《RMTサバイバー~今日の宿代を稼ぐ俺と、人助けで戦う使い魔~》全部章節:第 61 章 - 第 70 章

74 章節

第61話 恋人なんだが?

 荷馬車が森を抜けて草原の道に出た。 轍の出来た硬い地面を、荷馬車がゆっくりと進んで行く。遠くにアストラブールの町が見えてきた。町の向こうには海が広がっている。潮の香りがわずかに漂ってきて、トウマは鼻いっぱいに空気を吸い込んだ。 荷馬車の中で、ベルフラウとニキは仲良さそうに会話をしている。 あぐらをかいているニキが膝に両手を置いた。「いやー、それにしても久しぶりだな。ベルさん」「ニキさんこそ。ここのところゲームで見なかったけれど、どうしてたの?」 女の子座りをしているベルフラウが尋ねる。 ニキは苦笑して肩を揺らした。「実は現実で怪我しちゃってさ、入院してた」「えっ、怪我って、何したの?」「階段から落ちてさ、足の骨をバキ!」「あらら、それはお気の毒」「ああ。だからずっとスマホでゲームの配信を見てたさ。そしたらトウマさんとウミちゃんの配信を見つけて、気になってずっと追っていたら、ベルさんも登場したからさ。あれれと思って」 ベルフラウの後ろでトウマはため息をついた。焼きもちを内包した疎外感を覚える。二人の話を聞いたところからすれば、ベルフラウとニキはこのゲームで旧知の間柄のようだ。二回ほど一緒に狩りをしたこともあるらしい。 トウマの正面では、ウミが両手のひらに小さなピラミッド型の金塊を持っていた。たったさっき戦闘で入手した盗賊の秘宝である。 ウミの頬がニヤニヤと緩んでいる。金塊を見つめていた。「うふふぅ、綺麗ですぅ、綺麗ですぅ」「良かったな、ウミ」 トウマはぶっきらぼうにつぶやいた。 ウミの瞳はキラキラと輝いている。「すごく綺麗ですぅ、ピカピカですぅ」 ウミの口からチャーミングな八重歯が覗く。よだれが光っていた。モフモフとした尻尾がたゆんたゆんと揺れる。金塊に夢中のようだ。 荷馬車の荷台ではベルフラウとニキの会話が続いている。「ベルさん。俺っちもベルさんのギルドに入れてくれよ!」
last update最後更新 : 2026-05-26
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第62話 やる気ゼロ

 アストラブール。 そこは活気のある港町だった。砂浜には何隻もの木造の漁船が並んでいる。潮の香りがしていた。道路は石畳であり,プレイヤーたちが行き交っている。プレイヤーたちの表情は生き生きとしており明るい。しかし、女性の武器を強奪して逃げて行く男性の姿があった。女性は怒声を上げて追いかけていく。やはりこの町も平穏ではない。 そしてどうしてか入り口のそばに鎮座しているグリーンの一台の戦車。ブルドーザーほどのサイズがある。先ほどベルフラウはただの置物だと語っていた。 トウマは戦車をちらりと眺める。(これは動くのか?) 大砲の砲身は大きくて長かった。 町の防衛のために置かれているのだろうか? トウマたちが地面に降りると荷馬車は行ってしまった。運賃は乗る時に支払ってある。 ニキが白銀のキャノンを両手で持ち、トウマに宣言する。「トウマさん、俺っちと決闘だ」「決闘っていうのは一体何だ?」 トウマは身じろぎもせずに尋ねる。 ニキは小首をかしげて吐息をつき、説明をくれた。「決闘システムを知らないのかい?」「知らないな」「ステータス画面のフレンド項目から相手を選んで決闘ができるさ。制限時間は一分、決闘で負けて死んでもデスペナルティは無い」「そうか。じゃあ、やらない」「は?」 ニキは口をぽかーんと開いた。 トウマはウミの髪を撫でる。彼女の猫耳がぴょこんと揺れた。「よし、ウミ、とりあえず町を少し見て回ってみるか」「はいですぅ!」「ベルフラウも、それでいいか?」「ええ! 着いて行くわ」「待て待て待て待て! 待てよトウマさん!」 ニキが顔をひきつらせて右手のひらを向ける。 それを見たトウマの顔つきはとても面倒くさそうだ。 トウマは小さくつぶやく。「ニキさん、ここでお別れだな」「お別れ!? はいさようならっす! じゃないさ! トウマ
last update最後更新 : 2026-05-27
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第63話 ストーカーですぅ

