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過去の五年間に、さよならを
過去の五年間に、さよならを
Author: 深海鉱夫

第1話

Author: 深海鉱夫
結城深也(ゆうき しんや)と秘密裏に付き合って五年。周りの誰もが、私たちは犬猿の仲だと思っている。

共通の友人・篠原雅(しのはら みやび)の結婚式の前に、独身パーティーが開かれた。

雅の提案で、独身男性は全員が目隠しをして、その前を独身女性たちが歩くことになった。香りで女性の身分を当てて、一番好きな香りの女性と一日限定のカップルになるというゲームだ。

私・水瀬凛(みなせ りん)はわざとゆっくり歩き、深也の目の前で一瞬だけ立ち止まった。

しかし、目隠しが外されたその瞬間。

彼が両腕で強く抱きしめていたのは、その幼馴染であり、ずっと心の中で忘れられない人、夏目杏奈(なつめ あんな)だった。

「すげえな結城!あんなに香水が混ざってたのに、一発で杏奈ちゃんを当てたなんて。神様もお似合いだって言ってるぜ!」

杏奈は感動で泣き出しそうで、深也も彼女を見下ろして甘やかすように笑っている。

二人とも、ずっとその腕を離そうとはしない。

二メートル離れた場所に立つ私は、ふと笑みをこぼした。

昨夜、彼はベッドで私の胸元にある傷跡にキスして、結婚すると言っていたのに。

どうして瞬きする間に、全部忘れてしまったのだろう。

「結城さん、これは神様もが二人の恋を応援してくれてるんだよ。

一日カップルになって、青春の続きをしろってさ」

「そうだよ。

結城さんなら条件も良くて、何年だって浮いた話一つないなんてさ。

やっぱり心に決めた人がいたってわけかな」

周囲の視線が、曖昧込めて深也と杏奈の間を行ったり来たりする。

見つめられて耳を赤くした杏奈がポカポカと深也の胸を叩くが、彼はただ口元に笑みを浮かべているだけだ。

「いい加減にしろよ。もう過ぎたことだし」

否定も肯定もせず、話題にはぐらかした。

「俺には他の匂いなんかよく分からなかったんだ。

杏奈を選んだのは、学生時代と変わらないジャスミンの香りがしたからさ。

間違えてここにいる他の子を抱きしめて、迷惑かけたらどうするんだよ?」

その言葉に周囲からはヒューヒューと、からかう声が上がり、甘い空気はピークに達した。

私も適当に笑い声を上げたが、無理に作った笑顔のせいで口元が引きつりそうだった。

心の中に渦巻く感情が何なのか、自分でもうまく説明できない。

ただひたすらに、胸の奥が酸っぱくて、ひどく渋い。

今日家を出る前、私たちは同じボディソープを使ったばかりなのに。

それは深也が五年間ずっと愛用している、ウードの香りだった。

重すぎる香りだから、別のものに変えたいと言った時、彼は子犬のような目で私を見つめてきた。

この香りに慣れているから、変わらないものだけが自分を安心させてくれるのだと。私と同じように。

その言葉にすっかり絆された私は、思わず二箱もまとめ買いして、何年分もストックしてしまった。

今、私は彼の目の前に立っていて、全く同じ香りを纏っている。

気づかないはずがないのだ。

「あれ……凛、なんだか結城と香りが似てない?」

私のそばを通りかかった雅が、ふと疑問を口にした。

その一言で、場が一瞬だけ静まり返る。

私と深也が犬猿の仲であることは、ここにいる全員が知っている。

この五年間、私たちは互いにプロジェクトを奪い合い、相手を蹴落とそうとしてきた。

しかし深也は五年間を耐え抜き、倒産寸前だった結城グループを立て直して、今では私と肩を並べるまでにもなった。

まさか、私とは全部演技だったのか?

探るような視線が一斉に私に向けられる。

「どこにでもある安物ボディソープだからな。被ってもおかしくないだろ」

深也はタイミングよく咳払いをし、何気ないように言った。

彼はごちゃ混ぜの匂いが嫌いだ。

だから私に香水をプレゼントしたこともないし、私たちの家にはボディソープと洗濯洗剤の匂いしかない。

匂いが混ざると、決まって彼は悪夢を見るのだ。

夜中に目が覚めるたび、彼は狂ったように私をベッドに押し倒した。

まるで私の身を自分の匂いで染め上げようとするかのように。

一生、私を彼だけのものにするために。

いつも目を真っ赤にして、息ができないほど私を激しく求めた。

昨夜だってそうだった。

それなのに今、私は「どこにでもある安物」呼ばわりだ。

「ええ、帰ったらすぐボディソープを変えてやるわ」

胸元にある傷跡がズキズキと痛む。

私はそこに手を当て、ふっと笑った。

「クズとお揃いなんて、本当に嫌よ」

「凛、今なんて言った?」

部屋の空気が一気に凍りつく。

深也は眉間にしわを寄せ、私を睨みつけた。

彼は昔から、私からの一線を引くような言葉を極端に嫌う。

しかし今日の深也には、怒る正当な理由がない。ただこうして私を睨みつけることしかできないのだ。

別の女を抱きしめろと命令したのは私だというのか?

冷笑しつつ、言い返してやろうと口を開きかけたその時。

せっかくのパーティーを壊されるのではないかと焦った雅が、慌てて間に入ってきた。

「ちょっと凛……私のお祝いの日なんだから、大目に見てくれない?

そういえば、凛ってすごく理想が高いけど、いい相手は見つかったの?

もしフリーなら、紹介してあげるよ」

「いるわよ」

私は周囲を見渡し、部屋の隅にいる深也ともう一人をちらりと見て笑った。

「週末に婚約するの」
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