All Chapters of 夫と息子が憎む私はもう死んだ: Chapter 11 - Chapter 20

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第11話

「柚の友達なのに、そんな冗談を言うなんて……」プーップーッ……慎吾は初めて電話を切られた。眉をひそめて掛け直したが、すでに着信拒否にされていた。腹が立った慎吾は、即座に恭平に電話を入れる。「柚がどこにいるか探せ!」どんなくだらないことをしているのか、この目で確かめてやる。しかし、恭平は恐る恐る口を開いた。「それが……奥様は3か月前に亡くなっておりまして」慎吾は鼻で笑った。「ふざけるな!死んだなら、何で俺たちが知らないんだ?お前は、死体を見たのか?」「いえ。病院からは、中島さんが引き取ったと聞いています」「梨花さんの入れ知恵か。二人で結託して俺を騙そうなんて!」慎吾はすぐさま戻ることにした。柚が気を引こうとしているだけに決まっている。その後も、幾度となく電話をかけたが、一向に出ない。メッセージも返ってこなかった。やはり、どこを探しても柚の行方はつかめない。まるで本当に世界から姿を消したようだった。そういえば、柚は家中の持ち物を捨て、ラベンダー荘園を潰し、幾度も離婚を口にしていた……その瞬間、今回の行動が冗談ではなく、本心からの別れなのだと初めて悟った。途端に焦りがこみ上げてくる。柚をひどく憎んでいた時期でさえ、分かれることなどは考えていなかった。柚は本当に自分から離れようとしているのかもしれない。慎吾は後悔に襲われた。柚の過去の行いなど、もうどうでもいい。柚を連れ戻し、これからは彼女の行動を警戒しつつも、共にやり直していけばいい。そう決めた慎吾は、急いで梨花の家へと向かった。「柚がどこにいるか教えてくれないか?」しかし、梨花は怒りを露わにして言った。「今さら柚のこと思い出したの?柚が手術室から運ばれてきた時、あんたはどこにいた?柚の手術から3か月間、あんたは何をしてたの?どうせ、蛍と一緒だったんでしょ!あんた、誰と結婚してんのよ?」梨花は抑えられない怒りを、慎吾にぶつける。梨花の物言いに怒りがこみ上げたが、慎吾は何とか抑え込んだ。「俺がやり過ぎたことは認める。でも、柚だって悪いんだ。俺が結婚式を延期したから、死んだふりなんかしてるんだろ?3日後に結婚式を予定しているんだ。だから家に戻るように言ってくれないか?」柚が離婚を自分に言ってきたのは、結婚式の延期
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第12話

梨花は慎吾を遠くから見つめて言った。「柚に会いたいんでしょ?だから、連れてきたよ。でも、言っておくけど、もう柚はあんたなんか愛してないんだから。あんたとの結婚式をやり直すなんてありえないことなの。それに、私が来た理由は一つだけ。柚は死ぬ直前まで、あんたと離婚できなかったことを悔やんでた。ここにサイン済みの離婚届がある。あんたに渡してくれって言われてたから、持ってきたの!」梨花の言葉の一つ一つが、まるで慎吾の心臓に突き刺さるナイフのようだった。慎吾は顔を真っ青にし、首を振った。「そんなはずはない。柚は無事だ。どうして死ぬんだ?お、俺は信じないぞ!」過去のわだかまりは全て水に流して、これから柚と二人で仲良くやっていくと決めていたのに。それなのに、なぜ柚は死んでしまったんだ?何かの間違いだろ?そうだ!これはきっと柚のいたずらに決まってる!「誰かの遺体を柚に見せかけて騙しているんだろ?そんな手に乗るか!」慎吾はブーケを放り投げ、急足で棺のそばに駆け寄り、中にある顔を凝視する。そこにいたのはまぎれもなく柚だった。「柚と似ているだけだ!柚は肩にアザがあるんだ!この人は……」慎吾は遺体の肩を確かめた。そこにあの赤いアザを見つけた瞬間、喉の奥から生臭いものが込み上げてきて、言葉が出てこなくなった。口の中にどろりとした鉄臭さがこみ上げてくる。慎吾は胸をかきむしると、血を吐き柚の体に崩れ落ちた。「慎吾!」「パパ!」蛍と颯太が揃って悲鳴を上げた。そこへ梨花は歩み寄り、勢いよく慎吾を突き飛ばす。「片方の腎臓はあんたにあげたって、柚が言ってたよ。なのにあんたは蛍の言葉ばかり信じて、柚が嘘をついてるって思ってた。あんたが柚に無理やり腎臓を提供させて死に追いやった張本人のくせに、よく今さらそんな被害者ぶれるわね」突き飛ばされた慎吾の額が棺の角にぶつかり、赤く腫れた。しかし、慎吾にはそんな痛みなどどうでもよかった。彼はふらふらと立ち上がると、歯を食いしばって蛍を睨みつけた。「蛍、俺に腎臓をくれたのはお前だって言ったよな?じゃあ、何で片方しか腎臓がなかったのが柚なんだ?言え!」柚は、強引に腎臓提供を迫られた時点で、死ぬことを分かっていたはずだ。柚は死ぬ時、自分を憎んでいたのだろうか?その考えが
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第13話

