All Chapters of RMTサバイバー~今日の宿代を稼ぐ俺と、人助けで戦う使い魔~: Chapter 41 - Chapter 50

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第41話 助けに来た

 漆黒の空にぽっかりと浮かぶ満月の下。 トウマとウミが森の暗闇を駆け抜ける。木々の合間を抜け、藪を飛び越え、岩を避けてはひた走る。 ベルフラウの姿はもう見えなかった。それでもウミは迷わず走って行く。「トウマ、こっちですぅ!」「分かった!」 ウミは鼻をくんくんとひくつかせており、匂いを嗅ぎ分けているようだった。ベルフラウの匂いが分かるらしい。まるで動物の嗅覚だ。そういえばこいつは猫の亜人である。 やがて、女同士の話し声が聞こえてきた。ベルフラウの声がしている。 トウマは足に力を込めて加速する。ウミを追い越して前に出た。すでに今日二杯目のカレーライスを食ってある。アジリティが上昇していた。フレイムウェポンもお互いにかかっている。 見えた! 敵の数は四人。そのうちの一人はモナだ。敵の奥にはベルフラウがいて、ダガーを構えている。今まさに戦闘の火ぶたが切って落とされようとしていた。 真帆! 何を考えているのかは知らんが、 いま助けるぞ。 ドンと音が鳴った。 ――対人戦クエスト、ベルフラウの救出 トウマはブラウンのステッキを構える。「グラヴィティライン!」 ステッキから青黒い三つのロープが伸びる。ロープの数がいつもより多い。そうか! 下位ラピスを装着したおかげでスキル効果が進化している。「ちっ!」 モナが慌てて飛び退いた。他にも男の一人が過敏に反応し、前へと走り出す。だけど残り二人は縄にかかった。青黒いロープが巻き付いて拘束する。 ベルフラウが瞳を輝かせて声を上げた。「トウマ!」「ベルフラウ、何か知らんが助けるから! 敵をやるぞ!」「師匠はやらせないですぅ!」 ウミが走って来た。青いショートソードを振り上げ、ロープで縛られた男の一人に袈裟懸けに斬りかかる。問答無用で連続攻撃を叩き込んだ。「ぬあっ、ぐああぁぁっ」 悲鳴を上げる男。だけど耐久力が高い。 ベルフラウは頬を染めてツンと澄ました。出した声はひっくり返っている。「さ、さすがはあたしのトウマよね。べ、別に一人でも大丈夫だったんだから。で、でも、後で撫で撫でしてあげるわ」「冗談を言う暇があったら敵を殲滅しろ」「ふっざけんなよ、お前たちねえ!」 モナが苛立ちをまき散らしつつ弓矢を構える。矢じりはウミを向いている。 トウマはすかさず唱えた。「リダイレクト」 モナ
last updateLast Updated : 2026-05-14
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第42話 嵐の前の静けさ

ログアウト後。 ユウマと真帆はログネストで合流し、少し会話をした。二人とも夕食がまだである。この建物からほど近い牛丼チェーン店へと一緒に行くことにした。ご飯を食べながら詳しい話をすることになる。 ユウマの現金はもう千円ほどしか残っていなかった。真帆に聞くと、ヴァルを円に換金することができるらしい。ただし2.5%の手数料がかかる。ユウマは受け付けで手続きをし、5125ヴァルを換金して千円を受け取った。 ログネストを出て、深夜の歩道を並んで歩く。真帆はふんふんと鼻歌を歌っており、ご機嫌のようだ。スキップのような足取りである。 牛丼のチェーン店に着くと、小綺麗なテーブルに対面で腰掛ける。電子パネルを操作して注文した。真帆がむふふんと笑ってつぶやく。 「つゆだくだくだくだくだく牛丼の大盛りがいいわ」 「そんなにつゆを入れて大丈夫か?」 「つゆは愛なのよ」 「意味が分からんが」 ユウマはキムチ牛丼の並を注文することにした。運ばれてきた麦茶を二人で飲み、ほっと吐息をつく。 ユウマが尋ねた。 「それで、一体どういうことなんだ? 真帆、説明をしてくれ」 「だから、つゆイコール愛情なのよ」 「違う。ヒイラギに着いて行った理由だ」 「あはは、分かってるわ。冗談よ。ちゃんと話すからちょっと待ってよ」 真帆は顔を落としてため息をつく。ゆっくりと面を上げた。静かに語り始める。 「つまりね……」 彼女が事情を述べる。曰く、ヒイラギが真帆に取引を持ちかけたらしい。それは、金を支払う代わりに邪蛇狩りに参加しろというものだった。そして、もしも彼女が邪蛇討伐の証を取ったら、ヒイラギに渡す。従わなければユウマとウミを付け狙うという脅しが含まれていた。 しかし真帆は、始めからヒイラギを裏切るつもりだったらしい。自分が邪蛇討伐の証を入手し、ノーファン村の領主になる。税金を集めてヴァルで自分を強化し、トウマとウミを守る。そういう計画だった。 トウマは腕組をして何度も頷き、やがて神妙な顔つきでつぶやく。 「真帆」 「ん?」 「一人で無茶をするのはもうやめてくれ」 「あはは、ごめんね。でも、朝はまだ話す訳にはいかなかったのよ。ヒイラギを上手く騙すためにね」 「……まあ、そういう事なら、仕方無い」 「うん! それより、邪蛇討伐の証を手に入
last updateLast Updated : 2026-05-14
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第43話 一人じゃ何もできない

