All Chapters of 【牌神話】〜麻雀烈士英雄伝〜 師: Chapter 41 - Chapter 50

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第2部 三章【コバヤシ君の日報】その5 第一話 ホームレス山口幹雄

40.ここまでのあらすじ  アクアリウム渋谷2号店。通称アクア小林店には『トンボ食いの青澤』という異名を持つ青澤SVが赴任してきた。 一方アクアリウム渋谷1号店は副店長の杜若蘭とチーフの神戸緋呂斗が密かに交際を始めていた。【登場人物紹介】小林賢こばやしけん主人公。いつも一生懸命な麻雀アクアリウム渋谷2号店の店長。日本プロ麻雀師団所属。渡辺健司わたなべけんじ麻雀アクアリウム渋谷1号店の店長。小林の同級生で相棒。鈴乃木大河すずのきたいが麻雀アクアリウム会長。現場は引退して側近たちに任せている。上村大地かみむらだいち麻雀アクアリウムの関東エリア担当マネージャーにして会長側近の1人。杜若蘭かきつばたらん麻雀アクアリウム渋谷1号店の副店長。ギャルをそのまま大人にしたような女性。スタイル抜群で背も高い魅力的なスタッフ。神戸緋呂斗かんべひろと麻雀アクアリウム渋谷1号店のチーフ。バカがつくほど真面目でまっすぐ。隠し事は苦手ですぐ言ってしまう方。それゆえ小林たちから信頼されている。青澤正克あおさわまさかつアクアリウムのスーパーバイザー。基本的には渋谷2号店担当。トンボ食いの青澤という異名を持つ男。橋本宴はしもとうたげアクアリウム渋谷1号店のアルバイト。全性愛者で杜若蘭のことを好いている。今は上村のことも気になる様子。長谷川春子はせがわはるこ小林賢の大ファン。プロ入りした小林を心から応援している。長谷川雅史はせがわまさし春子の夫。ゲームセンター『ロング』の2代目店主。麻雀もそこそこ強い。恵美笑子えみえみこ小林賢の大ファン。春子と一緒になって小林プロを応援している。その5第一話 ホームレス山口幹夫 山口幹雄(やまぐちみきお)はアクア上野店の客だった。と言っても月に一度しか来店しないが。ただ、月に一度は必ず行って半荘4回くらい0.3レートで遊んだ。 山口は上野公園にダンボールを敷いて暮らしており、肌は黒く焼けて髪は汚く伸びて髭はもみあげとくっついていた。 しかし、そのままで来店したりは当然しない。雀荘に遊びに行く時は先にサウナに行くし髭はある程度整えて、髪を切りはしないがゴムで縛った。 服装も外出用(いつも外にはいるが)の自分なりに一番上等なものにして、同卓者に不快感を与えないよう配慮してから行く。
last updateLast Updated : 2026-05-29
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第2部 三章【コバヤシ君の日報】その5 第二話 サラリーマン雀士尾崎

41.第二話 サラリーマン雀士尾崎 山口は予定通りサウナに行き、一通りきれいにして整えた。これなら雀荘にも入れるし電車の椅子にも堂々と掛けることが出来る。(渋谷、か。懐かしいな。昔はよく来たもんだが。相変わらずの大都会だな) そんな事を思いながら山口はあるものを探していた。そう、アクアリウム渋谷店の看板だ。アクアリウムは渋谷に2店舗あることは店内のポスターで知っている。だが、地図までは覚えていない。アクアリウムなら安心安全の低レートなのでホームレスの山口にも何回かなら安心して遊ぶことが出来る。「あった!」 アクアリウム渋谷1号店は見つけてみたらなんのことはない。これはもはや駅から見えるではないか。10分程探し回っていたのがバカらしいくらい駅の近くにあった。ガーーー 自動扉の開く音に反応して杜若副店長と橋本宴が元気よく口上を上げた。「「いらっしゃいませえ!!」」◆◇◆◇ 尾崎洋平(おざきようへい)はバリバリ働くサラリーマンだ。とはいえ、働いてるばかりではつまらないから趣味で麻雀をした。しかし、尾崎のその趣味は普通の人のそれとは違った。 普通は麻雀が趣味というとそれだけで説明は終わりになるが、尾崎は厳密に言うと『絞る』のが好きなのだ。 絞りというのは悪い言い方をすると嫌がらせ。良く言えば我慢比べだ。 バッチバチの殴り合いではなく、水を張った洗面器にいつまで顔をつけてられるかの勝負をしたいということ。かなり変なやつである。そんなんでストレス発散になるのか? とも思うが、ストレスの発散方法はひとそれぞれ。この人にはこれが一番いいのだろう。そして、そういう事を得意とする奴の方が麻雀は強いものなのだ。 麻雀はつまるところ我慢比べ。最短距離を突っ走るより急がば回れの方が良かったりする。 攻撃なんてのは要するに本能のままに攻める動物と同じ。ちょっとしたコツなどはあるが、そこにたいした差は生まれない。 肝心なのは絞りなのだ。極端な話、平たい場で1打目からドラの役牌を放つような打ち手は千年経っても勝ち組にはならない。 まあ、ごくまれにそれが正解の手牌もあるが、そういう選択が目立つ打ち手は確実に麻雀が弱い。 損得勘定の計算が出来ていないのだ。相手あっての手牌ということをわかっていない。自己中に手広く受けることしか考えないのは確実な計算ミスなのである
last updateLast Updated : 2026-05-30
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第2部 三章【コバヤシ君の日報】その5 第三話 決着なんてつかない

