All Chapters of 夫の不倫相手に殺された私が、蘇って復讐した: Chapter 11 - Chapter 20

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第11話

冥界。死後の世界というのは、本当に存在するのね。晴香の魂は暗闇に浮かび、何も見えなかった。誰かがそばを通り過ぎた気がしたが、顔は見えない。行く当てはなかったけれど、どこへも行きたくなかった。ただ人間界へ戻りたかった。どれくらい彷徨っただろう。閻魔様が晴香を呼び出した。「三途の川を渡ろうとしないところを見ると、何かこの世に強い未練があるようだな」「はい。晴らさねばならない恨みがあります。帰らなければなりません」「魂は輪廻する。どうしても人間界へ戻るというなら、相応の報いがあるぞ」「どんな報いですか?」「魂は消滅し、輪廻転生ができなくなる。それでもよいか?」晴香は悔しかった。このまま無念を抱えたまま死ぬことが耐えられなかった。来世などどうでもいい。この恨みを晴らすだけでいい。「覚悟はできています」「よろしい。7日やる。全てを片付けて戻ってこい」その瞬間、金色の光とともに体が吸い上げられるような感覚がした。気づけば、再び自分の肉体の中へ戻っていた。目を開けようとしても、ピクリとも動かせない。耳元で、誰かが泣き声で話していた。「そんな……水を止めろと言ったはずだ。なぜ死んでいるんだ?」聡は、床で冷たくなった晴香の姿を見て使用人たちに怒鳴った。「そんな簡単な仕事もできないのか!」聡が報告を聞いたとき、頭は真っ白になった。晴香が死んだ?そんなはずはない。薬が致死量ではなかった上に溺れないように水位も制限していた。死ぬなんておかしい。慌てて海辺の別荘へ戻ると、そこには晴香の亡き骸があった。髪が濡れて、血の気を失った晴香は、あまりにも静かだった。鼻元に指を近づけたが、微かな温もりさえ感じられなかった。聡は膝から崩れ落ち、ゴン、という音だけが空虚に響いた。しばらくして、ようやく顔を上げた。「晴香……」名前を呼んでも、何の返事もない。使用人が震える声で告げた。「旦那様、奥様は亡くなってからすでに数時間経っています」聡は狂ったように叫ぶ。「嘘だ!こんなはずがない!君たちは一体何をしたんだ!」「おっしゃった通りのことをしただけで……何もわかりません」使用人たちは恐怖で震えていた。そばでは莉子が涙をこぼしていた。「聡さん、晴香さんのことをあんなふうに
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第12話

聡は、晴香の遺体の傍らで膝をつき、黙り込んでいた。莉子はそんな聡の様子を無視して続けた。「聡さん、どっちみち晴香さんは癌だったんだから、長くはないでしょ。警察には、死の恐怖に耐えかねて自ら命を絶ったと伝えて。そうすれば、私たちは疑われないで済むわ」莉子がそう言い放った瞬間、聡は首を振り、まるで知らない人間を見る目つきで彼女を見た。純粋だと思っていた莉子が、こんな下劣な考えを持つはずがないのに。「聡さん、あなたのために言ってるのよ」莉子は急に胸元を押さえた。「胸が……聡さん、晴香さんはもう死んだんだから、急いで病院に運んで医者に手術させよう。その心臓で、私を助けてくれるよね?」莉子は晴香を死に追いやる前、念入りに医者に確認していた。仮に死んだとしても、すぐに移植すればその心臓はまだ使えるのだと。聡にすぐ遺体を運ばせれば、すべてが間に合うはずだ。晴香はいなくなり、自分に健康な心臓が手に入る。そうすれば、これからはずっと聡は自分だけを愛してくれるし、彼の妻の座も間違いなく自分のものになる。最高な結末だ。「すぐ病院に連絡して、手術の準備をさせないと」莉子が興奮気味にスマホを取り出すと、聡は低い声で言った。「死人の心臓を、使わせない」「どうして?急いで心臓を取り出せばまだ使えるって先生が……晴香さんは死んでからまだそんなに経ってないよ。絶対に移植できるはずよ!」「なるほど。そこまで調べていたんだな」聡は冷ややかな笑みを浮かべ、晴香の遺体を抱き上げると、そのまま外へ歩き出した。自分と一緒に病院に向かってくれると思った莉子の予想を裏切り、聡は車の助手席に晴香を乗せた。そして莉子が車に乗る前に、車は走り出してしまった。追いかけて叫ぶ莉子の声は、聡の耳には届かなかった。家に戻ると、寝室には晴香の遺体が横たわっていた。遺体を目にした莉子は悲鳴を上げた。「きゃあ!何で遺体をこんな所に置くのよ?」あまりの恐ろしさに、死ぬ間際の晴香の言葉が脳裏をよぎる。死んでも許さない、と。莉子の体はわなわなと震えた。まるで晴香が生きているかのように、こちらを睨んでいる気がした。「莉子様、これは旦那様のご命令です」「狂ってるの?このまま放置したら腐るし臭くなるわよ!寝室なのになんてことしてくれたの?早く処
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第13話

