All Chapters of RMTサバイバー~今日の宿代を稼ぐ俺と、人助けで戦う使い魔~: Chapter 1 - Chapter 10

74 Chapters

第1話 詰み

 それは、どこにでもある小さな“シアワセ”だった。 朝。寝息を立てているユウマの肩に、妻が優しく手を置く。 「ユウマ、起きて起きて」「むにゃむにゃ、もっと寝てたい」「駄目。会社に行く時間よ」「ぐぐー、ん、朝?」  瞳を開く。目の前には妻の優しい笑顔があった。ユウマはダブルベッドから上半身を起こし、右手を口元に掲げて大あくびをする。 「ふわあ」「あら、大きなあくびですこと」「朝食は?」「出来ています。着替えて、ダイニングへ来てくださいな」「ああ、分かった」  クスッと笑って妻が部屋を出て行く。スリッパの足音が遠ざかって行った。 ユウマはベッドから出て支度をする。ワイシャツにスーツのズボンを履いた。ネクタイと上着を持ってダイニングへと歩く。テーブルの席にはすでにユウマの娘、ウミが座っていた。小学生になったばかりのお転婆少女である。ユウマを指さしてウミが指摘した。 「お父さん! お髭生えてるー」「今から剃るんだ」「早く剃ってきて」「分かったよ」  背広の上着とネクタイを椅子の背もたれにかけて、ユウマはユニットへ入る。シェイビングクリームをつけて髭を剃る。二十代の若い顔立ちが鏡に映った。 蛇口をひねって水を出し、顔を洗う。冷たい感触が肌に心地よい。 それからテーブルに戻り、椅子に座って朝食となった。妻が料理を並べてくれる。 「いっただっきまーす」  ウミの賑やかな声である。 「いただきます」「はいどうぞ」  三人で両手を合わせた。 穏やかな朝だった。 日だまりのような光景。 けれど、違和感を覚える。(昨日……何をしていた?) ウミがウインナーをパリパリとかじる。それからお味噌汁をすすってご飯を口に運んだ。 隣では妻が穏やかな瞳をたたえており、ハシで目玉焼きを割る。 「ウミ、ゆっくり食べなさいね」「ママはーい」  ユウマも味噌汁をすすった。 部屋の掛け時計を見る。ユウマは焦って声を上げた。 「もうこんな時間だ!」  仕事に行かなければいけない。急いで食べ出す。 「そんなに急いで食べたら、喉につっかえますよ」  妻が諭すようにつぶやく。 手早く朝食を終えた。妻が用意してくれていた黒いカバンと上着を持って席を立つ。 「それじゃあ行ってくるよ」「貴方、ネクタイがまだです」  妻が立ち上がり、その青
last updateLast Updated : 2026-04-10
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第2話 ログネスト

 ログネストの玄関は広い空間になっている。背の高い天井。タイル敷きの綺麗な床。 しかし、空気は息苦しいほど重かった。 今も、通路からドリンクを汲みに来た利用客がある。ちらりと振り返ると、寝ていないような疲れた顔をしていた。 ふと隣には男性店員に連れられた太り気味の客がやってきた。太り気味の客は男性店員に頭を下げて大声を出す。 「待ってください! あと五時間、五時間プレイできれば、ヴァルを払えそうなんです!」「お客様、すでに退室の時間でございます」 (……ヴァル?) 背中に鳥肌が立つのを感じながらユウマはカウンターに向き直る。 茶色い受付台を挟んで、ユウマの前には女性店員が立っていた。彼女は笑顔で語り出す。 「お客様、ゲームVALORIUMは初めてですか?」「ゲーム?」「はい。ログネストではゲーム内通貨、ヴァルでのお支払いもできます」「あ、はあ」「始める時は会員カードを機器に差し込んでからプレイをしてください。それと」  女性店員がまた微笑む。棚の下から折りたたまれた小さな紙を取り出した。それをカウンターの上へと静かに置く。 「今、キャンペーンをやっております。こちらの特別コードをゲーム開始時に設定すれば、良いことがございますよ」「良いこと?」  ユウマはその紙を受け取る。開くと英文字が記載されていた。 「はい。是非是非、設定してプレイしてみてくださいね」「あ、はい」  両手を腹に組んで頭を下げる女性店員。 コーヒーのコップと紙を持って、ユウマは受け付けを離れようとした。 隣では太り気味の客が男性店員にいまだに泣きついている。 「待ってください! お願いです! 俺はやっと20レベルに上がったんです」「お客様、退室をお願いいたします。それ以上揉めるなら、警察を呼びますよ」  ユウマはいぶかしげな視線で眺めた。(可哀想だけれど、金が無ければルームを利用できないよな)  太り気味の客は店からしぶしぶ出て行った。 気の毒に思いつつユウマは自分のルームへと帰る。 黒いマットの部屋にはVR機器が備わっている。デスクトップの横にはデカデカとした説明書があった。コーヒーを口に含みつつ、試しに読んでみる。 モンスターは金を落とさない。 ――代わりに、評価で金が出る。 ゲーム内通貨ヴァルは、1ヴァルにつき0.2円の価値のよう
last updateLast Updated : 2026-04-10
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第3話 排除

