【2010年7月23日(金)】静岡県・三島市“我慢強く生きる覚悟を わたしにください――”そこまでのフレーズを書いた後、キヨミは顔を上げる。アズサと目が合う――その日の数週間前、三島市立の図書館で初めて言葉を交わしたばかりの先輩である、彼女に見られている。「アズサ」鏡を見たら恐らくクマだらけのやつれた表情で、キヨミは年齢が一つ上の彼女を呼び捨てする。そうするよう彼女が言ったからだ。“アズサでいい。ううん、それ以外許さない。もしアズサさんとか、アズサセンパイなんて言うなら、殺すから――君の首を絞めたあとで、その可愛らしい舌と、可愛らしい両目をとって、ずっとホルマリン漬けの宝物にしちゃうんだから。どう、うれしい? それとも、キモイ?”――(キヨミはもちろん、「キモイ」と答えた)アズサは微笑む。微笑んだときだけ、彼女は聖母のようになる。いったいその聖母の口から、いつ「殺す」なんて言葉がつむがれたのか。ひょっとしたらすべて幻聴だったんじゃないか。そう思わせるような表情になる。「また貴重な時間をつぶして、なにくだらないことやっていたの。まさかとは思うけど詩を書いていたとか?」キヨミの行いは、ぜんぶバレている。こういうとき、ヘタに「ごめんなさい」なんて謝らない方がいい。謝られることは、「さん」や「センパイ」付けで呼ばれることの次にアズサが嫌うことだ。「まさかと思われた、その通りのことをしていました」「ふうん。やっぱり。じゃ、お仕置き」「あっ」アズサがキヨミの腋をくすぐる。キヨミは必死に声を抑えようとする。けれど、漏れる。あ、あひゃっ。変な声が出る。「かわいい。君はこうしてるときが一番かわいい」優しい声でアズサは言う。そしてキヨミの頬に、チュッ、と口づけする。周りで生徒が見ていたなら、ちょっとした騒ぎになっているだろう。けれど放課後の図書室には、彼女らしかいない。誰もいなくて良かったと言うより、誰もいないからこそアズサは、こんな行為をしているのだろうか。「や、やめてっ」「やめない」「いひっ、あひゃっ」そうやって、いつものようにじゃれ合う。まるで幼いころからずっと仲良しだった友同士のように。姉妹のように。そうではない、「恋人同士」。たしかそう、二人の間で約束が交わされたはずだ。ひとしきりくすぐり終えた後、ようやく
Última actualización : 2026-04-08 Leer más