All Chapters of RMTサバイバー~今日の宿代を稼ぐ俺と、人助けで戦う使い魔~: Chapter 51 - Chapter 60

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第51話 敵を騙すには

 ノーファン村の食材屋。 小さな木造の茶色い建物だった。店の内装はさながら八百屋である。各棚には様々な野菜や肉が並んでいる。他にも調味料の棚あり、ジュースや酒瓶も置かれていた。山間の村だからか海魚は無い。冷蔵の設備は無いが、ゲーム内で食べ物が傷むようなことは無かった。 店に入ると、トウマは後ろにいるウミを振り返った。トウマは怖い顔つきである。 「ウミ、カレーライスを作るために食材を買うぞ。金を貸してくれ」「お金……またですか?」「俺は金が無いんだ。仕方が無いだろう?」「い、いくらでしょうか?」  ウミははらはらとした表情で唇を引き結ぶ。 トウマは短くつぶやいた。偉そうな表情であごをしゃくる。 「全部だ」「ぜ、全部、ですか?」「ああ。これはあいつに勝つためなんだ」「そんな……わ、分かりましたです」  ウミはステータス画面を出した。ヴァルの入った革袋を取りだしてトウマに渡す。彼もステータス画面を出した。鑑定すると、15000ヴァル丁度ある。 おい、(これで本当に全部か?) トウマはウミを厳しく睨みつける。 「おい、全部と言っただろう?」「それでほとんど全部ですぅ」「ほとんどだと? 残りはいくらだ?」「あ、あと、1000ヴァルも無いです」  本当だろうか? やれやれ、(女は嘘が上手いからな) トウマは舌打ちをする。魔王のように冷えた瞳で見下した。 「ちっ、少ないな」「と、トウマ、どうしちゃったですか? 態度が変ですぅ」「うるさいぞ」  トウマは買い物カゴを手に取り、カレーライスの材料をカゴの中に入れていく。普段なら150ヴァルしかしない材料費が、今は倍の300ヴァルだった。ヒイラギが税金をかけているせいで商品の値段が倍化している。 くそが。 ヴァルを稼ぐ勝負をしているというのに、これではトウマのヴァルがヒイラギに吸収されてしまう。 顔面に蹴りを入れられたような気分だ。 トウマは陳列棚と会計カウンターを何度も往復して食材を買い込んだ。カレーライス50食分の材料を手に入れる。ステータス画面にしまった。用事を終えると、ズボンのポケットに両手を突っ込んで店を出る。だらしなく大股で歩いた。後ろからは心配そうな顔でウミがついてくる。 トウマは自暴自棄に笑った。 「はっはっは! これじゃあ俺たちの負けが決定だな。傑作と
last updateLast Updated : 2026-05-19
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第52話 権力にすがる男

 ノーファン村の道具屋前。 空の真上には太陽が昇り、日差しが強くなってきていた。だけどさわやかな風が吹いており涼しい。遠くに見える名前の知らない木の枝がかすかに揺れていた。葉っぱに光が当たってきらめいている。トウマの青い髪もサラサラと風になびいた。 いまトウマの目の前には男女合わせて五人の列が出来ている。料理システムを解放させるためのクエスト情報を買いに来たお客さんたちだった。トウマはその一人一人に丁寧に説明をしていく。 一ヶ月に一回、ノーファン村で行われる邪蛇狩りの前日。その日に村人タオジの元で発生する鶴折りクエストの情報を紹介した。金は前払いである。トウマはステータス画面を開き、料理システムが実在することを証明してみせた。するとお客さんたちは納得した。情報を聞き終えると、客は興奮した様子で礼を言って去って行く。やがて、トウマは五人をさばき終えた。 トウマの手が思わず震える。 250万ヴァルの儲けである。 情報に原価は無い。 ステータス画面を見ると、十二時になる五分前だった。 ウミは隣ですんすんと鼻をすすっていた。 トウマが声をかける。「ウミ、勝負のタイムアップの時間だ。行くぞ」「と、トウマ様は、や。やっぱり、す、すごいですぅ」「馬鹿、俺の名前に様とかつけるな。背中がかゆいからな」「さっきと言っていたことが違いますぅ」「知らん」 トウマは頬を染めてそっぽを向いた。ヤマネコ食堂へと向かって歩き出す。 視聴者のコメントはどうしてか沈黙していた。 ウミの瞳は真っ赤である。まるでウサギのようだ。鼻をずるずるとすすって、それから「にひひっ」と笑い声を上げた。唇からチャーミングな八重歯が覗く。モフモフとした尻尾をぶんぶんと揺らした。後ろから着いて来る。「……大好きです」 トウマの足がわずかに止まりかける。「ん? 何か言ったか?」「何でも無いですぅ」「そうか」 二人で歩いて行く。 ヤマネコ食堂は道具屋からそれほど離れていなかった。そもそも村自体の面積がそれほど広くない。すぐにたどり着いた。ヤマネコ食堂の看板の下で、ヒイラギとその部下たちが待っていた。ベルフラウもいるが手錠はされたままだ。 トウマは顔をひきしめて近づいて行く。ヒイラギたちと間隔を空けて立ち止まった。 ヒイラギの顔は見るからに動揺している。怒りでビクビクと震えて
last updateLast Updated : 2026-05-19
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第53話 魅せてあげる