ロッジのような一室。木造りの天井と丸太で出来た壁。そこのベッドにユウマは腰掛けていた。 ここがゲームの中らしい。 顔の前にはステータス画面のような半透明の青いボードが浮かんでいる。 システム音声が響いた。 「プレイヤー様。VALORIUMオンラインの世界へようこそ!」 「あ、はい」 「まず、プレイヤー名を決めてください」 「トウマで頼む」 彼の本名は冬野悠馬である。 「トウマ、その名前は使用できます」 「良かった」 「次にゲーム内職業を選んでください」 画面には様々な種類のジョブが並んだ。 そして右上には特別コード入力の文字。そこをタップして、暗記していた英文字を打ち込んだ。 果たしてどんなギフトがもらえるんだろうか? チートスキルの予感に胸が高鳴る。 画面に現われたのは、とんがり帽子にローブの男。 システム音声が告げる。 「おめでとうございます。貴方の職業はコントロールメイジです」 「え?」 トウマの両手に安っぽい木の杖が現われる。 勝手にジョブが決まってしまっていた。これが特別コードのプレゼントという事なのだろう。コントロールメイジは強いのだろうか? 「次に、ビジュアルを作成してください」 操作をして、トウマは格好良いアバターを自分なりに作って行く。 青の短髪、目も青色。身長は高め。体格は細マッチョ。爽やかふうにアレンジをした。 これで良し。 「……普通のVRだな」 トウマが着ている服は白のシャツにデニムの膝丈までの半ズボン。ちょっとダサい初期装備である。だが文句を言っても仕方無いだろう。 トウマは立ち上がった。 思わず気分が高揚する。 題して自分探しの旅。 違う。 とりあえずヴァルを稼いでみたい。 「次に、使い魔を授けます」 ふと、周囲に声が起こった。 「貴方の助けになりたいから。 ――人助けに何か理由が要りますか?」 光が弾けた。 空間が揺らいで、茶髪ロングの女の子が現われる。 茶色い猫耳にふさふさとした尻尾。右手には剣。左手は腰に当てている。身長は140cm程度と言ったところか。ピンクの服を着ていた。 ――使い魔、猫の亜人。 そいつが喋った。 「貴方がご主人様ですか?」 「あ、ああ。そうみたいだ」 「お名前は?」 「トウマだ」 「はい、トウマ。では
last updateLast Updated : 2026-04-10
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第4話 ヴァルの村

