All Chapters of RMTサバイバー~今日の宿代を稼ぐ俺と、人助けで戦う使い魔~: Chapter 31 - Chapter 40

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第31話 効率以上の価値を持つ少女

 カレーライスと火剣屋の店じまいの後。 いまトウマたちは報酬を分配しようとしていた。 ベルフラウが右手の指を立てる。出した声は裏返っている。「ほ、報酬の分配は、平等にするべきよね!」 ベルフラウのカレーライスの売れ行きは悪い。 彼女の取り分は少ないと思われた。 トウマは厳しい顔つきであごを振る。「ダメだ、ベルフラウさん、あんたのカレーは10皿しか売れていない。取り分は二万ヴァルだ」「何でよ! あたしのおかげで初心者の包丁のクエストに辿りついたのよ? もっと取り分を寄越しなさい」「ダメだ」「……どうしてよ」 悲しそうなベルフラウの表情と声。 ウミが気の毒そうな顔つきで口を挟む。モフモフとした尻尾がたゆんたゆんと揺れる。「トウマ、師匠が可哀想ですぅ。ここは、もう少しあげても良いんじゃないですか?」 トウマは舌打ちをする。両腕を胸に組んで考え込んだ。やがてベルフラウを一瞥する。「じゃあ三万だ。それ以上は譲歩できん」「何よ! 貴方はこれからもあたしと仲良くやっていく気が無いのかしら?」「じゃあいくら欲しいんだ?」「五万よ!」「それはさすがに無理だ」「じゃあ四万!」「……」 トウマは顔を渋らせて黙り込む。トウマとベルフラウとの間で見えない火花が散った。 ウミが助け船をまた出した。「トウマ、初心者の私たちに師匠はいっぱい協力してくれていますぅ。ここは、四万にしましょう」(確かに、ベルフラウが来てくれなければ、俺たちは未だに火剣屋だけをやっていた)「……仕方無いな」「そうしましょう」「……分かった」 トウマは仏頂面で頷いた。 ベルフラウがむふふんと笑顔を浮かべる。「ふふん、やったわ!」 ヴァルを管理していたウミがベルフラウに四万ヴァルの入った革袋を渡す。ベルフラウはぬふふと満足げに笑い、ヴァルをステータス画面にしまった。「それじゃああたしは、今日はこれでログアウトするわ。また明日ね」 画面を操作し、透明になって彼女が消えて行く。 どうやらゲームプレイを明日も一緒にしてくれるようだ。 トウマはため息をこぼす。そしてウミに向き直った。「それじゃあウミ、俺たちは残りのヴァルを半々に分配するぞ」「はぁい、ご主人様」 ウミが革袋を渡す。トウマがステータス画面で鑑定すると、なんと四万六千だ。「おい、ウミ!」「
last updateLast Updated : 2026-05-07
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第32話 二つの再会

 ログネストのルームにトウマは戻ってくる。 空気の澄んだ空間。狭い部屋であり黒いマットの床。どこかで他人のいびきが聞こえた。 トウマはデバイスゴーグルを顔からはずし、上半身を起こす。 ふう、今日も疲れたな。 腕時計を見ると、時刻は夜の十時を回っている。 戻って来て最初に思うのは、やはりトイレに行きたいということだ。何時間もぶっ続けでゲームプレイをしているので、これは仕方の無いことだった。 立ち上がり、革靴を履いてルームを出る。タイル敷きの通路を歩いた。トイレの前に行くと、ふと女性用トイレから誰かが出てくる。 黒髪のボブカットに気の強そうなつり目。左目の下には泣きぼくろ、女性にしては身長が高い。(マジか!) 「真帆!」「……え?」  間違いない、真帆だ。高校生の時からほとんど変わっていない顔と出で立ち。だけど少し、グラマーな体型になっただろうか? 薄化粧もされている。だるっとしたニット生地の赤いセーターにベージュのロングスカートを履いていた。 真帆はびっくりしたような顔つきになり、それから顔を俯かせた。表情が歪む。こちらへと歩き出した。 トウマが右手を伸ばす。 「おい真帆」「あたしは真帆じゃない」  そのままトウマの体をすり抜けて、玄関の方へと真帆は歩いて行った。 「お、おい、待てって」  トウマは早足で追いかける。 真帆は玄関の自動ドアをくぐって外へと出て行った。春とは言え、夜の外気はまだ冷たい。トウマはその背中を追いかけて歩く。(どうして、俺を避けるんだ?) 歩道に出て少し歩いた。真帆が立ち止まり、体を震わせる。トウマもつられて足を止めた。 真帆が前を向いたまま語気を強くして叫ぶ。 「着いて来ないで!」「な、何を怒っているんだ? まさか、俺のこと忘れたのか? ユウマだ」「ユウマなんて人、知らないわ」「そんなはずあるか!」  真帆がまた歩き出す。 トウマはしつこく追いかける。 真帆はどこまでも早足で逃げていく。 思いつきがあり、トウマはポケットからスマホを取り出した。真帆に電話をする。彼女のポケットから着信音が鳴った。 真帆は立ち止まって、スマホを取り出し画面を眺める。そこで盛大なため息をつく。こちらを振り向いた。ポケットにスマホをしまい、代わりに小さな何かを取り出して、こちらへと投げつける。 「嘘つき
last updateLast Updated : 2026-05-08
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第33話 頼れない