42.第三話 決着なんてつかない「サンゴくぅん。そこ、お客様ご案内して」「わかりました。はい、ではこちらお客様のご案内を致しますので少しお待ち下さい。……ご用意できました! お客様。どうぞ!」『サンゴ』と呼ばれたスタッフに案内されて山口は卓に着く。 随分変わった名前だなと思ったので、山口はすれ違いざま『サンゴ』とやらの名札を確認した。【アルバイト海藤充悟】 ちっともサンゴではない。普通の名前だった。(なぜサンゴ?)「上野へは明後日行く予定にしてたんだけど今日会えるなんて思わなかったよ」「ああ、それはおれも驚いた。何回くらいやる?」「2回でいいよ。そんでメシにでも行こう。おごるから」「2回じゃ決着つかないかもしれないぞ?」「ふっ……。決着なんて、俺たちずっとついてないだろ。これから先も、つかないさ。回数は関係ないよ」「……そうかもな」 実を言うと尾崎は山口と同卓したくなかった。それは山口がホームレスだって知ってるから。たった0.3のレートでも山口には下手したら死活問題の勝負になってるかもしれない。そう思うと本気で打てない。だから2回でやめようと提案したのだ。 しかし、山口は実はそんなにお金に困るほどの貧乏ホームレスではなかった。 あの手この手で稼ぎ続けてカツカツの生活をあえてやり、しっかり貯金していたのだ。とはいえ、尾崎と比べたら月とスッポンくらいの差があったが。ただ、心配されるほどの状態ではないのは確かだった。 その証拠に、山口の飼っている猫は丸々とふっくらした体型をしていて猫の餌をしっかり買ってあげれているのがよくわかる。というか、この貯金は全て猫のためにしているのだ。いつ稼げなくなってもいいように。猫の世話だけはしっかりできるように稼いでいた。それが命を預かるということだと山口は考えていたのだ。 ただ、山口は自分にはお金がある程度あることは誰にも言ったことがない。なにせ外で暮らしているのだ。誰か悪い奴にそんなことを知られたらひとたまりもない。 まとまった現金を持っていると襲われるおそれがある。山口はホームレス生活をしていてそれだけが怖かった。「じゃ、2回ってことで決まりね」「メシはどこ行くよ?」「このビルの地下でいいよ」「鳥蛮族か。いいねぇ」──────「ツモ!」山口手牌三四伍六八②②789(中中中)
last updateLast Updated : 2026-05-31
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第2部 三章【コバヤシ君の日報】その5 第四話 全て繋がる命

