Todos los capítulos de この度は離縁状をありがとうございます: Capítulo 31 - Capítulo 40

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屋敷に戻る

 私の素性が知れた以上、六本木のマンションに住み続けることは出来なかった。 今となっては霧島の面影が残るこの部屋にも未練はなく、オフィスも引き払い、結城の屋敷に戻ることにした。 最後に一度だけ部屋を見回した。 薔薇の花束を飾っていた花瓶は空のまま、キッチンには二人が使ったコーヒーカップがまだ並んでいる。私はそれを冷たい指で触れ、静かに息を吐いた。「もう、いいわ」 荷物はほとんどなく、必要なものはすでに卯月が運び出していた。 私は鍵をテーブルに置き、ドアを閉めた。カチャリという小さな音が、まるで過去を断ち切る合図のように響いた。 黒いセダンがマンションの車寄せで待っていた。後部座席に乗り込むと、卯月がルームミラー越しに静かに尋ねた。「お嬢様、よろしいですか?」 私は窓の外に広がる夜の街並みを眺め、短く答えた。「ええ。もうここには用はないわ」 車が動き出す。六本木のネオンが後ろに流れていく。霧島との甘い記憶も、裏切りの痛みも、すべてこの街に置いていく。 結城の屋敷に着くと、白檀の香りが私を迎えた。お祖父様は書斎で葉巻をくゆらせながら、静かに頷いた。「よく帰ってきたな、美穂子」 私は深く頭を下げ、はっきりと言った。「はい。これからはよろしくお願いいたします」「屋敷も賑やかになる......のぉ、卯月」 卯月が私の後ろに控え、静かに頭を下げる。◇◇◇ 私は”例の件”でお祖父様に呼ばれた。「美穂子、黒崎組の裏金ルートをマスコミに流したのはお前じゃな?」 その表情は険しく、私は叱責される幼子のように正座で縮こまった。畳の冷たさが膝に染みる。「……申し訳ありません」 お祖父様は大きなため息をひとつ吐くと、葉巻を灰皿に押しつけた。「報復はまだじゃと言う取ったのに……とんだじゃじゃ馬じゃな」 苦笑いがその口元に浮かぶ。厳しい目はそのままに、どこか楽しげな響きが混じっていた。私は畳に視線を落としたまま、静かに答えた。「お祖父様のお言葉は重々承知しております。でも……卯月が撃たれた傷を見た瞬間、私の中で何かが切れてしまいました。あの連中に、何もさせたくなかった」 お祖父様はゆっくりと頷き、ウイスキーのグラスを手に取った。氷がカチリと乾いた音を立てる。「気持ちはわかる。だが、結城の跡目として動くなら、もっと冷たく、もっと深く考えろ。
last updateÚltima actualización : 2026-04-13
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水面下での戦い

黒崎組は「黒崎開発」の名で結城興業の株の買い占めを始めた。私は書斎のモニターに映る株価チャートを睨みながら、静かに息を吐いた。朝から急激に上昇している出来高。黒崎開発が市場で結城興業の株式を大量に買い集めているのは明らかだった。お祖父様が葉巻の煙をゆっくり吐き出し、低い声で言った。「表の会社を使って、堂々と攻めてきたな。黒崎の親父も、随分と焦っているようだ」私はモニターから目を離さず、冷たく答えた。「湾岸プロジェクトの入札妨害が明るみに出て、信用を失った分を、株で取り返そうとしているのでしょう。結城興業の株を握れば、株主総会で取締役を送り込み、内部から崩すつもりです」卯月が私の後ろに控え、静かに報告を加えた。「お嬢様、現在黒崎開発はすでに7%を超える株式を取得しています。このまま行けば、来月の株主総会までに10%を超える可能性があります」私は指先でモニターの画面を軽く叩いた。「面白いわ。黒崎組が表の顔を使って攻めてくるなら、私も同じ土俵で戦いましょう」お祖父様が目を細め、私を見た。「美穂子、どうするつもりだ?」私はゆっくりと微笑んだ。笑みは冷たく、しかし確かに燃えていた。「結城興業の株を、こちらも買い戻します。そして、黒崎開発の弱みを握って、逆に買い占めにかける。表の戦いなら、表で返してあげましょう」白檀の香りが漂う書斎で、私は静かに立ち上がった。黒崎組が私に牙を剥いた以上、もう甘くはしない。株の買い占め合戦は、ただの金銭の争いではない。これは、私の血と誇りをかけた、静かな戦争の始まりだった。卯月は私の右腕として、市場監視の役目を担うことになった。書斎の大きなモニターの前に座り、彼は朝から晩まで結城興業と黒崎開発の株価変動を睨み続けている。指先はキーボードを素早く叩き、複数の画面にチャートと出来高、大量保有報告の動きをリアルタイムで表示させる。「お嬢様、黒崎開発は今日だけでさらに1.8%を買い増しました。現在保有比率は9.4%に達しています。このまま行けば、来週中には10%を超えるでしょう」卯月の声は低く冷静だが、目には鋭い光が宿っている。左腕の傷はまだ完全に癒えていないのに、彼は痛みを微塵も見せない。私は彼の横に立ち、モニターを覗き込んだ。「黒崎の資金源はどこ?」「主に黒崎組の裏資金と、系列のスナック・ク
last updateÚltima actualización : 2026-04-14
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非常召集