 翌日の早朝。 ベルフラウはバハロムの森にいた。辺りには背の高い木々が不規則に立っている。落ち葉の多い地面。太陽の光は木の葉で陰っており、周囲は少し薄暗い。ふっと風が吹いて、お姫様ドレスのスカートがさわさわと揺れた。(さあ、出て来なさい) ノーファンの村よりも高難易度のモンスターの出るフィールドである。狙うはダークエルフだ。クエストでは無い。だからヴァルは稼げない。レアドロップ狙いの狩りである。 ふと、木々の向こうに紫色の肌をしたダークエルフが出現した。水平にピンと伸びた耳。両手には細身の剣を持っており、こちらへ歩いてくる。 ダークエルフが低い声で恫喝する。「ここが貴様の死に場だ」 AIのくせに生意気なセリフである。 出たわね。(私の獲物) ベルフラウはふふんと笑って、唱える。「メイクアップ」 右手に現われる小さな丸い手鏡。それの発する虹色の光がベルフラウの化粧のノリを上昇させた。アジリティが上がり、精神が安定する。HP回復効果もあるのだが、今は満タンだ。 手鏡が消える。 ベルフラウは腰のベルトからダガーを抜いて両手に構える。そしてまた唱えた。「テイクザバック」 彼女の姿が消える。ダークエルフの背後にワープした。その背中をダガーで斬り裂く。 二連撃。 敵の頭上にはcritcalの文字。 ダークエルフのHPがごりっと減った。「ぐはっ、やってくれたな!」「うふふん、来なさい」 敵が振り返り、剣を振り下ろす。ベルフラウは受け止めることもせずに体をひねって回避し、反撃を繰り出した。「遅いわっ」「何だと!」 ベルフラウは先ほどSランクのカレーライスを食べていた。おかげで料理バフがかかっている。これもアジリティ上昇(中)のバフが内包されており、彼女の動きはハヤブサのように速い。敵の剣を次々に躱した。 代わって、ダークエルフはどんどん斬り裂かれる。「ぐおおお、お前なんかに」 十二発ほど攻撃をヒットさせるとダークエルフは地面に沈んだ。 ベルフラウはステータス画面を出し、アイテム欄をチェックする。レアドロップは無い。(確率が低いわね) ダークエルフからのレアドロップ、黒燐石はAランクのダガーを作成するために必要な素材だった。強くなるためには、そろそろ取っておきたい。 彼女はまた歩き出し、敵を探して森を
last updateLast Updated : 2026-05-09
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第34話 否定できない

