死ぬほど大嫌いな幼馴染と、政略結婚することになりました。

死ぬほど大嫌いな幼馴染と、政略結婚することになりました。

last update最後更新 : 2026-05-17
作者:  五慈あおい剛剛更新
語言: Japanese
goodnovel18goodnovel
評分不足
66章節
834閱讀量
閱讀
加入書架

分享:  

檢舉
作品概覽
目錄
掃碼在 APP 閱讀

故事簡介

溺愛

純愛

BL

幼なじみ

財閥

高校生

学園

誤解

偽装恋人

全寮制男子校・鳳里学園で生徒会長を務める後堂冴(攻め)と、副会長の香月美森(受け)。 幼馴染で名家の跡取り同士の二人は、そのカリスマ性と美貌から、一般生徒たちからの羨望の的だった。 美森に幼少期から片想いを寄せる冴は、気を引くために幼等部の頃から意地悪し続けた結果、美森は冴のことが「死ぬほど大嫌い」になってしまう。 そんなある日、犬猿の仲であるは、父親たちから「政略結婚」を強制されて……? 不器用でクールな「十年越しの執着」を拗らせる俺様会長×強気毒舌美人副会長の熟成系&愛憎ドロドロのラブストーリー。

查看更多

第 1 章

第1話 お前のことが大嫌い

「うるせぇブス、バカなのはお前の方だろ」

今でも耳の奥にこびりついて離れない。小学生の時に投げつけられた、あの言葉。

低く、湿って、吐き捨てるような声。冴はいつだって、俺の心臓の一番柔らかいところを、泥靴のまま正確に踏み抜いてきた。

大嫌い。大嫌い。冴なんて、大っ嫌いだ。

何度心の中で呪文のように繰り返しても、足りない。俺は、冴という存在のすべてが忌まわしかった。

意地悪で、冷淡で、傲慢で。いつだって高いところから俺を見下して、面白そうに嘲笑って。

それなのに、冴は俺の人生に深く根を張り、影のように、あるいは消えない痣のように、ずっとまとわりついてきた。

初等部の頃から――俺は、後堂冴のことが嫌いで仕方がなかった。

「美森、これ見てみて」

「……なに?」

向けられた無垢な笑顔に、つい警戒を緩めてしまう。差し出された冴の手のひらを覗き込んだ、その瞬間。

そこから勢いよく弾け出した黒い影に、俺は喉を震わせて悲鳴を上げた。

「うわぁっ!!」

俺が虫を、生理的な恐怖を感じるほど苦手だと知っていて、冴はわざとやる。

腰を抜かして震える俺を、彼は心底楽しそうに、愛おしいものを見るような歪んだ瞳で眺めていた。

子供の頃は、そんな分かりやすい悪意ばかりだった。

嫌いなものを突きつけ、転ばせ、衆目の前で悪口を並べて恥をかかせる。

けれど、何より俺を追い詰めたのは、彼との絶望的なまでの「差」だった。

勉強もスポーツも、何をやっても冴には掠りもしない。

掲示板の順位表でも、運動会のリレーでも、冴の名前は常に頂点にあり、俺はその背中を砂を噛むような思いで見上げるしかなかった。

「ポンコツブス」

いつしか、それが俺の代名詞になった。

冴が囁き、冴の周りの取り巻きたちが、甘い毒を啜るようにそれを真似る。

笑われるたびに胸の奥がぎゅっと、引き絞られるように痛むのに、俺は喉を塞がれたみたいに何も言い返せなかった。

中学に入ると、それはもはや単なる「子供のからかい」という皮を脱ぎ捨てた。

冴の言葉はより鋭利に、氷のように冷たく研ぎ澄まされていく。

かつての冗談めかした薄笑いは消えて、代わりに宿ったのは、対象を完膚なきまでに蔑むような、底冷えする瞳だった。

「お前、こんなのも出来ねぇのかよ。馬鹿じゃねーの? マジで」

放課後、夕陽の差し込む教室での一言だった。

逃げ場のないタイミングを計ったように、冴は俺の宿題を覗き込み、短く、重い溜息をつく。

その吐息一つ、一言一言が、俺の細いプライドを薄く削いでいく。

関わりたくない。声も聞きたくない。姿も見たくない。

そう願って距離を置こうとしても、冴は必ず俺の視界の端に現れた。

常に横から口を出し、否定し、嘲笑う。まるで、俺の心がゆっくりと壊れていく様を、最前列で鑑賞しているかのように。

冴に刻まれた言葉は、呪詛のように体のなかに沈殿した。

独りきりの帰り道。重い布団に潜り込んで目を閉じた暗闇の中。

少しずつボロボロになっていく心。

時間が経てば、いつか麻痺して慣れると思っていた。大人になれば、こんな傷など、かすり傷ですらなくなると信じたかった。

けれど、現実は違った。

冴を嫌う気持ちは、風化するどころか、堆積する時間の重みと共に、静かに、どす黒く膨らんでいった。

――まるで、この感情が、いつか内側からすべてを食い破って爆発する日を、じっと待ち侘びているみたいに。

「美森様、学園に戻る準備が整いました。お支度はお済みですか?」

冷たい畳の上に正座したまま、使用人の棗は、一寸の狂いもない所作で深く頭を下げた。

その声には温度がない。俺の名前はひとりの人間を呼ぶためのものではなく、香月という家系における「役割」として扱われているようだった。

「今、行く。……父さんと母さんは?」

「旦那様は分家のご親族との会食のため、朝一の便で京都に向かわれました。奥様は、本日のお教室で使われる花の選定をされております。……今は、お声がけしない方が宜しいかと」

