新米ソープ嬢は無月経の体で百合と童貞に溺れる ~シルヴァア・スワロウ~의 모든 챕터: 챕터 11 - 챕터 20

45 챕터

第10羽:武器の名は「無月経」

【2019年2月中旬】東京都・中野区 水害から三日後、キヨミは管理人の案内で一時的に部屋に戻った。 業者が一応の清掃と消毒を終え、床は乾いていたが、壁紙の端はまだ湿気を帯び、むっとするカビ臭さがあった。 保険会社の担当者が立ち会い、被害状況の写真を何枚も撮っていた。 「電子機器類はほぼ全損ですね。パソコン、モニター、プリンター……こちらで査定して、補償額をお支払いします」 淡々とした担当者の説明に、キヨミはうなずく。 保険会社の担当者が帰ったあと、一応、クローゼットからノートパソコンを取り出してみた。コンセントを挿してもランプは点かず、当然ながら電源ボタンを押しても画面は真っ暗のままだった。 蓄積していたデータ——編集者として五年近くかけてまとめた取材メモ、校正履歴、プライベートな日記のようなテキストファイル。クラウドに上げていなかった古い原稿も、すべて失われたことになる。 「……戻ってきた、と言っても」 一人の部屋で、キヨミは小さく息を吐いた。金銭的な補償は出る。しかし、時間と記憶が詰まったデータは二度と戻らない。 その日の夕方、管理組合の集会が開かれた。今回の水道管破裂で被害に遭ったのはキヨミだけではなく、複数の住民から不満の声が上がっていた。被害に遭わなかった住民たちも数名、不安で駆け付けた。 「老朽化した配管を十年以上放置していたんですよね?」 「事前の点検は一切なし?」 「補償はマンション側で全額持つべきじゃないですか」 管理会社の担当者は、頭を下げながらも「契約上、不可抗力の部分は……」と責任を曖昧にぼかした。キヨミは後ろの席で黙って聞いていた。ずさんな管理体制、住民の安全を軽視した対応、責任のなすりつけ合い。 彼女は静かに決めた。もうここには住めない、と。 その夜、ネットカフェのPCで、キヨミは住む場所と仕事の両方を探し始めた。そして、引っ越しにはお金も必要だ。高収入の求人サイトを何度もスクロールする。3日前に登録だけした「風俗」。その言葉が、だんだん現実味を帯びてきた。 風俗と一口に言っても、業態は様々だ。コンカフェやキャバクラは、最初から眼中になかった。大学時代、酒で悪酔いして病院に運ばれたことが一度ある。 あのときの吐き気と意識の混濁、点滴の冷たさ、看護師の冷ややかな視線。二
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第11羽:泥棒猫とフランク・シナトラ(上)

【2019年2月下旬】東京都・新宿区 キヨミに与えられた源氏名は、「アカリ」だった。 面接のとき、キヨミは終始無表情で、ほとんど笑わなかった。 オーナーは彼女の顔をじっと見つめ、ため息混じりに言った。 「君はもっと笑いなさい。底抜けに明るい笑顔を見せなさい」 「笑顔、ですか」 困ったな、と思う。大学のサークルで写真を撮るときもほとんど笑顔なんて人に見せたことはない。その必要性がわからなかった。ただ、風俗はサービス業だ。客には愛想よく振る舞った方がよいということはわかる。 笑顔……笑顔の練習。自分が鏡に向かって「ニカッ」とした笑いを浮かべている姿を想像しては、何やら寒気がした。これは意外な難題かもしれない。 「そうだ、アカリというのはどうだろう?“名は体を表す”というだろう? アカリという名で働きなさい」 オーナーが言う。“名は体を表す”。 この場合、真逆だろう。体を無理やり名に当てはめようとさせられている――そんな印象しかキヨミは持てなかった。 ※ 【2019年3月中旬】 キヨミがソープランドに勤め始めて、数週間。 店は歌舞伎町の雑居ビル1階から、地下2階にあった。 店の名前は『ディープ・ブルー』。外装は地味だが、薄暗い店内は意外と清潔だった。 ホステス専用の待機室には鏡と化粧棚がいくつか並べられ、長めのソファが1つに、折り畳み式の椅子が複数個置いてある。それからマッサージチェアが1台、テレビが1台、本棚にはマンガやファッション誌が並んでいた。 客の多くは中年層で、スーツを着たホワイトカラーが多かった。料金は1時間で18,000円、2時間で32,000円。ただ相場よりもだいぶ安い価格帯らしく、「格安店」と言われていた。それでときどき、大学生や外国人の客が訪れることもあった。 ホステス同士の関係は、表面上は和やかだったが、裏ではたびたび客の取り合いのようなことも起きていた。アカリはまだ新人ということもあり、指名も少なく、そういった争いとはまだ無縁だと思っていた。 しかし、早くも問題は起きた。重鎮クラスの、源氏名を「マミ」と言う熟女ホステス――年齢は25歳で通していたが、恐らく30代後半だろうとのもっぱらの噂だった――が、ある日突然、キヨミの前に立ちはだかったのだ。 「アンタ昨日、アタシの客を盗ったね!」 化粧の濃い顔が、怒りで歪んで
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第12羽:泥棒猫とフランク・シナトラ(下)