慎吾が電話を切る時、その手は震えていた。柚は言っていた。「他の医者を探して、もう一度検査を受けてみたらわかるから」と。それなのに自分は柚が嘘をついていると思い込み、真剣に取り合わなかった。自分は一体、なんてことを……「柚……お母さんが悪かった。あなたを信じてあげられなくて……」彩花はその現実を受け入れられず、叫び声を上げてその場に崩れ落ちる。慎吾は蛍を射殺さんばかりの目で睨みつけた。「俺のために腎臓をくれたのは柚なのに、なんでお前がやったことにしたんだ?それに、柚に腎臓が一つしかないと知っていながら、お前は柚を無理やり追い詰めた。死ぬことまで分かっていてやったのか?」蛍は床にひざまずき、泣きながら答えた。「私だって、他に方法がなかったの」慎吾は屈みこみ、蛍の首を掴んだ。「まだ嘘をつく気か!」蛍は泣きじゃくった。「ちがうの……実の母……若葉さんに私の知られたくない過去の写真をばら撒くと脅されて、それで、お姉ちゃんの功績を奪えって言われたの。お姉ちゃんから腎臓を奪って殺せと命じたのも、若葉さんの策略で……若葉さんは私の今のお母さんが正妻の座を奪ったことを恨んでいて、柚を殺して復讐しようとした。それに、お父さんには私という跡継ぎがいるから、財産は全部私のものになる、と……私は過去が明るみに出るのが怖かったから、若葉さんに逆らえなかったの……だから、罪滅ぼしのつもりだった。たとえ、お姉ちゃんに崖から落とされて殺されそうになったときも、黙っていた……」慎吾は深く息を吐くと、蛍を放り出し、充血した目で柚のもとへ歩み寄った。彼は震える手で柚の頬に触れようとした。しかし梨花がその手を強く払いのける。「柚があんなひどい目に遭わされていたっていうのに、蛍を許したの?」梨花の顔は怒りで真っ赤だった。「蛍は柚にいじめられ、育ての親にまで脅されて、あいつだって苦しんでいたんだ」「ようやく分かった。柚がどうして死ぬまで、あんなに離婚にこだわっていたのか。あんたに柚の夫になる資格なんてない!」梨花は怒りをあらわにし、離婚届を叩きつけると、部下に命じて遺体を運ばせた。慎吾は駆け寄り、棺にしがみついた。「連れて行くな!俺の妻だぞ!」「柚はあんたにもう見切りをつけていたの。死んだ後の処理は私に任されてるんだから。そ
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第14話

