「さーくんなんか、大嫌い! もう、二度と話しかけないで!」 拒絶の言葉を背負って走り去る美森。その背後で、黒瀬が勝ち誇ったように、冷ややかにほくそ笑んでいるのが見えた。 世界で一番大切に、宝物のように守ってきたものが、指の間から砂のように零れ落ちていく。救いたいと願ったその手で、彼を最も深く傷つけてしまった。 あの日から、俺の中で黒瀬宗佑は明確な「敵」となり、美森を失うという底冷えするような恐怖は、俺の心に一生消えない醜い痣を刻みつけたのだ。 * 初等部、中等部と進んでも、美森はあの日放った宣言を頑なに守り、俺を徹底して避け続けた。 けれど、俺たちの間の溝が深まっていくほどに、奇妙な違和感が募っていった。美森は鋭い言葉で俺を拒絶した直後、まるでその喧嘩の根本的な原因を忘れてしまったかのような、所在なげな表情を浮かべることがあった。 見かねた玲央と苑真が仲直りを促したり、諍いの理由を尋ねたりしても、美森はただ困惑したように眉を寄せるだけだった。「だって、冴が急に意地悪してきたんだ」 結婚の約束を反故にされた絶望も、黒瀬に毒を吹き込まれたあの日の屈辱も。美森の中では、まるで擦り切れたフィルムのように、肝心な記憶の断片が欠落しているようだった。 絶望的な断絶。けれど、皮肉にもそんな彼の注意を唯一引く方法があった。 それが「意地悪」だった。 優しく微笑んでも無視されるのなら、嫌がることをしてでも、その冷淡な瞳に俺を映したかった。 「やめて」という拒絶でもいい。「大嫌い」という罵倒でもいい。何でもいいから、彼と繋がっていたかった。 中等部の二年になる頃には、美森は誰もが息を呑むような、魔性を孕んだ美貌を備え始めていた。 校内を歩くたびに向けられる、周囲の浮ついた、あるいは湿り気を帯びた視線の数々。それが、俺の神経を逆なでし、苛立たせる。「冴、香月のことどう思う? あいつ、すげー綺麗だよな」 同級生たちの下劣な好奇心に、俺はわざと吐き捨てるように、冷酷な言葉を重ねた。「あんなの、ただのポンコツだろ。全然可愛くない。ブスだよ」 その一言で、周囲の熱が急速に引いていくのが分かった。 俺ですら、もう二度と触れることのできない聖域を。 お前らごときが、汚れた目で見るな。 近づくな。 俺から奪うな。 守っているつもりで、俺
Последнее обновление : 2026-05-05 Читайте больше