All Chapters of トップシークレット☆後日談 東京~神戸 新婚ラプソディ: Chapter 101 - Chapter 110

120 Chapters

重大発表! PAGE2

 控室に入ったわたしは、ブライダルサロンの女性スタッフの人にヘアメイクをしてもらい、結婚披露パーティーの時に着ていた淡いピンク色のオフショルダーのドレスを着せてもらった。胸元にはもちろん、貢から十八歳の誕生日にプレゼントされたあのネックレス。 今日の実際の内容はあくまでも臨時株主総会だけれど、一応結婚披露宴の形を取っているため、こうして花嫁の姿にならないわけにはいかないわけである。「……篠沢様、完了致しました。いかがでしょうか?」「はい、もうバッチリです! ありがとうございます。すみません、今日は無理なお願いをして」「いえいえ! 本日は当ホテルの宣伝にもなると上司が申しておりましたので、全力でお手伝い致します」「ご協力、感謝します」「はい。――では篠沢様、ご主人がお待ちですので、隣の控室へ参りましょう」「ええ」 女性スタッフと一緒に控室を出て、貢がいる隣の控室のドアをノックした。「貢、そろそろ時間だけど準備できてる?」「はい、大丈夫です。どうぞ」 中からドアを開けてくれたので、わたしは彼の控室へ入る。そこにいたのは、グレーのタキシードでビシッと決めた貢だった。「やっぱりそのタキシード、よく似合ってるよ。カッコいい」「絢乃さん、ありがとうございます。惚れ直しました?」「惚れ直すも何も、わたしはいつだって貢に惚れてるよ。……ねえ、わたしはどう? 結婚式の日と同じくらいキレイ?」「はい。すごくキレイです」「よかった。ありがと。それじゃ、そろそろ会場に行こう」「はい」 表向きは結婚披露宴ということになっているので、貢にも介添スタッフがついている。わたしたちはそれぞれの介添スタッフの人に手を引かれながら、会場となるバンケットルームへ移動した。「会場の準備はもうできてるよ。真弥さんが張り切って、ライブ配信で投票できるようにURLを株主さん全員にメールで送っておいてくれたって」「ああ、そういえば僕のスマホにも来てましたよ、そのメール」 わたしと結婚した時から、彼も株主の一人になった。もちろん、大株主であるわたしや筆頭株主である母のスマホにも同じメールが届いていることだろう。「さて、このパーティーがホントは株主総会で、貢が専務になるっていう発表の場だって知ったら宏司さん、どんな顔するかなぁ。楽しみ♪」「……絢乃さん、なんか悪そうな顔し
Read more

重大発表! PAGE3

『——それではこれより、篠沢家・桐島家の結婚披露パーティーを開会致します。まずは新郎新婦のご入場でございます。みなさま、盛大な拍手でお迎え下さいませ!』  今日の司会進行を引き受けてくれた久保さんの声で、このパーティーの開会宣言がされ、わたしと貢は会場に入った。 高砂席に着席したところで、わたしは久保さんと目配せしてマイクを受け取った。 『みなさま、本日はわたしたち夫婦のためにお集まり下さいまして、本当にありがとうございます。夫の貢ともども厚くお礼を申し上げます』  ここまではあくまで、表向きの結婚披露パーティーでの挨拶。でも、本番はここからだ。会場に村上さん、広田さん、山崎さんの三人も入場して会場の空気はガラリと変わった。 わたしはフッと笑い、再びマイクに向かう。 『……というのは表向き。実はこの会は、篠沢グループの臨時株主総会なんです。本来は月末に開催するところを、株主さま全員のお許しを得て前倒しで行うことになりました。株主さまたちとこの会場は、リアルタイムでリモートで繋がっています』  そこで高砂席の後ろのカーテンが開き、そこに株主のみなさんの顔がズラリと映し出されたスクリーンが現れた。もちろん、この設営に携わってくれたのも真弥さんだ。 「な……っ! 何なんだ、これは!? 俺はこんなの聞いてないぞ!」 『でしょうね。宏司さん、貴方にだけはお知らせせずにこの計画を進めていたので。ご存じなかったのは貴方だけみたいですね』 「~~~~っ!」  大勢の目の前で苦虫を嚙み潰したような顔をしている宏司さんなど構わずに、わたしは総会を進めていく。 『本日はわたしからみなさんに、重大発表がございます。ここにおりますわたしの夫、篠沢—&mdash
Read more