聡と莉子の話すことすべてが、晴香の耳にははっきりと届いていた。だが体は言うことを聞かない。冥界から戻ってきた魂が、肉体にうまく馴染んでいないせいなのか、目覚めることができずにいた。このクズの二人の目の前で、生き返ったふりをして驚かせてやろうかと思ったのに。愛だと?聡の愛なんて、いらないわ。「おかしいわよ!本当に晴香さんを愛してるなんて……じゃあ私は?私は何なのよ!」莉子は聡にすがりつき、強くその頬を打った。そしてショックのあまり、そのまま聡の胸の中で倒れ込んだ。「莉子!」莉子の気絶に聡は動揺し、慌てて彼女を抱きかかえて部屋を飛び出した。「いいか、妻の遺体から目を離すな。何かあればただでは済まない」使用人にそう吐き捨てると、聡は車を飛ばして病院へ向かった。二人が出て行ってしばらくすると、晴香は体の感覚を取り戻した。すぐに両目を開け、ベッドから身を起こした。今となっては、冥界へ行った記憶もすべて夢を見ていたかのような感覚だ。死んだはずの自分が本当に生き返ったなんて、信じられない。だが、復讐する時間は、たった7日間だけだ。体が濡れていて気持ちが悪い。熱いシャワーを浴び、着替えを済ませると、部屋のドアを開けた。ドアの外で居眠りをしていた二人の使用人は、晴香が現れたのを見て、夢を見ているのかと目を丸くした。「奥様!私たちは決して奥様に手をかけてはいません!すべて莉子様の仕業で、旦那様は何も知らずに騙されていたんです」晴香は鼻で笑った。莉子を許すつもりは毛頭ない。もちろん、聡のこともだ。彼がこれほどまでに渚を愛しているというのなら、冥界へ行って渚と再会させてやればいい。病院のベッドで眠る莉子を見下ろし、聡は険しい顔で医師に聞いた。「彼女の状況は?」「大きな問題はありません。ただの精神的なショックです。持病の心臓病も今のところは落ち着いていますが、これ以上刺激を与えてはいけませんよ」医師が去ると、聡はベッドの横に腰を下ろした。莉子を見つめてはいるものの、頭の中には晴香のことしかなかった。いくつか思い当たるふしはあったが、晴香が死んだ真相を突き止める証拠はまだない。晴香のために報復したい反面、真相を知るのが怖いという思いもあった。最初から自分が間違っていたのかと思うと恐ろしく
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第14話