それは「会うな」という遠回しな言葉だった。

それ以上何も言わず、静かに襖を閉める。

俺は学園指定の重いブレザーに腕を通し、鏡の前でそっとネクタイを結んだ。

鏡の中に映るのは、香月家の三男として外に出すのに恥じない完成された「人」の姿。そこに、俺自身の意思や色彩が入り込む隙間なんて、どこにもない。

指定鞄を手に取り、長い廊下に出ると、ふと足が止まった。

母の部屋の前。薄い障子の向こうから、凛とした、けれどどこか拒絶を感じさせる花の香りが漂ってくる。

声をかけようか。一度だけ立ち止まり、唇を戦わせたけれど――結局、空気は動かなかった。

そもそも、声をかけたところで、母がこちらを振り返ることはない。

彼女にとっては、季節を先取りした一輪の枝の傾きの方が、目の前の息子の声よりも、ずっと守るべき価値があるのだ。

俺はそのまま踵を返し、澱んだ空気の中、無言のまま玄関口へと向かった。

展開
下一章
下載

最新章節

更多章節
暫無評論。
66 章節
第2話 香月家の三男
 俺の家は、歴史ある香月流華道の家元。  数百年続く流派で、名を聞くだけで背筋を伸ばす人間も多い。  屋敷は無駄に広く、廊下は長く、人の気配が薄い。  父はその当主。香月流を次の代へ、さらにその先へと繋ぐことだけを考えて生きている人だ。感情よりも格式、愛情よりも体裁。  父にとって家族とは、血の繋がった家の構成員でしかなかった。 嫁いできた母も、花道の名門の生まれ。  香月流に相応しい器量と技量を持つ女性で、今は華道教室の師範として多くの弟子を抱えている。  母の周りにはいつも人がいるのに、その輪の中に、俺の居場所はなかった。 そして俺の上には、百合と雲雀という兄が二人いる。  どちらも成績優秀で、立ち居振る舞いも美しく、香月の名を背負うに相応しい存在だった。 そんな中、俺は三番目に生まれた末っ子。  両親は、相当な裏金を払って、女児が産まれるよう医学的介入をした。  兄たちと並べて書かれた命名書には、「百合」「雲雀」と並んで「美森」の名前。  柔らかく、可憐で、花の名を連想させる“娘”のための名前だった。  それで生まれてきたのが、俺。  望まれていなかった事実は、誰にも言われなくても分かった。家の中での扱い、視線の温度、かけられる言葉の少なさが、すべてを物語っていたから。  俺は香月家にとって、余った存在。跡取りにもなれず、期待もされず、ただ「そこにいる」だけの三男。  格式ある屋敷の中で、俺の居場所は、産まれた瞬間からどこにも用意されていなかった。「それではいってらっしゃいませ、美森様。新学期が実り多いものとなりますよう」 棗は車のドアを押さえたまま、深く一礼した。  その所作は、屋敷の中と変わらないほど完璧で、ここが学園の正門前であることを一瞬忘れさせる。「ありがとう、棗。行ってくる」 黒塗りのセダンから足を下ろした途端、空気が変わった。  視線が、ざわりと集まる感覚。  制服に身を包んだ生徒たちの会話が、一拍遅れて途切れる。  同時に、少し前に停められていた高級外車――年代物のクラシックカーのドアが開いた。磨き上げられたボディに朝の光が反射している。  そこから現れたのは冴だった。  長い睫毛、鋭い目元、整いすぎた輪郭。立っているだけで、絵に
last update最後更新 : 2026-04-11
閱讀更多
第3話 鳳里学園高等学校