 早朝の五時前。 スマホの静かなアラーム音でユウマは目を覚ます。たったの数時間とは言え、とても深く眠った気がした。黒いマットに手をついて立ち上がる。喉が渇いたな。コップを手に取り、コーヒーを汲みに行く。革靴を履いてルームを出た。 バリスタの前で真帆と鉢合わせた。 彼女が右手を掲げる。「おはよう、ユウマ。ちゃんと起きられたね」「ああ。丁度良かった。真帆、もうログインするか?」「ええ、同時に行きましょう」「分かった」 二人はドリンクを汲み、各々のブースへと戻る。その際、トイレに寄った。 ユウマはブラックコーヒーをごくごくと飲んだ。目が冴え渡るような苦さだ。コップを木製の台に置き、VR機器に会員カードを挿入する。(さて、上手く次の町へ進めれば良いが) デバイスゴーグルを顔にかけてマットに寝そべった。スタートボタンを押す。 視界がブルーに染まった。 ――しかし、 ログインした直後のことである。「ぐははっ、ユウマが来たぞ、やれ!」 洞窟内はランタンの灯りですでに照らされていた。目の前には野獣のような風貌の男、ヒイラギがいる。部下たちもいてトウマを囲んでいる。リスボーンして来たようだ。モナもいる。 どうしてかベルフラウは両手を腰の後ろに回されており、手錠をかけられていた。同時だと思ったのだが、一歩先にログインしていたらしい。「トウマ、ごめん! しくじった!」 ベルフラウがすまなさそうな声を響かせた。泣き出しそうな表情である。 トウマは目を白黒とさせる。 しまった! 待ち伏せされた。 だけど、ヒイラギはどうしてこの場所が分かったんだ? ログアウトの直前を見られていたのだろうか? そうとしか考えられない。 隣に出現したウミが顔をキョロキョロとさせる。「トウマ! これは一体!?」「はい! 使い魔確保!」 ヒイラギの部下の男がウミの背中に回る。あれよあれよと言う間に両手を拘束し、手錠をかけた。「ちょちょ、ちょっと! 何をするんですか!?」「子供はおとなしくしようねえ!」 部下の男が剣を抜き、ウミの首筋に切っ先をつきつける。 トウマは行動の判断がつかなかった。事態が急すぎて戸惑っている。ヒイラギを睨みつけるのが精一杯である。「黒谷ぃ!」「おはよう、ユウマ。良い朝だな! ぐはははっ、待ったぜえー! 良い夢見れたかあ?」
last updateLast Updated : 2026-05-15
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第44話 一縷の光

