All Chapters of トップシークレット☆後日談 東京~神戸 新婚ラプソディ: Chapter 91 - Chapter 98

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そして日常へ…… PAGE4

 ――翌日。わたしは貢と二人で、朝から篠沢商事本社に出社した。一階のエントランスでは、出勤してきた社員のみなさんが「会長はハネムーン休暇中のはずなのに、どうしていらっしゃってるんだ?」とザワザワしていたけれど。わたしも貢も特に気にせずにエレベーターに乗り込み、最上階の重役フロアーへと上がっていく。 「――おはよう、麻衣さん」 「おっ、おはようございます、会長! 桐島主任も……あ、もう篠沢主任ですよね。すみません」  会長室で出迎えてくれた第二秘書の麻衣さんもまた、休暇中のわたしたち夫婦が出社してきたことにビックリしている様子。 「あー、いいのよ麻衣さん。この人のことは今までどおり、『桐島主任』って呼んで。もう、篠沢が二人でややこしいし、だからって『貢主任』っていうのも呼びにくいでしょ?」 「そうそう。会社では今までどおり、僕は旧姓の桐島で行くことにしたから」 「そうなんですね。承知しました。……ところで、今日はどうされたんですか? お二人はまだ休暇中なんじゃ……」 「ちょっと、重役のみなさんに大事な報告があって。みなさん、今日は出社されてる?」  麻衣さんに訊ねてみると、彼女は「少々お待ち下さい」と言って秘書室の公式グループチャットで各重役秘書のみなさんに確認を取り始めた。 まだ入社して二ヶ月余りなのに、もう秘書室の新しいシステムを使いこなしているなんてスゴい。貢はまだそこまで使いこなせているとは言い難いので、これはやっぱり年齢の差だろうか。とはいっても、二人は四歳しか違わないのに。 「――会長、桐島主任、お待たせしました。みなさん、本日出社されているそうです。どうしましょうか? 小会議室にお集まり頂いた方がよろしいですか?」 
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そして日常へ…… PAGE5

「新婚旅行はどうでした?」 「楽しかったよー。神戸も淡路島もいいところだった。美味しいものもたくさんあったし。おかげでわたし、多分あれから五キロくらい太ったかも」 「いやいや、太ったって会長は可愛いです。ね、矢神さんもそう思うだろ?」  貢が早くも、麻衣さんの前でノロケ節を炸裂させる。しかも彼女に同意まで求めているし、困った上司だ。 「はい、わたしもそう思います」  ……って、思うんかい。前々から思っていたけれど、麻衣さんってけっこう天然キャラなのかもしれない。仕事ぶりは真面目なのだけれど。 「あ、そういえば東京に帰ってきた日にね、真弥さんと内田さんに再会したのよ。わたしが襲われそうになたっところを助けてくれて」 「えっ、そんなことがあったんですか!? 大変でしたね」  麻衣さんも彼女たちに助けてもらったお仲間だ。彼女たちがいてくれたおかげで、麻衣さんはストーカー被害と決別できたのだから。あと、彼女を一途に想ってくれていた入江さんと。 「うん。犯人、保釈中だったのにわたしを殺そうとしてたみたいなの。ほら、あの小坂リョウジさん。幸いケガ一つなくて、ついでにこの人のカッコいいところも見られたんだけど」 「……絢乃さん、僕はついでなんですか」 「ごめん! 今のはちょっと言い方間違えた」  夫婦で仲よく(?)じゃれ合っていると、麻衣さんのスマホからメッセージの通知音が聞こえてきた。 「――会長、小川先輩から返事がきました。重役のみなさん、小会議室へお集まり下さるそうです」 「そう、ありがとう。じゃあ貢、わたしたちもそろそろ行きましょうか
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そして日常へ…… PAGE6

 彼に続いてわたしが頭を下げると、真っ先に口を開いたのは彼の直属の上司でもある広田さんだった。 「――あの、会長。彼が役員になれば、会長の秘書は矢神さん一人だけになってしまうわけですよね? 大丈夫なんでしょうか?」 「そのことなら心配いりませんよ、広田さん。彼が秘書でなくなったら、矢神さんが第一秘書ということになりますけど。第二秘書はすぐに募集をかけるつもりです。社内の……そうですね、秘書室の人が望ましいですが、社外から募ることも視野に入れてます。それまでは、広田さんも含めて秘書室の人たちで彼女のサポートをお願いしますね」 「分かりました。そういうことでしたら、私もぜひとも協力させて頂きます。桐島くん、これからは役員同士としてもよろしく」 「はい。よろしくお願いします、広田副社長」  秘書室の上司と部下だった二人が、これからは(正式に決まれば、の話だけれど)役員の先輩・後輩という関係になる。執行役員同士は役職の上下こそあるものの、立場としてはほぼ対等なのだ。 「正式決定は株主総会での決議を経て、ということになりますが。とりあえず、本人のやる気というか決意というか、そういうのをみなさんにお伝えしたくて今日は集まって頂きました。総会の際はぜひ、賛成票を投じて頂きたく――」 「そんなこと、言われるまでもありませんよ、会長。私も当然、桐島君が専務になってくれることには賛成ですし。山崎さんもですよね?」 「ええ、もちろんですよ。会長や伽奈子様が打診されたのは、それだけ彼のことを信頼しているからでしょう。反対する理由はございません」 「みなさん、ありがとう! では、今日はこれで解散ということで。みなさん、通常業務にお戻り下さい。……あ、それからこれ。みなさんに新婚旅行のお土産です」  わたしは忘れないうち
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因縁再び PAGE1

