บททั้งหมดของ 未亡人を庇う婚約者を捨て、私は夢を叶える: บทที่ 11 - บทที่ 20

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第11話

長時間の移動を経て、直美は国立特級芸術アカデミーの合宿訓練地に到着した。大勢の若い女性たちがワゴンから降り、演舞場へと案内される。15分ほど待っていると、ピシッとしたスーツに身を包んだ、姿勢の引き締まった男性がステージに上がってきた。「総合プロデューサーの奥山雅宏(おくやま まさひろ)だ。長旅お疲れ様。ここは国立特級芸術アカデミーで、君たちは全国から選抜された精鋭たちだ。これからの3年間、君たちには厳しくも忘れがたい訓練が待っている。訓練を通じて、国を代表する表現者へと成長してくれることを期待しているよ」雅宏の話を聞き、直美はようやくここが本当に自分が夢見た場所だと実感した。長年憧れ続けてきた舞台。夢が叶った事実に、心の中が少しふわふわとした気分になる。直美は緊張で服の端を握り締めながらも、ステージ上の雅宏を強く見つめた。やりたいと思っていたことができるという喜びが、胸を熱くさせる。翌朝早くから、早速体力作りが始まった。ここは表現の道を目指す者が集まる場所だが、基本の体力トレーニングからは逃れられない。直美は看護師というハードな現場で働いていたため、体力には自信があった。他の者たちが弱音を吐く中、直美は驚くべき持久力を発揮した。5キロの錘を背負いながらのマラソン訓練が行われた。最初は走れていた新入生たちも、徐々に体力が尽き、途中で諦めて立ち止まる者も現れた。しかし直美は歯を食いしばり、必死に走り続けた。スピードが落ちても、足だけは止めない。重い荷物を背負っているため、一歩進むたびに腰も足も悲鳴を上げる。ゴールは目の前。なんとしても最後まで耐えてみせる。列の後方から全体の様子を眺めていた雅宏は、崩れ始めた隊列を見ながら、口元に薄い笑みを浮かべた。予想通りだ。女性の基礎体力では、このメニューは荷が重すぎる。そんな中、先頭をひたすら走り続ける一人の姿が目に入った。背はそこまで高くないが、体はかなり引き締まっている。滴り落ちる汗で前髪が顔に張り付き、踏ん張っているのか、眉間には皺が寄っていた。限界が近いのは見てわかるが、その目に光る決意は決して揺らいでいない。結局、走り切ったのは参加者の1割に過ぎず、残りは途中でリタイアした。全身が汗でびっしょり濡れ、足もわなないていたが、直美は最後の力
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第12話

直美は慌てて立ち上がった。「奥山監督、お疲れ様です!」「ああ。今日はなかなか良かったぞ。その調子で頑張れ」「ありがとうございます。頑張ります!」初日から評価され、彼女は心が躍るのを感じた。自分の努力と踏ん張りが、誰かに届いている。「名前は?」「松浦直美です」雅宏は感心したように言った。「真っ直ぐな美しさ……か。いい名だ」雅宏が背を向けて立ち去ろうとした瞬間、後ろでドサッという音がした。振り返ると、直美が力なく倒れていた。「松浦さん!大丈夫か?」雅宏はすぐに直美を横抱きにして保健室へと駆け込んだ。大勢の新人を見てきたが、こんなことは初めてだった。もしかして、今日の訓練は厳しすぎたか?万が一のことがあれば、責任を取らなければならない。雅宏は不安でたまらなかった。保健室に着くや否や、中へと押し入る。「先生、早く診てやってください。突然意識を失ったんです」医師が手際よく診察し、言った。「心配ありませんよ。低血糖による気絶ですから。経口補水液を飲ませればすぐに落ち着くでしょう」雅宏はホッと息をつくと、安心からかどっと冷や汗が噴き出した。医師は雅宏に経口補水液を渡し、「これを飲ませてやってください。長引けばショック状態になりますから」と指示を出す。ぐったりとした直美を見て、雅宏は困り果てた。どうやって飲ませればいいんだ?無理やり口をこじ開けるわけにもいかないよな?おどおどしている雅宏に医師が言った。「何をぼーっとしているんですか?口を開けて流し込んでください」雅宏は仕方なく、直美の上半身を抱え起こすような体勢をとった。さっきは急いで走っていたので、直美の香りには気づかなかった。しかし、今は直美が胸に寄りかかるような体勢のため、そのかすかな香りに鼻腔をくすぐられる。思わずむず痒い気持ちになった。雅宏はもう30近くなるのにまだ未婚で、彼女などいたこともない。だから、こんな間近に女性を抱くのは初めてで、雅宏は恥ずかしさでいっぱいだった。しかし、次の瞬間には、そんな自分の雑念を激しく罵る。人が倒れている時に、自分は何を考えているんだ?急いで直美の口元を押さえて経口補水液を流し込み、静かに寝かせた。数分後、ようやく直美が目を覚ました。朦朧とした様子で「私
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第13話