私は卯月の報告書をめくりながら、黒崎組の闇金ルートの詳細を静かに読み進めた。黒崎組は「黒崎開発」の名を借りて表の事業を装いながら、裏では複数の闇金ネットワークを運営していた。主なルートは「トイチ(10日で1割)」や「トサン(10日で3割)」と呼ばれる法外な高金利貸付。ターゲットは多重債務者や中小零細業者の経営者で、SNSやダイレクトメール、090金融と呼ばれる携帯電話番号だけで連絡を取る手口が多用されていた。資金の流れは巧妙だった。闇金で集めた高利の返済金は、まず系列のスナックや高級中華レストランの売上として偽装され、次に黒崎開発の「コンサルタント料」や「下請け工事費」として結城興業の競合プロジェクトに流し込まれる。最終的には、湾岸再開発の入札資金や株買い占めの原資となっていた。報告書には、具体的な数字も記されていた。ある月だけで、闇金ルートから約2億8千万円が「きれいな金」として黒崎開発の口座に流入。利息の複利計算で雪だるま式に膨らんだ被害者の借金が、黒崎組の抗争資金や株取得資金に化けていた。私はUSBを指で軽く弾き、卯月に目を向けた。「このルートを断てば、黒崎の息の根は止まるわね」卯月は静かに頷き、低い声で答えた。「はい。お嬢様のご指示通り、内部告発の形ですでに一部を警察とマスコミに流しています。残りの決定的証拠も、明日までに揃えます」私は窓の外の夜景を見つめ、静かに微笑んだ。黒崎組は表の顔で株を買い占め、裏の牙で私を狙ってきた。ならば、私はその両方を同時に潰す。この闇金ルートを暴き、黒崎開発の信用を地に落とす。卯月の傷の代償は、決して安くはない。私の逆襲は、静かに、しかし確実に、黒崎組の心臓部へと迫っていた。私は座敷に年寄りや若頭を招集し、黒崎開発の息の根を止めるべく指示した。白檀の煙が立ち込める中、畳に正座した幹部たちの視線が一斉に私に集まる。私は静かに言葉を続けた。「結城興業の株を買い戻すには『綺麗な金』が必要だ。『シマ』でのみかじめ料の徴収を徹底し、バー、クラブ、倉庫の管理費を今月中に倍に引き上げる。遅延は一切許しません」年寄りの一人が眉を寄せたが、私は視線を逸らさず、冷たく言い切った。「黒崎が表で株を買い占めている今、私たちは裏で資金を固める。湾岸プロジェクトの入札を、こちらのものにする」卯月が私の後ろ
last updateÚltima actualización : 2026-04-14
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クラブ「ルージュ」