慎吾は腑抜けた様子で家に帰った。ここには、まだどこか柚の気配が残っている気がしたのだ。しかし、二人のマグカップ、ペアの寝具、お揃いのスリッパまで、ことごとく姿を消していた。柚が慎吾に選んでくれた洋服や時計、そして柚自身が使っていたアクセサリーや服も、全てが跡形もなくなっている。二人で撮った思い出のアルバムさえも、すべて柚の手で処分されていた。柚が処分していたことに、慎吾は気づいていたのに。しかし、蛍の言葉を真に受け、「どうせただの駆け引きだろう」と高をくくり、そのままにしてしまっていた。「柚、本当に後悔してるんだ。お前が俺に薬を盛ったことも、蛍を傷つけたことも……もうどうでもいい。ただ、戻ってきてほしいんだよ……」慎吾は毎晩のように酒に溺れた。そんな中、颯太が泣きながら駆け寄ってきた。「パパ、どうしておばあちゃんは僕に酷いことを言うの?この恩知らずだって……もう遊んでくれないんだよ!」慎吾は冷ややかな目で答えた。「お前がそうだからだろ」颯太は怯えて見上げる。「僕、何かした?」「全部だ。他人をママにしてなんて言う子供がどこにいるんだ?それに、自分の母親に向かって死んでほしい、だと?お前のせいで……あぁ、本当にろくでもないやつだな」「でも、僕が『違うママがいい、ママなんていなくなればいい』って言うと、いつもパパたちは笑ってたじゃん!あれがダメなことなんて、誰も教えてくれなかったもん」ガチャーン!慎吾は手元の酒瓶を床に叩きつけ、血走った目で叫んだ。「だが、自分の母親に死ねばいいと言えなんてことも教えてないだろ!」「ママ!ママはどこ?僕……ママの作るご飯が食べたいよ。夜もママと一緒じゃなきゃやだ。ママに会いたい……」泣き叫ぶ颯太の鼻水と涙が、ぐちゃぐちゃになって床に落ちる。しかし慎吾は冷酷な目で突き放した。「お前が、死ねばいいなんて言うから、あいつは死んだんだ。もうお前をあんなに愛してくれる人なんて、どこにもいやしないよ」泣きじゃくる颯太の声を聞きながら、慎吾は酒を煽った。酔ってしまえば、何も考えなくて済む。「柚、俺を憎んでいるから夢にも出てきてくれないのか?本当に悪かった。結局、ちゃんとした式も挙げてやれなかったし……何でお前を恨んだからって、俺は写真を全部消しちゃったんだろう
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第15話

柚は、慎吾にまた会うとは思っていなかった。いや、慎吾の知っているあの「柚」はもう死んでいるのだが。慎吾の姿が視界から消え、ようやく柚の心は落ち着きを取り戻した。「顔色が悪いけど、気分でも悪いのか?」弘樹が心配そうに尋ねてきた。柚ははっと現実に戻り、首を振った。「ううん、なんでもない。ちょっと、昨夜見た嫌な夢を思い出しちゃって」「俺のせいだな。昨夜は残業で一緒に寝てやれなかったから、悪夢を見たんだ」弘樹は柚を自分の膝の上に横たえ、優しく頭をマッサージした。弘樹の優しい眼差しを見ていると、時折どちらが攻略者なのか分からなくなる。システムが定めた攻略対象は弘樹だった。てっきり、自分は弘樹に執着する「追っかけ」のような役回りだと思っていた。だが、現実は違っていた。初めて弘樹の前に現れた時から、彼の自分に対する好感度はすでに100%だったのだ。弘樹の方から連絡先を聞いてきて、毎日欠かさずメッセージを送ってきた。食事や映画、遊園地にも誘ってくれ、プレゼントや手料理まで届けてくれた。そして、ごく自然に告白された。柚はかなりの違和感を感じていた。初対面の自分に対して、まるで好みをすべて知り尽くしているかのようだったから。「少しは良くなったか?」弘樹の低い声が、柚の思考を中断させた。柚は起き上がり、「うん、楽になった。忙しいんだから、わざわざ迎えに来なくてもよかったのに」と返した。「でも、君が歩いてくるのを見るだけで、一日の疲れなんて吹き飛んでしまうんだ」しかし、柚はどこか寂し気につぶやいた。「でも、いつかは飽きるものだよ」昔の慎吾も、最初はこれでもかというほど、愛をくれた。「そんなことはない。俺がこの日をどれだけ心待ちにしていたか、君には分からないだろうからね」弘樹の独り言は小さすぎて、柚は聞き返した。「何て言ったの?」弘樹は微笑んで彼女の頭をなでた。「明日の夜、うちの親が家で君に食事を振る舞いたいそうなんだけど、いいかな?」「もちろん!私も二人に会えるのが楽しみ」柚は弘樹の両親と気が合った。翌日、柚は弘樹と一緒に頼んでおいた手土産を受け取りに行った。手土産の蘭の花は、弘樹の父親・清水剛(しみず つよし)が熱望していた品種で、柚は無理をして手に入れたのだった。アク
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第16話