瑞樹は院長室で少し不安そうに言った。「最近、自分は何か仕事で失敗しましたか?もし何かあればご指摘ください」和彦は瑞樹を流し目で見ると、含みのある口調で言った。「宮本先生。君の医療技術は院内でもトップクラスだし、貴重な人材だよ。でも、私生活の方はもう少ししっかりした方がいいんじゃないか?誰かに陰口を叩かれないよう気をつけて」「陰口ですか?何も後ろめたいことなどないのですが……」と瑞樹は控えめに反論する。「なら、白石さんとの関係はどうなんだ?少し親しすぎるんじゃないか?」瑞樹は苛立った。きっと直美が和彦に嘘を吹き込み、自分と結香の関係を悪く言ったに違いない。「もしかして、直美に何か言われたんですか?あいつは白石さんを何度も傷つけておいて、今度はそんな侮辱まで……本当に勝手なやつです。今すぐ直美のところに行って、院内で誤解を解くよう言ってきますから」瑞樹は怒りで奥歯を噛み締める。しかし、和彦は瑞樹を呆れたように見た。「松浦さんのところへ?彼女がもう辞めたことは知らないのか?」瑞樹はふっと笑った。「院長先生まであいつの芝居に騙されているんですか?辞めたなんて、かまってほしいが故の駆け引きなんですよ。これほど良い仕事を捨ててまで、あいつが病院を辞めるはずがありません。きっと何か企んでいるだけですから」和彦はため息をつき、デスクの山から一枚の書類を取り出して差し出した。「これを見てみろ」それを受け取った瑞樹の目に、「退職届」という文字が飛び込んでくる。【一身上の都合により退職いたします】瑞樹は凍りついた。直美が退職?なぜ自分は全く知らなかったのか?「院長先生。直美はどこへ行ったんですか?」「宮本先生。なんて言ったらいいのかな。自分の婚約者が国立特級芸術アカデミーに受かるなんて大事なのに、そんなことも知らなかったのか?」和彦の言葉に、瑞樹は地の底へ突き落とされたような感覚がした。看護師たちの噂は本当だった。直美は本当に国立特級芸術アカデミーへ行ったのだ。それなのに、自分には何の報告もなかった。ずっと自分を追い回していた直美が、こうも呆気なく自分を置いて去ってしまったのか?そんなはずはない。直美はあれほど自分を愛し、全てを捨てて自分についてきてくれたはずなのに。信じられなかった瑞樹は、血の気を失
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第14話

