【2011年5月】東京都・渋谷区 アズサとカツヤが再会したのは、5月に出版社が開催したパーティでの席だった。 「君も来てたのか」 気軽に声をかけてきた彼は、黒のスリムフィットシャツに、ダークグレーのスリムパンツという出で立ちだった。売れっ子の作家らしい、パーティにも適した格好だったが、シャツには少しシワが寄り、革靴もやや埃がかっていたのが気になった。 「カツヤ……何? 来る直前まで寝てたの? ちょっと寝癖が残ったような髪型だけど」 「ははっ、さすがの観察眼だな。2作目のクライマックスが近くてね……生活もだいぶ不規則になってる」 カツヤは笑って言う。しかし目元には薄いクマがあり、どこか力なく感じられた。 「ダメじゃない。睡眠はしっかり取らないとって言ったのに」 「JKが母親みたいなこと言うじゃないか」 「もう春からJDです。今は東京で暮らしてるの。23区外だけど」 「おっ、そうなのか。じゃあ、もう遠距離ってほどでもなくなったな」 遠距離。確かにカツヤと別れるきっかけになった原因の一つではあった。今は母校の後輩であるキヨミと恋仲ではあるが、そちらの方が遠距離になってしまっている。 「復縁とかしないわよ。そっちがフッてきたんじゃない」 「おいおい、まだ何も言ってないぞ」 「言いたそうな雰囲気だったから……」 「そんな雰囲気だったか? 君の願望じゃなくて?」 一々腹の立つことを言う男だ。でも図星だったかもしれない。この男がアズサの処女を奪った男だった。まだ何も知らない生娘だったアズサを、この男が変えた。 彼を思い出す時にあった景色は、ホテルの一室。東京の夜の明かりに照らされる彼の裸体と、体の芯が熱く深く貫かれる感覚だ。 新人賞を取り、出版業界のことも東京のことも何もわからなかったアズサにとっては、彼が業界そのものであり、東京そのものだとすら思えていた。
최신 업데이트 : 2026-05-24 더 보기