卯月は書斎の大きなモニターの前に座り、朝から晩まで結城興業と黒崎開発の株価変動を睨み続けている。指先はキーボードを素早く叩き、複数の画面にチャートと出来高、大量保有報告の動きをリアルタイムで表示させる。「お出かけですか」私は数名の舎弟を伴い、ある高級クラブの視察に行くことになった。その店だけが、管理費の値上げを渋っている。太客を掴んでいるその店のみかじめ料は『綺麗な金』として必要不可欠だ。何より気になる情報がある。その客の中に、黒崎開発の幹部がいたという目撃情報が上がってきた。私は黒いワンピースに着替え、髪を軽くまとめながら卯月に言った。「ええ、少し用事があって。高級クラブ『ルージュ』の視察よ」卯月はモニターから目を離さず、低く応じた。「ルージュ……黒崎開発の常務が頻繁に出入りしている店ですね。管理費の値上げを渋っているのも、その常務の影響かと思われます」私は小さく頷き、鏡の前で口紅を直した。「その常務が、最近どんな話をしているかも知りたいわ。黒崎の資金の流れや、株買い占めの裏側……何か掴めるかもしれない」卯月はようやく私の方を向き、静かに立ち上がった。「お一人で行かれるのは危険です。私も同行します」私は彼の左腕の包帯に視線を落とし、首を振った。「傷がまだ治っていないでしょう? 今日は舎弟たちと行くわ。あなたはここで株の監視を続けて」卯月は一瞬、目を細めたが、すぐに深く頭を下げた。「……お気をつけて。お嬢様」私は舎弟たちと共に屋敷を出た。夜の街にネオンが煌めく中、黒いセダンが静かに滑り出す。ルージュの扉を開ける時、私は胸の奥で冷たい決意を固めた。この店から、黒崎の息の根を少しずつ締め上げていく。綺麗な金も、情報も、すべて私の手で掴む。私の突然の視察に、店の黒服たちは襟元を正し背筋を伸ばした。いつの間にか私は、このような場所でも怖気付かない絶対的風格を備えていた。数年前、銀行でいじめられていた時が自分でも信じられない。黒いヒールがカツカツとクラブのママの席に歩み寄ると、彼女は顔色を変えた。そこにいたのは黒崎組の舎弟たちだった。「ママ、これはどういうこと?」私の声は低く、静かだったが、クラブの空気を一瞬で凍りつかせた。ママはソファに座ったまま、血の気を失った顔で立ち上がろうとし、膝が震えて失敗した。「お
last updateÚltima actualización : 2026-04-14
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銃口の再会

クラブのママは舎弟たちに背中を押され、バックヤードに連れて行かれた。机が蹴り上げられる音が響き、ママの小さな悲鳴が上がる。店内の客たちは会計を済ませ、そそくさと店を後にした。残りの女性スタッフはボックス席に集められ、見張り番の舎弟にスマホを渡している。これで黒崎組の常連客とのやり取りが手に入った。私は黒崎組の舎弟を見下ろし、ゆっくりと髪を掻き上げた。「……で? あんたたちの頭は誰?」舎弟の一人が床に膝をついたまま、血の混じった唾を吐き、睨み上げてきた。もう一人は顔を腫らしたまま、唇を震わせている。私はヒールの先でその男の肩を軽く踏み、静かに繰り返した。「聞こえなかった? 黒崎隆司の指示でここに張りついていたんでしょう? 常務の他に、誰がこの店を監視させていたの?」男は歯を食いしばり、目を逸らした。私のヒールが肩に少し力を込めると、彼は苦痛に顔を歪めた。「……若頭補佐の……黒崎隆司だけだ。常務の命令で、結城の動きを探れと……」私は微笑んだ。が、その笑みは静かに消えた。「そう。じゃあ、次は黒崎隆司がこの店で何を話していたか、全部吐きなさい。湾岸プロジェクトの話、株の買い占め、結城興業への工作……一言も漏らさず」バックヤードからママの嗚咽が聞こえる中、舎弟の顔から血の気が引いていくのがわかった。私は髪を耳にかける仕草をしながら、静かに言った。「時間はたっぷりあるわ。ゆっくり、丁寧に話してもらうわよ」クラブの青白い照明が、私の影を長く伸ばす。その時、私の背後で、結城組の舎弟たちの呻き声が上がった。「おい! 兄弟! 大丈夫か!」「テメェ、何者だ!」次の瞬間、手首が背後で捻りあげられ、激痛が走った。「痛っ!」振り返ると、そこには以前の整った顔の面影もない霧島が立っていた。「お嬢!」私を拉致する計画を失敗し、黒崎組の制裁を喰らったのだ。顔中が腫れ上がり、醜いあざが浮かび、左目の下は紫色に変色している。唇も切れ、血が乾いた跡が残っていた。「久しぶりだな、美穂子」その声は低く、かすれていた。以前の甘い響きは完全に失われ、ただの怨嗟だけが滲んでいる。「馴れ馴れしく呼ばないで」私は痛みを堪えながら、冷たく言い返した。背後では舎弟たちが床に倒れ、動けないでいる。霧島は私の手首をさらに強く捻り、耳元で囁いた。「黒崎の常
last updateÚltima actualización : 2026-04-15
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卯月の負傷