「どういうこと?松浦さんはどこへ行ったの?」結香がすぐさま問い詰めた。「国立特級芸術アカデミーに受かったらしい」瑞樹の声には、隠しきれない哀愁が漂っている。その言葉を聞き、結香の心は歓喜に満ち溢れた。自分と瑞樹の間に立ちはだかっていた女が、ようやく去っていったのだから。結香はわざと弱々しく俯く。「宮本先生。もしかして、松浦さんがいなくなってしまったのは私のせい?もしそうなら、私……なんてことを……私のせいで二人の仲を壊してしまうなんて」瑞樹は振り返り、結香の肩をポンと叩いた。「君のせいじゃない。俺たちがうまくいっていなかっただけだから」結香はすかさず瑞樹の手に自分の手を重ね、潤んだ瞳で上目遣いに見つめる。「宮本先生、あまり落ち込まないでね。人と人との縁は強要できるものじゃないから。もしかしたら、先生と松浦さんは、そもそも夫婦になる運命じゃなかったのかもしれないし」瑞樹は何か熱いものにでも触ったかのように自分の手を引くと、立ち上がって部屋を出た。「用があるから、もう行くよ」瑞樹が去るのを見送りながら、結香は唇の端をすうっと持ち上げた。目尻にまで笑みが浮かぶその表情は、まるで勝利を確信しているかのようだった。まさか本当にいなくなってくれるなんて。でも、これで瑞樹との間に障害は何もなくなった。夫に先立たれてからもう何年も経っている。こんな先の見えない暮らしには、もううんざりだった。たった一人で子供を育てる苦労など、経験した者にしか分からないだろう。瑞樹は今や自分がすがりつける唯一の頼り。どんなことがあっても、絶対に手を離さない。瑞樹と結婚さえできれば、自分も慎也も安泰だ。そこまで考え、結香は鏡の前でくるりと回ってみせた。鏡に映るくびれた腰と白い肌。未婚の女性と並べても、けっして見劣りしないはずだ。そしてこれが、結香の自信の源でもあった。瑞樹の気持ちは、きっとただの同情や手助けだけではないはず。その頃、瑞樹は亡霊のようにさまよい、意識せぬまま直美がかつて住んでいた寮へと来ていた。看護師の寮は相部屋で、数人が共同で暮らしている。建物の下で、瑞樹は立ち尽くした。自分はどれほどこの場所へ足を運んだのだろう。夜勤のたび、瑞樹は直美の送り迎えをしていた。以前は、たったこれだけの距離を、なぜわざ
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第15話

直美は、国立特級芸術アカデミーでの生活にも少しずつ慣れてきていた。毎日、体作りとダンスの練習に明け暮れる日々。幼い頃の経験があったが、長く離れていたせいで感覚が鈍っていた。幼い頃から今まで、ずっと踊り続けていた人たちに比べると、やはり技術的に劣っていた。努力が足りないと悟った直美は、自分を追い込むことにした。他の人が休憩していても直美は練習する。他の人が雑談していても直美は練習する。休んでいる暇なんて、一秒もない。ダンスは直美の全てになった。国立特級芸術アカデミーに入るだけじゃ足りない。ここでの一番になりたかった。間もなく直美は頭角を現し、希望通り首席の座に躍り出た。だが、光を放つ者は、決まって嫉妬を買うものだ。直美はいつの間にか、同期たちから距離を置かれるようになった。いつも独りで食事をし、独りで練習をした。雅宏も総合プロデューサーとして、一人一人の様子をいつも見守っていた。だから、直美の力になりたいと思って、声をかけてみたこともあった。しかし直美はこう言い放った。「強者は群れませんから。群れるのは弱者だけで十分です」直美の目的は友人作りではない。ただ最高のダンサーになること、それだけだ。直美の毅然とした態度に触れ、雅宏も少しずつ彼女を高く評価するようになった。だがその裏で、直美についての陰口は広まっていた。直美は実力ではなく、裏から手を回して首席の座を買ったのだ、と。噂は尾ひれがつき、次第に直美の生活にまで影響を及ぼしてきた。どこへ行っても、冷ややかな視線と噂話がついてくる。「前はただの看護師だったのに、なんで国立特級芸術アカデミーにいるの?明らかにおかしくない?」「それに、年齢的にも条件オーバーだもんね」「噂だけど、婚約者を捨ててここに来たらしいよ。絶対、何か裏がある」「だよね。あの程度の実力で首席だなんて、信じられないもん」いつもなら聞き流せるような言葉でも、執拗な悪口の嵐に、ついに直美の堪忍袋の緒が切れた。直美は冷ややかな目を向け、言い返す。「陰口なんてつまらない真似はやめてくれる?気に入らないなら、正々堂々とダンスで勝負しにきたら?」気の強い言葉にひるんだ彼女たちは、逃げるように散っていった。腰抜けばかり、と直美は心の中で吐き捨てる。そ
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第16話

