そんな時、冴がすっと前に出て、俺たちを取り囲む親族に向かって言った。「失礼します。美森さんの顔色が悪いようなので、奥の部屋で休んでも宜しいですか」 波風を立てない、穏やかだが確かな命令口調。 それを否定する者はいなかった。 さっきまで睨みつけるような視線を送っていた父さんも母さんも、冴の言葉には黙って従う。 冴は俺の両肩を抱くようにして立たせると、襖を閉じてから静かな声で言った。「……本当に大丈夫か?」 息を吐きたいのに、うまくできない。 帯を緩めようと手を入れたが、それより奥にある腰紐がきつく喰い込んでいるのだと気づく。 思わず壁に寄りかかり、口元を抑える。 その瞬間、冴がそっと腕を回し、倒れないように支えた。 肩と脚を優しく抱き上げると、自然と横抱きにされる。「お、降ろして!女扱いしないでってば!」「本当に可愛げがないな、お前は。具合が悪い時くらい、黙ってしおらしくしろ」 廊下を進んでいくたび、振袖の裾が揺れて、自分の心も揺れている気がした。 使用人とすれ違わなくて良かった。こんなことされて、もはや生き恥だ。 到着したのは、今は帰省の時くらいしか使わない、冴の自室だった。 そのままベッドに優しく降ろされ、冴は俺の背後にまわる。「緩めるぞ」「待って、解いたら自分で結べない……」 家では和装に慣れていても、さすがに矢帯結びは自分では無理だ。 これから写真撮影もあるし、帯を解いたまま戻らないと変な誤解を生みかねない。 でも冴は、まるで何事もないような顔で言った。「俺が出来る。だったら問題ないだろ」 言われるまま、冴の手は帯に触れ、するすると緩めていく。締め付けていた数本の腰紐もあっさり解かれ、長襦袢一枚の姿にされると、さすがに頬が熱くなる。 けれど、冴は気を遣って、部屋にあった上着を前にかけてくれた。「……ありがとう」「別に」 顔もこちらに向けず、冴は隣に腰を下ろした。 静かな沈黙が流れる中、時計を見ると席を離れて十五分。このあとは記念撮影もあるし、早く戻らなければならない――でも、正直なところ、戻りたくなかった。 外側だけを作り笑いで褒められる自分が惨めで、どうすることも出来ないと分かっているから。 俯いたままの俺に、冴がゆっくり顔を向けた。「……お前にしては、頑張ってると思
Последнее обновление : 2026-04-21 Читайте больше