その日の夜、キヨミはユキに誘われるまま、店が終わった後に一緒に帰ることになった。 「アカリ、今どこに住んでるの?」 「ネットカフェです。一時的に」 ユキは目を丸くした後、すぐに笑顔になった。 「えー、それヤバくない? いつまで続くの?」 「引っ越し先を探してるんですけど……まだいい物件が見つからなくて」 ユキはしばらく考え込むような仕草をした後、明るく言った。 「じゃあさ、うちと一緒に住まない?」 一緒に住む。キヨミは一瞬、言葉に詰まった。まだ交流の浅い相手から、そんな提案がくるとは。 「つまり……ルームシェアってことですか?」 「そうそう。中野のアパートなんだけど、駅からも近いよ。2DKで13万。半分だけ持ってくれればいいから、月6万5千円でどう」 2DKで、13万。中野でその価格帯は安い。それに、これまでも中野で暮らしていたことを考えれば、大きく環境が変わるというストレスも少ない。しかも家賃は半分出せば良いと言う。 ただ、ルームシェアなんて初めての経験だ。店で助けてもらったとはいえ、信用していいのか。 「……あ、ひょっとして、何で女一人で2DKに住んでるのかって疑問抱いちゃってる?」 と、ユキ。むしろそこはキヨミも疑問に思わなかった箇所だが。そうか、今まではホワイトカラーで収入が安定していたから、単身者でも1LDK、オートロック付きで家賃18万のマンションで暮らしていたが、金銭感覚が麻痺していたのかもしれない。 「実はさ、つい先日まで彼氏と同居してたんだよね……でも私が風俗辞めたくないって言ったら、もう付き合えないなんて言って。ヒモのクセに、私が仕事辞めたら生活できないのにね」 と、聞いてもいないのにユキはペラペラと元カレの話をし出す。その距離感の詰め方は、東京人っぽくなく、良い意味で地元・静岡の感覚を思い出した。自分も東京に来て、すっかり他人との距離の取り方がわからなくなっていたのかもしれない。 「……本当にいいんですか?」 「いいよいいよ。女の子同士だし、寂しくないしね。二部屋あるから、プライバシーも確保できるでしょ」 確かに。少なくとも、ネットカフェ生活を続けるよりは、はるかに現実的だった。 「では……お言葉に甘えて、お世話になります」 ペコリと頭を下げるキヨミの方を、ユキはポンポンと叩いた。 「もー、堅苦しい挨
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第13羽:奴隷と衝動(上)