 ゴーレムを倒し終えると、ノーファンの村へと二人は転移した。 辺りには木造りの民家が立ち並んでいる。遠くを見ると森や山があった。地面は土。その道路で、トウマとウミは隣り合って佇んでいた。 「普通の村だな」「そのようですね」「とりあえず、狩り場に行くついでに、村を見て回ってみるか」「はぁい!」  二人で並んで歩き出す。 すぐに他プレイヤーの姿があった。 横切っていく通行人。その顔色は明らかに沈んでいた。他にも座り込んでいる女性がいた。壁にもたれかかっている男。空を見上げている魔法使いふう。誰もが死んだ魚のような目をしている。 異変に気づいたウミが声をひそめてつぶやく。不安に揺れる瞳。首をかしげている。 「何か、変じゃないですか?」「そうか? 普通だろ」「普通じゃないですぅ。みんな、元気が無いと思います」「多分、金が無いんだろうな」  道具屋の前を通りかかると、男性プレイヤーとNPCの店員が押し問答をしている声があった。男性プレイヤーは掴みかかるような物腰であり。 「この聖なる石ころは、さっきモンスターからドロップした物で!」「はい。売価は3ヴァルになります」「3ヴァルだとぉ? あと200ヴァルあれば宿代を払えるんです! どうか、200ヴァルで買ってください」「それはできません」「頼む。頼むってえ!」「できません」  トウマたちは無言でその隣を通過した。 ウミが彼の腕のそでを引く。 「助けなくて良いんですか?」「助けても稼げん」「稼げないかもしれませんが、意義はありますよ?」「それをすると俺が詰む」  歩きながらトウマはステータス画面を開いた。 そこにはログネストの利用料金も表示されている。 「24時間の利用料金、20000ヴァルか」「何ですかそれ。高すぎですぅ」「いや、妥当な金額だろうな。だけど、俺たちのヴァルは合わせてまだ600ほどしか無い」「私のお金を含めるんですか?」「そりゃあそうだろ。お前は俺の使い魔なんだから」「ダメですぅ。私のお金は私のです!」「マジか」「大マジです!」  ステータス画面を閉じた。それからも歩き続ける。 ふと知らない女性プレイヤーが近づいて来て、トウマに媚びた笑顔を浮かべた。 「お兄さん、私を、買ってくれませんか? 一回一万五千ヴァルでいいですよ」「用事はない」
last updateLast Updated : 2026-04-10
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第5話 梅おにぎり

 村の広場。 トウマたちは木製のベンチに並んで腰掛けていた。 ゲーム内は昼間であり太陽が出ている。近くにある桜の木が花々を満開に咲き誇らせていた。そよ風が吹いて、花びらがチラチラと地面を舞う。木枝が揺れる音がした。 大きめの梅おにぎりを、ウミが両手で持ってむしゃむしゃと食べている。モフモフと尻尾を振っており、ご機嫌のようだ。満面の笑みを浮かべている。 「美味しいですぅ、美味しいですぅ」「そりゃあ良かった」「ご主人様、ありがとうございます」「味わって食えよ」  梅おにぎり、200ヴァル。 道具屋で買ってきたものだった。手痛い出費である。 トウマは広場の光景を眺めた。中心には噴水がある。女神像が肩にかつぐ壺から水が流れていた。水しぶきに虹がかかっている。 無駄に綺麗だな。 ……この世界、見た目だけは優しい。 「トウマ」「何だ?」「綺麗ですね」「噴水のことか?」「はぁい」「そうだな」  辺りには他プレイヤーたちがちらほらといて、お互いの同伴者と会話をしていた。それらの顔色はどんよりとしたものである。 「……食べ物を寄越せよ」  どこかで、かすれた声がした。 ドキッとして、トウマは両腕を胸に組んで警戒する。遠くにいる男の視線が――ウミのおにぎりに張り付いている。 ヴァルに困っているのは想像がつく。 だけど、このゲームはそんなに難易度が高いのか? トウマは気づいた。人々は武器を持っているのだが、防具は装着していない。 疑問に思い、ステータス画面を出してチェックをした。 そこで理解する。 このゲームには防具が無い。 代わりに服が、防具としての機能を果たしている。 服の魅力が高いほど防御力も高いようだ。 ふと知らない女性プレイヤーが歩いてきてトウマに声をかけた。 「こんにちは!」「ん? ああ、こんにちは」  ステータス画面からトウマは顔を上げる。 その女性プレイヤーは質の良い青いケープを羽織っている。初心者では無さそうだ。 「君君、もしかして初心者さん? もうギルドには入っているの?」「いや、まだだが」「そうなんだ。良かったらうちのギルドに入らない? 初心者さんなら、私たちはクエスト情報を提供できるから、良い話だと思うけど?」  女性プレイヤーの視線はトウマではなく、ウミを値踏みしているようにも見えた。
last updateLast Updated : 2026-04-11
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第6話 助けたのに

