「凛さん、本当に漂流島へ行って生態調査をする気か?あの島は海を漂い続けている。一度渡れば、二度と陸には戻れないかもしれないんだぞ」加藤凛(かとう りん)が静かに「はい」と答えると、電話の向こうの渡辺真崎(わたなべ まさき)は息を呑んだ。「だが……」凛は真崎の躊躇いを遮り、きっぱりと言い放った。「局長、ご心配なく。大学で獣医学も学んでいたし、私の能力はご存知のはずでしょう。テレビ局の中で、私以上にこのプロジェクトに適任な人間はいません」電話口から、どうしようもないといった様子で深いため息が漏れた。「分かった。君が一度決めたら誰にも止められないのは知っている。だが、これだけは絶対に加藤社長の許可をもらってくれ。そうでないと、彼が怒ってうちのテレビ局ごと潰されかねないからな」真崎が冗談を言っているわけではないことは、凛にも痛いほど分かっていた。加藤哲也(かとう てつや)の自分に対する異常なまでの執着を思えば、テレビ局を潰すどころか、この盛沢市を更地にすることすらやりかねない。幸い、加藤家がどれほど絶大な権力を持っていようと、それはさすがにできない。自分はもう二度と、陸には戻りたくなかった。電話を切ると、凛はすぐさまF国行きの航空券を予約した。出発は2週間後だ。センター広場では、色鮮やかなイルミネーションが今も眩い光を放ち、街中の人々が見物していた。「加藤グループの社長夫人のおかげね。こんな綺麗なイルミネーション、見たことない!」「加藤社長が奥様のために、何千万もかけて特別にデザインさせたらしいよ。一つ一つの映像が全部違うシーンで、お二人のラブラブな思い出なんだって。ほら、あのバルコニーでキスしてるのとか……」「見て、奥様のイニシャルも入ってる!これがスパダリの愛ってやつ?羨ましすぎる!」周囲の羨望の声を聞きながらも、凛は微塵も笑えなかった。もし30分前、あの路地に哲也を迎えに行かず、彼と自分の従妹・高木理恵(たかぎ りえ)が激しく口づけを交わす姿を目撃していなければ。イルミネーションの男女のシルエットが、本当は理恵へのプレゼントだと語る哲也の言葉を聞かなかったら。車の中、書斎の机、ソファの上……あの一連のロマンチックな映像が、すべて理恵との逢瀬を記念するものだったと知らないでいれたのなら。今頃自分
Read more