 およそ一年前。 法学部の大学院卒業後。司法試験に落ち続けたユウマは、東京のとある大手某食品メーカーに勤めていた。部署は宣伝部。若輩ながらも一般社員より上の位である。大学の教授のつてで入社したこともあり、入社試験で優秀だったこともあり、ユウマは優遇されていた。 朝、電車にゆらりと揺られる。駅から少し歩いて、並木道を通り過ぎたところに会社はあった。白くて角張った大きな建物。門壁には会社の名前を記したプレートがデカデカと嵌まっている。 会社に到着すると、ユウマの一日はスケジュールを最適化するところから始まる。 スケジュールの最適化。それはつまり、自分が何時までに何をするのか、計画を立ててデータにするのだ。部下に対する的確な指示、休憩時間に入るタイミング、先方との交渉のため外に出たら何時までに会社へ戻る、会議時間、様々なアイディアを練る時間。それらのスケジュールを一切の無駄なく作っていく。 スケジュールを作ることは、上司の黒谷鬼助から言いつけられていたことだった。 他にもある。朝の部署内の掃き掃除もユウマの仕事だった。たった一人の職員に毎日掃き掃除をさせるなど、パワハラである。 やがて始業時間になる頃には社員たちが出社してきており、椅子に座っていた。 ユウマはデータを印刷し、出来上がった最適化スケジュールの用紙を黒谷に提出する。「おはようございます、部長。一日のスケジュールを作りましたので、お目通しをお願いいたします」「おう」 黒谷はスケジュールを眺めて考える素振りをする。そして豪快にぐははと笑った。椅子の背もたれにもたれかかり、人をねぶるような顔つきで用紙をユウマに返却する。「ユウマ、仕事は効率だ。結果の出ねえ効率は効率じゃねえ。お前、絶対にこの用紙の通りにやれよ」「かしこまりました」「よーし」 額にデコピンをされなかった事にユウマは安堵する。黒谷は機嫌が悪いと重箱の隅をつつくような落ち度を取り上げてユウマにデコピンをするのだった。それも部下たちの前で、である。ハラスメントだ。しかし部長黒谷に刃向かえる部下はいない。 くそ、(こんな会社、辞めたい) ユウマには辞めることができない理由があった。その一つは、同じ部署の後輩、萩森桃香のことがタイプだったからである。いや違う。訂正しよう
last updateLast Updated : 2026-05-10
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第35話 理由があって欲しい

 朝。ノーファンの村の道具屋前。 空を見上げると鉛色の空があった。雨が降り出しそうな曇り具合である。ゲーム世界にも降るのだろうか? トウマはそんな疑問を覚えた。 辺りを通りかかる人々の様子は、今の空のようにどんよりとしたものである。映る表情は、絶望、落胆、苛立ち。金稼ぎが上手く行っていないのだろう。しかし人々の瞳だけは爛々とギラついている。 今、トウマとウミは、ベルフラウが来るのを待っていた。待ち合わせ時間は約束していないのだが、一緒にゲームをする約束はしている。だけど中々現われない。 ウミがぼやくようにこぼした。 「トウマ、師匠が来ないですぅ」「そうだな」「いつ来るんでしょうか?」「それは、俺にも分からないな」  トウマがログインする前、左隣のブースからはVR機器の作動音が聞こえていた。なので、ベルフラウはすでにゲームをプレイしているはずだ。今頃どこで何をしているのだろうか? トウマはステータス画面を出してみた。フレンド項目をタップする。ベルフラウはログインしているようで、緑色のランプが点灯していた。通話をできるらしい。 「電話をかけられるみたいだな」「かけてみたらどうですか?」「ちょっとやってみるか」「お願いしますですぅ」  トウマは通話をタップする。7コール目の後で通話が拒否された。彼は怪訝に眉を寄せる。 「出ないな」「出ませんか?」「ああ」「もう一度かけてみたらどうですか?」「……いや」  ベルフラウにも何か用事があるのだろう。いま取り込み中なのかもしれない。けれど、胸騒ぎを覚えた。 ……真帆? そう言えば、昨日タオジが語っていた。今日はノーファンの村の戦士が集まって邪蛇狩りがある。プレイヤーも参加できる。報酬は三万ヴァル。そして昨夜、ベルフラウは寿司屋で5000万ヴァルを稼ぎたいと宣言していた。(まさか?) ……あり得る、のか? 「ウミ、村の広場へ行くぞ」「広場ですか? どうしてです?」「今日は邪蛇狩りがある日だ。ベルフラウも参加しているのかもしれない」「あっ、だから来ないんですね!」「分からんが、おそらく……」  トウマは早足で道を歩き出した。すぐ隣にウミが並ぶ。 村の噴水広場。そこにある桜の木は葉桜になってきていた。噴水の中心には女神像があり、肩にかつぐ壺から水流がこぼれてい
last updateLast Updated : 2026-05-11
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第36話 過去の話