 村の北出口から外へと出る。 草原地帯があった。ところどころには岩がある。そこにいる魔物はフェアウルフの一種類。灰色の毛並みをした狼であり鋭い牙を誇っている。大型犬ほどのサイズだ。 狩りをしているプレイヤー数は多く、必死の形相でモンスターと戦っていた。 「俺の、俺の宿代をー!」「私はまだ朝食も食べていないんだからね!」「や、やべえやべえ、こいつら強えぞ!」  トウマは顔をしかめた。このゲームのプレイヤーはみんな無職なのだろうか? 分からない。(そう言えば、俺も朝食を食っていない) ドンと音がして、頭上に文字が表示された。  ――クエスト、フェアウルフの撃破  隣にいるウミがこちらに顔を向ける。その表情はわなわなと震えていた。心配した様子である。 「トウマ、みんなが困っています。助けに行かないと!」「無駄だ。それよりもフェアウルフを狩るぞ」「ダメですぅ。情けは人のためならず、ですよ!」「馬鹿お前、行くな!」  トウマの伸ばした手は空を切った。 少し離れたところにHPが尽きそうな男性プレイヤーがいた。その助太刀にウミが参上する。猫耳の上に赤い剣のマークが灯った、フレイムウェポンを唱えたのだろう。 続けてウミが声を張った。右手をピースにして目元に掲げる。 「スマイルチャージ」  その場にいる全員の顔に笑みが刻まれる。特にバフ効果は無いようだ。 ……何だ今のスキルは? 空中にコメントが流れる。 :ウミちゃん行ったー。:おせっかいである可能性を物ともしない行動にしびれるぅ。:このクエスト久しぶりに見た。:クエストは貴重だから、ここは評価Sで頼む。  いつの間にか視聴者数が増えているようだった。暇人である。 本当は独自でフェアウルフを狩りたいところだった。ただウミを放っておくわけにはいかない。トウマは彼女の背中を追った。 ウミのそばでは男性プレイヤーが尻餅をついている。フェアウルフの攻撃を受けすぎたせいで瀕死だった。 「ひ、ひいぃぃ」「こんにちは! 貴方、下がってください!」  ウミが両手に剣を構えて男性プレイヤーの前に立つ。守るように立ちはだかった。 二頭のフェアウルフが凶暴に吠える。 「「がるぅぅ!」」「私にかかってきなさい!」  茶色い尻尾をモフモフと振ってウミが剣を振り下ろす。切っ先がフェアウルフの
last updateLast Updated : 2026-04-12
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第7話 効率も意義も通じない

 草原の中心に、黒い渦を巻いてテラーウルフが出現する。残忍な顔つき、漆黒の体毛、巨大な白い牙。その圧倒的な存在感に、トウマの背筋から冷や汗が伝った。 テラーウルフが高々と吠える。 「ガアルルルゥゥッ!」  ドンと音がして空中に文字が表示された。 ――クエスト、テラーウルフの撃破 「ボスだ、逃げろ!」「俺は死ぬ訳に行かないんだー!」「私はせっかくレベル3に上がったんだからね!」  ウミがすぐに反応した。その表情は恐怖に彩られており、モフモフとした尻尾がピンと立っている。勢いよくこちらを振り向いた。 「ご主人様、どうすれば!?」「ウミ、動くな」  トウマは状況を冷静に分析する。二人はまだレベル1である。 戦っても勝てない。他人を助けるなんてもってのほかだ。 死ねばデスペナルティ。 トウマの下した決断は、 「逃げるしかない」「でも、みんなが困っています!」「他人よりも自分の命が優先だ!」「見捨てられません!」「落ち着けウミ」「これが落ち着いていられますか!」  逃げ惑うプレイヤーたち。 その中には勇敢に立ち向かっているプレイヤーたちもいる。しかしテラーウルフの噛みつき攻撃に遭い、プレイヤーたちのHPバーはどんどんと削れている。やがて一人が地面に崩れた。うっすらと透明になって消失する。 「私、行きますっ!」「馬鹿!」  ウミが飛び出した。両手に剣を構えてテラーウルフに突撃していく。 :ウミちゃんやばいって!:戦う前にヴァルでレベルを上げた方が良いよ!  トウマはウミの背中を追いかける。しかし立ちすくんだ。凶暴なテラーウルフに近づきたくても近づけない。 「行っくぞおぉぉお!」  ウミが敵の横っ腹を剣で斬りつける。彼女の攻撃力はバフ効果により上昇している。すぐにボスのターゲットが移った。 「がるるぅあああっ!」  テラーウルフがウミに噛みつく。その一撃でHPの三分の一が減った。 「キャアッ!」  それでもウミは負けん気である。テラーウルフの牙を振り払い、攻撃を再開する。 「ぐっ、このおぉぉおおお!」 :おい主人、ウミちゃんを早く助けろ!:使い魔を見捨てるとか草。:どうする? どうする?:ウミちゃんここでスマイルチャージだ。  トウマは苦々しく吐息をついた。 周囲を見渡す。少し離れたところには森があ
last updateLast Updated : 2026-04-13
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第8話 優しさなんて、関係ない