「い、嫌よ……こっちに来ないで。きっと夢を見ているのよね。そんなはずはないわ、あなたは死んだんだもの」莉子は布団を頭からかぶり、震えながら自分に言い聞かせる。「そうよ、夢だわ。晴香さんはもういない。幽霊なんて存在するはずないわ。死んだ人なんだから、二度と戻ってなんて来ない!」「言ったはずよ。死んでも、許さないって!」晴香が勢いよく莉子の布団をはぎ取ると、彼女は悲鳴を上げてベッドから飛び起き、狂ったように病室を飛び出していった。「きゃああ!助けて!誰か助けて!」廊下を走っていくと、聡とぶつかった。「聡さん!助けて!晴香さんが、私を殺しに来たの!」「何を言っているんだ?」聡は眉間にしわを寄せ、顔を青ざめた莉子を見て、冷たい表情で彼女を突き放した。「医者も言ってたはずだ。体調が悪いんだから、そんなに騒ぐな」聡が病室へ戻ろうとすると、莉子がすがりついてきた。「本当に見たのよ、晴香さんが現れて、死んでも許さないって言ってきたんだもの!」「死んでも許さない、だと?」聡は足を止め、莉子を見つめた。「お前、晴香がそんなことを言うほどのことをしたのか?」「そ、そんな……なにもしてないわ」莉子は脂汗をかき、背筋が凍りついた。「もし本当に晴香が戻ってきているなら、会わなければならないな」聡は深呼吸し、晴香に会いに病室の扉を開けた。しかし、部屋の中はもぬけの殻で、莉子の言っていた姿などどこにもなかった。「そんなはずは……さっき確かに見たのよ。何度も話をしたんだから」心臓が締め付けられる思いで、莉子は激しく首を横に振った。「起き上がったばかりで、まだ混乱してるだけだろう。もうこんな時間だ、家に帰らなければ」聡が立ち去ろうとすると、莉子は引き止めた。「お願い、行かないで、ここに残って。また晴香さんが現れたらどうするの?」「分かった」聡は頷き、ベッドの横にある椅子に座った。彼は空を見上げ、静かに呟いた。「晴香、もし本当に戻っているなら、せめて一言でもいいから俺に声を聞かせてくれないか?」扉の外で彼の言葉を聞いていた晴香が冷たく笑う。「声が聞きたい?聡、私があなたを今どう思っているのかわかる?正直、見てるだけで反吐が出るわ」晴香は踵を返し、病院を去った。復讐は、まだ始まったばかりなのだ。
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第15話

使用人が慌ててドアを開けると、聡が部屋に踏み込んだ。だが、ベッドには誰の姿もなかった。「一体どうなってるんだ?晴香はどこへ行った?」使用人たちは信じられない思いで空っぽのベッドを見つめ、何度も目をこすった。「そんなはずはありません、旦那様。私たちはドアの前で一日中見張っていました。誰も中に入れていないですし、中から誰も出てきていないはずです!」「そうですよ、旦那様。奥様の遺体が消えるなんてありません。まさか……」もう一人の使用人が、昨日晴香を見たことを思い出した。晴香は死んでなどいなかった。確かに生きていて、自分の足で部屋から出て行ったのだ。恐怖で顔を青くした使用人は、震える声で告白した。「昨日、奥様をお見かけしたんです。部屋から歩いて出ていかれました。夢だと思ったのですが、あれは現実だったのでしょうか?」「なんだと?」莉子は恐怖で数歩後ずさった。もし使用人の言っていることが真実なら、昨晩自分が見た人物は本当に晴香だったということになる。そんなはずはない。晴香は死んだのだ。数時間も息をしていない人間が、生き返るはずなどない。「旦那様!」階下で使用人が呼んでいる。「外にお客様がいて、どうしても会いたいと……」「そんな暇はない!」「でもその方は、奥様に言われてきたと言っています。どうしても伝えないといけないことがあると……」聡は眉をひそめた。晴香がその人を呼んだだと?ここ数日の混乱で、聡は冷静さを欠いていた。晴香は本当に死んだのか?死んでいないのなら、今はどこにいる?外にいるのは一体誰だ?聡は最後に空の部屋を一瞥し、階下へと向かった。莉子はこの部屋にいられなくなり、慌てて聡の後を追った。しかし、玄関で待ち構えていた人物の顔を見て、莉子は血の気を引いた。あの私立探偵だ。一体何の用だ?「山口さん、いらっしゃいますか?」探偵は莉子の姿を見つけたが、あえて挨拶をしなかった。「あなたは?」「私は以前、奥さんに依頼されていた探偵です。お見せしたい写真がありまして」写真を渡された聡の手は震えていた。「これは何ですか?」そこに写っていたのは晴香ではなく、莉子だった。莉子が大量の金を、かつて渚を襲った男たちに渡している写真だった。「奥さんから調査を頼まれたものです。3年
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第16話

