雷星は病室のドアの前に立ち、ふらつく足取りのまま、室内へと踏み込んだ。一つ目は、退職届。一番下の署名欄には、見慣れた遥の筆跡で、静かに署名が残されていた。二つ目は、最高軍事法廷の内部告発システムから届いた審査完了通知。愛椛に対する数々の告発が受理され、すでに逮捕手続きの段階まで進んでいることを示していた。通信回線における情報漏洩の音声解析データ。救援物資すり替えの監視カメラ映像のスクリーンショット……見ているうちに、雷星の指先が震え始めた。遥は、すべて知っていたのだ。――どうして。一体いつから?脳内を渦巻く疑念と動揺は、しかし、三つ目の品を目にした瞬間、完全に吹き飛んだ。そこにあったのは、一枚の白いお守りだった。雷星の心臓が、大きく跳ねた。震える手を伸ばし、そっとそのお守りを取り上げる。お守りを結ぶ赤い紐の先に、特有の小さな結び目が一つ。あの日、彼が自分の手で結んだものだ。この世界で、この特殊な結び方ができる人間は、雷星ただ一人だった。雷星はお守りをきつく握り締めた。その脳裏に、いくつもの記憶の断片が、濁流のように押し寄せてくる。――何年も前。航空士官学校の新入生歓迎会。雷星は、名誉教授として一度だけ、公開講義を行ったことがあった。遥は、最前列の真ん中に座っていた。瞳を、宝石のように輝かせて。質疑応答の際、雷星は彼女に問いかけた。「なぜ、パイロットの道を選んだ?」遥は緊張したように唇を引き結び、だが、まっすぐな声で答えた。「――昔、私を助けてくれた人が、いるんです。その人がパイロットで……私も、その人みたいになりたくて」――三年前。祝勝会の夜。少しだけ酒を口にし、頬を淡く色づかせた遥が、こっそりと雷星を見つめていた。同僚の一人が冷やかすように声を上げた。「星野さん、菅野司令のこと、好きなんじゃないのか?」遥は慌てて首を振って否定した。だが雷星が視線を向けた瞬間、遥の指は、無意識のうちに首筋へと触れていた。まるで、そこに下げた何かを、そっと撫でるように。――一年前。婚約を交わした夜。遥は雷星の肩に頭を預け、掠れるような声で呟いた。「雷星。覚えてる?あの時――」だが、その言葉が最後まで紡がれることはなかった。愛椛からの電話が鳴ったのだ。「怖い夢を見た」と。雷星は急いでその場を
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