 洞窟の岩壁にうずくまっていた。 どれくらいの時間が経っただろうか? まだ五分かもしれなかったし、もう一時間が経過したかもしれなかった。トウマは打ちひしがれつつ、洞窟の出口から空を見上げる。 空には太陽が昇り、朝日が差し込んできていた。東雲という美しい言葉が思い出される。夜明けという意味だ。しかしトウマの今の心は真っ暗闇である。光景とは真逆の気分だった。 ……このゲーム世界、 現実以上に残酷かもしれない。 もう、何もかもやめにしようか。 ログネストを出てどこかへ行こう。(俺は何を考えてるんだ!) 助けなければいけない。 今頃、ベルフラウとウミはどうなっただろうか? ヒイラギはこれから村で宴会をすると語っていた。女性二人が男の欲望の餌食になっていなければ良いのだが……。 ベルフラウとウミが裸で泣き叫ぶような、 最悪な妄想が脳裏をよぎる。 「くそがっ!」  苛立ちをそのままに吐き散らした。 トウマは表情を歪めて立ち上がる。何としてでも助けなければいけない。だけど悲しいことに、彼は攻撃スキルを覚えていない。杖を振れば魔法弾が射出されるが、格上の相手には大ダメージを期待できないだろう。この制御の魔法使いは対人戦に向いていない気がした。おまけに今はたった一人だ。 ――ユウマ、お前は一人じゃ何もできない。 ヒイラギの言葉が脳内でリピートされる。 その通りだった。 何気なくステータス画面を開く。 ログアウトをして、このまま東京の片隅を歩いて朽ち果てようか。 ……ん?(――ログアウトだと?) そこではたと気づいた。そうだ! ウミは使い魔じゃないか。いつもログインすればトウマの隣に出現する。つまり、ログインをし直せばトウマの隣に現われるはずだ。どうして気がつかなかったんだ。(俺は馬鹿か?) こんなところにうずくまって、何をぼさっとしている。 トウマは急いでログアウトをタップした。ログネストのルームに一度戻る。すぐに会員カードを差し込み直してゲームスタートを押した。視界が青に染まり、また洞窟に戻ってくる。 良かった! 隣には、猫耳にモフモフとした尻尾を生やしたウミが――、 ……、(――いない) ……どうして? トウマの思考はまた悪夢に逆戻りだった。リログしてもウミがそばにワープしない。こ
last updateLast Updated : 2026-05-15
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第45話 弱いままで

 腹が減っては戦ができぬ。 トウマはいま、Aランクのカレーライスを食っていた。味わっている心の余裕など無い。無いはずなのに、その味が妙に舌に染み渡った。早食いをする。「こんなに美味かったか?」 食べ終えると食器が消えた。トウマは立ち上がる。ランタンとステッキを持って、洞窟の奥へと歩を進める。一人で侵入するのはちょっとした恐怖があった。ウミの存在が、今までどれほど彼を励ましてくれていたのかが分かる。 歩いて行くと、奥からカタカタという音がした。他にも気配がある。トウマは表情を硬くしてランタンを地面に置く。 やがて骨の人型モンスターが姿を現す。骨で出来た剣を持っていた。その後ろにはぼろ切れのようなローブをまとったオークがいる。杖を持っている。 スケルトンとオークメイジ。 トウマはすぐに唱えた。「グラヴィティライン」 ステッキから三つのロープが伸びて、二体のモンスターを拘束する。そのままステッキを振って魔法弾を飛ばした。スケルトンに命中し、痛そうな悲鳴をあげる。「ギャアッ、ギャアッ」 敵のHPバーは少しずつしか減らない。 くそっ、(俺はこんなに攻撃力が低いのか?) 制御の魔法使いである。火力の乏しさは仕方無いのかもしれなかった。 あきらめずに杖を振るう。魔法弾は次々に命中した。しかし、スケルトンがくたばる前に拘束ロープの方がちぎれた。オークメイジの方も同様である。「ちっ!」 トウマはバックステップを踏む。 スケルトンが一直線に走ってくる。その足がカタカタと乾いた音を立てた。トウマに骨の剣を振りかぶる。トウマはステッキを当てて防いだ。 衝突音が鳴る。 オークメイジが赤い波動に包まれた。スキルを唱える。「ファイアーボール!」 杖から豪火球が射出されて、トウマに命中する。体が燃え盛った。「あちちちっ!」 体がボウボウと燃える。やがて火は消えたが、HPの五分の一ほどが削れた。くそ、何てダメージだ。 スケルトンは骨の剣を振りかぶり続けている。 こうなったら近接線だ。トウマはスケルトンの剣を受け止めつつ、隙あらば蹴りを放つ。スケルトンは「ギャアッ」と悲鳴を上げるのだが、HPは全然減らない。 なるほどな、 近接攻撃も弱小のようだ。(俺はこんなに弱いのか?) ……ウミ。 何で今この場にいないんだ。 お前がいれば、こんなモン
last updateLast Updated : 2026-05-16
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第46話 活路は開けた