まずは基本技の審査。ブリッジ、開脚、その場での回転12回。直美と神奈は共に完璧にこなし、この回は引き分けとなった。続いての種目は自由種目。ダンスにまつわるものならなんでもよかった。神奈は、得意とする古典舞踊を披露した。音楽が鳴ると、神奈は天女のように軽やかに舞い、誰もが息をのんで見とれていた。その美しさは、まさに芸能一家育ちといったところだ。神奈の踊りが終わると、観客席からは雷のような拍手が湧き起こる。周囲からはこんな声が漏れていた。「これじゃあ山崎さんの勝ちね。古典舞踊は名門仕込みだし、幼い頃からの積み重ねが違うわ。松浦さんが勝てるわけないもの」「さっきの基本技は五分五分だったけど、踊りの才能なら絶対に山崎さんが上だよね」「松浦さんなんて付け焼き刃だもん。この種目で山崎さんに勝てるとは思えないよ」そこへ、バレエ衣装に身を包んだ直美がゆっくりと舞台へ上がった。旋律に乗せ、直美は優雅な白鳥のように舞台を軽やかに舞い踊る。誰もがその光景に言葉を失った。国立特級芸術アカデミーにおいて、バレエを踊れる者はいなかった。直美が最初の一人だったのだ。バレエは極めて難易度が高く、幼少期からの厳格な訓練なしには身につかない。国内で踊れる人はかなり希少だった。一体どこで習得したんだ?誰もが疑問を抱きつつも、その見事な踊りに引き込まれていく。やがて曲が終わると、直美が静かにお辞儀をした。すると、審査員たちは次々と立ち上がり、直美に拍手を送った。続いて、客席からも嵐のような喝采が湧き上がる。この勝負、直美の勝利だ。雅宏は満足げな表情で直美を見つめる。自分の見る目に間違いはなかった。負けた神奈は悔しさのあまり唇を噛んだ。まさかこんなやり方でくるとは。自信のあった古典舞踊でなら勝てると確信していたのに、直美が隠し持っていた切り札で完全にやられた。完敗だ。直美は硬いバレエシューズを履いたまま慎重に歩いて、舞台から降りる。神奈の前で立ち止まり、じっと静かに彼女を見つめた。「今回は私が勝ったけど、あなたとは対立したくはないの。これからは仲間として、一緒に頑張っていこうよ」神奈は口を開いたが、何も言うことはなかった。しかし、その眼差しには不敵な光が宿っていた。その直後、直美が
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第17話

瑞樹はようやく、周囲の人々の話をつなぎ合わせて、直美の行き先を突き止めた。国立特級芸術アカデミーに入った直美は、3年間合宿所から外へは出られないのだという。だから誰も、その正確な場所を知らなかった。瑞樹は友人を頼りに聞き回ったが、手掛かりは何も得られない。会いたいと思っても、探しようがなかったのだ。いつも自分を気遣ってくれていた直美の姿が消え、急に孤独を感じる。以前はうるさいと思っていたのに、今ではその明るい笑顔が懐かしくてならない。でも、直美はもう自分を必要としていなかった。さよならの一言さえなく、跡形もなく消えてしまったのだ。瑞樹には分からなかった。なぜ直美が、こうも急に去っていったのか……自分は、ただ結香の手助けをしていただけで、結香との間にやましいことなどないと、何度も伝えたはずなのに。どうして信じてくれないのだろう。数日間、瑞樹は魂が抜けたようで、直美への想いが、日に日に強まるばかりだった。直接伝えたかった。心から愛しているのは君だけだ、と。しかし、直美はもうチャンスをくれそうにない。何日も続いた雨がやみ、やっと太陽が顔をのぞかせる。そろそろ、結香の家の屋根を直さなくてはならない。瑞樹は職人を何人か結香の家へと送った。屋根に登った職人が、不審そうに呟く。「外からの雨漏りじゃなくて、まるで内側から誰かが細工したような形跡があるのですが」瑞樹の背中に冷たいものが走った。結香は、老朽化が原因だと言っていなかったか?胸騒ぎがする。まさか、結香がわざとやった?思い返せば、新居の話をした翌日に、結香は雨漏りのことを自分に言ってきた。そして、自分は疑いもせず、結香を新居に呼んだ。それが直美との決定的な決別を招いた……瑞樹は職人に修理を任せ、自分は寮へ戻ることにした。結香は瑞樹を見ると、隠しきれない情熱をその瞳に浮かべた。しかし、言葉を発する前に、瑞樹の暗い表情に気づく。「白石さん。今家の屋根を直してもらってるから、今日中には、慎也くんと戻れるはずだ」その言葉に結香は心の中で舌打ちをしたが、顔には出さず柔らかい笑顔を見せた。「本当にありがとう、宮本先生。色々と面倒をかけちゃったよね」そう言いながら、結香はすぐに荷造りを始める。その手際良さに、瑞樹は少し罪
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第18話