 私立鳳里学園高等学校。  政財界、名門家系、伝統芸能の家元――選ばれた人間だけが名を連ねる、閉ざされた学び舎だ。  初等部から高等部までが、ひとつの広大な敷地に収められ、外部との境界は高い塀と厳重な警備で隔てられている。  高等部のみが全寮制。原則は相部屋で、個人の生活よりも“集団としての品位”が優先される。  例外は、生徒会。  学園の顔であり、秩序の頂点に立つ者たちだけに、専用フロアと個室が与えられる。特別扱いであることを隠しもしない、その露骨さすら、この学園では当然だった。  俺は副会長。冴は、生徒会長。立候補制、なんて建前は一応ある。  でも実際には、毎年必ず囁かれる俗っぽい伝統――「抱きたい」「抱かれたい」ランキングが、すべてを決めてしまう。  抱かれたいランキングで、圧倒的な票数を叩き出し、一位に立った冴。誰も近づけない冷たさを併せ持つ、絶対的存在。  そして、抱きたいランキングで冴に次ぐ票を集め、一位になった俺。  自分でも理由は分かってる。顔が、あまりにも母親に似すぎているのだ。  冴ほどのカリスマもなければ、愛想がいいわけでもないのに、勝手にイメージを仕立て上げられている。  そうして、必然みたいに俺たちは、生徒会長と副会長という席に収まった。  周囲から見れば、並び立つだけで絵になる二人。学園が誇る“象徴”なんだろう。  けれど、当の俺たちは、顔を合わせれば火花を散らす犬猿の仲だ。「美~森♪ おはよ」 「新学期なのに、ご機嫌斜め? なんかイライラしてるねぇ」 「……苑真、玲央。 おはよう」 会計の花柳苑真と、総務の守屋玲央 。  二人もまた、俺と冴の幼馴染で、生まれた時から同じ世界に閉じ込められてきた存在だ。  実家が華道の家元である俺は、物心ついた頃から「香月」の名を背負って生きてきた。  伝統、格式、家の歴史。それらに縛られながらも、少なくとも“型”は決まっていて、進むべき道は用意されていた。  苑真の母は海外の映画界で名を馳せるドイツ人の大女優、父は数々の賞を手にしてきた脚本家。  テレビの向こう側でしか見ないような人間たちが、彼にとっては「両親」だった。  玲央の家は、不動産業で莫大な財を築いた一族
last update最後更新 : 2026-04-11
閱讀更多
第4話 悪口の応酬
 長期休みが終わり、それぞれの実家という“檻”で過ごした俺たちに、新学期と同時に突きつけられたのは、逃げ場のない現実だった。  生徒会室に積み上げられた書類の山。年間行事、予算案、学園側への起案書。  どれもが形式ばっていて、息が詰まるほど重い。面倒くさい。  窓際の机に座る冴は、頬杖をついたまま、無表情で一枚一枚プリントを捲っていく。紙をめくる音だけが生徒会室に響いていた。「冴、こっちはもう終わった。サインしておいて」 俺が束になった書類を差し出すと、冴は一瞬だけ動きを止めた。ゆっくり顔を上げ、俺を見据える。  その目には、久しぶりに会った幼馴染を見る色なんて微塵もない。「……また今日から、お前の顔を見る日々に逆戻りか」 低く、抑えた声。噛みしめるように、冴は続ける。「最低最悪の日々の始まりだな」 胸の奥が、冷たく軋んだ。それでも、黙っていられるほど俺は大人じゃない。「……その言葉、そっくりそのまま冴に返してあげる」 俺は書類を机に置く音を、わざと少し強くした。「俺だって、お前の顔なんか見たくない。というか、そんなこと一々言われなくても同じように思ってるから、話しかけてこないでくれる? 生徒会がなければいいのになって、毎日思ってるから」 言葉が落ちた瞬間、空気が凍りつく。窓の外の春の光が、嘘みたいに遠く感じた。  冴の口角が、わずかに歪む。「へぇ。じゃあ今すぐ辞めればいいだろ。どうせお前は、俺がいなきゃ何も出来ねぇくせに。それか、リコールでもしてやろうか?」 「それはどうかな。俺の親衛隊が黙ってないだろうし。少なくとも、性格最悪な会長よりは、俺の方がマシだと思うけど」 視線がぶつかり合う。 一歩も譲らない沈黙。下手をすれば、ここで机がひっくり返ってもおかしくなかった。  たまらなくなったのか、玲央が俺の肩にそっと手を置いた。  その手は、場を壊さないようにと気を遣っているのが分かるほど、慎重だった。「新学期初日から、そんな言い合いすんなって……」 苦笑いを浮かべながら、玲央は二人の間に視線を行き来させる。「俺は寂しかったんだけどな。プラハで過ごしてる間も、美森と冴、それに苑真のこと、結構考えてたし」 一瞬、場の空気が緩みかける。「……あ、お土産も買ってきてるんだぜ!」 その言葉に、苑真が間延びした