 アストラブール町の入り口付近。 石畳の地面をプレイヤーたちが行き交っている。人々は胸を張って歩いていた。それらの表情には、初心者の村を越えてきたという自信が漲っている。道路の右手の方には街路樹が植えられており、木の葉が風に揺れていた。先ほどニキがバーストキャノンを撃ったせいで、街路樹の一本が折れて倒れている。漂っている空気はやはり潮の香りだ。 トウマとベルフラウはキスをしていた。やがて唇を離すと、彼女が困ったように告げる。「トウマ、あたし今日は一人で狩りにいくわ」「どうしてだ?」 トウマが怪訝そうな顔つきをする。ベルフラウがいなくなるのは寂しい。 あごをガクンと落としているニキをベルフラウはちらりと見て、またトウマに顔を向けた。「あの人がいると、あたし疲れちゃうの」「そ、そうか」「あたしがいなくなれば、あの人はもう着いて来ないと思うわ」「まあ、確かに」「うん。それにちょっと用事もあるし。ダーリン、いいかな?」「そういう事なら仕方無いな」「ありがとう、ダーリン。12時にはログアウトして、現実で一緒にお昼を食べましょうね」「分かった」 ベルフラウはトウマの頬にキスをして、それから「またね」とつぶやいた。ベルフラウはウミにも手を振りつつ道を歩いて行く。ウミが手を振り返した。「師匠、またですぅ!」 それにしても、(可愛い奴だな) ベルフラウは最近とても可愛くなった気がする。恋人になったおかげだろうか? ツンと澄ましたような態度が少なくなり、素直に愛情表現をしている。濃厚なキスのせいで、トウマが性的な興奮を感じてしまうのも仕方無かった。 この時、トウマはベルフラウの用事の詳細をまだ知らない。明日は4月28日、トウマの誕生日である。ベルフラウは彼氏の誕生日プレゼントを内緒で買いに行ったのだった。 トウマの目の前では、ニキが表情をわなわなと震わせたまま虚空を見つめている。打ちひしがれているようだ。 トウマの元へウミが近づいてき
last update最後更新 : 2026-05-28
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第64話 性欲のネックレス

 波の音が響いていた。 アストラブール町の浜辺。地面はサラサラとした砂地である。太陽の光がじりじりと照りつけており、気温は高くなっていた。かなり暑い。砂浜にいるモンスターは一種類であり、青い毛並みをしたリスのモンスター、ラズリーフだ。体格はリスよりもずいぶんと大きい。群れでちょろちょろと動き回っている。服を作るための素材モンスターだった。 海が見えると、ウミは興奮したように両手を広げて「わあ、海ですぅ」と声を上げた。初めて見る広大な海の景色に感動しているようだ。 やがて砂浜にたどり着く。そこにはニキが先回りして立っていた。白銀のキャノンを左手に揺らしてトウマとウミに話かける。「よお、トウマさんとウミちゃん! 奇遇だな!」「ストーカーに先回りされたですぅ」 ウミはげんなりとして肩を落とす。 いい加減呆れつつもトウマは尋ねた。「ニキさん、どうして俺たちを追ってきたんだ?」「それはトウマさんたちと仲良くなろうと思ってだな。いや、違う違う違う違う! 違うぞう? 俺っちはただ、偶然ここにいるだけさ! そう、これは偶然さ! 追って来たんじゃない」「ずっと尾行していたように感じたが?」「尾行? してないしてないしてない! 何かの勘違いさ!」:この人ずっと尾行していたのに何言ってるの?:ストーカーキモ。:この人キモい。 トウマはため息をつき、それから両手を軽く開いた。「それで、ニキさん。ここで何をしているんだ?」「もちろんモンスターをこれから狩るのさ。あ、そうだ! トウマさん、ウミちゃん、良かったら、狩りのお手本を見せてやるさっ。お前ら、まだ初心者だろう?」 ニキは人の良い笑みを浮かべる。 トウマは首を振った。「いや、いい」「遠慮するなって。ほら、パーティを組むさ」「いや、いいって」「遠慮するなって! パーティ申請を送ってくれさ!」「本当にいいんだが……」
last update最後更新 : 2026-05-29
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第65話 戦わない選択