 行列が山道をゆっくりと登っていく。 森の中。鬱蒼とした藪が茂っていた、木々に囲まれた坂を抜けて、落ち葉を踏みしめ、モンスターが出現すれば撃退する。ねずみ色の空は雨をこらえているようであったが、雨は降ってこない。まるでトウマとウミの心模様を表しているような天気だ。 トウマたちは行列を尾行していた。時々木陰に隠れては、見つからないように注意している。配信は切っていた。ドローンは邪魔だ。 ウミが断定するようにつぶやいた。「トウマ、師匠たちは山頂に向かっていますです」「そのようだな」「今夜、邪蛇と戦うんでしょうか?」「だろうな……」 昨日、タオジが言っていた。月夜の山頂でテデモネの木枝を燃やすと、煙に引き寄せられてそいつは現われる。名前はグランツエル、大蛇モンスターという話だ。「トウマ、さっきヒイラギが言っていた話ですが」「ああ」「ノーファン村の領主に就任するとは、どういうことなのでしょうか?」「俺にも分からん。だけど推測はできる」 ノーファン村はルスプル領のようだ。ルスプルという名字の貴族が統治しているという事だろう。そしてヒイラギはその貴族からノーファンの権利書を買った。 その上で、邪蛇狩りをした後に村の領主になれると言っていた。つまり、領主になるためには二つの条件を満たすことがゲーム的に求められるということだろう。1,権利書を買う。2、邪蛇狩りを遂行する。それが必要条件だ。 それをウミに伝えると、彼女は顔を硬くした。「領主になると、どんな良いことがあるのですか?」「俺にも分からん」「そうですか。けど、ヒイラギを領主なんかにさせないですぅ」「そうだな」 登山は進み、やがて道が細くなってきた。これでは尾行がやりにくい。崖に設置されているハシゴをトウマが登る。登った先に一人の女性がしゃがみ込んでいた。(やばいっ!) くそ! 待ち伏せされたのか!? トウマはびっくりして顔を険しくする。 しかしその女性はあっけらかんとつぶやいた。「せーんぱいっ、何してるのー?」 プレイヤーネーム、モナ。 萩森桃香である。 緑色の髪のセミロング。男受けしそうなカワイイ系の顔立ち。英文字の入った白いTシャツに短パンを履いていた。大きめに設定したのか乳房がやけに張っている。背中には弓を背負っている。 トウ
last updateLast Updated : 2026-05-11
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第37話 守る理由

 昼食時。 トウマは一度ログアウトをした。狭いマットルームに戻ってくる。毎度のことながら味の選べるログネストラーメンを注文し、割りばしですすって食べた。全ての味をすでに食べ尽くしたせいで、もう飽きてしまった。ちなみに今日の味はミソである。 ベルフラウと会って直接話をしようと思い、隣室の気配を探ってみる。だけど彼女がログアウトしてくる様子は無い。一時間待って、トウマはがっかりと肩を落とす。(真帆は昼食を摂らないのか?) 仕方無く、ゲーム内に再び戻った。 山壁の根元にぽっかりと空いた洞窟。周囲の壁は岩のように硬い。まるで獲物を飲み込むために大口を開けたクジラの口のようだ。これはダンジョンだろうか? 洞窟の奥には何かいるのかもしれなかった。 隣にいるウミが腹を両手で押さえて物欲しそうな顔する。ぐぅーっと間の抜けた音が鳴った。 「トウマ、お帰りなさいです」「おう」「私、お腹すきましたぁ」「カレー食うか?」「わあっ、食べます食べます!」  ウミが両手をグーにして掲げ、頬にエクボを浮かべる。口から覗く八重歯がちらり。側面の髪にはアゲハチョウのヘアピンが光っている。モフモフとした尻尾がぶんぶんと揺れた。 トウマはステータス画面からAランクのカレーライスカードを二つ取り出す。余談だが、Aランクは売り物では無く、自分たちで食べる用に作成したものだった。中辛である。 カードを一枚ウミに渡す。 「ありがとうございますぅ。オープン」「俺も食わないとな」  アバターの満腹度を上げなければいけない。しかし、現実とゲーム内を合わせて二度目の昼食である。胃もたれしそうな気分をこらえつつ、地面に腰をつけた。ウミと隣り合わせに座り、カレーライスを食べる。ああ、ログネストラーメンより何倍も美味い。 ウミがニコニコと微笑を浮かべて、カレーライスをスプーンで口に運んでいる。 「美味しいですぅ」「ゆっくり食えよ」「やっぱり、ご主人様のカレーが一番です!」  チューリップのような素敵な顔。その顔を見て、現状の苦しさが若干まぎれた。トウマは乾いた苦笑をこぼす。 「ご主人様、どうしました?」「いや、何でも無い」「何でも無いのに笑うんですか?」「お前が食いしん坊だなと思ってさ」「そ、それは! だってー、とっても美味しいですぅ」「そりゃあ良かった」  食事を終え
last updateLast Updated : 2026-05-12
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第38話 月下の野心