パーン! パーン!二つの乾いた音がフロアに響き渡った。一発は天井からぶら下がっているミラーボールに命中し、ガラスの破片がキラキラと煌めきながら大理石の床に散らばった。もう一発は――私を庇って立っていた卯月の右肩に、深く食い込んだ。「卯月!」卯月は低く呻き声をあげ、背中から崩れ落ちた。苦悶の表情を浮かべ、右肩から鮮血が一気に噴き出す。白いワイシャツが瞬く間に赤く染まっていく。その音に気づいた舎弟たちがバックヤードから飛び出してきたが、霧島のトカレフの銃口が彼らに向けられ、動きを止めた。「卯月さん! お嬢!」霧島は私のこめかみに冷たい銃口を押し当てながら、ジリジリと後ずさりした。息が荒く、腫れた顔が歪んでいる。「動くな。誰も動くなよ」エレベーターのボタンを背中で押す音が、カチリと響く。ドアが開くのを待つ間、霧島の指はトリガーに力を込め、私のこめかみを強く押していた。血の匂いと、ミラーボールの破片が床に落ちる小さな音だけが、フロアを支配する。私は震える声で、しかしはっきりと言った。「卯月……!」卯月は床に倒れたまま、苦痛に顔を歪めながらも、私に向かって小さく首を振った。目が、まだ私を守ろうとしている。エレベーターのドアが開いた瞬間、霧島は私の体を強く引き寄せた。「さあ、行くぞ。お前は黒崎の総長のディナーだ」冷たい銃口がこめかみに食い込み、私は抗うこともできず、引きずられるようにエレベーターへと連れ込まれていく。床に広がる卯月の血が、私の視界の端で赤く輝いていた。私の心に、激しい怒りと絶望が同時に燃え上がる。でも今、この瞬間、私は霧島の手に落ちていた――。黒いワゴン車に押し込められた私は、布袋を頭から被せられ、両手両足は荒縄で縛られた。皮膚に食い込むチクチクとした感触が、身動きを制し、恐怖心を一層煽った。息が苦しく、布の繊維が唇に張り付く。アクセルが一気に踏み込まれ、タイヤが摩擦で激しい音を立てて車が急発進した。体が後ろに押しつけられ、縄がさらに深く食い込む。クラブ「ルージュ」のフロントから、結城組の舎弟たちが飛び出し、次々に黒いセダンに乗り込んだ。けれどそのどれもが、タイヤがパンクし、動けない。車体が傾き、エンジンが無駄に唸る音だけが響く。霧島の仕業だった。布袋の中で、私は歯を食いしばった。霧島は事
last updateÚltima actualización : 2026-04-15
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杉林の別荘

高速道路を疾走する黒いワゴン車は、幾つものインターチェンジを通り過ぎた。煌びやかな灯りがまばらになり、降りた料金所は暗闇に包まれていた。低く唸るエンジンに、微かにカエルの鳴き声が混ざる。田舎だ。ここはもう湾岸から離れた寂れた田舎町だ。私は陵辱され、山に埋められるのか?想像しただけで、背筋が凍りつき、身慄いがした。布袋の中で息が荒くなり、荒縄が手首と足首に深く食い込む。汗と恐怖で肌がべっとり濡れ、布が顔に張り付いて息苦しい。霧島の声が運転席から響いた。「もうすぐ着くぞ、美穂子。総長は随分とお前を待ってる。結城の跡目を、ゆっくりと味わいたいそうだ」私は唇を強く噛み、声を絞り出した。「……どこに連れて行くの?」「黒崎の別荘だ。山奥で、誰も来ない。電話も電波が届かない。完璧な場所だろ?」ワゴン車が未舗装の道に入り、大きく揺れた。体が跳ね、縄がさらに皮膚を裂くような痛みが走る。頭の中で、卯月の血に染まった肩が浮かぶ。舎弟たちの叫び声。そして、お祖父様の顔。(……私は、まだ負けない)恐怖で震える体を必死に抑え、私は心の中で繰り返した。結城美穂子として、私はここで終わらない。この縄も、暗闇も、すべてを力に変えてやる。ワゴン車が急に止まり、エンジンが切れた。ドアが開く音がして、冷たい夜風が布袋の隙間から入り込んできた。霧島の手が私の腕を乱暴に掴む。「さあ、降りろ。お前のお披露目だ」私は歯を食いしばり、暗闇の中で静かに目を閉じた。今はまだ、動けない。でも、必ずこの屈辱を、黒崎組に百倍にして返す。エンジンが止まった。スライドドアが無常にも開く。湿気を帯びた杉林の匂いが鼻についた。砂利道にハイヒールを取られながら、私は明かりのある方へと連れてゆかれた。足の裏に小石が食い込み、痛みが走る。人の気配がする。敵意を剥き出しにした、興味と嘲りの視線が全身に突き刺さる。黒崎組の舎弟たちだろう。「霧島、その女で間違い無いだろうな」「黒崎さん、この女が結城の跡目です」無造作に布袋を引き剥がされ、眩しさに目を閉じた。まぶたの裏で白い光がチカチカする。うっすらと視界が戻ると、口髭を生やし、焦茶のサングラスをかけた恰幅の良い中年男性が、私をじっと凝視していた。(……こいつが黒崎)黒崎組の若頭補佐、黒崎隆司。重厚な体躯に、
last updateÚltima actualización : 2026-04-16
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黒崎の檻