 浜辺の地面にマーマン村長が浮かび上がる。 さらさらとした砂の地面。トウマが歩く度に足が砂に若干埋まる。すぐそばには青い海が広がっており、波が寄せては返していた。波音が響いている。太陽がじりじりと照りつけており、カラッとした暑さを感じた。トウマの額から汗が垂れてあごをつたう。 マーマン村長、ギースが槍を構えて叫んだ。「お前たち。よくも、わしらの友ラズリーフを狩りしてくれたな! 許さんぞ!」 ドンと音がした。 ――クエスト、マーマン村長、ギースの撃破:出た! アストラブール浜辺のマーマン村長。:落雷のスタン攻撃に気をつけて!:トウマ君、頑張って! ニキが嬉々としてキャノンの砲口をギースへと向ける。「よっしゃあ! ボスを狩るぜー」 ニキが引き金を連続で引く。轟音が鳴った。砲口から弾丸が射出されてギースに命中する。ニキの攻撃力は高い。ギースのHPはごりごりと削れた。 ラズリーフの群れは恐怖したように浜辺の隅へと逃げていく。 ギースはニキにターゲットを補足し、真っ直ぐに近づいてくる。ニキは左に走った。ギースと距離を取りながら弾丸をまた撃つ。 ギースが厳しい顔つきで槍を振り上げる。「ラズリーフの仇、討たせてもらう! 落雷!」 トウマとウミとニキの上空から一筋の電撃が降る。ぴしんっと音がしてHPが減少した。スタン状態になり動けなくなる。その隙にギースはニキへと接近した。槍を振り回して斬りつける。連続攻撃がニキを襲った。「痛て、痛てっ」 ニキが小さな悲鳴を上げている。 三秒後、トウマたちは動けるようになった。ニキが苛立ったように声を張り上げる。「トウマさんとウミちゃんも、戦ってくれさ!」「待ってくださぁい!」 ウミが両手を広げた。言葉を紡ぐ。「この村長さん、悪人じゃないですぅ! 本当は良い人ですぅ!」「何言ってんの!? ウミちゃん」 ニキがまた走り出してギースから距離を取る。だけど
last update最後更新 : 2026-05-30
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第66話 配信の届かない場所

 服を作るため、トウマたちは一度服屋へと戻った。 トウマとウミはスキンカードをもらい、新しい服装にチェンジする。トウマは青いTシャツにデニムのズボン。ウミは緑色のロリータ服だった。その際、ニキが店員にラズリーフの毛皮を一枚ずつ渡していた。一枚ずつしか納品できず、とても非効率な作業である。 ニキとはパーティをまた組んでいた。 服屋を出て歩き、浜辺に戻ってくる。砂浜を歩く音がザクザクと鳴った。 波の前では、マーマン村長、ギースが待ってくれていた。その両手には青い液体の入った三つの小瓶が握られている。 先頭を歩いていたウミがギースに話しかける。「ギースさん、お待たせしましたぁ」「お前さんたち、やっと戻って来たか」 ギースが表情をひきしめて返事をした。ナマズのような髭がピクンと揺れる。「遅れてごめんなさいです」「いや、いい。それよりもわしの話を聞いてもらえるか?」「ギースさんの村を助けて欲しいって事でしたよね?」「そうじゃ。実はな……」 そこでギースは「ごほっ」と咳をした。ちょっと具合が悪そうだ。 ギースが語り始める。トウマたちはギースのそばに寄って集中して話を聞いた。 いま、ギースが住んでいる海底のマーマン村では病気が蔓延しているらしい。マーマン村は、近くの岩間から瘴気が吹き出す危険地帯のようだ。瘴気が水に溶けて、水質汚染が進行していた。 普段なら、ラズリーフが浄化スキルで水質を浄化してくれるのだそうだ。しかし今、ラズリーフを襲って食べてしまう肉食モンスターが村の近くに巣を作っている。肉食モンスターの名前は月海竜ダルシャラン。ラズリーフは逃亡し、村からいなくなっていた。 トウマは思った。 なるほどな。 だからギースは、浜辺のラズリーフを狩っていたトウマたちに怒りを向けて襲ってきたのである。 ギース曰く、ラズリーフは陸海で呼吸ができる生き物らしい。 そこまで語って、ギースは頭を深く垂
last update最後更新 : 2026-05-31
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第67話 海底の情欲