「これ、ちょっと高すぎない?」「気に入ってくれた?」「うん!すごく!」「じゃあ高くないよ」柚は手を空に掲げ指輪を見ながら、上機嫌で歩いていた。そして、弘樹はその二組のカフスの写真を何枚も撮り、グループチャットに投稿したり、インスタにあげたりしていた。清水家の屋敷に着くと、二人はようやく口元を引き締めた。しかし、剛夫婦は柚に心底甘かった。「この蘭……柚ちゃん、本当にありがとう!」剛の目尻の皺が深くなる。美緒はネックレスと耳飾りを見て言った。「それにしても、柚ちゃんはセンスもいいんだね!」早めに到着した弘樹と柚は、晩ご飯ができるまで待つことにした。張り切った剛が、弘樹を呼ぶ。「弘樹、手伝え。今日は柚ちゃんに俺の料理を食べさせるんだから!」自分だけ座っているのは気が引けて、柚も手伝おうとした。すると美緒が柚を制止する。「キッチンの人手はもう足りてるから。柚ちゃんはそんなことしないでいいの。それより今日は、結婚式のティアラを選んで欲しくて」美緒はタブレットを取り出した。「どれが好きかしら?気に入るのがなければ別のデザイナーに描かせるし、そもそも業者を変えてもいいんだから」「どっちも素敵です……どっちがいいと思いますか?」「結婚するのはあなたなんだから、自分で選ばなきゃ!あなたは弘樹の大切な宝物でもあるけど、清水家の宝物でもあるんだから。気を使わずに、好きなものを選んで!」数多の苦難を乗り越えてきた柚にとって、今さら涙を流すことなどないと思っていた。しかしこの攻略ミッションを始めてから、なぜか泣きたくてたまらなくなる。剛夫婦が優しくしてくれると、涙が出る。弘樹が甘やかしてくれると、やはり泣きそうになる。こんなに愛されるなんて、久しぶりだった。結局、柚は気に入ったティアラを選び、3人と賑やかな晩餐を楽しみ、その夜はそのまま弘樹の実家に泊まった。弘樹がどのようなところで過ごしたのか気になり、柚は少し屋敷内を散策した。2階の左手奥がかつての弘樹の部屋だと聞き、興味津々で近づいていく。ノブに手をかけた瞬間、弘樹が慌てた様子で止めた。「柚、ここは後で見てくれないか?」彼はいつだって穏やかで、何をしても優しく受け入れてくれる。これほど必死な表情は初めてだったので、柚は「わか
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第17話

「佐々木さん、少しお時間はありますか?」柚を見つめる慎吾の瞳からは、抑えきれない愛情が溢れていた。柚は冷ややかに一瞥して言い放つ。「急いでいるので」柚は去ろうとした。慎吾が追いかけ、柚の腕をつかもうとする。しかし、慎吾よりも早く、柚のボディーガードが一歩前へ出た。柚は、ボディーガードに阻まれた慎吾を睨む。「私は佐々木柚です。あなたが探している人ではありません。これ以上付きまとうなら、それ相応の対応をさせていただきますので」「で、でも!佐々木さんは俺の探している柚とそっくりなんです。それに、調べたんですが、半年前まで佐々木さんは交通事故で植物状態だったはずですよね?それに、あなたは昔、美術を専攻していたはずです。だから、マイクロチップの研究なんて触れたことすらなかったはず。なのに目覚めてから突然研究を始めた。それは柚の専門分野なんです!」慎吾は暗い瞳で柚を捉える。柚は涼しい顔で聞き返した。「だから何なんですか?」「だから……やっぱり柚なんだろ?俺を恨んでいるから知らないフリをしているだけなんだろ?なあ、柚。俺は後悔してるんだ。俺は……」柚は苛立たしげに遮った。「8年間連れ添った相手を仇のように扱っていたのはあなただよね?それに、好きな女を救うために嫁に無理やり臓器提供させて、殺したんだよ?なのに、今更その薄汚れた愛を語りに来るとか、気色悪いと思わないの?」「やっぱりお前は柚なんだな!俺は、あの女医に騙されていたんだ。手術すれば、お前が死ぬなんて知らなかったんだ。お前を殺す気なんて微塵もなかった!」慎吾は目を真っ赤にさせ、激しい後悔の情を露わにした。柚は吐き捨てた。「もし誰かがあなたの心臓を切り裂いて、そのあと『こんなことになるなんて知らなかった』って言ってきたら、その相手を許せる?」「そ、それは……でも、俺は本気で反省しているんだよ!後悔してもしきれないぐらいに!」「あなた後悔しようがしまいが、私には関係ないから。どうしても謝りたいなら、あの世で本人に聞いてみれば?許してくれるのかどうかってね!」柚は踵を返した。正体がばれることなど恐れていなかった。今は、もう慎吾の脅しに屈することはない。車のエンジンがかかった。諦めきれない慎吾は車に駆け寄り、窓を叩く。しかし、加速する車のスピ
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第18話

