All Chapters of RMTサバイバー~今日の宿代を稼ぐ俺と、人助けで戦う使い魔~: Chapter 1 - Chapter 10

11 Chapters

第1話 詰み

 それは、どこにでもある小さな“シアワセ”だった。 朝。寝息を立てているユウマの肩に、妻が優しく手を置く。「ユウマ、起きて起きて」「むにゃむにゃ、もっと寝てたい」「駄目。会社に行く時間よ」「ぐぐー、ん、朝?」 瞳を開く。目の前には女性の優しい笑顔があった。彼はダブルベッドから上半身を起こし、右手を口元に掲げて大あくびをする。「ふわあ」「あら、大きなあくびですこと」「朝食は?」「出来ています。着替えて、ダイニングへ来てくださいな」「ああ、分かった」 クスッと笑って妻が部屋を出て行く。スリッパの足音が遠ざかって行った。 ユウマはベッドから出て支度をする。ワイシャツにスーツのズボンを履いた。ネクタイと上着を持ってダイニングへと歩く。テーブルの席にはすでに娘が座っていた。小学生になったばかりのお転婆少女である。彼女はユウマを指さして指摘した。「お父さん! お髭生えてるー」「今から剃るんだ」「早く剃ってきて」「分かったよ」 背広の上着とネクタイを椅子の背もたれにかけて、彼はユニットへ入る。シェイビングクリームをつけて髭を剃る。二十代の若い顔立ちが鏡に映った。 蛇口をひねって水を出し、顔を洗う。冷たい感触が肌に心地よい。 それからテーブルに戻り、椅子に座って朝食となった。ユウマより二つ年下の妻が料理を並べてくれる。「いっただっきまーす」 賑やかな娘の声である。「いただきます」「はいどうぞ」 三人で両手を合わせた。 穏やかな朝だった。 日だまりのような光景。 けれど、違和感を覚える。(昨日……何をしていた?) 娘がパリパリとウインナーをかじる。それからお味噌汁をすすってご飯を口に運んだ。 隣では妻が穏やかな瞳をたたえておりハシで目玉焼きを割る。「ウミ、ゆっくり食べなさいね」「ママはーい」 ユウマも味噌汁をすすった。 部屋の掛け時計を見る。彼は焦って声を上げた。「もうこんな時間だ!」 仕事に行かなければいけない。急いで食べ出す。「そんなに急いで食べたら、喉につっかえますよ」 妻が諭すようにつぶやく。 手早く朝食を終えた。妻が用意してくれていた黒いカバンと上着を持って席を立つ。「それじゃあ行ってくるよ」「貴方、ネクタイがまだです」 妻が立ち上がり、その青いネクタイを手に取って首に巻いてくれた。慣れ
last updateLast Updated : 2026-04-10
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第2話 ログネスト

 背の高い天井。タイル敷きの綺麗な床。ログネストの玄関は広い空間になっている。 空気は息苦しいほど重かった。 今も、通路からドリンクを汲みに来た利用客がある。ちらりと振り返ると、寝ていないような疲れた顔をしていた。 ふと隣には男性店員に連れられた太っちょの客がやってきた。押し問答を始める。「待ってください! あと五時間、五時間プレイできれば、ヴァルを払えそうなんです!」「お客様、すでに退室の時間でございます」(……ヴァル?) 背中に鳥肌が立つのを感じながらユウマはカウンターに向き直る。 茶色い受付台を挟んで、女性店員が笑顔で語り出した。「お客様、ゲームVALORIUMは初めてですか?」「ゲーム?」「はい。ログネストではゲーム内通貨、ヴァルでのお支払いもできます」「あ、はあ」「始める時は会員カードを機器に差し込んでからプレイをしてください。それと」 女性店員がまた微笑む。棚の下から折りたたまれた小さな紙を取り出した。それをカウンターの上へと静かに置く。「今、キャンペーンをやっております。 こちらの特別コードをゲーム開始時に設定すれば、良いことがございますよ」「良いこと?」 ユウマはその紙を受け取る。開くと英文字が記載されていた。「はい。是非是非、設定してプレイしてみてくださいね」「あ、はい」 両手を腹に組んで頭を下げる店員。 コップと紙を持って受け付けを彼は離れようとした。 隣では腹のでっぷりとした男性客が店員にいまだに泣きついている。「待ってください! お願いです! 俺はやっと20レベルに上がったんです」「お客様、退室をお願いいたします。それ以上揉めるなら、警察を呼びますよ」 ユウマはいぶかしげな視線で眺めた。(可哀想だけれど、金が無ければルームを利用できないよな)  恰幅の良い男性は店からしぶしぶ出て行った。 気の毒に思いつつユウマは自分のルームへと帰る。 黒いマットの部屋にはVR機器が備わっている。デスクトップの横にはデカデカとした説明書があった。コーヒーを口に含みつつ、試しに読んでみる。 モンスターは金を落とさない。 ――代わりに、評価で金が出る。 ゲーム内通貨ヴァルは、1ヴァルにつき0.2円の価値のようだ。 ……怪しい。 さっきの客たちは、みんなこのゲームをやっているのだろうか?(金に
last updateLast Updated : 2026-04-10
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第3話 排除

