君に触れたい〜逃した未来は大きかった〜 のすべてのチャプター: チャプター 91 - チャプター 94

94 チャプター

91話

電話を切った弥一はすぐさまかすみのほうに振り返ると、 「今の通話聞こえてた?」 かすみは申し訳なさそうに眉を下げ、 「すみません、所々聞こえてきていました。」 弥一はかすみにツカツカと歩み寄ると、 「例えばどの辺が?」 「え、あ。えと、電話のお相手が御子柴さんのお父さんだった、とか。あとは、御子柴さんが大事な用事があって帰って来られないのを残念がっていたのとかー」 "セーフ!!!" 一番聞かれたくない部分は聞かれてなかったみたいだと心底安心する弥一に、かすみが唐突に、 「御子柴さん、今日はお会いできて嬉しかったです。それから、罪悪感から御子柴さんを避けるような真似をしてしまっていたことは、本当に申し訳ありませんでした。」 そう言ってまた、彼女は頭を下げる。 弥一はまたしても謝られたことと、なぜか急に別れの前のやり取りみたいになっているこの状況に、 「もう謝らないでってば、お願いだから!それと、あれ?俺たちこれからかすみさんの行きたかった喫茶店に行くんじゃなかったっけ?」 かすみは驚いて頭を上げると、 「あれ?でも先程の電話で、御子柴さんはこれから大事な用事があるって仰ってませんでした?確かに、そう聞こえたと思ったのですが?」 「うん、言ったよ。だから、これから喫茶店に行くんだよね?」 かすみはしばし静止すると、 「あの、まさか御子柴さんのいう大事な用事って、私と喫茶店に行くことですか?」 信じられない、という表情のかすみに、弥一は当然というように、 「そうだよ?え、何で?」 久々に帰ってきたご両親の誘いを断ってまで、自分と一緒になんてことない喫茶店に行くことを大事な用事と捉えている弥一に、かすみは、 「喫茶店ならいつでも行けます。けど、御子柴さんのご両親って、海外に行ってらしててなかなかお会いできないんですよね?それなら、ご両親を優先されたほうがいいんじゃないですか?」 そう言われた弥一は、何も言い返さずにただかすみの顔をじっと見つめる。 そして、その視線にかすみがたじろいだのを見て取ると、 「両親には明日会いに行くつもりだよ。それと、確かに喫茶店にはいつでも行けるかもしれない。けど、かすみさんとは今日を逃したらいつ行けるって言うの?」 たった一週間ほど離れただけだっ
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92話

肩を掴まれたかすみは、自ずと弥一の顔を見つめる。 弥一も一心にその目を見つめ返すと、 「もう知ってると思うけど、俺には当時、結婚を考えるほど好きだった人がいた。なのに、家族全員から反対されるわ、それに加えて会ったことのない人との結婚を強制されるわで、最初はあなたを、あそこでの生活全てを俺は疎んじてた。」 当時を思い出したのだろう。罪悪感からか、はたまた苦い記憶からか、視線を下げようとするかすみに、 「ねえ、聞いて?」と、弥一は再度自分に注意を向けさせる。 眉根を下げ、揺れる瞳で自分を見つめるかすみに、 「けど、初めてあの家に帰った日から、かすみさんの作るご飯に、あなたの俺に対しての配慮に、徐々に俺の気持ちは変わっていった。あなたと生活を共にすればするほど、あなたという人物を知りたくなった。ただ、出会いが出会いだっただけに、変なプライドもあって、今さら態度を180度変えることなんてできなくて、その結果かすみさんとの距離は一向に縮まらないまま、あなたは突然姿を消した。」 弥一は唇を噛むと、 「正直言ってかなりショックだったよ。自分のことを棚上げして、俺に何の一言もなく出て行ったあなただけを悪者扱いして責めたりもした。けど、日が経てば経つほど、怒りとか悲しみとかそんなことよりただただー」 弥一はそこで一旦言葉を切ってから、 「あなたに会いたくて仕方がなかった。」 そう言われたかすみは、何と返したら良いのかわからず、瞳を揺らし、二度三度とまばたきをした。 「そんな俺が今日、あなたの姿を見つけた時どんな気持ちだったかわかる?」 弥一は今にも泣きそうになりながら、 「めちゃくちゃ嬉しかったんだよ?」 その弥一の顔に、かすみの胸が締め付けられる。 「歩道を渡るかすみさんの後ろ姿を見つけた時、それがあなただと確信した瞬間、たまらない気持ちになった。それなのに、あなたときたら俺の姿を見るなり逃げるんだもん。さすがにイラっときた。」 そう弥一は唇を尖らせたが、 「まあ、すぐに捕まえたけどね?」 そう言って少し笑った。 胸がいっぱいいっぱいなかすみは、「すみ、ません。」とだけ謝る。 「何度謝らないでって頼んでもダメみたいだね。」 「すみません。」弥一は少し間を置くと、 「会いに来ない方がよかった?」
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93話