 山の頂上。 夜空には鮮やかな満月が浮かんでいた。星々が輝いており、今にも星が降ってきそうな絶景である。透き通るような空気を吸い込んで、ベルフラウはもう何度目になるか分からないため息をついた。 山頂は広い大地になっている。地面は背の低い草に覆われており、戦闘には持ってこいの舞台だ。いま、山頂の中心ではテデモネの木枝でキャンプファイヤーが焚かれており、ぼうぼうと炎が燃えていた。独特な匂いのする煙が上がっている。その周りにも小さなたき火があり、肉の串焼きが豪快に焼かれている。 村の戦士たちは酒を飲みながら歌っていた。これから邪蛇と戦おうというのに酒を飲むなんて、何を考えているのかしら。 まあNPCだから良いけれど。 ベルフラウは隅っこの地面に三角座りをしていた。キャンプファイヤーの炎を見つめている。火を見ると不思議と心が落ちついた。火にはそういう魔力がある。 能力上昇のためにカレーライスを食べたいが、出してはいけない。料理システムの情報をヒイラギたちに尋ねられたくなかった。 ふと、ベルフラウの元に野獣のような男が近づいてくる。ヒイラギだ。相変わらず体格が大きい。黒ジャケットに黒のズボン。黒ずくめの男である。右手には串焼きを三本、左手には酒瓶を持っている。 ヒイラギが声をかける。 「どうしたあ? ベルフラウ。楽しんでるかあ?」「……楽しむ気なんて無いわ」「そう言うな、どっこらしょ」「あたしの隣に座らないで」「ぐははっ、良いじゃねえか」  ヒイラギはベルフラウの隣に座ると、串焼きを差し出した。 「食え」「要らないわ」「そう言うな、食えよ」「要らない!」  ベルフラウは強く訴える。するとヒイラギは怖い顔をした。声を低くして言い放つ。 「命令だ、食え」「……命令?」  どうして、(あたしが、貴方の命令を聞かなくちゃいけないの?) ヒイラギが串焼きをずいと差し出す。ここでヒイラギを怒らせるのは得策ではない。ベルフラウは一本を受け取り、肉を凝視する。ヒイラギの顔と肉を見比べて、それから一口かじった。肉には弾力があり、塩こしょうが効いていて野性的な味がした。 ……早朝にヒイラギがベルフラウに突きつけた要求。それは、グランツエルの討伐にベルフラウが参加する代わりに金を支払うというものだった。そして邪蛇討伐の証を入手したならヒイラギに渡す
last updateLast Updated : 2026-05-12
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第39話 邪蛇討伐の証