 トウマはボス部屋に来ていた。 岩壁に囲まれた楕円形の広い空間。天井がとても高い。漆黒の暗闇の中、トウマの持つランタンの灯りだけが薄く照らしていた。室内の中心に、白金に輝くローブを羽織った人型のモンスターが立ち上がる。デカい。鬼がいたらこんな大きさだろうか? ――クエスト、ヴァラクスの撃破 トウマはランタンを地面に置いた。両手に杖を構える。 ついにたどり着いた。 ボス、ヴァラクスの部屋。 こいつを倒せば、スキル覚醒のアイテムを入手できる。(やるっきゃない!) 敵がこちらに体を向けてゆっくりと歩いた。ひずんだ低い声で語りかける。「また人間が来たか。哀れな奴め、我の稲妻で焼き尽くしてくれようぞ」 自信に満ちたAIの声がやけに恐ろしく聞こえた。 先っぽが渦を巻いた木の杖を敵が振るう。黄色い魔法弾が射出された。 トウマは舌打ちをして走り出す。一定の距離を空けてヴァラクスの周囲を回るように逃げる。 敵の杖を振るうスピードは速い。シューティングゲームのごとく魔法弾が飛来する。「ほれほれほれ! 人間よ、逃げるだけか?」「この野郎っ!」 トウマは走り回りながら、負けじとステッキを振る。紫色の魔法弾が飛び、ヴァラクスに突き刺さった。しかし敵のHPバーはほとんど減らない。トウマの攻撃力の低さである。 ヴァラクスは鼻で笑った。馬鹿にしたようにつぶやく。「いま、何かしたか?」「うるさいな!」 それからも遠距離攻撃をトウマは撃ち続けた。幸運なことに、相手はHPの自然回復が遅い。塵がつもるようにヴァラクスのHPが減少していく。 よし、 これなら行けるかもな。 ふと敵が黄色いオーラに包まれる。魔法を詠唱しているようだ。そして唱えた。「ブリリアントヒール」 キュアリンと音がして、ヴァラクスのHPが全回復する。 ……くそっ。 回復しやがった。 そう言えばメモ帳にも書いてあった気がする。メモ帳の落とし主はヴァラクスの回復魔法に苦戦したらしい。ブリリアントヒールのことだろう。 敵が嘲るようにカラカラと笑った。「いくら攻撃しても我は回復する。人間、無駄な抵抗はやめろ」「くそったれが」 ヴァラクスはまた杖を振るい、黄色い魔法弾を飛ばす。トウマは回避するために走り回るのだが、肩と足に一発ずつ被弾してしまった。HPバーがごりっと減り、一気に半分に
last updateLast Updated : 2026-05-16
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第47話 それぞれの準備

 ――ヒイラギがノーファン村の領主に任命された その一文は、ログインをしているプレイヤー全員の頭上に表示されたのだった。 ノーファン村のヤマネコ食堂。そこでは小さな宴会が行われていた。 直方体の木造りの室内。木製のテーブルが規則的に並んでいる。古めかしい定食屋といった雰囲気であり、テーブルの上には様々な料理と酒瓶が並んでいる。焼き肉、油淋鶏、鳥の軟骨の串焼き、レバニラ、揚げ豆腐、ウインナー、山盛りフライドポテト、サラダ、他にもたくさん。 壁の掛け時計を見てウミは眉尻を下げた。いま午前八時前。悲しみの吐息をつく。 これから、どうなるのですか? 今頃トウマは、何をしているでしょうか。 落ち込んで無ければいいのですが。 けれど、(きっと助けに来てくれるはずです) ベルフラウとウミの手錠ははずされていた。 室内の中間のテーブルの席でウミはため息をつく。同じテーブルの椅子にいるのはヒイラギの部下の男たちとモナだ。 食堂の奥の席にはヒイラギとベルフラウが並んで腰掛けている。ベルフラウは笑顔でお酌をしている。ヒイラギはご機嫌の様子で、顔を赤く染めてビールを飲んでいた。 気持ち悪い光景ですぅ。 師匠はどうしちゃったんですか? ベルフラウは先ほど、邪蛇討伐の証をヒイラギに渡した。 もちろん要求されたからだ。 そのせいで、ヒイラギがノーファン村の領主に就任してしまった。 対人戦クエストでウミが入手した遺品であるところの腕力の腕輪も回収されている。 ベルフラウとヒイラギの話し声が響いてくる。ベルフラウは猫なで声でありヒイラギの肩にそっと手を置いた。「ヒイラギ様って、お強いのね」「ぐはは、そうだ! 俺は強いぞう」「どんなスキルを使えるのー?」「それはなあ。まず、ヴァルスティールと……」 ヒイラギはたまにベルフラウの髪の匂いを嗅ぎ、下品な笑い声を上げる。胸にタッチすらしている。ベルフラウはされるがままだ。それどころか媚びた笑顔を浮かべてもっと触って欲しいような言葉まで吐いている。 ウミはメンチ切れた。 マジムカつくです! 師匠が籠絡されたですぅ。 悔しくって、悲しいですぅ。 室内の中間のテーブルで、モナはプンプンと怒ったように頬をひくつかせている。ヒイラギたちに焼きもちを焼いているようだ。 ヒイラギの部下の男の一人が
last updateLast Updated : 2026-05-17
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第48話 勝利条件