森の道へと入った。 木の葉からこぼれる太陽の日ざし。茶色い小鳥が木枝から飛び立った。落ち葉の多い地面。空気は澄んでおり、森林浴にはもってこいだ。 森の奥へとウミはどこまでも逃げて行く。その背中をテラーウルフが追いかける。そのまた後ろをトウマが追跡するという構図だ。 可愛いは正義勢:ウミちゃん逃げて! 古参ニキ:死んだと思ったらまだ生きてる。 開けた大地にたどり着くとトウマは唱えた。安っぽい木の杖を構える。 「グラヴィティライン」 トウマの杖から青黒いロープが伸びた。テラーウルフの足に巻き付いて拘束する。 「がうばうっ!」 走っていたテラーウルフは前のめりにつまずいた。 さて、拘束は何秒持つだろうか? 「ご主人様!」 ウミが戻って来て剣を構えた。敵を斬りつけようとする。 そこでトウマが声を上げた。 「ウミ、ちょっと待て」 「どうしてですか?」 「ぐあるるるぅ!」 テラーウルフがロープから抜けだそうとしてもがいている。青黒いロープが引きちぎられるのは時間の問題と思えた。 グラヴィティラインは連射できない。スキルの再使用にはクールタイムがある。 トウマは左手を顔に当てる。一縷の望みをかけて唱えた。 「フィールドハック」 視界が赤に染まる。 サイは投げられた。 Cut down the nearby trees. Fall toward the enemy. Is this fine? 「Sure!」 ウミは焦っているようで眉をひそめる。 「トウマ、私はどうすれば良いんですか?」 「ウミ、そこにある木の根元を切れ」 トウマが左手で指し示す。 杉の木の一本がゆらゆらと揺れていた。今にも折れそうである。フィールドハックの影響で倒れやすくなっているようだ。ウミは怪訝な表情で近づく。 「この木を切るんですか? 幹が太いですぅ」 「いいから切れ」 トウマは言葉を短く切る。 ぶつりと音がして、テラーウルフが青黒いロープをついに引きちぎった。自由になり、体を反転させてこちらに顔を向ける。 「ガアルルウゥゥウ!」 「ご主人様、敵が!」 「ウミ、早くしろ!」 「わ、分かりましたけどっ」 ウミが木のそばに寄る。その根元を剣で叩き始めた。その間にもボ
last updateLast Updated : 2026-04-14
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第9話 情報は金で買う