柚はまた始まったこの芝居に、ひどくうんざりした。だが何か言う前に、慎吾が駆け寄ってきた。「蛍!」彼は蛍を抱き上げると、柚を睨みつけた。「柚、悪いのはお前だろ?蛍はいつも被害者なのに、何でいつまでたっても追い詰めるんだ?」慎吾にこう誤解されるのは今に始まったことではない。だから、もう彼にどう言われようと気にしていなかった。しかし、そこに弘樹と剛夫婦までもが歩み寄ってきたのだ。柚は動揺し、手のひらに冷や汗がにじむのを感じた。今の家族は自分にとても優しくしてくれる。かつての慎吾や両親と同じように、蛍の嘘のせいで弘樹たちも自分を誤解し、嫌うのではないかと心配になった。柚は衣類の端を握りしめる。「私は……」「大丈夫だよ。俺がいるから」弘樹は柚を背後に隠すと、皮肉を込めて言い放った。「我が家のパーティーで、俺の婚約者にそんな言いがかりをつけるなんて、いい度胸ですね?」蛍は何も語らず、ただ泣き続けた。まるでこの世の終わりのような不幸を演じている。慎吾が顔をしかめた。「清水社長、事の経緯も知らずに決めつけるのですか?柚がシャンパンタワーをわざと突き飛ばして、蛍に浴びせたんですよ?」しかし、弘樹は眉一つ動かさず言い返す。「柚が人を傷つけるようなマネをするはずがないですから」弘樹が自分を守ってくれるのを見て、柚はようやく肩の力を抜いた。広い背中を眺め、今までにないほどの安心感を抱く。しかし慎吾は激昂した。「何一つ分かっていないくせに、この女を庇うっていうんですか?こいつは……」「清水社長、監視カメラのデータを持ってきました。今すぐ流しますか?」誰かが小走りで近づいてきた。弘樹が静かに頷く。モニターに映された映像では、蛍が自分でシャンパンタワーを引き倒す様子が、しっかりと確認できた。それを見た慎吾は、あんぐりと口を開け、みるみるうちに顔を青ざめさせていった。慎吾が蛍を突き飛ばす。「お前、俺を騙していたのか?」床一面の割れたグラスの上に突き飛ばされ、蛍の体は傷だらけになった。蛍は泣きながら言った。「皆さん誤解です!私が佐々木さんを陥れるなんて……足を滑らせてタワーにぶつかってしまい、パニックになった私が悪いんです、私が……」蛍の泣きわめく芝居は、もう見飽きた。柚は歩み出ると、蛍の頬を強く
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第19話