【2010年10月】静岡県・三島市キヨミはよくアズサとつるむようになった。登下校中の道々、昼休みの屋上、放課後の図書室の隅。周りの生徒たちは、面倒見の良い先輩と従順な後輩だと思っていただろう。あるいは、年の近い姉妹のように見えていたかもしれない。しかし二人きりになると、その振る舞いは完全に恋人同士のそれに変わった。誰もいない教室の後ろ、体育倉庫の陰、校舎裏の古い桜の木の下。誰にも見つからない場所で、アズサはキヨミを引き寄せ、キスをした。唇を重ね、舌を絡め、時には制服の隙間から手を滑り込ませた。抱き合い、肌に直接触れ、息を乱す。キヨミにはトモヨという、親しいクラスメイトがいた。親しいと言っても、何で親しくなったのか、今となっては思い出せない。共通の知人がもう一人いたような気がするが、転校でもしたのだろうか。一時期は、一緒に弁当を食べ、帰り道を並んで歩き(トモヨは自転車通学だったが、わざわざ駅まで付き添ってくれた)、将来の夢を語り合ったこともあった相手だ。しかしアズサとの関係が深くなるにつれ、トモヨとの時間は自然と減っていった。トモヨが誘ってきても「フカミ先輩と約束がある」と断る日が増え、やがてトモヨは寂しそうな笑顔で距離を置くようになった。「ねえキヨミ。他にも忘れられないことがあるんでしょう?」ある雨の午後、誰もいない視聴覚室で、アズサはキヨミの耳元に唇を寄せた。「だいじょうぶよ。ぜんぶ私が忘れさせてあげる。私だけを見て」そう囁きながら、アズサはキヨミの唇を塞ぎ、首筋を優しく噛み、 胸の膨らみを手のひらで包み込んだ。 キヨミは抗うことなく、体を預けた。アズサの指が、キヨミの制服の下に滑り込み、敏感な部分を優しく、しかし執拗に愛撫するたび、 キヨミの頭の中から何かがゆっくりと溶け落ちていくような感覚があった。大切だった記憶。 大切だった感情。 大切だった「何か」。アズサはそれらを、キスと抱擁と甘い言葉で、少しずつ奪っていった。キヨミはこの頃、もはや自作のポエムのようなものも、小説のようなものも、何も書けなくなっていた。 ノートを開いても、白いページがただの空白に見えるだけだった。ペンを握る指が震え、アズサが不機嫌になるような行為は、できるだけ避けたいと思うようになっていた。またある日、二人きりの生徒会室で、一度だけ勇気を出して尋ねたことがあ
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第14羽:奴隷と衝動(下)

【2010年11月】静岡県・三島市アズサとの関係が深まるにつれ、キヨミの世界は狭く、濃密になっていった。周囲からは「生徒会長に気に入られた後輩」として、羨望と好奇の視線を向けられるようになった。しかしキヨミ自身は、次第に孤独を感じ始めていた。トモヨとはもうほとんど言葉を交わさなくなっていた。 今では廊下ですれ違っても、 トモヨは寂しそうな笑顔を浮かべて軽く会釈するだけだ。ある夕方、二人きりの帰り道。アズサが突然、キヨミの手を強く握った。「ねえキヨミ。ちょっと寄り道していかない?」キヨミの胸が、どくんと大きく鳴った「ふふ、どうしたの? 顔が真っ赤だけど……」急にモジモジしだすキヨミの耳に口を近づけ、アズサは囁く。「エッチなことするって、期待してるの?」キヨミの股間が、じゅくっ、と濡れた。一体、いつからこんな風に感じやすい体質になってしまったのか。その後、期待通りと言えばよいのだろうか、アズサは駅の近くにあるラブホテルの前までキヨミを連れてきた。2時間3,000円。高校生のキヨミからすれば結構な額だが、アズサは「ここは私が持つから、お金のことは心配しないで」とキヨミを連れ込んだ。受付は無人で、部屋の写真が載ったパネルが壁に並んでいた。「使用中」と書かれたパネルと「空室」と書かれたパネルが半々。埋まっている部屋は、男女の激しい営みがたった今繰り広げられている最中かと思うと、ますますキヨミは興奮した。そして自分も今から、アズサとその営みを行うのだと。アズサは「あ、この部屋カワイイ」と言って指差す。まるでディズニー映画に出てくるお城の寝室だ。慣れた手つきでアズサはパネルを押し。キヨミの手を引いてその部屋へ向かった。部屋に入ると、「わあ……」とキヨミの口から思わず声が出た。部屋は写真通りで、よく整えられていた。微かにタバコの残り香があることを除けば申し分ない。しばし感動して立ち尽くすキヨミだったが、不意にアズサは後ろから抱き寄せた。「キャッ」と可愛らしい悲鳴を上げるキヨミに、アズサが深く長いキスをする。 アズサの片方の手はキヨミの制服の下に滑り込み、ブラの上から胸を優しく揉みしだく。もう片方の手はスカートに侵入し、太ももの間に指を這わせた。息を乱しながら、キヨミはアズサに身を委ねた。アズサはキヨミの耳元で囁く。「キヨミ。私たち
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第15羽:演技と本気

