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第4話

作者: 深海鉱夫
「何の日なんだ?」

深也の顔に微かな戸惑いが浮かぶ。

私一人だけが、馬鹿みたいに覚えているかのようだ。

彼と結婚する約束を。

そして、あのバスケットボールが飛んできた時、彼と一緒にいたいと願ったことを。

呆然とする彼の顔を見ていると、胸の奥でくすぶっていた悔しさが、ふっと消えた。

「なんでもないわ」

杏奈の足音がだんだんと近づいてくる。

「後で家に帰ってから話そう」

彼は袖口を整え、振り返りもせずに前へ歩き出した。

「先に行く。お前は杏奈に見つからないようにしろ」

「深也さん、ここにいたのね。すごく探したんだから」

深也は半歩横に移動し、私を物陰に隠す。

杏奈は彼の袖口を引っ張り、甘えるような声を出した。

「深也さん、飛行機が遅れちゃってね、都心のホテルがどこも取れなかったの……

今夜、お家に泊まってもいい?」

そこは私と深也が一緒に暮らす家だ。

彼は無意識のうちに断ろうとしたが、その言葉が口から出る前に杏奈が言葉を重ねた。

「おばさんがね、明日遊びにいらっしゃいって言ってくれたの。

深也さん、ついででいいから、明日私を一緒に連れて行ってよ」

この五年間、深也はいつも、母親のことは自分が何とかすると言っていた。

それでも、私が彼の母親の前に姿を現すたびに、髪を掴まれ、ビンタを食らわされるハメになるのだ。

一方で、杏奈は昔から彼の母親のお気に入り。

深也は長い間、沈黙した。

私の心が窒息しそうになった時、彼は口を開いた。

「わかった」

宙に浮いていた私の心は、もう揺れ動くことはない。

ただ地面に叩きつけられ、完全に息絶えただけだ。

スマホが何度も鳴った。

【凛、今夜は一応、家に帰ってこないでくれ】

【杏奈に見られて、俺たちのことが母さんにバレるとまずいさ】

正直言うと、もう明日を待つまでもない。

彼がずっと杏奈や自分の母親と一緒にいたとしても、私にはもう何の不満もない。

私は夜の闇に紛れて家に帰り、大切なものだけをスーツケースに詰め込んだ。

どうでもいいものは、すべてゴミ箱に捨てる。

ベッドサイドの引き出しからカルテを見つけた時、胸の奥が再びズキズキと痛んだ。

昔、深也が会社を救うために、裏社会の連中のビジネスを奪ったことがあった。

奴らは彼を拉致し、痛い目を見せようとしたのだ。

当時、結城家は崖っぷちで、誰も助けようとはしなかった。

警察に通報し、たった一人で彼を助けに向かったのは私だ。

混乱の中、真っ赤に焼けた焼きごてが突き出される。

私は彼を庇い、あと少しで心臓を貫かれるところだった。

あの日、病院のベッドの傍らで深也は跪き、私の告白を受け入れてくれた。

そして震える手で私の傷跡に触れ、目を真っ赤にして誓ったのだ。

五年待ってほしいと。

五年後には必ず私と同じ高みに立ち、決して身分違いの苦労はさせない、と。

この数年間、プレゼントを欠かしたこともなく、彼の愛は確かだった。

公にはできない関係だったが、家の中では私の言うことに何でも従った。

その独占欲が異常なほどで、私が他の男と少し親しくしただけで、何日もベッドで私を抱き潰し、自分の名前を何度も何度も呼ばせた。

私はそんな深也を、卑劣にも楽しんでいたのだ。

杏奈がいない隙を狙って、彼の弱みにつけ込んだことも認めている。

今は、夢から覚めてしまった。彼女は帰ってきたのだ。

私の負けだ。

スーツケースを引きずりながらゆっくりと階段を下り、ハイヤーを呼ぼうとした時のこと。

パーティー会場でずっと私を見つめていたある人が、ニコニコと笑いながらクラクションを鳴らした。

「どうしてここに?」

呆気に取られる私をよそに、彼はごく自然に車のトランクを開けた。

「ご機嫌取りだよ。

水瀬のお嬢様がやっと政略結婚に同意してくれたんだ。

少しは誠意を見せないとね」

タダの運転手で、使わない手はない。

無言でスーツケースを車に積み込もうとすると、彼が進んで手伝ってくれた。

荷物が滑り、不意に私たちの手が触れ合う。

慌てて手を離そうとしたその時、背後から、深也の不機嫌そうな声が響いた。

「凛、一晩外で過ごせって言っただけで、わざわざ他人に付き添わせる必要ある?」
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