重大発表! PAGE4

「……何なんだ、この茶番は」 一人茫然と吐き捨てる宏司さんのところへ、わたしは高砂席を降りて行く。これだけ大掛かりな仕掛けをしたこの会を、神聖な篠沢グループの株主総会を「茶番」だなんて。……ちなみに、株主の皆さんとのリモートはまだ繋がったままだ。「茶番……ですか。でも、この会の内容のすべての決定権はわたしに委ねるという条件を、貴方は吞みましたよね? それなら、どんな内容になろうと文句を言う資格は貴方にはないんじゃないですか?」「それとこれとは話が別だ! こんなの、話が違うだろう! 結婚披露パーティーだと思って来てみたら、実は株主総会だったなんてこんなのは騙し討ちだ! ここにいる他の招待客だって、それこそ株主の連中だってこんなのは納得していないはずだ! 違うか!?」「宏司さん……、貴方はまだ気づいてないんですね。ここにいるみなさんは、株主の皆さんも含めて全員この計画を知ったうえで協力して下さってるんですよ。知らなかったのは貴方だけです。さっきもわたし、そう言いましたよね? 見苦しいですよ」「何だと!? しかも、この若造が専務取締役だと? 篠沢グループももう終わりだな!」「……いい加減にしろ、宏司!」 宏司さんの数々の暴言を許せなかったのか、とうとう兼高大叔父が彼を威厳たっぷりに怒鳴りつけた。これにはさすがに、宏司さんも震え上がる。「おっ……親父!?」「お前は、会長の大変さが分かっとらんようだな! これだけの大仕掛けを、たったの二日で準備することがどれだけ大変か分かっとるのか!? 会長は三月まで、高校に通いながら会長の務めも立派に果たしておったわ! それがどれだけ大変なことか、お前は分かっておらん。お前のワガママだけで周りを振り回しおって! 絢乃ちゃんが会長になった時もそうだ。私がいつ、会長になりたいと言った!? お前はいつもそうだ。そんなんだからその歳になっても結婚できんのだろうな」「親父……、そこまで言わなくてもいいじゃないか。だいたい、親父はどっちの味方なんだよ? 息子の俺じゃなく、そんな小娘の味方なのか?」 その場で始まった怒涛のお説教に、さすがの宏司さんもタジタジだ。わたしたち夫婦は笑いを堪えるのに必死だった。「もちろん、絢乃会長の味方だ。お前のことは金輪際知らん。もう息子とは
Read more

重大発表! PAGE5

 ――その後、宏司さんはすごすごと退散していった。あの人はもう二度と、わたしたち夫婦の前で偉そうに振舞うことができなくなったことだろう。 「……久保さん。もう一度マイク、いいですか?」 「えっ? ……ああ、はい。どうぞ」  わたしは再び久保さんからマイクを受け取ると、この会を仕切り直すことにした。 『――これで、篠沢グループの臨時株主総会は終了とさせて頂きます。株主のみなさま、ありがとうございました。もうリモートの回線を切って頂いて結構です』  このセリフを合図に、スクリーンに映し出されていた株主さんたちの映像が次々に消えていく。それと同時に、会場内にはビュッフェスタイルの料理やドリンク類、デザートなどのワゴンが次々と運ばれてくる。 『ここから第二部に入りまして、改めてわたしたち夫婦の結婚披露パーティーとさせて頂きます。みなさま、本日は食べ放題ですのでご自由にお食事をお楽しみ下さい。そちらにいらっしゃる重役のみなさんも、どうぞ。席もご用意しますので』 「あら、いいんですか? じゃあ社長、常務、私たちも頂きましょう」 「そうですね。せっかくの会長のご厚意ですし」 「そうですな、社長。では遠慮なく」  このバンケットを担当しているホテルのスタッフさんが、急きょ四人分の席を設けた。わたしが高砂席に戻ると、その光景に貢が首を傾げている。 「……あれ? 絢乃さん、四人分って? もう一人は……」 「もう一人分は、真弥さんの席。彼女とはインカムで繋がっててね、株主総会が終わったら会場にいらっしゃいって言ってあるの。そろそろ来る頃だと思う
Read more