【2019年5月】東京都・新宿区歌舞伎町、キヨミが勤めるソープランド『ディープ・ブルー』にて。待機室のモニターに映る予約表を見、キヨミは「ん?」と思わず声を出してしまった。客の名前はテラダマコト。3月に筆おろしをしたあの日以来、もう二度と来ないと思っていた客だった。地上階へ上がり、客室の入り口まで彼を迎えに行く。店の男性スタッフが、キヨミの前まで彼を案内した。微笑みかけるキヨミに、テラダはぎこちない笑顔を浮かべながら手を振る。「それではテラダさま、アカリさん2時間コースで、ごゆっくりお楽しみくださいませ」スタッフに送り出される二人。キヨミはテラダの隣に並ぶと、恋人のように彼の腕にしがみつき、共に地下への階段を降りていく。一歩一歩踏みしめながら、「久しぶりですね。2ヶ月ぶりくらいかな」とキヨミが言うと、「覚えてくれてて嬉しいです」とテラダも返した。「えー、覚えてるに決まってますよ。だって……」努めて明るい口調で言う。なるべく愛想よく。キヨミは今、一時的にクールで笑わない彼女自身の自我を捨て、明るくて人懐っこいアカリというキャラクターを憑依させている。「私があなたの童貞を奪ったんだもん」そう言った階段の踊り場で、急にテラダはピタリと足を止めた。「うん? どうしたの? 早く行こ?」「あ、はい……ごめんなさい、今のセリフ、なんかグッときちゃって」どうやら効果はバツグンだ。再び二人は足を進め、個室へと入った。「今日は仕事だったの?」や、「ご飯もう食べた?」などの会話をしながらテラダの服を脱がす。前回のように雪のごとく白い肌と、それを隠すように胸の前で組まれた細い両手。「恥ずかしがらなくていいですよ。テラダさんの体、好きなので」言うと、恐る恐る両手をほどき、テラダはキヨミの前に裸体を晒した。すぐ彼の乳首にキスをするキヨミ。「あっ」と喘ぎ声がテラダの口から漏れる。しばし片方の乳首を舐め続けながら、もう片方の乳首を人差し指で責めた。「はむ……ふぅ。でも、意外……ちゅむ……もう、来てくれないと思ってた……じゅるっ」乳首を唾液でべとべとにしながら、キヨミは率直に言う。テラダは喘ぎながらも、「う……僕、そんな軽率な男に見えました?」と尋ねる。その声には微かな苛立ちと、しかしどこか傷つきやすい少年のような響きがあった。「僕、“好き”って
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第16羽:週一の恋人

次の週もテラダマコトはアカリを指名し、『ディープ・ブルー』を訪れた。その次の週も、そしてまたその次の週も。 時間は、3回目も4回目も120分。キヨミ(アカリ)自身も驚いた。あの白い肌の童貞客が、こんなに執着するとは。いや、もはや童貞ではないが。 彼自身も行為に慣れてきて、童貞特有の挙動不審さも徐々に薄れていった。それに伴って精力も付いたのか、3月に初めて来た日を除き、毎回確実に2度以上射精をするようになった。 そして5月の最後の週も、120分の指名予約。個室に入ったテラダは、いつものように恥ずかしそうに笑った。 「今日も……よろしくお願いします」 しかしその笑顔には、前回までとは明らかに違う、わずかな自信のようなものが混じっていた。 キヨミがいつものように彼の服を脱がせようとすると、テラダはそっと手を重ねて止めた。 「今日は……僕から、いいですか?」 その声はまだ少し震えていたが、目はまっすぐキヨミを見つめている。キヨミは驚きを隠し、微笑んだ。 「もちろん。今日はテラダさんにお任せします」 テラダはキヨミをベッドに優しく押し倒した。最初はぎこちなかった手つきも、5回目の今では随分と滑らかになっていた。 彼はキヨミのブラウスを丁寧に脱がせ、ブラジャーのホックに指をかけながら、耳元で囁く。 「アカリさんのブラ、前から僕が外してみたかったんだ。ずっと夢だった」 「えぇ? それが夢だったの……そんなの早く言ってくれれば、すぐにでも叶えてあげたのに」 「いや……勇気がなかったから。ようやく、勇気が持てるようになったんだ」 ブラを外すのが勇気。なるほど、男性も人それぞれだ。客によっては荒々しく剥がしにかかろうとする者もいるとユキから聞いた。引っ張られて痛い思いをするだけでなく、ホックを破壊されることもしばしばだそうだ。 そういうこともあって、基本的には客に脱がせない方がよいらしいのだが。テラダも最初こそ苦戦していたものの、ようやく解除に成功すると、ホッと一息ついて笑いかけた。 「やっと夢が叶ったよ」 「ふふ、おめでとう。だけど、楽しいのはここからでしょう?」 キヨミは不敵に微笑みかける。ブラが外れ、乳首が露わになるのを見て、テラダはゴクリと唾を飲みこんだ。 テラダの指先が、キヨミの乳首に触れる。最初は遠慮がちだったが、キヨミが小さ
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第17羽:揺れる大地とペニバン