「つまり、蛍さんがこれまで築き上げてきた名声は、全部西村夫人を踏み台にして手に入れたものってわけね」「さっき、西村社長も蛍さんを庇って、佐々木さんのことを罵っていたわよね。もし佐々木さんが西村夫人本人じゃなくて、反撃する力を持ってなかったらと思うとゾッとするわ!」「あんなに理屈の通じない旦那と親を持たされて、西村夫人も本当に悲惨よね」「それだけじゃないわよ。西村夫人の息子まで、母親に向かって死ねなんて言ってたみたいだし」「亡くなるまで濡れ衣を晴らせなかったなんて、本当に可哀想」人々の中でそんな噂話が飛び交う。モニターに映し出された真実を見つめる慎吾の顔からは、みるみるうちに血の気が失われていった。口を大きく開けたまま、声すら出ない。彩花も極限の衝撃を受け、その後、怒りに任せて蛍へ突進した。蛍の髪を掴みかかり、鼻水と涙でぐしゃぐしゃになりながら泣き叫ぶ。「この恩知らず!あんたの母親は私の夫婦関係を壊し、あんたが私の娘を虐めていたのね!私はなぜ、あんたみたいなクズのために自分の娘を憎んできたのかしら……」蛍は恐怖におびえながら「お母さん、離して。痛い……」と叫んだ。しかし、彩花は蛍の顔を叩き「あんたなんて娘じゃない!痛い?それがどうしたっていうの?私の娘があんたに濡れ衣を着せられていた時の苦しみに比べれば、痛いわけないでしょ?柚が腎臓を奪われるとき、どれほど痛かったことか!死んで償いなさい!」蛍は泣きながらすがるが、彩花の心はもう戻らなかった。蛍は視線を変え、慎吾に助けを求めるように涙ながらに見つめた。しかし、あれほど庇い続けた慎吾も、今は何も聞こえないかのように立ち尽くしている。「きゃあ!」蛍の鋭い悲鳴が響いた。蛍を押し倒した彩花が上に馬乗りになって、その首筋に噛みついていたのだ。「柚を虐めて追い詰めて、無惨に死なせたあんたが、幸せになれると思わないでよね。あの世で、私の娘に謝りなさい!」彩花の口は真っ赤に染まっていた。蛍の首からは鮮血が流れ出し、床はみるみるうちに汚れた。周囲の人たちが慌てて二人を引き離す。蛍は泣き叫びながら担架に乗せられ、救急車で運び去られた。彩花は口元を血にまみれたまま、制止を振り切り、柚の目の前まで駆け寄った。その目は涙をたたえ、言い知れぬ後
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第20話

慎吾は、うつろな足取りで会場を後にしていた。通り過ぎる先々で、ひそひそと噂話が聞こえてくる。「西村グループの社長のくせに、愛人の汚い手にまんまと乗せられて、奥さんを死なせるなんてね」「本当に愛人に騙されてたと思う?どうせ不倫に走って、確信的に3人で奥さんを追い詰めてたんだよ」「奥さんが死んだ時、濡れ衣を晴らせなかったなんて本当に可哀想。もし、佐々木さんが真実を暴露しなかったら、奥さんはいつまでも悪者のままだったんだろうね」「奥さんは亡くなったっていうのに、罰を受けたのは例の医者一人だけ。西村社長もその愛人も、何の報いも受けていないなんて信じられない」慎吾は叫びたかった。蛍が柚を虐めるのに加担するなんて、一度だって考えたことはなかったんだ、と。それに、最初から蛍のあの薄っぺらな嘘を信じ切っていたわけではない。大野家の両親たちが、こぞって蛍をかばい、柚が自分に薬を盛っただの、柚が蛍を虐めているだのと言っていたから……まさか、実の親が、娘にわざと濡れ衣を着せるなんて思わなかったのだ。だから、柚のほうがやりすぎで、実の親すら庇いようがないのだと思い込んでいた。これまで自分が柚にかけてきた冷たい言葉、柚の失望と絶望に満ちたあの瞳。慎吾は後悔で胸が引きちぎれるほどだった。彼は病院へ向かった。蛍はベッドに横たわっていた。首元の傷は既に処置が済んでいる。勇太が激しい怒りを込めて問い詰めていた。「柚はお前の姉だぞ!どうしてあんなことしたんだ?」「どの口がそんなことを言ってるの?私の母はお父さんの恋人だったんでしょ?なのに母に隠れて今の妻と結婚したせいで、母は愛人になって、私も父親のいない子どもとして育ったんだから!そっちが先に、私を裏切ったんでしょ!」蛍が顔を歪めて勇太を睨みつける。慎吾は拳を震わせ、吐き捨てるように言った。「それがお前の本性か……」慎吾を見るや否や、蛍はか弱い演技に切り替えた。「慎吾、仕方がなかったの。私は……」「黙れ!」慎吾は蛍の首に手をかけた。瞳には確かな殺気が宿っている。「蛍、お前は柚をあんな目にあわせたんだ。あいつは死ぬほど苦しんだ。必ず、償ってもらうからな」慎吾は顔を向けると勇太に告げた。「今すぐこの女と縁を切ってください。でなければ、どんな手段を使っても大野家
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