重大発表! PAGE6

 さすがは一流ホテルのコックさんたちが腕を振るっただけのことはあって、お料理はどれも美味しかった。わが篠沢家のコックたちだって負けてないないけれど。 飲み物は、わたしたち夫婦は二人してアップルサイダーを選んだ。わたしはもちろん未成年だから、そして貢はクルマを運転して帰らなければならないからだ。 「――貢、このローストビーフ美味しいね。今度、ウチのコックさんにも作ってもらうよ」 「こっちの仔羊のグリルもいけますよ。僕、ジビエって初めて食べたんですけど、臭みが全然ないんです」  結婚式の時も、旅行先でもそうだったけれど、一緒に美味しいものを食べながら笑い合うのが「家族になった」ということなんだなぁとわたしは改めて実感した。わたしはふと親族席の方に目を遣る。今日は井上の伯父さまたちが出席していないので(わたしたちが新婚旅行へ行っている間に、アメリカへ帰国してしまったらしい)、母も桐島のご両親と一緒のテーブルに着いているのが見える。 「貢のご両親も楽しんで下さってるかな? このパーティー」 「楽しんでるみたいですよ。お義母さまと楽しそうに話してますし」 「そうだね。貢のご両親とお義兄さま夫婦も、今はわたしの立派な家族なんだ」  篠沢家と桐島家の垣根を越えて、親同士はすっかり一つの家族になっている。もちろんお義兄さま夫婦も、お二人の間に生まれてくる子も。 休暇もあと二日か――。わたしはそんなことを思いながら、ふとあることを考えていた。    * * * * 「――お義父さま、お義母さま、今日は協力して下さってありがとうございました」  夕方にパーティーが終わり、控室で着替えを済ませて帰る前に、わたしは義両親にも丁寧にお礼を言った。 「いえいえ。絢乃さん、私たちも
Read more

家族のカタチ PAGE1

「――絢乃さん、悠に電話したらね、『今日は絢乃ちゃんの言葉に甘えて篠沢邸でゆっくりしてこい』ですって。明日、夕飯を一緒に頂いてから帰るって言っておいたわ」 夕食前のリビングでのひと時、お仕事を終えたお義兄さまと連絡がついたらしいお義母さまがわたしに喜んで報告して下さった。「そうですか、よかった。それじゃ、ここを自分の家だと思ってゆったり寛いで下さいね。わたしにとってはもう、お義母さまもお義父さまも、もちろんお義兄さま夫婦も家族なんですから」「ええ。ありがとう、絢乃さん。そうそう、悠といえば、絢乃さんと貢が新婚旅行でいなかった時にもこの家で加奈子さんと一緒に飲んでたんでしょう? 加奈子さん、ごめんなさいねぇ。あの子が迷惑かけちゃって」「いえいえ、いいんですよー。私の方から『ウチで一緒に飲まない?』って声をかけたんですから。私、夫を亡くしてからは絢乃も未成年だし、貢くんもお酒あんまり飲めないでしょう? だから晩酌の相手ができて嬉しいんですよ。ですから、悠くんにも『また飲みにいらっしゃい』って伝えて下さい」「あら、そうですか? 分かったわ、加奈子さん。そう伝えておきますね。でも、身重の奥さんを放ったらかしにして毎晩飲みに来るようじゃ考えものだけど」「それもそうですねぇ」 母親同士はすっかり打ち解けているみたいだ。ちなみに貢のお義母さまの方が、母よりいくつか年上なのだけれど。会話の内容は姉妹みたいだ。その一方で、お義父さまは貢以外に話し相手がいなくて淋しそう。そっか、結婚式の時には聡一伯父さまがいたけれど、もう帰国しちゃっているからなぁ……。「――お義父さま、貢の他に話し相手がほしくないですか?」 というわけで、わたしはお義父さまの話し相手に名乗りを上げることにした。男性ではないけれど、一応これでも経営者なので話にはついていけると思う。「ああ、絢乃さん。ありがとう。母親同士はああやって盛り上がっているが、父親は私一人だけだからね。結婚式の時には、聡一さんとずいぶん話の花を咲かせたものだが。……篠沢会長と、いや絢乃さんのお父さまと一度話をしてみたかったなぁ」「そうですね……。父もきっと、天国でそう思っているはずです。ありがとうございます」 父がここにいたら、きっとお義父さまと話が合ったかもしれないとわたしも思った。「それにしても、貢が篠沢グループで
Read more