ノーファン村の村長の家をウミは探していた。 すぐそばの民家に入り、リビングで編み物をしていたNPCのおばあさんに村長の家の方角を尋ねる。優しいおばあさんは詳しく道順を教えてくれた。小さな村である。ここからそれほど離れていないようだ。 おばあさんにお礼を言ってウミは外に出た。また歩き出す。通りすがるプレイヤーたち、それらの表情には暗い色合いが多い。子供姿のウミに好奇の視線を送っている。良い気持ちがするわけなかった。ウミはこの村をあまり好きになれない。 一昨日、折り紙での鶴折りクエストの最中にベルフラウが教えてくれた。この初心者の村はヴァルに困っている人が多い。だけど次の町へ進むと、プレイヤーたちの熟練度は上がり、人々の表情は明るいのだとか。 しかし同時に、知らない人が対人戦をふっかけてくるような事件も多いらしい。強盗も日常茶飯事であり、それどころか、男性が女性に暴力を振るったような噂も後を絶たないという。 今の自分たちの状況も似たようなものである。 ヒイラギの被害に遭っている。 この村にとどまるのも、先に進むのも、何だか怖い。 この世界、 (治安が悪いですぅ) ウミは眉を八の字にして細い吐息をついた。 もっと平和に生きることはできないのでしょうか? 道を右に折れ、二つ目の十字路を左に折れる。それから少し歩いたところに村長の家はあった。大きな屋敷を想像していたのだが、他の民家と何ら変わらないこぢんまりとした木造の一戸建てだった。だけど外観からも掃除が行き届いているのが分かる。地面の雑草は抜かれており、窓は拭かれていた。 ウミは立ち止まって「よし」とつぶやき、玄関の木製の扉を開ける。そして声をかけた。 「ごめんくださぁい!」 「はいよ」 しわがれた静かな声。 リビングの戸は開いていた。そこから、村長のおじいさんが椅子に座っているのが見える。テーブルに向かって何か作業をしていたようだ。村長は立ち上がり、リビングを出てこちらへと歩いてくる。 「ほお、これはまた、可愛いお客さんだの。お嬢さん、何の用事かい?」 「あの、すいません。ちょっとお聞きしたいことがあるんですが」 「聞きたいこと、ふむ、では中に入りなさい。立ち話もなんだからのう」 「あ、はい。ありがとうございまぁす」 「来んさい」 村長の背中
last updateLast Updated : 2026-05-17
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第49話 宣戦布告