 可愛いは正義勢:トウマ、ウミちゃんを守って! 古参ニキ:今度こそ負けるなよ! 名も無き森のクマ:セレクターなんかに負けるな! レディミラージュ:これは見物ね。  頭上にはコメントの弾幕が流れている。コメントはトウマたちへの応援メッセージが大半を占めていた。 ヤマネコ食堂の前。太陽が日差しを地面にじりじりと焼きつけている。戦争が起こったことで、辺りにいた人々が何事かと遠ざかって行った。トウマは顔を硬くしてステッキを構える。武器を構えるトウマの元へ、ヒイラギの部下たちがにじり寄る。 ベルフラウが激しく動いた。手錠されたままの両手を掲げて、ヒイラギの後ろから首に手を回す。手錠でヒイラギの首を絞めた。 「ぐあっ!」「トウマ! 今よ!」  ベルフラウが叫んだ。 トウマは驚きに目を瞠った。(真帆!) やっぱり、そうだ。 彼女が裏切るはずなんてない。 トウマは呼応して返事をする。 「任せろ!」  ヒイラギの部下たちがびっくりして振り返る。部下の男の一人が叫んだ。 「ベルフラウ、裏切ったのか!?」「私はそんなことだと思ってたよ!」  モナが声を大きく張り上げて、弓矢をベルフラウに向ける。しかしベルフラウはヒイラギを盾にした。モナはそれでも弓の弦を弾く。射出された矢がベルフラウの頬をかすめた。 トウマの青い髪が風になびく。 絶好の勝機が訪れていた。 この時を逃してなるものか。 口早に唱える。 「グラヴィティライン!」  ステッキからは三つの青黒いロープが伸びて、モナと二人の男を拘束した。 「しまっ!」「おい!」「どうすれば!」  ウミはもう走り出していた。拘束されていない男に向かって斬りかかる。 「行っくぞおおおっ!」「ちょ、ちょっと待てコラッ!」  男とウミの剣同士がぶつかり合う。 トウマは獲物を狙う蛇のように瞳を尖らせた。 ヴァラクスからもらった力、 存分に使わせてもらおう。 受けてみろ! 「グラヴィティエクゼキュート!」  覚醒スキルがうなりを上げた。拘束されたままの男二人とモナの体が紫色のひし形の立体に包まれる。とてつもない強重力が襲いかかった。継続ダメージが発生し、HPをドクドクと減らしていく。 「か、体が、重……」「な、何これ……」「うあ……」  三人が重くなった武器を手放した
last updateLast Updated : 2026-05-20
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第54話 ただいま、ダーリン