ロッジのような一室。木造りの天井と丸太で出来た壁。そこのベッドに腰掛けていた。 ここがゲームの中らしい。 顔の前にはステータス画面のような半透明の青いボードが浮かんでいる。 システム音声が響いた。 「プレイヤー様。VALORIUMオンラインの世界へようこそ!」 「あ、はい」 「まず、プレイヤー名を決めてください」 「トウマで頼む」 彼の本名は冬野悠馬である。 「トウマ、その名前は使用できます」 「良かった」 「次にゲーム内職業を選んでください」 画面には様々な種類のジョブが並んだ。 そして右上には特別コード入力の文字。 そこをタップして、暗記していた英文字を打ち込んだ。 果たしてどんなギフトがもらえるんだろうか? チートスキルの予感に胸が高鳴る。 画面に現われたのは、とんがり帽子にローブの男。 システム音声が告げる。 「おめでとうございます。貴方の職業はコントロールメイジです」 「え?」 両手に安っぽい木の杖が現われる。 勝手にジョブが決まってしまっていた。これが特別コードのプレゼントという事なのだろう。コントロールメイジは強いのだろうか? 「次に、ビジュアルを作成してください」 操作をして、トウマは格好良いアバターを自分なりに作って行く。 青の短髪、目も青色。身長は高め。体格は細マッチョ。爽やかふうにアレンジをした。 これで良し。 「……普通のVRだな」 彼が着ている服は白のシャツにデニムの膝丈までの半ズボン。ちょっとダサい初期装備である。だが文句を言っても仕方無いだろう。 トウマは立ち上がった。 思わず気分が高揚する。 題して自分探しの旅。 違う。 とりあえずヴァルを稼いでみたい。 「次に、使い魔を授けます」 ふと、周囲に声が起こった。 「貴方の助けになりたいから。 ――人助けに何か理由が要りますか?」 光が弾けた。 空間が揺らいで、茶髪ロングの女の子が現われる。 茶色い猫耳にふさふさとした尻尾。右手には剣。左手は腰に当てている。身長は140cm程度と言ったところか。ピンクの服を着ていた。 ――使い魔、猫の亜人。 彼女が喋った。 「貴方がご主人様ですか?」 「あ、ああ。そうみたいだ」 「お名前は?」
last updateLast Updated : 2026-04-10
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第4話 ヴァルの村