家族のカタチ PAGE2

「それに、他の重役のみなさんも色々と協力して下さるみたいだし、大丈夫だと思う。正直、最初この話が来た時は俺自身、『俺なんかで大丈夫なのかな』って心配になったけどね。俺一人じゃないから」  当事者である貢自身も、お義父さまに自分の正直な気持ちを話した。 「……そうだな。大企業の経営というものは、一人ではできないからな。私も職業柄、色々な経営者を見てきたから分かるが、経営というのはチームプレイだと思う。ワンマン経営者でうまくいっている人間はほんの一握りだ」 「〝経営はチームプレイ〟ですか。なるほど、いいお話を聞かせて頂きました。わたし、会社というのは一つの家だと思ってるんです。それで、社員や役員はみんな家族だと。……家族ってそれぞれ家の中で役割があるでしょう? それと同じなんじゃないかなって」 「なるほど……。家族も会社も、一人一人が支え合って成り立っている。そういうことかな?」 「ええ、そういうことです。もちろん、一族のことと経営とは別物だってことも分かってます。わたしはたまたま父から会長の職を引き継ぎましたけど、それは父との血の繋がりが理由じゃないんです。わたし自身がそう望んでいたからで、父はそもそも婿養子だっだので祖父との血の繋がりはありませんし。ですから、もしこの先わたしと貢さんの間に子供が生まれても、会長の職を継ぐかどうかは本人の意思に委ねようと思ってます。そうなった場合は、その時の役員の誰かに会長職を譲るという選択肢もありますし」 「その場合、貢が会長になるという可能性もあるということかな?」 「ないとは言い切れませんね。それでも、そこは本人の意思を確かめてからになりますけど」 「なるほどなぁ……。絢乃さんはやっぱり、しっかりした考え方を持った人なんだな。十代の若さで経営者としての道を選んだだけのことはある」
Read more

家族のカタチ PAGE3

「ねえ貢、お義兄さまたちも呼ばなくてよかったのかな?」 「いいんじゃないですか? 兄は今ごろ栞さんと二人でのんびりしてるでしょうから。『呼ばれなかった~!』って後から拗ねるような年齢でもないですし」 「……それもそうだね」  確かに三十一歳にもなって、しかも奥さんもいるのにそうやって拗ねていたらカッコ悪い。わたしが栞さんの立場だったら「えんがちょ」したくなるかもしれない。 「――篤さん、美智枝さん、一緒にワイン飲みません? この料理に合うとっておきの赤ワインがあるんです」 「いいですね。美智枝、せっかくだから頂こうか」 「ええ、お父さん。ワインなんて飲む機会、めったにないものね」  親グループはこれからワインを飲むらしい。母が史子さんに、赤ワインのボトルを持ってくるように頼んだ。 「貢ももらったら? ワイン。わたしのことは気にしなくていいから」 「そうですか? じゃあ……お義母さん、僕も頂きます」  母がワイングラスを四つ持ってきて、史子さんが持ってきたボトルのコルクを抜いて、大人四人は飲酒タイムに入る。わたしだけは残念ながらまだ飲酒できる年齢に達していないため、そこに加わることができない。けれど不思議と疎外感はない。羨ましいなとは思うけれど。 父や祖父母が元気だった頃にも、こうして大人たちがお酒を飲んでいた。でもその当時のわたしはまだ幼かったので、「こんなものか」と達観していたような気がする。 「いいなぁ……」  わたしの隣で美味しそうにグラスを傾ける貢を眺めながら、わたしはおいしいお肉を頬張りつつひとりボヤく。好きな人と一緒にお酒を飲むのってどう
Read more