目が覚めると、朝になっていた。裸のまま瑞樹が身を起こすと、隣には同じく何も身に纏っていない結香が寝ている。瑞樹は思わず自分の頬を力いっぱい叩いた。しかし、夢ではないらしい……自分が結香と?!気配を感じたのか結香も目を覚まし、体を擦り寄せてきた。「ねえ瑞樹、昨日はすごかったね。何度も求めてくれるなんて」その言葉を聞いて、瑞樹の頭の中は真っ白になった。「何を言っているんだ?」動揺する瑞樹に、結香は戸惑った様子を見せたが、こう言った。「瑞樹、これからあなたのことを一生大切にするから。私は、いい妻になれるように頑張るね」しかし、瑞樹は何も答えず、黙々と服を着た。これだけは認めるわけにはいかない。こんなことを誰かに知られたら、病院にいられなくなる。それに、結香に対してそんな気持ちは微塵もない。酒に溺れた過ち、そう自分に言い聞かせた。「今すぐ君たちを家に送るよ」結香は瑞樹が恥じらっているのだと思い、自分も大人しく着替えた。「なんでもあなたの言うことを聞くわ」瑞樹はそんな結香の芝居がかった様子に、胸の底から嫌悪感がこみ上げてきた。どうしてこうなってしまったのか、わからない。二人を送り届けた後、瑞樹は逃げるように結香の家から立ち去った。寮に戻ると、部屋中のあらゆる場所を掃除した。結香の痕跡がすべて消えるまで、それは念入りに……それでもまだ足りない気がして、バスルームで何度も体を洗い直した。直美とは婚約していたが、お互いを尊重し、ずっと清い関係のままだったのに。それなのに、初めてを結香に奪われたなんて。潔癖症の瑞樹には、到底耐え難い事実だった。いや、侮辱以外の何物でもない。そうだ。これは自分に対する侮辱だ。肌が赤くなるほど強く擦っても、胸にこびりついた嫌悪感は無くならない。無力感に襲われ壁を叩きながら、瑞樹は激しく後悔した。独りよがりな慈悲心で結香を助けなければ、直美との関係はこうはならなかったのに。愛し合っていたはずの二人が別々の道を歩む。これから先、直美に会えるかどうかも分からなかった。それどころか、もうどんな顔をして直美に会えばいいのかすら分からない。シャワーを浴び終えた瑞樹は、うつろな足取りで部屋へ戻った。机の上に置いてあったラジオを、ぼんや
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第19話