「魅せてあげるわ」 歌うようにつぶやいて、お姫様ドレス姿のベルフラウが駆け出す。 ノーファン村の地面の上だった。 ヤマネコ食堂の前。ふっと強い風が吹いて木造の建物がわずかに揺れた。ぎいぎいと軋んだ音を立てる。トウマはステッキを持ったまま突っ立っており、何をすることもできなかった。それはウミも同様だったろう。ただただ、目の前で起こっている戦闘を見つめていることしかできない。 可愛いは正義勢:うおおおお、この赤いドレスの女の人強すぎ。 戦争があると聞いて:ベルフラウって名前、俺聞いたことある! 名も無き森のクマ:ベルフラウさん、やっちゃえー。 レディミラージュ:すごいわねえ。うちのギルドに来ないかしら? ベルフラウの両手のダガーがヒイラギの体を切り刻む。その美しい赤い瞳はぶちギレたような危うさを孕んでいた。舞って踊って足でリズムを刻み、両手を伸ばして勢いよく横回転する。相手を翻弄しては追撃をかけた。 ヒイラギが唸り声をあげる。「ぐうぅぅぅぅっ」「死になさいね」「この野郎! ヴァルスティール!」 ヒイラギの足下から赤い魔法陣が広範囲に浮かび上がる。「そう来ると思ったのよ」 ベルフラウはバックステップを踏み、ステータス画面を出した。全財産の入った革袋を取りだしてこちらへと投げつける。トウマの足下に落ちた。「トウマ、それ持ってて!」「どういうことだ?」 トウマは革袋を拾う。 そこで思い出した。 ヒイラギのヴァルスティールはトウマも食らったことがある。魔法陣を踏んだ相手のヴァルをほんの少しずつ奪うと共に、継続ダメージをもたらす。 ベルフラウはヴァルを盗まれたくないようだ。 けれど、それだけじゃ無い気がした。「あははあっ!」 ベルフラウが高々と笑った。再び走り出す。 赤い弾丸となってヒイラギに急接近した。体を上下に激しく振ってダガーの斬撃を繰り出す。くるくると横に回りながらダガーを振って、遠心力を利用した蹴りを繰り出した。 ヒイラギはカマで攻撃を受け止めきれず、蹴りを腹に受けて吹っ飛んで行く。地面に尻もちをついた。「ぐおおっ!」「うふふん」 ベルフラウは追いかける。攻撃すると見せかけて、左手を右肘に当てて頬を触るような、見下ろす挑発ポーズを取った。ヒイラギが一瞬ビクッとする。その直後、苛立ちを露わにす
last updateLast Updated : 2026-05-20
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第55話 恋愛クエスト

 戦いの後で。 ノーファン村の噴水広場では今、悪徳領主討伐の祝勝パーティーが行われていた。NPCの村人たちが総出である。地面には木製のテーブルがいくつも並べられており、ヤマネコ食堂から料理が運ばれてきていた。楽器を演奏している人たちがいて、華やかなメロディーが流れている。村人たちは手を取り合って踊っていた。一般のプレイヤーも遊びに来ている。 テーブルの椅子に腰掛けながら、ベルフラウは弱ったため息をついた。 もう、(どうしてなのよ) 戦争に勝利したというのに、トウマの機嫌が良くないのだ。ウミに対しては朗らかに笑って会話をしているくせに、ベルフラウに対してはちょっと冷たい。 あう。 どうしてなの? 悲しい。 先ほどベルフラウはヒイラギに体を触られ過ぎた。 トウマはその現場を目撃している。 媚びるような演技は、相手のスキル情報を聞き出すために仕方無かった。油断をさせることにも成功した。 実際勝ったのであるし。 ……自分が犠牲にならなければウミにちょっかいを出される恐れもあった。 とはいえ、トウマが不機嫌である事はひどく切ない。 あの、 ……えっと、(トウマは、あたしに焼き餅を焼いているのよね?) それで合っているわよね? 確証は無い。 けれど、 そんな気がした。 トウマはベルフラウから少し離れた席に座っている。彼女は立ち上がり、歩いてトウマの隣に移動した。空いていた椅子に腰を下ろす。 思いきって声をかけた。 「トウマ、楽しんでる?」「ん? ああ、ベルフラウか」「良かったら、あたしとダンスしない? ほら、みんな踊ってるし」「いや、遠慮しとく」  トウマは素っ気なくつぶやいて、ベルフラウに背中を向ける。反対側に座っているウミとまた会話をし出した。 やっぱり、冷たい。 けれど、(ここはあたしが頑張らないと) 慰めないと。 先ほど助けに来てくれたトウマの姿は最高に格好良かった。だから今度は自分がお返しをする番である。 ベルフラウは昔から気が強くて他人に素直になれないところがある。 けれどもう、(あたしは子供じゃないのよね) 椅子から立ち上がり、トウマの肩に後ろから両手を置いた。優しく揉み込んであげる。 トウマが首だけ振り返った。 「おい、ベルフラウ?」「疲れたでしょ。揉んであげるわ」「そんな事しなく
last updateLast Updated : 2026-05-21
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第56話 ガラスの指輪