last update最後更新 : 2026-04-11
閱讀更多
第5話 親衛隊は夜枷の相手
 とんとん、と控えめなノックが扉を叩く。  その音だけで、誰が来たのか分かるあたりが、もう日常になってしまっているのが嫌だった。「……入れ」 冴が短く答えると、音も立てずに扉が開いた。  現れたのは、四人の男子生徒。全員が小柄で、よく整った顔立ちをしていて、制服の着こなしも洗練されている。「お疲れ様です。お休み中にお預かりしていた、一般生徒からのプレゼントをお持ちしました」 先頭に立つ生徒が一礼し、慎重に抱えていた箱を差し出す。「数が多いのですが、中身はすべて開封して確認済みです」 慣れた報告。それだけで、この学園にどれだけ異常な数の視線と好意が集まっているかが分かる。「サンキュー」 苑真が軽く手を挙げて答えると、制服の胸元から覗くシルバーのチェーンがきらりと揺れる。その仕草一つで、親衛隊の視線が一斉に集まった。  このやたらと小柄で、均整の取れた顔をした面々は、俺たち生徒会メンバーの親衛隊だ。  学園内での“抜け駆け”を制止し、無断で近づいたり、触れたりする輩が出ないように目を光らせる。  そして毎月、山のように届く手紙や贈り物を管理し、選別し、こうしてまとめて持ってくる。  それもまた、この鳳里学園では、当たり前のように続いてきた伝統だった。  苑真は、その中の一人――自分の親衛隊長の前に立つ。  近くで見ると、彼の睫毛が微かに震えているのが分かった。  憧れと緊張と、期待が入り混じった表情。苑真は何の躊躇もなく、彼の額に軽くキスを落とす。「ご苦労様。……あとで部屋、来れる?」 低く、甘い声。それだけで十分だった。「は、はいっ……! い、いつでも大丈夫です……!」 三春は耳まで真っ赤に染めて答え、他の親衛隊員たちも一様に視線を逸らしながら顔を赤らめる。羨望と嫉妬が混じった、分かりやすい反応だ。ほどなくして、四人は足早に部屋を出ていった。  扉が閉まる直前まで、名残惜しそうな視線が苑真に向けられていたのを、俺は見逃さなかった。「……相変わらず、最低だね」 思わず漏れた俺の呟きに、玲央も露骨に顔をしかめる。「節操って言葉、辞書にないんだろ」 苑真は悪びれもせず肩をすくめる。「選ばれる方も嬉しいんだから、別に良いだろ」 苑真は下半身も自由奔放だった。  親衛隊の中でも特に信頼している隊長を
last update最後更新 : 2026-04-11
閱讀更多
第6話 お前と同じ空気を吸いたくない
 視線を向けた先で、冴が受け取った荷物をすべてゴミ箱に放り込んでいる。箱ごと、手紙も包装も関係なく、雪崩のように。  冴の親衛隊から届くものは、量も質も桁違いだ。  高級ブランド、海外限定品、手紙は何十通。それでも、冴は一切目を通さない。  欲されることに慣れすぎているし、期待されることに飽ききっているのだ。「……そんな風にするなら『そもそも受け取れない』って断らせたら?」 俺はゴミ箱を埋め尽くす色とりどりの箱を指さした。  包装紙も、ラッピングのリボンも、カードも――すべてが無惨に押し潰されている。「用意した子たちが可哀想。こんなふうに、開けもせずに捨てられるなんて」 一瞬、生徒会室の空気が止まった。 冴は、ゆっくりと鼻で笑った。  