。玄関先に見知らぬ来客のようですが、いかがなさいますか?」 ジョンは「ん?」と言って顔を上げ、 「どんな感じの人?」 執事はもう一度モニターに目をやると、 「黒いスーツを着たガタイの良い男性ですね。見た目は黒髪の短髪で、きっちりとしていそうな方です。また、菓子折りを持っているあたり、礼儀正しい方なのかもしれません。」 執事のその言葉に、ジョンは、どれどれ、というように立ち上がると、執事の横に立ちモニターを覗き込んだ。 ジョンはモニターを見るなり目線を鋭くしたが、すぐさまいつもの顔に戻すと、 「なんだろう、よくないセールスか何かだろうか?これはなんだかdangerな匂いがするから、御子柴家の最終兵器と名高い僕が対応しよう!」 危険、とは言いつつも、ジョンのその話し方からするに、実際は危険でもなんでもないのだろう。 そう思った執事は笑うと、 「では、ジョンさまにお任せいたします。」 と言ったので、ジョンは、「任せなさい!」と言って、胸をドンと叩き、モニターの画面を消す。 リビングを出たジョンは、再び険しい顔つきになると、真っ直ぐに玄関へと向かった。 そして、玄関の戸を開ける前に、巴に向かってメッセージで〈今は家に戻らないでくれ〉と送る。 それからジョンは素早く外へと出ると、後ろ手に玄関の戸を閉めた。 「我が家に何かご用ですか、羽柴さん?」 そう尋ねるジョンは、いつもの温厚な紳士の姿とはかけ離れ、威圧感に満ち満ちていた。 会うなりジョンに最大限警戒されてしまった羽柴は、それでも顔から笑みを絶やさず、 「ご無沙汰しております、ジョンさま。今日は一つお願いがあって参りました。」 「そういったことでしたら、こちらがそちらの期待に添えるとは思えませんので、どうぞお
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120話

「知ったような口を聞くな。」 沸々とした怒りを孕んだ目で、羽柴はジョンを見つめた。 ジョンはそんな羽柴に、フッと笑ってみせると、 「良かった。君にもまだ感情があるんだとわかって安心したよ。」 「何?」 「羽柴。」 ジョンは彼の名前を呼ぶと、その目を真っ直ぐに見つめた。 「もう一度聞く。なぜ、あの女側に付くんだ?あいつは我々の唯一の敵だ。20年前のことを忘れたのか?あれは事故じゃない。あの女が意図的に仕組んだものだ。あの女のせいですみれはー」 「黙れ。」 「羽柴っ!」 たまらず、ジョンは声を荒げた。 そんなジョンを羽柴は冷えた目で見据えると、 「ジョン、俺もさっき言ったはずだぞ?知ったような口を聞くな、と。俺は俺の意思でこうしている。お前にどうこう言われる筋合いはない。」 「かすみはすみれの娘だ!彼女をあの男に傷つけさせることも、お前の意思だっていうのか?」 羽柴はクッと笑うと、 「傷つける?彼がかすみを傷つける、とでも?」 「そうだろっ!あいつと一緒にさせるということは、かすみをまたあの女に近づけるということなんだぞ?16年前、保がどんな思いでかすみを死んだことにさせたか考えたことはないのか?そこまでやらないと、あの異常者から逃がすことができなかったからだろうがっ!」 「あの女が異常だからといって、その息子までそうだと決めつけるお前らこそ、どうかしていると思うけどな?」 「なに?」 「考えたことはないのか?あの女の元に生まれ、選ぶ権利もなければ、抵抗することもできなかった幼子が、一体どんな人生を歩まされてきたのか。」 そう、羽柴に問われたジョンは、言葉に詰まった。 羽柴は眉間にしわを寄せ、苦悶の表情を浮かべると、 「始まりは彼が10歳の時だった。目元が似ていないからと、あの女は彼に整形手術を受けさせた。」 「なっー」 「次に、鼻、顎、唇に耳。あの女の思うがまま、ありとあらゆる場所にメスを入れられていったよ。ただただ、保の顔に似せたいがためだけに。」 ジョンはたまらず視線を落とした。 「保に似たものを作り上げたと思ったら今度は、彼の体内にGPSを埋め込みやがったよ。よっぽど保のことを取られたことを根に持っていたんだろうな。今度は誰にも取られることがないよう、邪魔者が
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