 海底の砂地の上。 目の前に見える岩にはフジツボが張り付いている。他にも、牡蠣、イソギンチャク、ウミウシがうごめいていた。ワカメが海流になびいている。トウマには名前の分からない植物も生えている。上を眺めると、太陽の光が海中で揺れており、キラキラと輝いていた。色とりどりの魚たちが気持ち良さそうに泳いでいる。体を広げたタコが頭上を横切って行った。トウマはちょっとびびった。 いま、トウマとウミは並んで歩いていた。距離を置いて前を歩くノフィアとニキを追いかけている。エンディコマグロの生息地まで、ノフィアは道案内をしてくれていた。 村を離れてからというもの、トウマはノフィアに対して無愛想に接して距離を取った。するとノフィアは何を思ったのか、今度はニキに接近して親しげに話しかけ始めた。ニキは嬉しかったようで、いまノフィアと手をつないで歩いている。時折出てくるモンスターを、ニキがキャノンの弾丸で倒していた。 トウマの隣にいるウミがイライラとしてつぶやいた。「ニキさんがムカつくですぅ」「分からんでもない」 トウマは苦笑しつつウミの顔を覗き見る。彼女の表情は険しい。猫耳がピンと立っている。 ウミが吐き捨てるようにつぶやいた。「ニキさんは師匠のことを好きそうにしていたのに、今はマーメイドにデレデレしているですぅ。人間として、一本の筋が通っていないと思います」「全くその通りだな」「私はニキさんのことがまた嫌いになりました」「まあそう言うな」「トウマはムカつかないんですか?」「現実にもそういう人間はいっぱいいるからな。俺には全く理解できんが」「嫌な世界ですぅ」「ウミ、イライラはひとまず忘れろ。到着みたいだぞ」「……はいです」 開けた砂の地面だった。前を歩いているノフィアとニキが立ち止まる。どうやらエンディコマグロが出現する場所に到着したようだ。ノフィアが「頑張ってね」とつぶやいてニキの頬にキスをする。ニキの頬にキスマークがついた。彼はニヤニヤと笑う。
last update最後更新 : 2026-06-01
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第68話 情欲よりも強いもの

 海の底。 そこはカラフルな世界だった。紅藻類、緑藻類、ウミウチワ、岩には様々な植物が生えている。その合間をタツノオトシゴがゆっくりと動き回っていた。岩の穴にはウツボが潜んでおり、出たり入ったりをしている。砂地には足の長いカニがいて、こちらを注視するように眺めていた。太陽の光が差し込んでおり、海流に合わせて光も揺れている。不思議であり綺麗な光景に、ウミはここに来られて良かったと心から思う。 ノフィアがピンク色の液体を自分の首へと注ぐ。そして歌うようにつぶやいた。「さあ、恋してください。貴方たちはもう、私から逃れられない」 辺りに甘ったるい匂いが漂う。トウマとニキは頬を染めてノフィアを見つめる。ノフィアに対して恋状態に陥ったようだ。 だけど女性のウミには効果が無かった。 ウミが叫ぶように尋ねた。「ノフィアさん、何をしたですか!?」「この液体の名前は海底の情欲。匂いを嗅いだ男性は、もう私から逃れられないのです」 ノフィアは瞳を尖らせてウミを見つめている。 ウミは目にしわを寄せて聞いた。「……どうしてそんなことをするんですか!?」「ふふふ、全てはマーマン村のためなんですよ。海底では、最近は凶悪なモンスターが増えています。そして今、マーマン村の男たちは病気に追い詰められている。だから、トウマ様とニキ様には、ずうっとずうっと村に居て、村を守ってもらいます」「意味が分からないです!」 ウミが青いショートソードを構えた。 ノフィアは右手を開いて、男たちに命じる。「さあ、トウマ様、ニキ様、そこの猫耳の小娘を排除してください」「分かったさ! ウミちゃんをやっつければ良いんだね」「……ウミを排除だと?」 トウマとニキがこちらを振り返り武器を掲げる。恋状態の効果で三人のパーティは強制的に解散させられていた。だけどトウマは迷っているような様子だ。 ウミは泣きそうになって懇願した
last update最後更新 : 2026-06-02
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第69話 師匠の出番