私は黒崎龍也に肩を抱かれ、長い廊下を歩いた。手首の荒縄が皮膚に深く食い込み、じんわりと血が滲む。けれどそんな痛みよりも、これから自分がどうなるのだろうかという恐怖心が、はるかに大きく胸を締めつけた。龍也が一歩進むたび、両脇に控えた舎弟たちが一斉に深く頭を垂れる。その様は、まるでモーセの十戒のように、絶対的な服従と畏怖に満ちていた。お祖父様も鋭い雰囲気を纏っているが、この男はさらにその上をゆく。冷たく、妖艶で、底知れぬ闇を湛えた美しさがあった。「怖がるな、美穂子」龍也の声が耳元で低く響く。息が首筋にかかり、ぞくりと鳥肌が立った。「今夜はただ、ゆっくりと君の価値を確かめたいだけだ。結城の血が、どれだけ甘い味がするのか……」私は唇を強く噛み、視線を正面に向けたまま答えた。「……私は、あなたの玩具にはならないわ」龍也は小さく笑い、私の肩を抱く手に少し力を込めた。「玩具? 違うな。お前は俺のものになる。結城の跡目を、黒崎の血に染める最高の器だ」廊下の奥に、重厚な扉が見えてきた。金具が鈍く光り、中から微かな線香の匂いが漂ってくる。私の足が自然と止まりかけた瞬間、龍也が耳元で囁いた。「逃げ場はない。ここは黒崎の領域だ。お前はもう、結城の檻から出た代わりに、俺の檻に入っただけだ」私は荒縄に食い込む痛みを堪え、静かに目を閉じた。恐怖は確かに胸を凍らせる。でも、心の奥底で、小さな炎がまだ燃え続けている。私はここで折れない。この男に、絶対に屈しない。扉がゆっくりと開き始め、暗い部屋の気配が私を飲み込もうとしていた。扉が閉まると、夜の静寂が重く闇に落ちた。照明はキングサイズのベッドの脇に、ほんのりと灯るランプだけ。薄暗い橙色の光が、部屋全体を妖しく染めている。私は手首の荒縄を解かれると、ベッドに乱暴に投げ出された。羽毛布団の海に放り出された私は、まるでクラゲのように儚く、頼りなく沈み込んだ。柔らかい布団が体を受け止める感触が、逆に恐怖を増幅させる。黒崎龍也はおもむろにジャケットを脱ぐと、ソファに掛け、ゆっくりと深紅のネクタイを解いた。ネクタイがシュルリと布地に擦れる音が、静かな部屋に不気味に響いた。私は唾を飲み込み、少しでも離れようと後ずさった。ベッドのヘッドボードに背中が当たるまで、這うように体を動かす。龍也はネクタイを指に
last updateÚltima actualización : 2026-04-17
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陵辱の夜