ドアの近くに晴香の姿が現れた瞬間、使用人たちは驚きのあまり卒倒しそうになった。莉子は恐怖で後ろに下がり、床に尻もちをついてしまった。「は……晴香さん?」家の中でただ一人、動じない者がいた。聡だ。彼は晴香の姿を見ると、すぐに駆け寄り、彼女を力いっぱい抱き寄せた。「晴香、お前なのか!本当にお前なのか!」聡は震えながら、涙を我慢して言った。晴香にとって、懐かしい光景だった。聡が最後に自分をこんなふうに抱きしめたのは、渚が亡くなる以前の話だった。また彼に抱きしめられるなんて、思ってもいなかった。聡の体は温かいはずなのに、晴香の心は氷のように冷え切っていた。「離して」晴香が静かに言うが、聡は離そうとしない。「すまない、許してくれ。もう本当のことを知ったんだ。約束する。もう二度と疑ったり、苦しめたりしない」「そう?じゃあ、莉子はどうするつもり?」その問いかけに、聡はハッと正気を取り戻した。自分は何年も晴香を追い詰め、あろうことか濡れ衣まで着せてきたのだ。そして、本当の人殺しを3年も大切にしてきた。聡は莉子を一瞥し、瞳に冷たい怒りを宿した。「莉子は渚の妹だし……」「警察にはもう連絡したのよ」晴香は聡の言葉を遮った。「証拠も証言も揃っている。莉子は法の元で裁かれるわ」あまりにきっぱりとした彼女の態度に、聡は言葉を失った。莉子は立ち上がって怒鳴り散らした。「聡さんがあなたのデタラメを信じるとでも思っているの?」「なら、警察が何と言うか見てみよう」晴香は背を向けた。「聡、この家には莉子がいるなら私は出ていくわ。どうする?」立ち去ろうとする晴香を、聡は後ろから抱きとめた。「行かないでくれ。絶対に行かせない」「なら、彼女を追い出して」「失礼、藤原さんですね。事件捜査のために同行をお願いできますでしょうか」警察が踏み込むと、莉子は恐怖で震えだした。「私は関係ない!全部あの女の作り話よ!」と莉子は聡にしがみついた。「お願い、聡さん!お姉ちゃんと約束したでしょ?私を守ってくれるって!見捨てないで!」「お前が渚を死に追いやったのなら、話は別だ。残念だよ、もうお前にはがっかりだ」聡は悲しい面持ちで続ける。「渚はあんなに優しい人だったのに、妹のお前はどうしてこんなに性根の
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第17話

莉子が警察に連行された直後、聡の母親である山口瑶子(やまぐち ようこ)が聡の邸宅にやってきた。晴香を見つけた瑶子は、見るからに不快そうな顔をした。「聡、莉子は晴香は死んだって言ってたじゃないの。どうしてまだここにいるのよ?」瑶子は以前から理想の嫁として渚を高く評価し、晴香を毛嫌いしていた。渚が晴香によって殺されたと信じ込んでいたから、余計に晴香のことを邪魔だと思った。瑶子にとって晴香は貧しい家庭で育った子供であり、到底聡に相応しい存在ではないと思っているのだ。それでも聡が強引に晴香を嫁として迎え入れ、虐げようとしたから、なりゆきを見守っていただけだった。昨日、莉子から晴香が死んだという電話を受け、この上なく喜んでいたというのに。それなのに今日になって莉子が警察に捕まり、おまけに晴香が生きているなんて……「母さん、どうしてここへ?」普段なら滅多にこの家に顔を見せない瑶子の突然の来訪に、聡は莉子の件に関係があると悟った。「莉子から聞いたわ。あなたが晴香の嘘を信じて、莉子の話を聞かずに警察を家の中に入れたじゃない?聡、どうかしてるんじゃないの?こんな女の言いなりになるなんて!」瑶子はソファに腰を下ろし、厳しい表情を浮かべた。「今日、ハッキリ言っておくわ。この女と離婚して家から追い出し、莉子を釈放させなさい。そうしないなら、親子の縁を切るから!」気の強い瑶子に対し、聡はこれまで従順だったから、瑶子は今回も彼が自分の思い通りに動いてくれると信じた。しかし、聡は扱いやすかったかもしれないが、晴香も同じだとは限らない。「いいですよ。どうせ私も聡と離婚するつもりでしたし」晴香もソファまで歩み寄って座ると、冷めた口調でそう言った。「聡、一度だけ選ぶチャンスをあげる。離婚するの?それともあなたのお母さんと絶縁するの?」自分の隣に座る晴香を見て、瑶子は怒り狂って叫んだ。「どきなさい!私の隣に座るなんて、立場をわきまえなさい!」堂々とした晴香の気迫に押され、瑶子は当惑した。以前は自分の前で恐る恐る目を逸らすばかりで、何一つ逆らわなかった晴香が、どうしてこうも別人のようになってしまったのか?「お母さん、慌てないでください。まずは聡の話を聞きましょうよ」晴香は目を細め、気だるげに聡を見つめた。「母さ
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第18話