 ゴーレムを倒し終えると、ノーファンの村へと転移した。 辺りには木造りの民家が立ち並んでいる。遠くを見ると森や山があった。地面は土。その道路で、トウマとウミは隣り合って佇んでいた。「普通の村だな」「そのようですね」「とりあえず、狩り場に行くついでに、村を見て回ってみるか」「はぁい!」 二人で並んで歩き出す。 すぐに他プレイヤーの姿があった。 横切っていく通行人。その顔色は明らかに沈んでいた。 他にも座り込んでいる女性がいた。壁にもたれかかっている男。空を見上げている魔法使いふう。誰もが死んだ魚のような目をしている。 異変に気づいたウミが声をひそめてつぶやく。不安に揺れる瞳。首をかしげている。「何か、変じゃないですか?」「そうか? 普通だろ」「普通じゃないですぅ。みんな、元気が無いと思います」「多分、金が無いんだろうな」 道具屋の前を通りかかると、 男性プレイヤーとNPCの店員が押し問答をしている声があった。 男性客は掴みかかるような物腰であり。「この聖なる石ころは、さっきモンスターからドロップした物で!」「はい。売価は3ヴァルになります」「3ヴァルだとぉ? あと200ヴァルあれば宿代を払えるんです! どうか、200ヴァルで買ってください」「それはできません」「頼む。頼むってえ!」「できません」 無言でその隣を通過した。 ウミが彼の腕のそでを引く。「助けなくて良いんですか?」「助けても稼げん」「稼げないかもしれませんが、意義はありますよ?」「それをすると俺が詰む」 歩きながらトウマはステータスを開いた。 ログネストの利用料金も表示されている。「24時間の利用料金、20000ヴァルか」「何ですかそれ。高すぎですぅ」「いや、妥当な金額だろうな。だけど、俺たちのヴァルは合わせてまだ600ほどしか無い」「私のお金を含めるんですか?」「そりゃあそうだろ。お前は俺の使い魔なんだから」「ダメですぅ。私のお金は私のです!」「マジか」「大マジです!」 それからも歩き続ける。 ふと女性プレイヤーが近づいて来て、こちらに媚びた笑顔を浮かべた。「お兄さん、私を、買ってくれませんか? 一回一万五千ヴァルでいいですよ」「用事はない」 無視してさっさと通り過ぎた。 ウミが顔をひどくしかめている。ほっぺたを膨
last updateLast Updated : 2026-04-10
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第5話 梅おにぎり

 村の広場の木製のベンチに並んで腰掛けていた。 ゲーム内は昼間であり太陽が出ている。近くにある桜の木が花々を満開に咲き誇らせていた。そよ風が吹いて、花びらがチラチラと地面を舞う。木枝が揺れる音がした。 大きめの梅おにぎりを、ウミが両手で持ってむしゃむしゃと食べている。モフモフと尻尾を振っており、ご機嫌のようだ。満面の笑みを浮かべている。「美味しいですぅ、美味しいですぅ」「そりゃあ良かった」「ご主人様、ありがとうございます」「味わって食えよ」 梅おにぎり、200ヴァル。 道具屋で買ってきたものだった。手痛い出費である。 トウマは広場の光景を眺めた。中心には噴水がある。女神像が肩にかつぐ壺から水が流れていた。水しぶきに虹がかかっている。 無駄に綺麗だな。 ……この世界、見た目だけは優しい。「トウマ」「何だ?」「綺麗ですね」「噴水のことか?」「はぁい」「そうだな」 辺りにはプレイヤーがちらほらといて、お互いの同伴者と会話をしていた。その顔色はどんよりとしたものであり。「……食べ物を寄越せよ」 どこかで、かすれた声がした。 トウマはドキッとして、両腕を胸に組んで警戒を強める。遠くにいる男の視線が――ウミのおにぎりに張り付いている。 金に困っているのは想像がつく。 だけど、このゲームはそんなに難易度が高いのか? トウマは気づいた。人々は武器を持っているのだが、防具は装着していない。 疑問に思い、ステータス画面を出してチェックをした。 そこで理解する。 このゲームには防具が無い。 代わりに服が、防具としての機能を果たしている。 服の魅力が高いほど防御力も高いようだ。 ふと知らない女性が歩いてきて彼に声をかけた。「こんにちは!」「ん? ああ、こんにちは」 顔を上げる。 その女は他のプレイヤーとは違って、質の良い青いケープを羽織っている。初心者では無さそうだ。「君君、もしかして初心者さん? もうギルドには入っているの?」「いや、まだだが」「そうなんだ。良かったらうちのギルドに入らない? 初心者さんなら、私たちはクエスト情報を提供できるから、良い話だと思うけど?」 女の視線はトウマではなく、ウミを値踏みしているようにも見えた。 トウマは左手をあごに当てる。 ここは慎重に選ぶべきだろう。 彼は左手を掲げ
last updateLast Updated : 2026-04-11
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第6話 助けたのに