 あれから、草原をいくら歩き回ってもクエストは発生しなかった。 フェアウルフを何頭も倒した。だが金は落ちない。石ころだけは落とす。売っても3ヴァルだ。金を落とさなければレベルもスキルもアップできない。つまり時間の無駄だ。 いま、情報を求めて村の道具屋に来ていた。持っている金は300ヴァルほど。8個集めていた石ころは全て売っぱらった。  ポーション 50ヴァル。 解毒剤   300ヴァル。 梅おにぎり 200ヴァル。 帰還石   3000ヴァル(最寄りの村や町へワープできる。使用制限あり、一日一度まで)。 下位ラピス 1000ヴァル。 そしてこれはアイテムでは無いが、 ――クエストの発生情報。 トウマは道具屋のカウンターにもたれかかり、品物の整理をしていたネズミの亜人女性に話しかける。 「あの、すいません」「はい。プレイヤー様、何をお買い求めですか?」  ネズミの亜人女性が手を止めてこちらに向き直った。 「あの、金を稼ぎたいんだが、どこへ行けばクエストが発生するのかを教えて欲しい」「情報ですねぇ……命よりも高いことがありますぜ、お客さぁん」  ネズミの亜人女性が声をひそめる。 「一つにつき、250ヴァルですぜ」「高い。下げてくれ」  トウマも声のトーンを落とした。 「駄目です。値切るようなら、値上げしますぜ」「……分かった、ポーションを一個買ってやる。教えろ」「先払いです。ポーション込みで300ヴァルをいただきやす」  ほぼ全財産だった。 トウマは心の中でひいひいと喘ぎながらステータス画面を出した。アイテム欄から300ヴァルを取り出す。ヴァルの入った革袋を差し出した。 「姉さん、教えてくれ。それとポーションを一つくれ」「はい、毎度どうも」  棚からポーションの小瓶を一つ取り、ネズミの亜人女性がカウンターに置いた。真っ赤な液体の小瓶だった。まるで血の色である。 「それではとびきりの奴をお教えしましょう」  ネズミの亜人女性がほくそ笑む。小声で言葉を紡いだ。 「お兄さん、実は、最近この辺でPK(プレイヤーキル)があったらしいですよ。殺された者が激ヤバなレアアイテムを落としたらしいです。だけど、レアアイテムが拾われたような噂はありません」「ほ、ほお」「誰が拾ったと思います? 答えは、殺した人ではありません。とい
last updateLast Updated : 2026-04-15
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第10話 自分の手で届けたい

 道具屋からほど近い民家を訪ねていた。 その村人にダニスン家の所在を聞いて、村の西側へと移動する。情報通りなら、ここで当たりが引けるはずだ。 木造りの家の中に入ると、ダニスン家の主婦らしき人物がコトコトとスープを煮ているところだった。 「ごめんください」「はい。どうしました?」「あの、お宅のドーラ君に用事があるのですが」「ああ、息子なら、いま外に出ていますよ」「どこにいますか?」「最近、あの子は村の外に出るようになってねえ。モンスターが出るって言うのに、困ったもんさ」「村の外にいますか?」「ええ。危険なところには行かないように言い聞かせていますけど」「分かりました。ありがとうございます」「あの、うちの子に何かご用事が?」「いえ、大したことでは無いんで」  トウマは振り返った。 ウミが小首をかしげている。猫耳の上に疑問符を浮かべていた。はっきりとした二重をパチクリとさせる。 「行くぞ、ウミ」「ドーラ君を探しに行くのです?」「ああ」「それはどうしてでしょう?」「良いから着いて来い」  ダニスン家を二人で出た。西側の出口から外へと行く。村の外周を回って歩いた。 ドーラは子供である。モンスターと遭遇する場所にはいないだろう。 ……村の近辺にいるはずだ。 ふと、五列に並んだお花畑が見えてきた。季節の白と紫の花が咲き誇っている。そこに小さな少年、ドーラがうずくまっていた。 ドンと音がした。  ――突発クエスト、セティアの花を採ってくる  トウマがドーラに近づく前に、ウミが小走りで駆けて行った。両手を太ももに当てて膝をかがめる。 「君、しゃがみ込んでどうしたの?」「この畑には、セティアの花が咲いて無いんだ」  ドーラの力の無い声が響く。 「ふーん。そっか、セティアの花が欲しいの?」「うん。妹が、絵本で見たって言うんだ。セティアの花言葉は、健康だからさ。だけど、ここには、その花が咲いて無いんだ」「妹さんはどこにいるの?」「村の病院だよ。入院してる」「ごめんね。立ち入ったことを聞いちゃって」「いいよ」「ねえ、君はその花を妹さんにプレゼントしたいの?」「そうだよ。だけど、やっぱり森の泉にしか咲いて無いんだ」「森の泉にならあるの?」「うん。お医者さんが教えてくれたんだ。だけど、絶対に一人で行っちゃダメって。強
last updateLast Updated : 2026-04-16
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