43.第四話 全て繋がる命「はい、これでいいかな」「ありがとうございます!」 麻雀は過程が全て 日本プロ麻雀師団 小林賢 近頃、小林賢はサインを求められることが増えてきた。 なんの実績も残してない新人プロのサインなんかもらってどうするのかと思うのだが、小林を知ってる人たちは絶対に小林は超一流プロにいつかなると信じているのだ。 ここでサインをもらっておけばきっと将来は大変な価値のものになると。 やはり実際に卓を囲んだ経験があると小林の強さに気付く人は多かった。加えて近頃は青澤SVから学ぶことも多く、小林は前よりさらにできるようになっていった。 青澤は超一流プロより強いという評判だったが、その噂は間違いではなかった。奴はあまりにも強い。 非常識な青澤がSVになっているのはその圧倒的な雀力を会長に気に入られて、辞めたりしないようにと上級の役職を与えられたそうだ。そんな辞令ありなのか? と思うかもしれないが麻雀界には意外とそんな理由で役職者にされてる者はいたりする。 常識ある小林は非常識な青澤といいコンビだった。「ところで青澤SV、トンボってうまいんですか?」「あー、別に思ったよりまずくはないな。揚げたから食感はサクサクしてた。けど、もう食わん」「なんでトンボを食おうなんて思ったんですか」「腹減ってたから」「は?」「シオカラトンボっていうのいるだろ。俺、塩辛好きだから。あの味するなら食いたいなと。金もなくて飢えてたしな。当然、シオカラトンボは塩辛くないから騙されんなよ」「騙されるやついませんって。ていうかトンボ食べようとか思わないので!」「おまえだってウナギは食うだろ」「はあ、ウナギは好きですけど」「そりゃトンボ食いと同じことだ。ウナギの好物はヤゴだからな」「………」(まったく、変なことには博識なんだから。ヤゴ食ったウナギを食うのと、トンボ食うのは全然違うっつうの!) 青澤曰くヤゴ食ったウナギを食べればヤゴの命をもらうのと同じで、その肉体はヤゴでありトンボでありウナギであるのだと。もっと言えばボウフラであり蚊であり……と全て繋がる。自分というのは全ての命と繋がり合っている一部にすぎないのだと。東洋哲学的な話になってきたが要するに大きく言えば自分自身が宇宙であり、強くなるつもりなら自分のコスモを熱く燃やしてみろと。なんだか
last updateLast Updated : 2026-06-01
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第2部 三章【コバヤシ君の日報】その5 第伍話 そういう時代を生きてきた

44.第伍話 そういう時代を生きてきた 蘭とヒロトの企画した麻雀教室の『テスト会』は思った以上にうまくいって第2回第3回と開催されることになっていた。 テストがあると思うことで今まで以上に(覚えておかなければ)という意識が生まれ、それにより生徒たちはきちんと覚えようとメモ書きするようになった。これまでのような同じ事を何度も教えるということにならなくなったことに蘭とヒロトは驚いた。◆◇◆◇ 一方、渋谷2号店も若者相手に青澤と小林が麻雀教室をやっていたが、青澤の麻雀は奥が深すぎて小林が解説しないと理解できない内容となっており小林1人で大変だった。 とくにその日の日報が青澤の読みの高度さを物語っていた。 ────日付3.21店舗名渋谷2号店担当責任者小林フリー売上129300セット売上44900フードメニュー売上2590その他売上0計176790備考欄・報告事項 こんにちは、小林です。昨日は実践形式で麻雀教室を行うこととなり、お客さんの中でもかなり上手い2人を入れて青澤SVに見てもらいました。これはその時の思考回路です。東1局東家 小林賢南家 小宮山源さん西家 海藤充悟北家 佐々木剛太プロ立会人 青澤SV この日は1号店から海藤君をレンタルしてました。私は海藤君とメンバーツー入りしてます。 親の私の配牌は悪くなく、とりあえず第1打で発を捨てるとそれを見た南家がいきなりポン!  その躊躇ないポンに私は違和感がありました。しかし、嫌な予感を感じているにしても手を進めたいので2巡目にすんなり手が進み、打中。 正直言ってこの中切りはかなり本気の勝負です。というのも南家の小宮山さんというお客さんはバランスのとれた打ち手です。攻守において優れている小宮山さん。彼が東1局0本場から親の第1打を即ポンなんてするパターンはほぼないはずなんです。 満貫以上のニオイがプンプンします。いや、それどころではない可能性も。 なので、意を決して中を捨てるも無事通過。 すると同巡に西家の海藤君が打白とするではないですか。瞬時に私は思いました。(あっ、これは鳴かれる! 中が通った以上白はほぼ鳴かれてしまう。今三元牌を捨てるなら中にしてくれたら助かったのに。発、白と晒されてはもうリーチが打てない状況になってしまう。せっかく親で先
last updateLast Updated : 2026-06-03
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第2部 三章【コバヤシ君の日報】その5 第六話 逃げ道があるから逃げる