シャツをはだけた黒崎龍也の胸には、何本もの刀傷があった。古い傷は白く、比較的新しいものはまだ赤みを帯びている。けれどその肌は奇妙に美しく、刺青など一切入っていない。さすがビジネスの世界で裏の世界を牛耳るだけあって、隙がない。その腕がゆっくりと、私の深紅のワンピースの裾に近づいた。私は両足で思い切り蹴りを入れ、龍也の胸を突き飛ばした。ヒールが当たる感触が、はっきりと伝わる。「触らないで!」龍也はわずかに体をのけぞらせたが、すぐに妖艶な笑みを浮かべた。瞳が、獲物を前にした蛇のように細まる。「ほう……まだ抵抗する気か。面白い」私はベッドの上で体を起こし、荒い息をしながら彼を睨み返した。心臓が激しく鳴り、恐怖と怒りが混じり合って全身を震わせる。「私はあなたの玩具じゃない。結城美穂子よ。勝手に触れる権利など、どこにもないわ」龍也はシャツを完全に脱ぎ捨て、ゆっくりとベッドに膝をついた。刀傷だらけの胸が、ランプの光に照らされて艶やかに光る。「権利? そんなもの、力のある者が決めるんだよ」彼は私の足首を掴み、引き寄せようとした。私は再び足を振り上げ、必死に抵抗する。「離して!」部屋の空気が一層重くなり、ランプの炎が激しく揺れた。私は歯を食いしばり、龍也の目をまっすぐに見つめた。恐怖で体が震えるのに、心だけはまだ折れていない。私はここで、耐え抜く。この男に、絶対に屈しない――。黒崎龍也は私のハイヒールを脱がせると、床にぞんざいに捨てた。エナメルの赤いハイヒールが、カツンと乾いた音を立てて転がる。その音が、絶望のように私の胸に這い上がってきた。彼は私の上にのしかかり、荒々しく唇を奪った。私は必死に顔を背けようとしたが、顎を強く掴まれ、逃げ場を失う。唇を強く噛むと、鉄の味が口の中に広がった。黒崎龍也の口元に血が滲む。彼はそれをペロリと舐め取り、妖しく笑った。「噂に聞いていたが、気丈な女だな」血の色が彼の唇を濡らし、目がさらに暗く輝く。私は荒い息を吐きながら、震える声で吐き捨てた。「……離して」龍也は私の両手首を頭の上で押さえつけ、ゆっくりと顔を近づけた。息が熱く、血の匂いが混じる。「離さないよ。お前は今夜、俺のものだ。結城の誇り高い血を、俺が味わい尽くしてやる」私は体をよじり、足をばたつかせて抵抗した。羽毛
last updateÚltima actualización : 2026-04-18
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睨み合う龍と虎

卯月の右腕からは鮮血が滴り落ち、床に点々と赤い跡を残している。怒りに身を任せた彼は、痛みなど感じないようにトカレフのトリガーに指をかけていた。その目は、獰猛な虎を思わせる鋭さと狂気を宿していた。黒崎龍也は私から素早く身を起こし、枕の下から別のトカレフを取り出した。二人の男が、ベッドの両側で銃を構え、互いを睨み合う。龍と虎の睨み合いだった。部屋の空気が一瞬で凍りつき、ランプの炎だけが激しく揺れる。卯月は血まみれの右肩を微動だにせず、低い、しかし力強い声で言った。「龍也……お嬢様に指一本触れた時点で、お前の命は終わる」黒崎龍也は口元に冷たい笑みを浮かべ、銃口を卯月に向けたまま答えた。「結城の忠犬が、よくここまで辿り着いたな。肩の傷は痛くないのか?」卯月は答えない。ただ、銃を構える手にさらに力が込められる。血が滴る音が、静かな部屋にやけに大きく響いた。私はベッドの上で体を起こし、荒い息を吐きながら二人の間に割って入ろうとした。「やめて……! 卯月、撃たないで!」しかし、卯月は私の言葉を無視し、龍也を睨み据えたまま一歩も引かない。龍也の笑みが深くなる。「面白い。結城の跡目を巡って、忠犬と私が撃ち合うとは……」二丁のトカレフが、わずかに震えながら互いに向けられる。部屋に満ちる緊張は、いつ爆発してもおかしくないほど張りつめていた。私は胸を押さえ、震える声で叫んだ。「卯月……お願い……」血の匂いと火薬の匂いが混じり合う中、龍と虎の対峙は、まだ決着を見ていない。私の運命を賭けた、静かで残酷な睨み合いが続いていた。パン!パン!乾いた銃声が部屋に響き、羽枕から真っ白い羽毛が一斉に舞い散った。ハラハラと白い雪のような羽毛が、ランプの炎に照らされて幻想的に揺れる。トリガーを引いたのは卯月だった。龍也は微動だにせず、冷たい笑みを浮かべたまま立っている。弾は彼の頭のすぐ横の壁にめり込み、漆喰が小さく砕け落ちた。「こんなところで戦争を始める気はない……お嬢様を離せ」卯月の声は低く、しかし鋼のように硬い。右肩から滴る血が床に落ちる音が、やけに大きく響く。龍也は私の腕を強く引き上げ、ベッドから突き落とした。私はよろめきながらも、慌てて床に落ちたハイヒールを拾い上げた。「賢い選択だ。お嬢様、今度はランチにお誘いするよ」龍也はシャツを羽織りな
last updateÚltima actualización : 2026-04-19
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