家族のカタチ PAGE4

 ――夕食と晩酌の時間を終えて、義両親は今夜お泊りになる部屋へと引き上げられた。我が家は全室に専用のトイレとバスルームがあるので、夫婦水入らずで過ごしてもらえるのが嫁としても嬉しい。今日はお疲れだろうから、お二人で広々としたお風呂に入ってもらったりとか……。 「ママ、今日はわたしたちも疲れたからもう休むね。おやすみなさい」 「おやすみなさい、お義母さん。ウチの両親を泊めて下さってありがとうございます」 「あら、貢くん。お礼を言うなら絢乃になんじゃない? 言い出しっぺはこの子なんだから」  確かに、義両親に我が家へ泊っていくように勧めたのはわたしだったけれど。母が許可してくれたからこそ、それが実現したのだ。 「ですが、お義母さんが許可して下さらなかったら実現していなかったと思うので」 「うん、わたしも同感。ママが許してくれなかったら、わたしも強行するつもりはなかったよ。だって今、この家でいちばん権限持ってるのはママだもん」 「絢乃まで……。ママの許可なんかなくても、あなたが決めてよかったのよ。だって、美智枝さんと篤さんはあなたの旦那さまのご両親なんだから。私にどうこう言う権利まではないもの。あなたはもう未成年じゃないし、私の権限なんて名目上でしかないのよ」 「……そっか。わたしもう、自分の意思で何でも決めていいんだ。そうだよね、もう一応大人なんだもんね」 「そうよ、絢乃。あなたは多分、近いうちに母親になると思うの。子供が生まれたら、その子に関することは母親であるあなたと父親である貢くんの二人で相談して決めることになるのよ。そこに、おばあちゃんである私が入り込む隙なんてないんだからね」  母も気づいているんだ。わたしがまさに今、妊娠する寸前だということに。母もきっと、わ
Read more

家族のカタチ PAGE5

「……絢乃さん、なんか温泉に浸かってるおばあさんみたいですね」  貢が呆れているのか面白がっているのか分からないようなコメントをしてくる。確かに、温泉へ行けば大浴場に一人くらい、こういうおばあさんがいそうだけれど。心が広いわたしは、夫から「おばあさん」と言われたくらいでは目くじらを立てない。 「だぁって気持ちいいんだもん。はぁ~、極楽ごくらく~♪ 貢って揉みほぐしも上手いんだねぇ」 「総務課でよく、島谷元課長の肩もみや腰もみ、脚もみをさせられてましたから。あの人、女子社員には『セクハラだ』って言われるのがイヤでこういうことをさせないくせに、僕には平気でさせてたんですよ。これも立派なパワハラだっていうのに」 「こんなことまでさせられてたの? ホント、当時の貴方には同情しかないわ」  肩もみや腰もみはともかく、足が臭いであろうオジサンの脚もみなんて誰がやりたがるだろう? それでお金がもらえるなら「仕事だ」と割り切ってできないこともないかもしれないけれど、ボランティアの(……でもないか。本人はイヤがっていたわけだし)ただの雑用だけでやらされたらたまったものではない。それで手当てがつくわけでもないし。 「はい。でも、相手が絢乃さんなら問題ないです。疲れた妻を癒すのも夫の務めですし、愛する絢乃さんの脚もみなら喜んでさせてもらいます」 「……はぁー。そのセリフ、世のモラハラ夫たちに聞かせてあげたい。貢は夫の鑑だね」  彼の方が立場が下だったせいもあるかもしれないけれど、わたしたちの夫婦関係は良好だ。わたしは貢のことを大切に思っているし、貢からも愛されている。 「――そういえばあの人、今頃どうしてらっしゃるんでしょうね? もう再就職先は見つかったんでしょうか」
Read more
PREV
1
...
789101112
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status