そして、心底くだらないものを見る目でプレゼントを見やった。「それはそれで、不満が溜まっておかしなことする奴が出てくる」 そう言いながら、冴は俺と目も合わせずにプリントの束を一つ横へ避ける。「そんなことも分からない辺り、美森は初等部からやり直した方がいいんじゃないか」 淡々と。あまりにも平然と。まるで“事実”を述べているだけだと言わんばかりに。  その瞬間、口元がひくりと引き攣ったのが、自分でも分かった。  ――どうして、そこまで言われなきゃいけないの?  ――どうして、そんなに見下した目で俺を見るの?  でも、冴に一方的に踏みつけられるのは、死ぬほど嫌だった。「初等部からやり直せるなら、やり直したいね」 俺は、わざとゆっくりと笑った。  冴と同じ温度で、同じ刃を返すために。「別の学校で。……少なくとも、こんなふうに毎日、冴の顔を見なくていい場所に通いたかった」 冴の視線が、初めて俺を正面から捉えた。空気が、ますます軋んでいくのが分かる。「はっ。逃げる気満々じゃねぇか」 「逃げ? 違うな。賢明な選択だよ」 「自分が下にいる場所から、逃げたいだけだろ」 「少なくとも、冴みたいに人の好意をゴミみたいに扱う人間と同じ空気を吸うよりはマシだと思うけど」 「好意? 笑わせんなよ。自己満足だろ」 「その子達の好意があっての、生徒会長って役職につけてるのに。本当に最低。その顔見てるだけで、吐き気がする」 「黙れよ。……全校生徒から『抱きたい』だなんて不名誉なラ
last update最後更新 : 2026-04-11
閱讀更多
第7話 親衛隊副隊長と俺
 生徒会専用フロアは、学園の中でも切り離された、特別な場所だ。  一番奥が冴の部屋。その向かい側が俺。  俺の隣が玲央で、玲央の向かいが苑真。たった四部屋だけ。  その代わり、部屋の広さは一般生徒の三倍近くあって、ベッドも机も収納も、生活家電まで最初から揃っている。  談話室も自販機もないけれど、不便だと感じたことは一度もなかった。 ただひとつ。「おはよう」から「おやすみ」まで、冴と鉢合わせる可能性が常にあることを除いて。「美森様。夜分遅くに失礼します」 控えめなノックが二回。その直後、廊下の静けさを乱さないよう配慮された低い声が続いた。「ご相談させて頂きたいことがあります」 時計に目をやると、すでに日付が変わる直前だった。この時間帯に訪ねてくる人物は限られている。内心で察しながらも、俺はドアへ向かう。  扉を開けると、予想通りの人物がそこに立っていた。  俺の親衛隊、副隊長――黒瀬だ。  隙のない佇まい。廊下の照明を受けて、眼鏡の奥の瞳が静かに光る。「あれ? 羽鳥は?」 何気なく親衛隊長の名を出すと、黒瀬は一瞬だけ視線を落とした。その沈黙は、ほんの刹那だったはずなのに、なぜか気になる。「取り込み中で……代わりに、俺が来ました」 それ以上の説明はなく、必要最低限の言葉だけが返ってくる。  部屋へ招き入れると、黒瀬は一歩も踏み込みすぎない位置で立ち止まった。距離感が正確すぎて、逆に意識してしまう。  背筋は伸び、無駄な動きは一切ない。表情は相変わらず淡々としていて、感情の起伏を読み取るのは難しい。  物静かで、クール。それなのに――俺に向けられる視線だけは、いつも真っ直ぐだ。「敬語じゃなくていいよ、二人きりの時は」 「……親衛隊の掟なので」 黒瀬の実家は、母親同士の縁が深い茶道の家元。  冴や苑真、玲央よりも小さいころから顔を合わせる機会は多くて、親同士が夜遅くまで話し込むと、黒瀬がうちに泊まるのもよくあることだった。  同じ飯を食べて、一緒に風呂に入って、ひとつの布団に寝る。一個下の黒瀬は、俺にとっては弟みたいに可愛い存在だった。  けれど、小学生の内にあっさり身長は追い抜かれ、きっと学力も黒瀬の方が成績はいい。  一年の中でも、毎回三位以内に入るとかなんとか。