 ノーファン村の道具屋の前。 空には太陽がすでに昇っていた。地面には朝日がさんさんと降り注いでいる。今日は土曜日だからか、辺りにはプレイヤーがどんどんログインしてきていた。それらの表情には暗いものもあれば、明るいものもある。暗い顔をしているのは無職の人間だとトウマは感じていた。現実の金に困っていないプレイヤーはいたって朗らかな表情である。 ふっと涼しい風が吹いて、トウマの青い短髪がサラサラと揺れた。 ステータス画面を出して時刻を確認する。午前八時半過ぎだ。 ヴァラクスを倒すとすぐに下山をして、たったさっき村へたどり着いた。いま、ウミが来るのを待っている。先ほどの電話で道具屋前に集合することにしている。 やがて彼女が道を早足で歩いてきた。トウマを見つけると瞳を潤ませてダッシュする。近づいて腰に抱きついてきた。モフモフとした尻尾がびゅんびゅんと揺れる。「ご主人様ぁ!」「おい、ウミ、いきなり抱きつくな」「怖かったですぅ。うえぇぇええん」「……助けられなくてすまなかった」 トウマはウミの頭を抱いて背中をさする。「よしよし」と声をかけた。  ウミはひとしきり泣いた後で顔を上げる。「トウマ、師匠がまだ捕まっています」「そうか。ベルフラウはどこにいるんだ?」「ヤマネコ食堂ですぅ」「……ふむ」 トウマは左手をあごに当てる。右手を肘につけた。彼の考える時のポーズだ。 ウミはトウマの腰から両手を離し、それから告げた。「トウマ、さっきの表示を見ましたか?」「ああ、黒谷がこの村の領主になったみたいだな」「実は私、あの男を領主の座から引きずり下ろす方法を知っています」「……どうして、知っているんだ?」「村長さんから聞いて来ましたから」「マジか、教えてくれ!」「はい!」 ウミが説明をする。つまり、ギルドを作り、ヒイラギのギルドとの戦争に勝利すれば良い。 作ってみるか。(やるしかない) トウマは出しっぱなしだったステータス画面を操作してギルド設立をタップする。設立費として10000ヴァルがかかるようだ。またヴァルである。こんなところもクソゲー感がたっぷりだ。そして所持ヴァルが全く足りない。「ウミ、お前いま、ヴァルはいくらある?」「えっと、25000ヴァルよりもいっぱいあります」「ギルド設立には金がかかる。10000ヴァル貸してくれ」
last updateLast Updated : 2026-05-18
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第50話 私がいますです

 ヤマネコ食堂。 木造りの建物であり、室内には九台のテーブルが三列に並んでいる。窓には薄緑色のカーテンが束ねられており、太陽の明るい光が差し込んでいた。ちょうど真ん中のテーブルにはヒイラギの部下が四人いる。窓際奥のテーブルにはヒイラギとベルフラウが並んで立っている。テーブルや床にはそれぞれの武器が置かれていた。 トウマは玄関から室内に一歩踏み込んで、低い声で告げる。「黒谷、ベルフラウを返せ」 ヒイラギの現実の名字は黒谷である。彼は両手を軽く開いて余裕しゃくしゃくと言った笑い声を響かせた。「ぐはははっ、ユウマ、こうしようじゃねえか。このゲーム世界の強さはヴァルだ。今から三時間でヴァルを稼ぎ、多く稼いだ方のギルドが戦争の勝ちってことにしよう。もしもお前が戦争に勝ったら、いいぜ? ベルフラウは返してやる。だけど負けたら、ベルフラウには二度と近づくな。どうだ、良いアイディアだろう?」「何だと?」「何だと、じゃねえよ。別に良いんだぜえ、俺はよお。ここで戦闘をおっぱじめても負ける気はしねえからなあ。お前たちはたった二人だしな。ぐははっ、だけどお前が可哀想だからあ? 仕方無く譲歩してやるんだよ」 トウマは押し黙った。身じろぎもせずに眉間にしわを寄せる。その頭の中は高速で回転していた。 多くヴァルを稼いだ方の勝ちだと? 相手にはノーファン村の税収がある。 このルール、勝てる見込みはあるのか? トウマの背中の服のすそをウミがつまんだ。心配そうな声でつぶやく。「ご主人様?」 ウミに返事をする余裕は無かった。 ……。 よし。 トウマはまた一歩前に出た。ウミが手を離す。「良いだろう。黒谷、その勝負、乗ってやる」「決まりだなあ」 ヒイラギが右手の親指を立てて鼻に笑いじわを寄せた。(気色悪いな) トウマは胸の内で吐き捨てる。 ヒイラギが右手を下ろす。「じゃあ現在の持ち金を確認しよう。おいモナ、トウマの持ち金を確認して来い」「……分かったよ」 室内の中間のテーブルに突っ立っていたモナがこちらへと歩き出す。トウマはステータス画面を出した。モナが覗き見て小さく二度頷く。「856ヴァルだよ」「ぷっはっはっはっは! ユウマ、お前、相当の貧乏人だな?」 傑作だというふうにヒイラギは両手を叩き合わせた。他のメンバーも低い笑い声をこぼしている。 ト
last updateLast Updated : 2026-05-18
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