「晴香……」聡は返事に戸惑っていると、晴香はすっと立ち上がった。「これ以上、決められないというなら、聡。私たちはもう、これで終わりにしよう」晴香がそのまま行こうとすると、聡は慌てて口を開いた。「母さん、もう帰ってくれ」「なんだって?」瑶子は呆然として、何が起きたのか理解するまでにしばらく時間がかかった。「この女のために、私を追い出すの?本当に親子の縁を切るつもりなの?」「ごめん。晴香を愛しているんだ。もう彼女と離れたくない。母さん、わかってくれ」言い放つと、聡は使用人に声をかけた。「この方を外まで連れて行ってくれ!」自分を「この方」と呼ぶ息子の声に、瑶子はショックで倒れそうになった。晴香はそれを見て眉をひそめた。まだこの程度でへたばるなんて。外が暗くなり始めても、聡は会社から戻ってこなかった。晴香はバスタブに浸かっていたが、お湯の温度とは裏腹に、体の奥が冷え切っているのを感じていた。あと6日。それまでにやることを終わらせないといけない。莉子は刑務所に入れられたが、聡はまだのうのうと生きている。渚を除けば、聡が一番大切にしているのは山口グループだ。次はそこを奪ってやる。バスタブから上がり、鏡の曇りを手で払うと、そこに真っ青になった顔が映っていた。閻魔様から現世に戻る機会をもらったとはいえ、自分はもう生き生きとした人間ではなく、所詮死人であると分かった。ドアが開き、晴香はネグリジェを纏った姿で部屋から出た。晴香の姿を見つけると、聡の顔がパッと輝いた。「晴香、起きてたのか?」会社にいる間も手につかず、彼はずっと晴香のことばかり考えていた。突然どこかへ行ってしまうのではという不安にかられ、家にも何度か電話を入れ、使用人を通して晴香のことを確認せずにはいられなかったのだ。慌てて戻ってきた帰り道、晴香の好物を買ってきた。「見てくれ、お前のために買ってきたよ」聡は袋を差し出す。「昔の大学の前にあった菓子屋の菓子だよ。好きだっただろ?覚えてるか?」差し出された袋を見て、晴香はふと昔のことを思い出した。大学時代、登山部の仲間とよくその菓子屋に行ったっけ。聡や渚とも親しくなって、みんなで一緒に菓子を食べていた。「ここのが一番おいしいの」と、確かに自分が言った。聡が
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第19話