 村の北出口から外へと出る。 草原地帯があった。ところどころには岩がある。そこにいる魔物はフェアウルフの一種類。灰色の毛並みをした狼であり鋭い牙を誇っている。大型犬ほどのサイズだ。 狩りをしているプレイヤー数は多く、必死の形相でモンスターと戦っていた。「俺の、俺の宿代をー!」「私はまだ朝食も食べていないんだからね!」「や、やべえやべえ、こいつら強えぞ!」 トウマは顔をしかめた。このゲームのプレイヤーはみんな無職なのだろうか? 分からない。(そう言えば、俺も朝食を食っていない) ドンと音がして、頭上に文字が表示された。 ――クエスト、フェアウルフの撃破。 隣にいる猫耳娘がこちらに顔を向ける。その表情はわなわなと震えていた。心配した様子である。「トウマ、みんなが困っています。助けに行かないと!」「無駄だ。それよりもフェアウルフを狩るぞ」「ダメですぅ。情けは人のためならず、ですよ!」「馬鹿お前、行くな!」 トウマの伸ばした手は空を切った。 他プレイヤーの助太刀にウミが参上する。その頭に赤い剣のマークが灯った、フレイムウェポンを唱えたのだろう。続けて彼女がつぶやいた。右手をピースにして目元に掲げる。「スマイルチャージ」 その場にいる全員の顔に笑みが刻まれた。特にバフ効果は無いようである。 ……何だ今のスキルは? 空中にコメントが流れる。:ウミちゃん行ったー。:おせっかいである可能性を物ともしない行動にしびれるぅ。:このクエスト久しぶりに見た。:クエストは貴重だから、ここは評価Sで頼む。 いつの間にか視聴者数が増えているようだった。暇人である。 本当は独自でフェアウルフを狩りたいところだった。ただウミを放っておくわけにはいかない。トウマはそのちびっ子の背中を追った。 ウミのそばでは男性プレイヤーが尻餅をついている。フェアウルフの攻撃を受けすぎたせいで瀕死だった。「ひ、ひいぃぃ」「こんにちは! 貴方、下がってください!」 猫耳娘が両手に剣を構えてプレイヤーの前に立つ。守るように立ちはだかった。 二頭の狼が凶暴に吠える。「「がるぅぅ!」」「私にかかってきなさい!」 茶色い尻尾をモフモフと振ってウミが剣を振り下ろす。 刃がフェアウルフの顔面を斬り裂いた。HPバーがちょこんと減少する。 しかしもう一方のモンス
last updateLast Updated : 2026-04-12
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第7話 効率も意義も通じない

 草原の中心に、黒い渦を巻いて漆黒のウルフが出現する。残忍な顔つき、巨大な白い牙、その圧倒敵な存在感に、トウマの背筋から冷や汗が伝った。黒い狼が高々と吠える。 「ガアルルルゥゥッ!」  ドンと音がして空中に文字が表示された。 クエスト、テラーウルフの撃破。 「ボスだ、逃げろ!」「俺は死ぬ訳に行かないのにー!」「私はせっかくレベル3に上がったんだからね!」  使い魔がすぐに反応した。  その表情は恐怖に彩られており、モフモフとした尻尾がピンと立っている。勢いよくこちらを振り向いた。 「ご主人様、どうすれば!?」「ウミ、動くな」  状況を冷静に分析する。二人はレベル1である。  戦っても勝てない。他人を助けるなんてもってのほかだ。  死ねばデスペナルティ。  トウマの下した決断は、 「逃げるしかない」「でも、みんなが困っています!」「他人よりも自分の命が優先だ!」「見捨てられません!」「落ち着けウミ」「これが落ち着いていられますか!」  逃げ惑うプレイヤーたち。  その中には勇敢に立ち向かっている姿もある。  しかしテラーウルフの噛みつき攻撃に遭い、  それらのHPバーはどんどんと削れている。  やがて、プレイヤーの一人が地面に崩れた。  うっすらと透明になって消失する。 「私、行きますっ!」「馬鹿!」  ウミが飛び出した。両手に剣を構えて漆黒のウルフに突撃していく。 :ウミちゃんやばいって!:戦う前にヴァルでレベルを上げた方が良いよ!  トウマは猫耳娘の背中を追いかける。  しかし立ちすくんだ。巨大なモンスターに近づきたくても近づけない。 「行っくぞおぉぉお!」  ウミが魔物の横っ腹を剣で斬りつける。  彼女の攻撃力はバフ効果により上昇している。  すぐにボスのターゲットが移った。 「がるるぅあああっ!」  テラーウルフが使い魔に噛みつく。その一撃でHPの三分の一が減った。 「キャアッ!」  それでも彼女は負けん気である。狼の牙を振り払い、攻撃を再開する。 「ぐっ、このおぉぉおおお!」 :おい主人、ウミちゃんを早く助けろ!:使い魔を見捨てるとか草。:どうする? どうする?:ウミちゃんここでスマイルチャージだ。  トウマは苦々しく吐息をついた。  周囲を見渡す。少し離れたと
last updateLast Updated : 2026-04-13
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第8話 優しさなんて、関係ない

