【2019年6月】東京都・新宿区 キヨミの、26歳の誕生日だった。特別な感慨はなかった。25歳のときも、24歳のときも、同じようにただ一日が過ぎただけだった。アズサとの最後の記憶が残る18歳の誕生日以来、キヨミにとって「誕生日」はただの数字の増減に過ぎなかった。 その日、待機室でスマホを見ていると、テラダマコトからメッセージが届いていた。 『お誕生日おめでとうございます。今日は店外でデートの日ですね。楽しみにしています』 誕生日のことなんてキヨミ自身はすっかり忘れていたが、店のホームページに乗っていたのだ。「誕生日、店外デートの予約していいですか⁉ 二人で楽しみましょう!」数週間前にそう熱く誘われ、断るわけにはいかなかった。 待機室で待機していると、キヨミのその日のスケジュールを確認したユキがニヤニヤしながら近づいてきた。 「へーっ、もう店外なんて! やるじゃんキヨミ。どんな魔法使ったの?」 ユキの声はからかうような明るさだった。金髪の先を指でくるくる巻きながら、キヨミの肩を軽く突く。 「知らない。魔法なんて使った覚え無い」 キヨミは淡々と答えた。ユキは「えー、謙遜?」と笑うが、それ以上追及はしなかった。店外デートは、6時間で9万6千円に特別料金が上乗せされ、10万円を超える。食事代も客持ち。よほどの関係でなければ成立しない。テラダマコトに関して言えば、まさに「よほど」だった。 午後4時の5分前。店のボーイが呼びに来る。「テラダ様がお待ちです」キヨミはいつものように待合室を出ていく。 「頑張ってね」 そう声をかけてくれたユキを振り返り、キヨミは一瞬だけ笑顔を見せた。 ※ テラダと初めて、店の外に出る。彼は白いシャツにチノパン、いつものように雪を思わせる肌が陽射しの中で妙に浮いている。 最初に向かったのは映画館だ。映画は恋愛ものだった。キヨミはスクリーンに目を向けながら、内心でため息をついた。主人公の女が、過去の恋に囚われながら新しい恋に踏み出す話。皮肉なほど自分に似ている。隣のテラダは時折、緊張した息を吐きながら彼女の横顔を盗み見ていた。キヨミは気づかないふりをして、手をそっと彼の膝に置いた。客を安心させるための、いつもの仕草。 映画が終わり、近くのイタリアンレストランで食事をした。テラダは前菜からデザートまで、事前にキヨミにリクエス
최신 업데이트 : 2026-04-29 더 보기