【2011年2月】静岡県・三島市 受験を終えたアズサは、東京の津田塾大学への進学が決まった。私立の難関女子大学だ。 「アズサ、東京行っちゃうんだ」 進学先を決めたことを告げられ、キヨミは不愛想に言う。アズサは軽く肩をすくめ、いつもの余裕のある笑みを浮かべながら返した。 「いろいろ悩んだけどさ、やっぱ一度きりの人生だし、東京の方がやりたいことやれるかなって思って」 キヨミの胸の奥がざわつく。アズサの言うことも理解できる。文芸誌で新人賞を取った彼女の才能を考えれば、今より広い世界に羽ばたくべきだし、東京は正しい選択だ。 「……そうだね。アズサにはアズサの人生がある」 そう口にする一方、本心では“行かないで”と叫びたかった。それに、やはりあの中学時代に情事を重ねた留学生の“ボーイフレンド”との別れを重ねてしまう。 次の瞬間、キヨミは自分にとってもあまりに残酷なセリフを口にしていた。 「じゃあ、私たちの関係もこれでおしまいだね」 毅然とした態度で言ったつもりだったが、声は震えた。このまま自然消滅するくらいなら、自分から終わりにしてしまおう。そんな気持ちが込められた、死刑宣告にも近いセリフだった。 だが、アズサはそんなキヨミの表情をじっと見つめ、ふっと柔らかく笑った。 「なによ、おしまいって。電車で片道2時間ぐらいじゃない。遊びに来てよ」 簡単に言ってくれる。その時間と交通費を捻出するのが、これから受験生となる自分にとってどれくらい大変だと思っているのか。ただそれを伝えても、金銭感覚に疎いアズサはピンとこないのかもしれないが。 「ああ、それにさ、キヨミも来年、東京の大学受ければいいじゃん」 さらに平然と付け加えるアズサ。自分が東京に? それに関しては思いもよらなかった。そしてやはり、そう簡単に承諾できるような内容ではない。 「アズサはアズサの夢を追いかければいいよ。私は……ここでいい」 「ダメ」 しかしアズサは、即座に首を横に振った。 「あなたは私の恋人兼アシスタントになるの、もう決めたの」 キヨミは目を丸くした。 「え……そんな、強引だよ。私にだって、私の人生があるんだよ?」 「じゃあキヨミは私と別れて、何になるつもりなの?」 言葉に詰まる。アズサと別れたら、その先は……。 何も無い。 キヨミ一人の人生なんて、何も考えられな
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第18羽:金髪頭とゴールデンウィーク