 ついに邪蛇狩りが始まった。 満天の空の下。山の上の地面の土は硬く、背の低い雑草が絨毯のように生えている。トウマとウミは、大きな岩の後ろに隠れて山頂の様子を見守っていた。今までずっと登山して来たのだ。 ちなみに先ほど夕食を食べた。昼と同じカレーライスである。もう飽きた。 山頂にはキャンプファイヤーが焚かれているようで、その煙がモクモクと上がっている。炎の灯りに照らされて、人々の戦う様子がよく見えた。 邪蛇、グランツエル。そいつは紫色に輝く肌をした大蛇であり、電車一両ぶんほどのサイズがありそうだ。まるで龍のように美しい。右に左にうねって地面を這い、人々に襲いかかる。 人々の先頭にいるのはベルフラウだ。両手にダガーを抜いており、ボスのターゲットを取っている。敵の噛みつき攻撃を踊るようなステップで回避しながら翻弄している。グランツエルの両サイドにはNPCの戦士たちがいて、剣や斧を振り下ろしている。大蛇の肌が切り刻まれて、おびただしい鮮血が飛んでいた。「キシャー!」 グランツエルが凶暴に吠える。 ヒイラギとその部下たちは何をしているかというと、離れたところで見守っている。弓使いのモナすら矢を放たない。何もしていない。ニヤニヤと笑みを浮かべながら戦況を見守っている。何やってんだお前ら、戦えっつうの。 隣にいるウミが焦った顔でトウマを見上げた。「トウマ、師匠が大変です。助けないと!」「待て、ウミ。ベルフラウなら大丈夫だ」「でも!」「こらえろ! 出るタイミングを間違える訳にはいかないんだ」「うーっ! 師匠、頑張ってくださいですぅ」 ウミが両手のひらを握り合わせて祈るようなポーズを取る。 トウマは顔を険しくして、戦闘を見つめた。 ふと、グランツエルが顔を上げて大きく息を吸い込んだ。紫色に輝く胴体が赤いオーラに包まれる。必殺技を撃つ気だ。「トウマ! やばいです!」「馬鹿行くな!」 駆け出そうとするウミの腕をトウマが必死に掴んだ。 敵が毒のブレスを吐く。緑色の激しい煙が山頂に吹き荒れた。NPCの戦士たちがブレスを浴びて、HPをがっくんと減らす。キャンプファイヤーが吹き飛んで、地面に燃えたままの木枝が散らばる。「師匠!」 ウミが泣き出しそうな顔で叫んだ。「待て」 トウマは山頂に目をこらす。 大丈夫だ。 ベルフラウはいつ
last updateLast Updated : 2026-05-13
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第40話 ふくろのねずみ

 ベルフラウは逃げていた。 やったわ! 上手くいった。 グランツエルにラストアタックを決めた彼女は、ボーナスとして邪蛇討伐の証を入手していた。後は姿をくらますだけである。簡単だ。 山を駆け下りると同時にステータス画面を出す。アイテム欄から帰還石を取りだした。これを使えば最寄りの町村にワープができる。右手に持ってキーワードを唱える。 瞬間、 右手から帰還石が弾け飛んだ。「何っ?」 しまった、弓矢だ。後ろから撃たれたらしい。「よっし!」 後方でモナの喜びの声が聞こえた気がした。そう言えば彼女は弓使いだった。それにしても、なんて命中力なの? ……かなり悔しい。 帰還石はもう無い。一日の使用制限が一回までのアイテムなので、一個しか持ってきていなかった。ベルフラウは後悔に肩を落とす。 こうなったら走って逃げるしかない。 藪へと飛び込み、鬱蒼とした森の中を右へ左へと駆けていく。獣道でもない木々の間をただひたすらに走った。だけど、後ろからまた矢が放たれた。ベルフラウの背中に命中する。「痛った!」 モナが追いかけて来ており、また矢を放ったようだ。 くぅぅ。 こうなったら、戦おうかしら? やられっぱなしは趣味じゃないのよね。 だけど相手は人数が多い。 やはりここは逃げないと。 右手を掲げる。「メイクアップ」 丸い手鏡が生まれて、虹色の光が放射された。化粧のノリがアップすると共にHPが回復する。アジリティがアップし、心が落ち着いた。 大丈夫よ、真帆。 逃げ切れるわ。 森の木々を縫うように走り続けた。先ほどよりも足の速さは上がっている。だけど暗闇である。地面から突き出た木の根に足首が引っかかった。そのまま正面に思いきり転倒する。「キャアッ!」 両手で受け身こそ取れたものの、足は止まった。背後からは複数の足音が近づいてくる。ベルフラウは立ち上がって振り返った。 舌打ちをする。 こうなったら戦うしかないわ。 ベルトから二本のダガーを抜いて、闇に目をこらした。 走って来た三人の男たちが立ち止まり、にじり寄ろうとする。 男達の後方から弓を構えたモナが駆けてきた。立ち止まり、甲高い声を高々と響かせる。「あはははっ、ざーんねーん、ベルフラウさん。ふくろのねずみぃー」 ベルフラウの脇にじっとりとした汗が伝う。 強気で言い返した
last updateLast Updated : 2026-05-13
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