 森の道へと入った。 木の葉からこぼれる太陽の日ざし。茶色い羽をした小鳥が木枝から飛び立った。落ち葉の多い地面。空気は澄んでおり、森林浴にはもってこいだ。 森の奥へと使い魔はどこまでも逃げて行く。その背中をテラーウルフが追いかける。そのまた後ろをトウマが追跡するという構図だ。  可愛いは正義勢:ウミちゃん逃げて! 古参ニキ:死んだと思ったらまだ生きてる。 開けた大地にたどり着くとトウマは唱えた。安っぽい木の杖を構える。「グラヴィティライン」 彼の杖から青黒いロープが伸びた。テラーウルフの足に巻き付いて拘束する。「がうばうっ!」 走っていたボスモンスターは前のめりにつまずいた。 さて、拘束は何秒持つだろうか?「ご主人様!」 ウミが戻って来て剣を構えた。漆黒の魔物を斬りつけようとする。 そこでトウマが声を上げた。「ウミ、ちょっと待て」「どうしてですか?」「ぐあるるるぅ!」 狼がロープから抜けだそうとしてもがいている。青黒いロープが引き裂かれるのは時間の問題と思えた。 スキルの再使用にはクールタイムがある。 トウマは左手を顔に当てる。一縷の望みをかけて唱えた。「フィールドハック」 視界が赤に染まる。 サイは投げられた。 Cut down the nearby trees. Fall toward the enemy. Is this fine?「Sure!」 猫耳娘は焦っているようで眉をひそめる。「トウマ、私はどうすれば良いんですか?」「ウミ、そこにある木の根元を切れ」 トウマが左手で指し示す。 一本の杉の木がゆらゆらと揺れていた。今にも折れそうである。フィールドハックの影響で倒れやすくなっているようだ。使い魔は怪訝な表情で近づく。「この木を切るんですか? 幹が太いですぅ」「いいから切れ」 トウマは言葉を短く切る。 ぶつりと音がして、漆黒のウルフが青黒いロープをついに引きちぎった。自由になり、体を反転させてこちらに顔を向ける。「ガアルルウゥゥウ!」「ご主人様、敵が!」「ウミ、早くしろ!」「わ、分かりましたけどっ」 ちびっ子が木のそばに寄る。その根元を剣で叩き始めた。その間にもボスモンスターがトウマに突進する。 彼はバックステップを踏んで避けようとした。しかし敵の突進の勢いは止
last updateLast Updated : 2026-04-14
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第9話 情報は金で買う