夕方、家に帰ると、母親がテレビでニュースを流していた。 「本日午後2時46分頃、三陸沖を震源とするマグニチュード9.0の巨大地震が発生しました。東京は震度5強の強い揺れに見舞われ……」 画面には、津波警報が次々と出ている地図が映し出されていた。 「ああ、おかえり。学校、大丈夫だった? 何だか大変なことになってるけど……ずっと地震のニュースばっかりで」 母親はリモコンでザッピングしているが、その言葉の通り、どのチャンネルも同じ話題だ。 キヨミはその場に立ち尽くした。アズサは今、東京にいる。ガラケーを握りしめ、メールが来ていないか問い合わせてみたが、返事は何もない。電話をかけてもつながらない。 『アズサ、大丈夫!? 事故とか巻き込まれたりしてないよね? これ見たらすぐ返事して!』 そう書いてもう一度メールを送った。 だがその日、返事がくることはなかった。 ※ 夜、キヨミはほとんど眠れなかった。 ワンセグテレビでニュースを見続けていると、東京は電車が止まり、帰宅難民が深夜の街をぞろぞろと歩いている映像が流れていた。この群衆の中に、アズサがいるのかもしれない。しばらく凝視していたが見つかるわけもなく、画面は次の話題に移った。 千葉の石油コンビナートは炎を上げ、福島第一原発では「メルトダウン」が発生したという。「メルトダウン」なんて、昔遊んだ『シムシティ』という都市育成シミュレーションゲームでしか聞いたことがない。 布団の中で体を丸める。まるで世界が音を立てて崩れていくような気がした。アズサは無事なのだろうか。不安が胸を締めつけ、息をするのも苦しい。 やがて、カーテンの隙間から日の光が入り込んできた。いつの間にやら朝になっている。 ずっと起きていたような、少し寝ていたような。これが夢だという可能性もあるかと思って頬を叩いたが、残念ながら痛みを感じた。現実だ。流れた涙は頬で乾き、なんだか肌が突っ張っているような感触もある。 ふと枕もとのガラケーを見ると、アズサからメールが来ていた。 『ごめんね、充電切れちゃってて。ビジホもネカフェもどこも埋まってて、困ったよ。公園で一晩過ごそうかとしてたら、ナンパにも遭うし。危うく付いてっちゃうところだったけど、丁重に断ったから安心して。ともかくこっちは大丈夫。キヨミこそ無事?』 1時間前くらいだ。慌てて返事
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第19羽:誕生日と消えた約束

【2011年6月】静岡県・三島市 アズサとのやりとりは、その後も徐々に減っていった。 3月、4月のころは1日に何通も届いていたメールが、週に2、3通になり、やがて10日に1通、さらには数週間に1通へと間隔が開いていった。 キヨミも受験勉強に追われ、返信をためらう日が増えた。アズサも東京の新生活に忙しいのだろう——そう自分に言い聞かせていた。 ある日の夕方、通っていた塾の自習室で問題集に向かっていると、突然ガラケーが鳴り出した。周囲の生徒達に睨まれながら慌てて自習室を飛び出し、廊下の端で電話に出る。 「もしもし……?」 「イチノセキヨミってお前か?」 知らない男の声だった。低く、苛立ったような響き。 「私ですけど……」 「あのさ、アズサはもう俺のもんだから。二度とメール寄越してくんなよな」 電話は一方的に切れた。キヨミは壁に背を預け、その場に崩れ落ちそうになった。 耳の中で、男の声が何度も反響する。 その夜遅く、アズサから謝罪の電話がきた。 「あれはバイト仲間で。ぜんぜんそんな変な仲とかじゃないから……ごめんね、キヨミを驚かせちゃった」 キヨミは震える声で返す。 「嘘でしょ。彼氏だよね? もう私との関係なんてどうでもいいんでしょ……アズサから恋人になろうなんて言ってきたくせに、飽きたんだよね?」 「キヨミ、落ち着いて……まぁ、言い寄ってくる男はいるけど、別にキヨミのことをどうでもいいだなんて思ってな……」 「やっぱり! 言い寄られてるんじゃん! 何なの、自慢!?」 感情のタガが外れたようにキヨミは怒鳴り散らす。こんなに怒ったことがあっただろうか。しかも相手は、恋人以上の関係になりたいと、魂で繋がりたいとさえ強い想いを伝えたアズサだ。嫌われまい、嫌われまいとしていたのに、こんなに感情的にぶつかってしまっては……。 「ちょっと、キヨミ……どうしたの、何か変だけど……」 さすがにアズサも違和感に気づくが、キヨミは止まらない。 「変? そりゃ、変にだってなるよ……私にとってはアズサがすべてだった! なのにアズサは、東京で私の知らない人たちと仲良くやってる!」 「え、何、キヨミ、友達いないの? そういう話……?」 友達……一瞬、トモヨの顔が浮かんだ。アズサと付き合ううちに、疎遠になってしまった。今はクラスも違うし、顔を合わせる
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