 ログネストの狭いルームに戻ってくる。 もう見飽きた黒いマットルームの空間。真帆は顔からデバイスゴーグルをはずして上半身を起こした。右手で黒髪を撫でてふうと息をつく。すごく喉が渇いていた。木製の台に置いてあったコップを手にとり、カルピスソーダをごくごくと飲む。ぬるくなっていたけれど甘くて美味しい。 腕時計を見ると午後の六時過ぎである。今日は疲れていたので、真帆もユウマも早めにログアウトをすることにしたのだ。次の町へと進むのはまた今度になる。 真帆は床に膝をついて、ログネストの会員カードを機器から抜き取る。カードを財布に入れて立ち上がった。バッグを持ち、靴を履いて通路へと出る。 ふと隣のルームからユウマも出て来た。黒髪の短髪であり、カジュアルなグレーのシャツを着こなしている。身長は高く、180cm以上ある。 ……あう。 あんな事があった後なので、ちょっと気まずかった。 真帆は控えめに右手を掲げる。無理やりにテンションを上げた。 「や、やっぽー、ユウマ。お疲れさま」「……ああ」  ユウマは低い声で返事をして、通路を真っ直ぐに歩いて行く。トイレへと向かっていた。真帆の行く先も同じである。二つの足音が床にコツコツと響いた。(何よ) 愛想がないわね……。 けれど、今は仕方が無い。 トイレで用を済ませると、真帆は洗面所で手を洗った。鏡で顔をチェックする。ずっと横になっていたせいで髪に寝癖がついている。化粧も少し崩れていた。バッグから化粧ポーチとクシを取り出して軽く手直しをする。 うん。 こんな感じね。 最後に口紅を薄く塗って、唇をすぼませて開いた。化粧道具とクシを片付ける。バッグを持ってトイレの扉をくぐった。 そこでびっくりする。 真帆の足が止まった。 通路の奥ではユウマが立っており、落ち着かなさそうな顔で両手を胸に組んでいた。真帆を見つけると表情をきりりと引き締める。 真帆はすぐに気分が良くなった。(ユウマが待っていてくれた) ……やった。 だけど少し緊張する。真帆は笑顔を浮かべて歩いて行く。ユウマが右手を掲げた。真帆は立ち止まる。 「真帆、ちょっと来い」「どこへ行くの?」「着いて来い」  ぶっきらぼうに言い放ちユウマが歩き出す。ぞんざいな態度だったが、どうやら仲直りをしてくれるようだ。 素っ気ない言い方だけれど、 
last updateLast Updated : 2026-05-21
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第57話 遠回りの道~一巻エピローグ~

翌日の朝。 今、ノーファン村の山道を登っていた。青々とした木々が茂っている坂道をウミたち三人が歩いて行く。落ち葉の多い柔らかい地面だった。今、あの洞窟へと向かっていた。ウミの長い茶髪が風になびいている。モフモフとした尻尾がふりふりと揺れていた。 洞窟にはヴァラクスというボスモンスターがいて、倒すとスキル覚醒の書を落とすらしい。ウミとベルフラウも入手すべきだった。 けれど、 ウミは道を歩きながら戸惑いのため息をつく。 前を歩いているトウマとベルフラウの雰囲気は熱々だった。手をつないでおり、幸せオーラをまとっている。見ているウミまでもがハッピーになれるような光景だった。だけど、胸がちくりと痛む。 もしかして、 (トウマと師匠は、そういう関係になったのですか?) ……見るからにそうです。 羨ましいですぅ。 けれど、 自分のトウマに対するこの気持ちはどうすれば良いだろう。 分からなかった。 やがて、木々の向こうからオークランサーが一体、姿を現す。木の槍を持っている。ベルフラウが嬉々とした声を響かせた。 「トウマ、モンスターが来たわ」 「ああ。倒すか!」 「あたしがやるわ。トウマ、グラヴィティラインを撃ってくれる?」 「任せろ」 トウマがグラヴィティラインのスキルを唱えた。青黒いロープが三つ伸びてオークランサーを拘束する。ベルフラウが余裕の足取りで近づき、オークランサーの喉を斬った。敵が悲鳴を上げて地面に崩れる。 「ぐおうぅぅ」 ベルフラウが振り返り、お日様のようなスマイルを浮かべた。その笑顔がいつもより輝いて見えるのはウミの気のせいでは無いだろう。ベルフラウはダガーをベルトに戻し、トウマの元に戻ってきた。 「さすがはあたしのトウマ。グラヴィティライン強すぎ」 「お前こそ、強いぞ」 「うふふん、あたしは最強なの」 「否定はせん」 トウマがベルフラウの髪を撫でた。彼女がふわりと笑う。 二人が手をつないでまた歩き出す。ウミはその背中を追いかけて歩いた。今のところウミの出番はない。 昨日の戦争勝利後、ベルフラウは、ギルド、グラスオースに加入した。副団長に任命されている。とは言っても使い魔のウミを合わせてたった三人のギルドだ。 戦争の勝利報酬の分配について、ベルフラウは受け取りを遠慮して
last updateLast Updated : 2026-05-22
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第58話 キスの練習