 配信コメントの無い海底は妙に静かである。 トウマたちはマーマン村へと戻ってきた。 村にはたくさんの岩が円形状に広がっている。岩をくり抜いて作ったのか岩の民家もあった。平たい岩の上にはマーマンやマーメイドたちが腰掛けたり、寝そべったりしている。みんなが具合悪そうな顔をしており、ゴホゴホと咳をしていた。水質が汚染されており、海水は紫色がかっている。水質の浄化スキルを使えるラズリーフを早く村に戻さなければいけない。トウマは表情をひきしめた。 村の入り口にはマーマン村長、ギースとその娘ノフィアが待っていた。やはりノフィアは村へリスボーンしたようだ。ウミが嫌そうに顔を歪める。トウマたちは近づいて行った。 ギースが申し訳なさそうに頭を垂れる。「三人とも、すまん! 話はノフィアから聞いた」「さっきのは一体、どういう事なんだ?」 トウマが尋ねる。ノフィアをちらりと睨みつけた。 ギースが左手でノフィアの髪をわしづかみ、低頭させた。「ほら、ノフィア。謝るのじゃ」「……ごめんなさい。皆さま、私はどうしても村を救いたくて」 ノフィアが涙ながらに声をこぼす。 ギースが辛そうに目を細めた。「ノフィア、お前、そこまで追い詰められていたのか?」「ごめんなさい。皆さま、お父様……」「すまんっ! 三人とも、どうか許して欲しい」 ギースが腰を深く折る。 トウマたちは顔を見合わせてゆっくりと頷いた。トウマがギースたちをまた見る。「事情があるのは分かった。だが、こういうのはもうやめて欲しい」「……ごめんなさい」 ノフィアが両手で目尻をこする。 ギースがステータス画面を出し、一枚のスキンカードを取り出した。トウマに差し出す。「お詫びなんじゃが、村に伝わるこのカードをお主たちにやろう。これで許して欲しい」「このカードは?」 トウマが受け取る。彼もステータス画面を出してカードを鑑定した。 ……ラヴリー天使の水着、魅せ評価B。 女性用の高級スキンカードである。銀色に輝くカードだった。魅せ評価がBということはそれだけ防御力が高い。 後ろにいたニキが反応した。「トウマさん、それは?」「女性用の水着だな。Bランクだ」「マジかよ! ウミちゃん、着てみれば!?」 ニキがウミに顔を向ける。彼女は無視してニキから距離を取った。ウミの態度には嫌悪が露わになっている。ニ
last update最後更新 : 2026-06-03
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第70話 壊れた腕時計

 その昔。 四月の終わりである。春のさわやかな空気の中、ユウマはるんるんと足を弾ませていた。小学校からの帰り道、通学路をスキップのような足取りで歩く。故郷の七見丘は田舎であり、辺り一面には田んぼが広がっていた。田んぼにはまだ水が張られていない。だけどもうすぐ田植えの時期だ。 今日はユウマの誕生日だった。両親からプレゼントをもらう日である。ケーキを食べる日でもある。ユウマはウキウキとして鼻歌を歌った。 しかし、小学校から帰ってくると家に両親はいない。リビングのテーブルの上には母からの置き手紙があった。 ……ユウマへ。お父さんが肺炎にかかったので病院へ行ってきます。誕生日おめでとう! 冷蔵庫にケーキが入っているから食べてね。 マジ? 大変だ。 お父さんが病気してしまった。 そう言えばお父さんは今朝から具合が悪そうだった。肺炎とはどんな病気なのだろう? 無事に回復すると良いんだけれど。(……俺の誕生日なのに) ユウマはがっくりと肩を落とした。テーブルの上にランドセルを置く。二階の自室へと戻り一人でテレビゲームを始めた。そんな折りである。 玄関のインターフォンが鳴った。扉の開く音がする。 誰だろう? ユウマは自室から飛び出して階段を降りた。玄関を開けて立っていたのは幼馴染みの中村真帆であった。右手には買い物袋を提げている。 ユウマはびっくりして口を開いた。「真帆ちゃん?」「ユウマ! 誕生日おめでとう!」 真帆は素敵なスマイルを咲かせている。彼女の左目の下の泣きぼくろがかすかに揺れた。「あ、ありがとう。今日はどうしたの?」「今日、おじさんもおばさんもいないんでしょ? ご飯作ってあげるわ」「ご飯!?」「うん。上がって良い?」「い、いいけど」「お邪魔します」 真帆が家に上がる。廊下を歩き、二人でキッチンへと行った。
last update最後更新 : 2026-06-04
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