藤原渚(ふじわら なぎさ)が亡くなってから3年。その墓参りに向かっていた山口晴香(やまぐち はるか)は、途中で突然めまいを起こして倒れてしまい、同行した山口聡(やまぐち さとし)はすぐに救急車を呼んだ。晴香が目を覚ますと、医者は晴香が膵臓がんで、余命1か月だと告げた。膵臓がん。それは、容易に受け止められるものではなかった。患えば激しい苦しみを伴うと聞くが、晴香にはまったく実感がなかった。医者は臓器提供の同意書を静かに差し出し、親身なふりをしてこう言った。「とても難しいお話かもしれませんが……臓器提供という形で、他の方の治療に役立てる道もございます。この病院には、来月心臓移植を待っている患者さんがいらっしゃいます。ご本人の意思があれば、心臓をご提供いただくこともできます」晴香は同意書を受け取ったが、移植を受ける相手の詳しい情報を見つけられなかった。しかし彼女はほとんど躊躇することなく、同意書のサインをした。「誰かのためになるのなら、私の心臓を使ってください」晴香のサインを見た医者は、驚いたように口を開けたが、結局何も言わなかった。彼には知る由もない。晴香は死ぬ前に償いをしようとしただけなのだ。かつて一人の命を奪ってしまったのなら、死ぬ前に一人を救いたい。それが晴香の思いだった。病院で死を待つ間、微睡む意識の中で、晴香は聡と医者の会話を耳にしてしまった。「その点滴、あとで確実に命取りになるやつだよな?」医者は点滴を手にしたまま、どうしても手を下せずにいた。「山口社長、本気ですか?藤原さんを助けるために、奥様を膵臓がんだと騙し、毒が混ざった点滴で少しずつ殺すなんて……あまりに可哀そうです」だが聡の声はどこまでも冷たかった。「莉子は心臓移植を待っている。そして晴香は昔、渚を死に追いやった。その責任を考えれば、渚の妹を救うことで償うべきじゃないのか」胸に引き裂かれるような痛みが走り、全身の血の気が一瞬で引いた。起き上がって問いただす力もなく、腕に小さな針が刺さるような感覚が走り、晴香は意識を失った。これまでろくに眠れなかったのに、毒を盛られてからは、泥のように深い眠りに落ちるようになった。今夜、晴香は夢を見た。親友の渚といた夢だった。一緒に郊外に遊びに行くと約束した日。晴香は待ち合わせに急
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