結城深也(ゆうき しんや)と秘密裏に付き合って五年。周りの誰もが、私たちは犬猿の仲だと思っている。共通の友人・篠原雅(しのはら みやび)の結婚式の前に、独身パーティーが開かれた。雅の提案で、独身男性は全員が目隠しをして、その前を独身女性たちが歩くことになった。香りで女性の身分を当てて、一番好きな香りの女性と一日限定のカップルになるというゲームだ。私・水瀬凛(みなせ りん)はわざとゆっくり歩き、深也の目の前で一瞬だけ立ち止まった。しかし、目隠しが外されたその瞬間。彼が両腕で強く抱きしめていたのは、その幼馴染であり、ずっと心の中で忘れられない人、夏目杏奈(なつめ あんな)だった。「すげえな結城!あんなに香水が混ざってたのに、一発で杏奈ちゃんを当てたなんて。神様もお似合いだって言ってるぜ!」杏奈は感動で泣き出しそうで、深也も彼女を見下ろして甘やかすように笑っている。二人とも、ずっとその腕を離そうとはしない。二メートル離れた場所に立つ私は、ふと笑みをこぼした。昨夜、彼はベッドで私の胸元にある傷跡にキスして、結婚すると言っていたのに。どうして瞬きする間に、全部忘れてしまったのだろう。「結城さん、これは神様もが二人の恋を応援してくれてるんだよ。一日カップルになって、青春の続きをしろってさ」「そうだよ。結城さんなら条件も良くて、何年だって浮いた話一つないなんてさ。やっぱり心に決めた人がいたってわけかな」周囲の視線が、曖昧込めて深也と杏奈の間を行ったり来たりする。見つめられて耳を赤くした杏奈がポカポカと深也の胸を叩くが、彼はただ口元に笑みを浮かべているだけだ。「いい加減にしろよ。もう過ぎたことだし」否定も肯定もせず、話題にはぐらかした。「俺には他の匂いなんかよく分からなかったんだ。杏奈を選んだのは、学生時代と変わらないジャスミンの香りがしたからさ。間違えてここにいる他の子を抱きしめて、迷惑かけたらどうするんだよ?」その言葉に周囲からはヒューヒューと、からかう声が上がり、甘い空気はピークに達した。私も適当に笑い声を上げたが、無理に作った笑顔のせいで口元が引きつりそうだった。心の中に渦巻く感情が何なのか、自分でもうまく説明できない。ただひたすらに、胸の奥が酸っぱくて、ひどく渋い。
続きを読む