 ――わたしは総務課から戻ってきた貢と二人で各部署を視察した後、手近なファミレスでランチを済ませてから急いで自由が丘の自宅に帰った。父の葬儀の時の因縁が再燃して、母と宏司さんとの間でまたゴングが鳴っていそうな気がしたからだ。 「ただいま。――やっぱりね、まだ居座ってる」  玄関のドアを開けると、イヤな予感が的中した。この家には貢以外、男性の家族がいないのに(寺田さんなどの使用人たちの玄関は別にあるのだ)、明らかに見覚えのない(葬儀の日に見たかもしれないけれど、憶えていない)男物の黒い革靴が一足揃えて置かれている。多分、揃えておいたのは史子さんだろう。 「居座ってるって……、例の宏司さんという方ですか?」 「そう。さっき、貴方が総務課へ行ってる間にママからメッセージが来ててね。十時ごろに来て、わたしが帰ってきて話をするまでは帰らないって言ってるんだって。ホントもうウンザリよ」  わたしは憮然となって肩をすくめる。あれからもう一年半が経ったというのに、今更何を話そうというのか。宏司さんってたいがいしつこい人だ。 「……大丈夫ですか、絢乃さん? もし一年半前のようなことがあったら、僕が止めますから」 「大丈夫よ、ありがと。わたしだってあれから強くなったんだから、もう何言われたって言い返せるよ。もうあの頃の強がってばっかりのわたしじゃないから。行くよ」 「はい!」  リビングダイニングの手前では、史子さんが待っていた。 「おかえりなさいませ、若奥様、若旦那様。……只今、リビングダイニングに宏司様がいらしておいでで――」 「分かってる。ママが今、相手してくれてるんでしょ? わたしなら大丈夫だから、中に入れてもらうわね。――ママ、ただい
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因縁再び PAGE2

「あの時はわたしのこと、散々バカにして下さいましたけど。今では立派に会長の務めを果たしてますよ。大叔父さまが会長になられていたら、どうなっていたでしょうね」 「…………ああ、確かにその点は認めるとしよう。だが君は、パワハラ問題の時に顧問弁護士とぶつかり、挙句顧問を交代させる事態になってしまったんじゃなかったかな」 「ああ、そんなこともありましたね。ですがご心配なく。新たに顧問としてお迎えした阿佐間先生とは、おかげさまで良好な関係を築いていますから。それとも、あの先生の意見を鵜吞みにして隠蔽した方がよかったとでも?」 「…………そっ、そんなことは言ってないだろう!」  わたしに痛いところを衝かれたらしい宏司さんは、苦し紛れに吠えた。 あの頃、確かにパワハラ問題を公表してから一時だけはグループの信用が揺らいだ。でも、その後すぐに信用は回復し、経営には何の影響も出なかったのだ。そのことは彼もよく知っているはずで、さっきまでの発言はただの負け惜しみということになる。  そして、グループの顧問弁護士が唯ちゃんのお父さまに交代した経緯は宏司さんが言ったとおりである。 前任の顧問弁護士の先生は、わたしがあの問題を公表したいと言った時に「どうして公表しなければならないんですか。隠し通せばいいじゃないですか。その方がグループの信用にキズをつけなくて済む」と言い、わたしとは見事に意見が対立した。それでもわたしが強行的に公表に踏み切ったため、「もうあなたに手をお貸しすることはできない」と自分から顧問を降りてしまわれたのだ。その後にたまたま知り合ったのが阿佐間先生で、そしてたまたま唯ちゃんのお父さまだったという偶然が重なって今の状態になっているというわけだ。 「――絢乃さん、強いですね……」 
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因縁再び PAGE3