 翌日の朝。 荷馬車がトトントトンと揺れており、間引きされた森の道を進んでいる。木漏れ日がちらちらと差し込んでいる。ウミたち三人は荷馬車の荷台の床に腰掛けていた。荷台には他に人間がいない。四つの樽の積み荷があり、何か入っているようだ。荷馬車は次の町、アストラブールへ向けて道を進んで行く。 トウマのすぐ正面で、ベルフラウが怒ったように声を上げる。「ちがーう、トウマの下手くそ」「な、何が違うんだ?」「貴方はあたしの口に舌を入れすぎなのよ。しかもベロベロと回しすぎ。もっと小さく差し込んで、あたしの舌に合わせなさいよ」「そ、そんなこと言われてもな」 いま、二人はベロチューの練習をしていた。もう何度も繰り返している。しかしトウマは上手にできないようだ。主人は経験が乏しいのかもしれない。 二人のすぐそばに座っているウミは、はふうと吐息をついた。 おっかしいですぅ。 そして、 ……羨ましいです。 笑いが浮かぶ。(あははは) なんかもう勝手にやってくださいって感じだ。 トウマとベルフラウからは幸せオーラが溢れていて、そばにいるウミまでもが幸せな気分に包まれている。 トウマはベルフラウの肩に両手を置き、顔を近づける。「ベルフラウ、もう一回だ」「もう、ちゃんとできるようになってよね、ダーリン」「次こそは」「何度だってしてあげるから。もうちょっと落ち着いてキスしなさい」 また二人の唇が重なる。チュッチュと唇を吸い合っている。気持ち良さそうな二人の顔をウミはじっくりと眺めて、やがて顔をそらした。 はふぅ。 仲が良いことは良いことですぅ。 だけどこの熱々な空気のそばにいるのは、心が溶ける思いだ。(私もキスがしたいですぅ) 今度トウマにお願いしてみようか? でも、そんなことを言ったらベルフラウが怒るだろう。 あうぅ。 仕方無いです。 今度動物を見つけたら挑戦してみることにします。 やがて二人が唇を離した。ベルフラウは機嫌を良くしたようにトウマの髪を撫でる。「今のは中々上手だったわ」「そ、そうか?」「うん! 舌使いも良かったし、気持ち良かったもの」「じゃ、じゃあ、もう一回やるか?」「うふふん、いいわよ」「よし! 行くぞ」 二人が唇をまた重ねる。 気を紛らわそうと思い、ウミはステータス画面を出した。現在10レベル。ヴァ
last updateLast Updated : 2026-05-23
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第59話 古参ニキ