 あれから、草原をいくら歩き回ってもクエストは発生しなかった。 フェアウルフを何頭も倒した。だが金は落ちない。石ころだけは落とす。売っても3ヴァルだ。金を落とさなければレベルもスキルもアップできない。つまり時間の無駄だ。 いま、情報を求めて村の道具屋に来ていた。持っている金は300ヴァルほど。8個集めていた石ころは全て売っぱらった。  ポーション 50ヴァル。 解毒剤   300ヴァル。 梅おにぎり 200ヴァル。 帰還石   3000ヴァル。(最寄りの村や町へワープできる。使用制限あり、一日一度まで) 下位ラピス 1000ヴァル。 そしてこれはアイテムでは無いが、 ――クエストの発生情報。 道具屋のカウンターにもたれかかり、品物の整理をしていたネズミの亜人女性に話しかける。「あの、すいません」「はい。プレイヤー様、何をお買い求めですか?」 店員が手を止めてこちらに向き直った。「あの、金を稼ぎたいんだが、どこへ行けばクエストが発生するのかを教えて欲しい」「情報ですねぇ……命よりも高いことがありますぜ、お客さぁん」 ネズミの女性が声をひそめる。「一つにつき、250ヴァルですぜ」「高い。下げてくれ」 トウマも声のトーンを落とした。「駄目です。値切るようなら、値上げしますぜ」「……分かった、ポーションを一個買ってやる。教えろ」「先払いです。ポーション込みで300ヴァルをいただきやす」 ほぼ全財産だった。 心の中でひいひいと喘ぎながらステータス画面を彼は出した。アイテム欄から300ヴァルを取り出す。金の入った革袋を差し出した。「姉さん、教えてくれ。それとポーションを一つくれ」「はい、毎度どうも」 棚からポーションの小瓶を一つ取り、お姉さんがカウンターに置いた。真っ赤な液体の小瓶だった。まるで血の色である。「それではとびきりの奴をお教えしましょう」 亜人女性がほくそ笑む。小声で言葉を紡いだ。「お兄さん、実は、最近この辺でPKがあったらしいですよ。殺された者が激ヤバなレアアイテムを落としたらしいです。だけど、レアアイテムが拾われたような噂はありません」「ほ、ほお」「誰が拾ったと思います? 答えは、殺した人ではありません。ということは? この村にいる誰かです。NPC、いや、これは私の推測なんですがねえ。大人なら、
last updateLast Updated : 2026-04-15
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第10話 自分の手で届けたい

 道具屋からほど近い民家を訪ねていた。 その村人にダニスン家の所在を聞いて、村の西側へと移動する。情報通りなら、ここで当たりが引けるはずだ。木造りの家の中に入ると、母親らしき人物がコトコトとスープを煮ているところだった。「ごめんください」「はい。どうしました?」「あの、お宅のドーラ君に用事があるのですが」「ああ、息子なら、いま外に出ていますよ」「どこにいますか?」「最近、あの子は村の外に出るようになってねえ。モンスターが出るって言うのに、困ったもんさ」「村の外にいますか?」「ええ。危険なところには行かないように言い聞かせていますけど」「分かりました。ありがとうございます」「あの、うちの子に何かご用事が?」「いえ、大したことでは無いんで」 トウマは振り返った。ウミが小首をかしげている。猫耳の上に疑問符を浮かべていた。はっきりとした二重をパチクリとさせる。「行くぞ、ウミ」「ドーラ君を探しに行くのです?」「ああ」「それはどうしてでしょう?」「良いから着いて来い」 ダニスン家を二人で出た。西側の出口から外へと行く。村の外周を回って歩いた。 ドーラは子供である。モンスターと遭遇する場所にはいないだろう。 ……村の近辺にいるはずだ。 ふと、五列に並んだお花畑が見えてきた。季節の白と紫の花が咲き誇っている。そこに小さな少年がうずくまっていた。頭上のHPバーに目を向ける。 少年、ドーラ。 ドンと音がした。 ――突発クエスト、セティアの花を採ってくる。 トウマが少年に近づく前に、使い魔が小走りで駆けて行った。両手を太ももに当てて膝をかがめる。「君、しゃがみ込んでどうしたの?」「この畑には、セティアの花が咲いて無いんだ」 ドーラの力の無い声が響く。「ふーん。そっか、セティアの花が欲しいの?」「うん。妹が、絵本で見たって言うんだ。セティアの花言葉は、健康だからさ。だけど、ここには、その花が咲いて無いんだ」「妹さんはどこにいるの?」「村の病院だよ。入院してる」「ごめんね。立ち入ったことを聞いちゃって」「いいよ」「ねえ、君はその花を妹さんにプレゼントしたいの?」「そうだよ。だけど、やっぱり森の泉にしか咲いて無いんだ」「森の泉にならあるの?」「うん。お医者さんが教えてくれたんだ。だけど、絶対に一人で行っちゃダメって
last updateLast Updated : 2026-04-16
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