last update最後更新 : 2026-04-11
閱讀更多
第8話 添い寝の相手
「……昔みたいに、添い寝して欲しい時はいつでも呼んで下さいね」 低く、穏やかな声。懐かしい、話し方。 それは、俺を助けるというより黒瀬本人の願いに近かった。「馬鹿、何言ってんの。もう高校生だよ俺たち」「俺が隣に居ると、よく眠れたじゃないですか」 そのまま額にキスされる距離まで近づかれるけど、黒瀬が俺に手を出してくることは絶対にないと信じているから、俺もそのまま避けなかった。「……平気、今は一人でも眠れるから」 黒瀬もその反応を予測済みだったらしい。額に唇が触れる寸前で、頬に触れていた手がそっと離れた。 黒瀬は深く一礼すると、静かに部屋を出て行く。その背中を見送り、扉を閉めようとしたその瞬間。向かい側の部屋のドアが、音を立てて開いた。「うわ……最悪」 思わず声が漏れる。 そこに立っていたのは、部屋着姿の冴だった。片手には財布。 寮の一階奥にある、売店へ向かう途中なのだろう。 最悪のタイミングで、鉢合わせだ。反射的にドアを閉めようとしたけれど――「……苑真にあんなこと言っておいて、」 低い声が、背中に突き刺さって来た。「自分も、親衛隊にちゃんと手を出してるんだな」「…………は?」 振り返り、眉をひそめる。「何それ。ていうか、覗いてたってこと? やめてくれない? マジで気持ち悪いんだけど」 俺たちの部屋にはドアスコープが付いている。話し声の時点で気づいていたんだろう。でも、盛大な誤解だ。黒瀬とはどう転んでもそんな関係にならない自信がある。「黒瀬は悪趣味だから、やめとけ。顔はそれなりでも、あの家自体、いい噂は聞かないし」 その言い方に、胸の奥がざらついた。「……お前に、俺と黒瀬の何が分かるの?」 きっぱり言い切ると、冴の表情が一瞬だけ固まる。 それ以上話す意味はない。そう判断して、再び扉を閉めようとしたら、ガッと強い力で扉が掴まれた。「ちょっと、何……!? キモいんだけど、触んないで!」 距離が一気に詰められ、襟を掴み上げられる。「顔が良ければ、誰でも触らせるくせに」 吐き捨てるような声。「そのくせ、変なところでお高くとまってるんだな。見てて、面白いくらい滑稽だぞ」 近すぎる距離。吐息がかかるほどで、視線を逸らすことすらできない。 冴の目には、はっきりとした苛立ちが滲んでいた。 怒り。焦燥。それに、言葉にでき
last update最後更新 : 2026-04-11
閱讀更多
第9話 大好きな君の夢
「……美森」 夢のなかで、名前を呼ばれた気がした。  心地いい。あったかい。  視界はぼやけていて、輪郭が曖昧だ。目の前にいるのは子供のはずなのに、顔だけが分からない。  でも、その子は迷いなく俺の手を取る。  小さな掌。指と指が、自然に絡む。  反対の手から差し出されたのは、黄色や青の野花を束ねたものだった。どれも不揃いで、でも見覚えがあって。懐かしい気がする。「……ありがとう」 声が、少し震えた。「大好き、   。」 名前を呼んだはずなのに、肝心なところだけ、音が抜け落ちている。  それでも、胸がいっぱいになるほど嬉しい。  そして理由も分からないのに、どうしようもなく幸せだった。 * 目を開けると、朝陽がカーテンの隙間から差し込んでいた。  夢の余韻が、まだ指先に残っている気がする。  誰と手を繋いでいたのか、思い出そうとしても、霧がかかったみたいに曖昧だ。  スマホを手に取ると、表示された時間は6時過ぎ。少し早い。でも、もう一度眠るほどでもない。  起き上がろうとした、その瞬間。  画面が切り替わり、着信表示が現れる。使用人の棗からだった。「……もしもし?」 