 森の地面の上。 太陽が木の葉に遮られて、光がちらちらと揺れている。今、森の開けた空間には荷馬車が強制停車させられていた。二頭の馬がおびえたようにぶるると声を上げている。馬の周りを十人ほどの野盗モンスターが囲んでいた。その手には湾曲した剣、シミターが握られている。 トウマたちはすでにパーティを組んでいた。 頭上に文字が表示される。 ――クエスト、野盗の撃破 野盗の親分である太っちょの男が号令をかける。「野郎共! 馬車から金品と女を奪え! 男は殺せ!」「「へい!」」 子分たちが返事をして馬と御者台ににじり寄る。御者が悲鳴を上げた。「た、助けてくれぇー」 ふと木々の合間から轟音が響く。放たれた弾丸が野盗の一人に命中した。敵は一撃でHPを無くしている。地面にどっかりと崩れた。 野盗の親分が叫んだ。「何者だ!」 木々の間から、白銀のキャノンを左手に持った一人の男が歩いてきた。ソフトモヒカンの髪型。肌は色黒であり中肉中背である。プレイヤーネームはニキ。トウマたちが視聴者コメントで何度も見かけたことのある、古参ニキその人だった。 荷馬車の後方から地面に降りて、トウマたちが前に進み出る。トウマはニキの名前に気づくと目を丸くした。 ……ニキ? どうしてここにいるんだ? そうか、今日は配信動画の視聴ではなくて、ニキはゲームプレイをしているようだ。 だけど、ニキがここにいる理由はやはり分からない。 ベルフラウが右手を掲げる。「ニキさん!」 親しみを帯びた声色だった。どうやらベルフラウとニキは知り合いのようだ。「よお、ベルさん! それとトウマさんたちは初めましてだな」 ニキも右手を上げて挨拶する。 ウミは猫耳の上にクエスチョンマークを浮かべた。「ニキさんって、もしかしてあの古参ニキさんですかぁ?」「おうよ! 俺っちが古参ニキさ。お前ら、一昨日は戦争で大変だったな」 ニキは言いながら、白銀のキャノンで野盗を撃つ。マズルフラッシュが起こり、弾丸が野盗の顔面に命中した。やはり一撃で仕留めている。 ニキは弾丸を連射しながら叫んだ。「とりあえず話は、敵を倒してからにしようぜ!」「分かったわ」 ベルフラウが返事をしてメイクアップのスキルを唱える。その右手に小さな丸い手鏡が生まれた。虹色の光が放たれて彼女の化粧のノリが上昇する。 トウマと
last updateLast Updated : 2026-05-24
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第60話 迎えに来た男

過去の話。 小学生時代、ユウマには真帆以外にも親友がいた。そいつは男であり名前はニキト。気さくな明るい性格であり肌は色黒である。ニキトにとって、肌が黒いことはコンプレックスだったようだ。 小学校の休み時間、クラスメイトの意地の悪い連中に「真っ黒黒すけ出ておいで」とニキトはからかわれていた。某アニメ映画の有名なセリフである。 ユウマはいじめっ子と真っ向から対立して叫んだ。 「お前ら、くだらねーこと言ってんじゃねーよ!」 いじめっ子のリーダ格の男の子がつまらなそうな顔をする。 「何だよ、ユウマ。お前ニキトの味方をするのか?」 「味方とか知らねーけど、いじめなんて面白くねーだろ」 「正義の味方ぶりやがって。おいみんな! ユウマをやっちまおうぜ!」 「来てみろ!」 みんな小学生である。子供たちは取っ組み合いの喧嘩になった。 「ユウマくん!」 ニキトは思わず声を張り上げた。走り出してユウマに加勢し、一緒に戦ってくれた。 子供たちは髪の毛を引っ張り合い、相手の体を本気で殴り、蹴りが股間に当たった子供は泣き出した。やがて誰かが先生を呼んでその場は収拾がつく。 ニキトはべそをかきながら、傷だらけのユウマに感謝を述べた。 「ユウマくん、助けてくれてありがとう」 「知らねーよ、ニキト。だけどお前、もういじめられたりするなよな」 「わ、分かった!」 「よし!」 それからユウマとニキトは友達になった。一緒に遊ぶようになり、休日はお互いの家を行き来する。遊び道具はテレビゲームだ。二人はクラッシュスターズというアクションゲームにハマっており、夜遅くまで夢中だった。お互いの家にお泊まりすることもあるほどである。 真帆の家はユウマの家の近所にあった。自然な流れで三人はつるむようになる。勉強の成績が良かったユウマは二人に算数と社会を教えたりした。 ユウマとニキトにとって、真帆はマドンナだった。彼女は顔立ちが可愛い上に勝ち気な性格をしていて、テレビゲームも一緒に遊んでくれる。この時ユウマはすでにあの夏祭りの告白終えていたのだが、真帆がどこまで本気にしてくれているのかは謎だった。 夏は山へクワガタを捕まえに出かけた。冬は雪だるまを作った。三人は一緒に遊び、勉強し、泣いたり笑ったりを共にしながら育っていく。 事件は突然にやってくる。
last updateLast Updated : 2026-05-25
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