やがて、聡から振り込まれた金が口座に反映された。残高を確認し、晴香は小さく微笑んだ。「これだけあれば十分か?晴香」「ええ、十分よ」晴香は聡を抱きしめたが、その口元の笑みはすぐに消えた。十分だって?彼が自分にしたことと比べれば、こんな金じゃ全然足りなかった。聡には、一文無しになって、すべてを失ってもらわなくちゃ。「晴香」聡は晴香に顔を寄せ、キスをしようとする。しかし晴香はそっと身をかわした。「今日はひどく疲れてるの。それに、体中の傷がまだ痛むわ」晴香は四肢にできた生々しい傷跡を見せた。拘束された時に残った跡だ。それを見て、聡は自分の頬を激しく殴りつけた。「すまない……全部俺が悪い。晴香、できることなら、この先の人生で全て償わせてくれ」晴香はただ軽く笑って言った。「寝よう。もう遅いし」ベッドに横たわると、聡が背後から晴香を強く抱きしめた。その肌は氷のように冷たく、体温は感じられなかった。聡はさらに力を込めた。「晴香、どうしてそんなに冷たいんだ?寒いのか?」「ええ」冷えているのは、目を閉じるたびに、あの最期の瞬間が脳裏で何度も繰り返されるからだ。氷のような水の中でもがく感覚と、鼻まで水に浸かった時の苦しみ。どれくらい時間が経っても決して忘れることはないだろう。翌朝、聡は会社に出かけた。去り際、彼は使用人にたくさんのジュエリーや新しい服を晴香へ届けるよう言い残していった。「奥様、旦那様からの贈り物でございます。本当に愛されていらっしゃるのですね」晴香は無表情でそれらの山を見つめ、皮肉げに鼻で笑った。愛されてるだって?この3年間、聡が自分に何をしてきたか。ここにいる使用人たちは全て見てきたはずだ。今さらこんな贈り物で、長年の苦しみを帳消しにできるとでも思っているのか?晴香は何も言わず、袋に詰められた贈り物をすべてゴミ箱へ放り投げた。「外の空気を吸ってくるわ。気にしないで」晴香はそのまま慈善団体へ直行し、聡から送金された全ての金をそのまま全額寄付した。メディアのインタビューにもあえて応じ、写真を撮られ、取材を受けた後でその場を去った。帰路の途中、聡からの電話が鳴った。「晴香、俺が渡した金を全額寄付したって本当か?」「そうよ、何か問題でも?」
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第20話

「晴香って……」誰かが思い出したように言った。「それって、3年前に山口社長が迎えたあの人?山口社長って、あの人を一番嫌ってたんじゃなかった?どうして今さら連れてきているんだ?」「本当だ。山口社長がパーティーに奥さんと同席しているなんて今までなかったし、一体どうしたんだ?」「藤原さんが捕まったらしいから、本妻が顔を出す羽目になったんじゃない?真偽は定かじゃないけどね」「夫と出かける機会がなかったのは、私がずっと体が弱かったからなんです。やっと体調が戻ったので、こうして夫と一緒にいるんです」周りがひそひそ話す中、晴香は堂々と答えた。「ねえ、今日は欲しいものは何でも買ってくれるって言ったでしょ?」聡は笑みを浮かべ、晴香の腰に手を回した。「ああ、もちろんだ。今日は何でも好きなものを選ぶといい」そう言うと、彼は晴香の頬に口づけをした。晴香の表情は一瞬こわばったが、すぐにまた笑顔を作って見せた。晴香は今、聡に対して生理的な嫌悪感を抱いていた。キスされるだけで、吐き気がするほどだった。「おぇっ……」急に気分が悪くなり、うずくまる晴香を見て聡は慌てた。「大丈夫か、どうしたんだ?」「まさか……ご懐妊ですか?さすがは山口社長、やることやってますね!」誰かがそんなことを口にしたが、晴香は否定も肯定もしなかった。それを聞いた聡は興奮した。「晴香、本当なのか?」「もし本当に赤ちゃんを孕んでいたら、どんなご褒美をくれるの?」晴香が畳み掛けると、聡は舞い上がって答えた。「望むものなら何だってあげるよ」「じゃあ、山口グループの株をちょうだい」聡は一瞬戸惑った。「会社のことには関心がないはずじゃなかったのか?」「株があるほうが安心なの。会社の経営なんて何も分からないし、ただの保険よ」晴香は悲しそうな表情を作り、お腹をさすりながら言った。「今まで散々ひどい仕打ちを受けてきたもの。いつか、私と赤ちゃんまで捨てられちゃうんじゃないかって不安なのよ」「分かった、分かったよ!明日すぐに秘書に手続きをさせて、20%の株をあげよう!」晴香は不満そうに唇を尖らせた。「たったそれだけ?」晴香は、聡が60%の株を保有していると知っていた。20%だけでは、聡を追放するのに全然足りない。「じゃあ、どれくらい欲しいんだ?」「私たち
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