まだ完全に覚醒しきっていない声で電話に出ると、向こうからはいつも通り、落ち着いた声が返ってきた。「朝早くに申し訳ございません、美森様。  旦那様より、言伝がございます」 ――旦那様。 その言葉だけで、体が強張るのが分かった。父が、俺に何かを伝えてくることなんて、殆どない。  それだけで、嫌な予感が背中を這い上がってくる。「……何?」 自分の声が、少し硬い。棗は感情を挟まず、淡々と続けた。「お戻りになられたばかりで恐縮ですが……今週末の土曜日、十二時に後堂冴様とご一緒に屋敷へ戻るように、とのことです。重大なお話だそうで……後堂様にも、同様の内容が既に伝わっている頃かと」 一瞬、言葉の意味が理解できなかった。 ――冴と俺が、一緒に? 耳の奥で、ざわっと音がする。  確かに。俺たちとは違って、父同士は関係が深い。  母親同士は高校時代の友人で、俺達がお腹にいた頃から仲が良かったらしい。  父のいけた花を宣材写真に使い、それをモチーフにしたコレクションを、冴の父のブランドが発表するというくらいに、信頼関係はビ
last update最後更新 : 2026-04-11
閱讀更多
第10話 政略結婚の提示
 土曜の午前十一時、寮の正門を黒塗りのベンツが滑るように通り抜けた。  光を受けて艶やかに光るボディが、晴れた空の色を無機質に映し返す。「お待たせいたしました。……冴様、美森様」 俺と冴は、互いに言葉を交わすこともなく、ただ黙って並んで後部座席に乗り込んだ。  運転席には、冴の家の使用人らしい背筋の伸びた男性。無駄のない動きでハンドルを握り、静かに車は学園を離れた。  窓の外の景色がどんどん流れていく。  都会の高層ビルがすれ違い、地面の舗装が光の帯となって後ろへ滑る。  冴はスマートフォンを手に持ったまま、視線を俺に向けることはなかった。  車内の沈黙は重く、深く、圧迫感すら帯びていた。  それでも――言葉を交わす必要も、欲求も、俺たちには無かった。 * やがて車は都心の高級ホテルに到着した。  一般客の立ち入れない上層階に案内され、静まり返った廊下を歩き、広く調度品の整った個室へ通される。  大きな窓からは街が一望でき、室内には洗練された雰囲気が漂っていた。 テーブルの向こう側には、二人の男性が座っていた。  冴と俺の父親だ。父さんたちもまた、鳳里のOBだったと教えて貰ったことがある。  冴の父親が生徒会長、俺の父さんが副会長。今の俺たちと同じ立ち位置だ。  肩を並べ、笑顔で談笑している。  俺たちの存在は、今のところ、そこに置かれた飾りのようだった。「やあ、美森くん。久しぶりだね。相変わらず美しい……。顔立ちも、佇まいも、無駄がない。  高校生になって――これはもう“使える”域に入ったかな」 冴の父親の声は朗らかで、俺の頭の上からつま先までをゆっくりと視線を上下させた。  最後の一言の意味は解らなかったものの、頭を下げ、握手を交わす。「ご無沙汰しております」 だが、その瞬間、父さんの視線が俺を鋭く刺した。  失礼はないか、立ち居振る舞いは問題ないかを監視されているようだった。「冴くんも、随分と男らしくなったな」 「……おじさまも、お元気そうで何よりです」 冴は軽く視線を落とし、微笑を作るだけだった。  言葉は最小限。表情も、感情も、ないに等しい。「……さて、早速だが、本題に入ろうか」 冴の父親は、俺たちを見据えながら柔らかく語り始めた。  声に迷いはなく、相談
last update最後更新 : 2026-04-14
閱讀更多
探索並免費閱讀 優質小說
GoodNovel APP 免費暢讀海量優秀小說,下載喜歡的書籍,隨時隨地閱讀。
在 APP 免費閱讀書籍
掃碼在 APP 閱讀
DMCA.com Protection Status