「白石さん、一体何をしたいんだ?俺に何か恨みでもあるのかよ?」結香は瞬時に表情を変え、今にも泣き出しそうな顔を作った。「瑞樹、一度関係を持った途端に突き放すなんてあんまりじゃない……私たちはもう後戻りできないんだから、ちゃんと責任を取ってよ……」瑞樹は、結香にあの夜の話をされて吐き気を感じた。「何が望みなんだ?もしあの夜の行動で君を傷つけたのなら、償いはするよ」「どうやって償ってくれるの?」結香は少し声を大きくして聞いた。「金でも、なんでも君が欲しいものを言えばいい」しかし、結香は目を潤ませながら首を振る。「そんなものはいらない。私はただ、あなたと結婚したいの」瑞樹の瞳は冷たく沈んだ。「それは無理だ。君とは絶対に結婚しない。諦めてくれ」「なんで?私のことが嫌いなの?」結香は信じられなかった。なぜなら、瑞樹がずっと自分と慎也に親切にしてくれたのは、好意があるからだと思っていたから。瑞樹は少し困ったように眉を顰める。「白石さん。俺はあなたのことを一度も好きだなんて言ったことはないだろ?それに、俺には婚約者がいるんだ。愛しているのは直美だけなんだよ」「そんなわけない!じゃあなんで、私と慎也にあんなに良くしてくれたのよ!」結香は耳をふさいでわめいた。「母子家庭で苦労している二人を見て、自分自身の過去の境遇と重ねていただけなんだ。だから、手助けできることがあれば力になりたかっただけで、他意はない」瑞樹の言葉には微塵も感情がなかった。結香は全てが終わりだと感じた。こんなに時間をかけたのに、瑞樹の心を掴むことはできなかったのか?直美がいなくなれば、自分にチャンスが来ると思っていたのに。だからこそ必死に瑞樹と一夜を過ごすチャンスを掴んだというのに、すべては徒労に終わった。「どうしてそんな仕打ちができるの?私と関係を持っておいて、それをなかったことにしようなんて!そんな都合のいい話あるわけないでしょ?そう簡単に逃げられると思わないでよね」結香は完全に取り乱していた。せっかく掴んだ獲物を逃がすわけにはいかない。瑞樹こそ、自分にふさわしい最高の男なのだから。それに、人生を変えるラストチャンスだ。死んでも手放す気はなかった。一方の瑞樹は、凪のような静けさを保っていた。「白石さん、なんでここまで俺に固
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第20話

2週間もの入院生活を終え、直美はようやく自力で歩けるようになった。復帰のための訓練は、まだまだ先のことになるだろう。今回の公演に直美が出演することはできない。演舞場で起きた画鋲による事故は、国立特級芸術アカデミー中で大きな噂になっていた。演舞場はいつも清掃係が念入りに掃除しており、画鋲のような物が落ちているはずがないのだ。だから、直美を舞台へ立たせまいとする誰かの嫌がらせではないかという疑惑が、まことしやかに囁かれていた。常に直美と火花を散らしてきた神奈が一番に疑われたが、ダンスの対決で直美に負けたのは神奈自身だ。雅宏も事件の真相を調査していたが、決定的な証拠は何一つ掴めなかった。彼は直美に当時の状況を詳しく聞き出し、神奈を怪しんでいることも打ち明けた。しかし、直美は首を横に振る。「山崎さんじゃないと思います。彼女はプライドが高いけど、卑劣な真似は心底軽蔑していますから。たとえ私を認めていなくても、勝負は正々堂々とするのが山崎さんの信条でしょう」雅宏もその言葉に深く頷いた。彼も密かに神奈を調べていたが、たしかに関わっている様子はなかった。雅宏はさらなる調査をしようとしたが、直美がそれを制す。「奥山監督、もう結構ですから。もうこの件は忘れましょう。怪我ももう治りつつあるし、大事にもしたくないんです。それに、犯人も今は罪悪感に苛まれているはずですから」「松浦さん、人が良すぎるぞ。だから何度もこうやって嫌がらせを受けるんだ」雅宏は困ったように、そして切なそうにため息をついた。直美と何度も顔を合わせるうちに、彼は直美の広い心と真摯な姿勢にどんどん惹かれていた。直美に何かあるたびに放っておけなくなり、1秒でも長くそばにいたいと感じていた。入院中、雅宏は総合プロデューサーという名の下に、仕事の合間を縫っては直美の様子を見にきていた。どれほど多忙であっても、必ず差し入れを持って足を運び、傷の回復具合を気にかけた。直美の足の調子が日に日に良くなっていくのを見て、雅宏もようやく心から安堵することができていたのだった。さらに、直美の元気がなさそうなときは励ましもした。「先生も、後遺症は残らないと言っているんだ。必ずまた舞台に戻れるさ」雅宏のその言葉を聞くたび、直美の心は優しく満たされていった。
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