弥一とかすみが、悪い人ではないものの扱いに困る酔っ払い男への対応に手を焼いていると、 「何してるんですか、社長!」と、金髪ショートの若い女性が少し離れたところから慌てて走ってくる。 「先に車に行っててくださいと言ったじゃないですか!余計なことはせずに、言われたことを守ってくださいよ!」 そう言って、酔っ払い男をがっしりと捕まえると、 「うちの猿渡(さるわたり)がご迷惑をおかけしてしまい大変申し訳ありませんでした。」そう言って素早く頭を下げる。 弥一と かすみはお互いに目を合わせた後、 「いえ、特に迷惑というほどのことは何もありません。むしろ、公共の場であることを忘れて、言い合いをしていた僕らの方こそ悪かったと思ってます。なので、どうか頭をお上げください。」 そう話す弥一の後ろで、かすみも頷いて同じ意であることを示す。 「それが若さってもんだ!君らは何も気にすることはない!」 そう弥一たちを弁護する猿渡に、金髪女は、 「社長は黙っててください。」と猿渡を叱責してから、その顔を遠慮がちに上げる。 と、その目が弥一を捉えた瞬間、 「なっ。ミコ様⁉︎」 と、素っ頓狂な声を出す。 それから金髪女は再度深々と頭を下げると、 「この度は誠に申し訳ありませんでしたっ!えと、実は我々こういったものでしてー」 そう言ってカバンから名刺入れを取り出すと、そこから一枚名刺を取り出し、弥一の前に差し出した。 それを見た弥一が自身も名刺を出そうとするのを、金髪女は、「もう十二分に存じ上げておりますので!」と言って制したので、弥一は途中でその動きを止めると、代わりに女が差し出した名刺を受け取る。 弥一が名刺を受け取ると、金髪女はかすみにも名刺を差し出し、 かすみはお辞儀をしながらそれを受け取った。 弥一は受け取った名刺を見ながら、 「週刊誌モンキークロス?」 「はい!改めまして、週刊誌モンキークロスの七瀬と申します!我々は吹けば飛ぶような子会社も子会社で、他の報道陣が見向きもしないような小さな事件から、世間から忘れ去られた未解決事件なんかを独自に追って記事にしてます。」 「大事件なんかはウチで追わなくても、金儲け目当ての他のメディアがいくらでも追うだろうさ。けど、他人から見て小さかろうが過去だろうが、それを
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94話

猿渡と七瀬が去った後、その場に残った弥一とかすみはゆっくりとお互いに顔を合わせると、 「何の話しをしてたのかわからなくなっちゃったね?」 そう話しかける弥一に、かすみも「ハハっ」と小さく笑う。 ただ、雰囲気を替えてくれたあの二人に、内心彼らも感謝していた。 弥一は軽く咳払いしてから、 「喫茶店行ってみたいな。今からでも連れてってくれる?」 かすみはすぐさま、「はい!」と答えてから、「少し、歩くんですけど。」 「全然いいよ!行こう?」 かすみは微笑むと、「こちらです。」 そう言って、弥一を思い出の喫茶店に案内しようと先を歩いて行ったわけだったがー 「やってないみたいだね。」 10分ほど歩いて例の喫茶店に辿り着いた二人だったが、喫茶店の扉には"CLOSED"と書かれた札が下げられていた。 「営業日とか全然考えていませんでした。すみません。」 そう謝るかすみに、 弥一は何てことないといったように、 「仕方なくない?それより、これからどうしようか。正直、店を替えようにもここら辺のお店は詳しくないんだよね。」 その問いに、何か良い案はないかとかすみが思い悩む。 弥一はそんなかすみにチラリと視線をやってから、 「あー。かすみさんさえ良ければさ、これから一緒に本家に行かない?」 「え⁉︎」と、間髪入れずにかすみは反応し、 「いや、あの、それはちょっと…ご家族様との時間に私がお邪魔するわけにはー」 「かすみさんが嫌ならもちろん止めるよ?けど、実は早苗さんもいま本家にいるみたいでさ。」 「早苗さんが?」 「うん、あと咲希も。おばあさまは海外に行ってていないけど、かすみさんが顔を出してくれたら二人も喜ぶと思うんだ。もちろん、うちの両親もね。」 海老原市の家を出てからもちょくちょく二人とはやり取りはしているが、二人の顔を見られると聞いてかすみの心が揺れる。 弥一はそこを逃さず、 「早苗さんが料理を作ってくれてるみたいでさ、俺も帰ってくると思ってたみたいだから、二人増えたくらいで困るってことはないと思うんだ。だから、どうかな。これから一緒に行ってみない?」 先程の父親との電話のやり取りから、これからかすみを連れて帰ろうものなら父親がはしゃぎ倒すであろうことは目に見えていた。しかし、今日
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