「貢……」  彼がわたしのために、宏司さんにそう言ってくれて胸が熱くなる。彼は出会った日からずっと、本当にわたしのことをちゃんと見てくれていたんだなと思うと、やっぱりこの人と結婚してよかったなと実感できる。 「お父さんが亡くなって悲しくないわけがないじゃないですか。絢乃さんがあの時、どうして泣かなかったと思ってるんですか。あなた方に、弱みを見せたくなかったからですよ。あなた方のせいで、絢乃さんは泣きたくても泣けなくなっていたんですよ!」 「貢、もういいよ。ありがと」  これ以上、彼がわたしのためにこの人から憎まれる必要はない。彼からの援護射撃はあれだけで十分だ。 「……まったく、加奈子さんの婿さんもたいがいだったが、娘婿も似たようなもんだな。貢君といったな。君のご両親の職業は?」 「父は〈篠沢グループ〉のメインバンクで支店長を務めています。ですが、決して絢乃さんの力でそうなったわけではありません。母は元保育士で現在は専業主婦です。あと四歳上の兄がいて、料理人をしています。……それが何か?」 「言っておきますけど、宏司さん。彼は決して逆玉狙いでわたしに近づいてきたわけじゃありませんから。それと、父が仕組んだ政略結婚なんかでもありません」  これは宏司さんが彼のご両親やお兄様の職業でマウントを取ろうとしているんだと気づき、わたしは先手を打った。ところが、彼はわたしたちの想像の斜め上をいくことを言い、わたしたち夫婦を非難し始めた。 「誰もそんなことは思っちゃいないよ。ただ、どうして結婚式に篠沢家の親族を招かなかったんだね? 貢君の家族は呼んでいるのに、絢乃ちゃんの親族は父親の兄弟の家族だけだったというじゃないか。篠沢家の人間が加奈子さん以外一人もいなかったなんて、篠沢一族の名折れだとは思わんかね」
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因縁再び PAGE4

「――ちょっと待ちなさいよ」 そこへ突如口を挟んだのは、宏司さんのいとこでもあり、この篠沢家の実権を握っている母だった。「さっきからあなた、何を勝手なことばかり言ってるの? 絢乃と話したいって言うから私はずっと黙ってたけど、そろそろガマンの限界だわ。言わせてもらいますけどねぇ、宏司さん。あなたにこの子の結婚相手を決める権限も、結婚披露パーティーをやれって言う権限もないの。貢くんを婿にえらんだのは絢乃自身だし、彼のことは亡くなった夫だって認めてくれてたわよ。私にとっても自慢の娘婿だし、歳こそそんなに離れてないけど自慢の息子なの。結婚式の規模だって、招待客だってこの二人が決めてやったことよ。それは親の私にだって口出しできないの。あと、絢乃はこの家のために結婚したわけじゃないから。貢くんのことが好きで、貢くんも絢乃のことを好きになってくれたから結婚した。それだけ! それは篠沢家のメンツとは何の関係もない。はき違えるのもいい加減にしなさい!」「……はぁ」 母に一気にまくし立てられ、宏司さんはたじたじだ。「ママ、スゴい……」 わたしも母に感謝の拍手を送りたい気分だ。わたしが言いたかったことを、全部代弁してくれたんだもの。 そして、宏司さんから「開け」と言われた結婚披露パーティーについて、わたしにはちょっと閃いたことがあった。「篠沢のため」というなら、それを思う存分利用させてもらいましょう!「絢乃、こんな人の言いなりになんてなることないわ。パーティーなんて開かなくていいわよ」「ううん、ママ。パーティーは開くことにした」「絢乃!?」「絢乃さん!?」 わたしの返事を聞いて、母と貢が飛び上がる。一体何を考えているんだと言いたげだ。「わたしにちょっと考えがあるのよ。二人とも、耳貸して」 目を丸くしている二人にだけ、わたしはこっそり打ち明けた。このパーティーを、リモートの臨時株主総会にしてしまおうと。つまり、月末に予定されている株主総会の予定を少し早めて、その場で貢の専務就任も発表してしまうつもりなのだと。「……絢乃さん、そんなことできるんですか? いくら何でも無茶なんじゃ……」「できなくはないよ。会場と日程さえ押さえれば。……ただし、株主さん全員への事前通知と、あちこちへの根回しが必要になるけど。費用のことは心配しなくていいでしょ? ウチの
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因縁再び PAGE5

「でも絢乃さん、会場はともかく衣装はどうするんですか? 結婚式の衣装、あの後どうなったか分かりませんよね?」 「あるよ、衣装。だってあれ、全部レンタルじゃなくてオーダーメイドだもん」 「……はいぃぃ!? あ……あるんですか、全部!?」 「うん、ウチの衣裳部屋にね。貢は知らなかったんだっけ。後で案内してあげるよ。だから大丈夫」  これで衣装の問題も解決。あとは会場さえ押さえられれば、こちらはいつでも結婚披露パーティーという名を借りた臨時の株主総会が開ける。 「――というわけなんで、宏司さん。話はまとまりました。この休暇期間中に、お望みのとおり結婚披露パーティーは開きます。ただし、内容などの決定権は全てこちらに委ねて頂いてもいいですか? それが絶対条件です」 「……分かった。その条件、呑もうじゃないか。ときに貢君……だったかな」 「はい?」 「せいぜい、我々篠沢一族に恥をかかせないことだな。では、私はこれで失礼するよ」  最後の最後までイヤミを投下しながら、宏司さんは帰っていった。嵐が過ぎ去ったように、リビングの空気が穏やかになる。 「……ふぅ~、やっとうるさいのが帰ってせいせいしたわ」 「史子さん、玄関に塩撒いておいてくれる?」 「はい、若奥様。かしこまりました」  わたしがお願いすると、史子さんはキッチンから塩のポットを持ってきて本当に玄関先にパーッと撒いた。
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