「事業提携だけなら、他にいくらでも方法はあるでしょう。わざわざ……人生まで、差し出す理由が分からない」 一度、言葉に詰まる。 胸の奥がざわついて、鼓動が耳に響いた。「それに……」 視線が揺れた。 冴の方を見ることができず、テーブルの木目に目を落としたまま、絞り出す。「どうして、女性との婚姻じゃないんですか」 理屈じゃない。常識とか、前例とか、そういうものを並べたいわけでもない。 ただ――この話が現実だと認めてしまうのが、怖かった。「……どうして、俺たちなんですか」 最後の一言は、ほとんど祈りだったけれど、その一言に、父さんはあからさまに顔を顰める。 冴の父はその目でのやりとりに気付くと、父さんに代わって答えた。「逆に聞こう。今の時代、女性でなければならない理由が、どこにある?」 その答えに、俺も、冴も言葉を失った。 女性に、配偶者に出産を求めている訳ではないと分かったからだ。 “養子”という言葉が頭に浮かぶと同時、俺と冴は互いに顔を見合わせた。 だって、そもそもその合理的な考え方で後継者を繋いでいくのならば――「お前たちは、私たちがなぜ実子を設けたのか疑問に思っているだろう。 答えは単純だ。先代――つまり俺たちの父からの命令だ」 父さんは脚をテーブルの下で組み替えると、忌まわしい記憶を見つめ返す様に眉間に皺を寄せた。「昔の時代、養子を迎えるなどというのは、家の血を残すことに対する失敗の証。怠慢の証と見なされる。女性を孕ませることができない者は、家の恥として扱われる時代だった。 ……しかし、私が当主となった今。香月家が重んじているのは、血そのものじゃない。香月流という“型”と“思想”を、寸分違わず次代へ残すことだ。ただし、それは“兄弟全員に適用される原則”ではない」 その言葉を、冴の父親は黙って聞いていた。 父さんは筆で書かれた我が家の家系図をテーブルに広げると、俺と冴にそれを見せつけるように言った。「香月家は、家族ではない。組織だ。必要な場所に、必要な人間を配置する。この家に生まれ落ちた者には、それぞれ役割がある」 父さんの口から、家族観を言葉で聞かされるのはこれが初めてだった。 万年筆をそっと滑らせ、順に指し示していく。「長男の百合は“顔”だ。香月家の顔として立ち、血統の正当性を示す存在
Последнее обновление : 2026-04-14 Читайте больше