45.第六話 逃げ道があるから逃げる「会長、グッズ販売の予算のことでお話しが……」「なあ上村。なんでサンゴなんだ?」「……海藤充悟ですよね。海の中の藤が珊瑚なんでしょうか? いや、そんなはずないですよね」「海藤君…… カイトウジュウゴ…… 充悟…… 15?」「! それ! それですよきっと! あ、会長。私は答えがわかりました!」「なんだと? それってどれよ」「言ってしまっていいんですか? 私、この答えには自信ありますよ」 上村は得意げだった。「む、うむ、ヒントだけ。ヒントだけでいい」「海藤のフルネームをイントネーションを変えてよんでみるとわかると思います」「? かいとうじゅうご…… かいとう15? 解答15? ああっ!」「ゴサンでもいいですよね」「3×5=の解答は15! 解答15なるほどなー!!」 自分で答えにたどり着いたことでスッキリした鈴乃木会長。嬉しそうに鼻歌を歌っている。大満足のようだ。しかし、「……いやまてよ。たしか、小林が言うにはヒントは上野店の狭山学(さやままなぶ)だと言っていたが? あれはなんだったんだ?」「会長、狭山の名前を別読みしてみて下さい。フルネームで」「? さやままなぶの別読み? さざん…がく? さざんがく!」「そー! 3×3=9(さざんがく)なんですよ彼の名前! なのであだ名が『九九(クク)』考えたものですよね~」「そっかあー。あースッキリした!」「小林の次回日報を見る前に完全に正解したのって初めてじゃないですか? 会長良かったですね!」「ああ!」 グッズ販売の予算のことで話し合いに来たはずが、本来の目的を完全に忘れて2人は小林の日報を楽しんだのだった。◆◇◆◇ 小林の麻雀教室に佐々木剛太が来た日のこと。 剛太は小林にハッタリの極意を教えてくれた。 先生である小林が教わるっていうのもおかしいが、小林はみんなに愛される存在で、誰もが小林にメリットのあることを教えようとしてくれた。 「いいか、小林。親は13枚をメンゼンで仕上げるレースなんだ。子よりシャンテン数が1つ進んでる有利な回だと思っていい」「ハイ」「正直ペンチャンのリーチのみでもいい。とにかく先制するんだ。だが、どんな場合もリーチしろというのは違うがな。そこで気になるのは自分の捨て牌だ」「迷彩ということですか?」「いや、
last updateLast Updated : 2026-06-04
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第2部 三章【コバヤシ君の日報】その5 第七話 渡辺の夢

46.第七話 渡辺の夢 渡辺にはどうしても叶えたい夢がある。 渡辺は福岡生まれだ。小さい頃しか福岡にはいなかったが大好きな故郷で今でもたまに祖父母に会いに行くこともある。 渡辺に麻雀を教えてくれたのは祖父の渡辺銀一だ。渡辺はおじいちゃん子なのでいつか生まれ故郷の福岡で自分の雀荘を開き、祖父の遊び場にしたいと考えた。 そこは健康マージャンの店にして、お年寄りから子供まであらゆる年齢層の人が出入りできるものとし、お客様に麻雀の楽しさを伝えることができたら。それを仕事にして生きていけたら幸せだろうな。と思っていた。 麻雀を教えてくれた祖父への、自分が出来る最大の恩返しはこれしかない。それを実現するのが渡辺の夢なのだ。 幸い銀一はまだ健康そのものだ。しかし高齢者であることは事実であり、この健康状態がいつまでも続くものではないことは分かっている。終わりのこない人生はない。「――っていうデッカイ夢があるんですよぉー。ヒック」 渡辺は酔っ払っていた。今日は上村エリアМの歓迎会として近くの居酒屋『鳥民』で渋谷1.2.号店から早遅の代表責任者を集めて呑んでいた。 渡辺は酒に弱いので普段は烏龍茶しか頼まないのだが、今日は上司に酒を用意されてしまったので(まあ、一杯くらいは)と付き合いで呑んだらあっという間に酔って夢を語りだしてしまっていた。 渡辺は自分の酒の弱さがいまいちわかっていないのだ。(あらあら、ダメねぇ。ほんの一杯であんなになっちゃうなんて。ちょっと今日は私が見てた方が良さそうね)と杜若蘭副店長はさり気なく渡辺の隣に場所を移した。「あっ、蘭ちゃん。いつの間に隣にいたんですか? 蘭ちゃんっていつも髪からいい匂いしますよネェ~」(……ダメだコリャ。こんな簡単に酔っ払う人初めて見た……) しかし、ここで夢を語り出したのは渡辺にとって転機となる。「そうか、渡辺店長。それは立派なことだな。夢を持ち、目標へ向かって邁進するのは素晴らしいことだ。誰にでもやれることではない。……うん。その夢、なんとかしてやれるかもしれん。私に任せてくれないか?」「へっ、それはどういったことで?」「まあ、可能性の話だがな。ただ、私にいまその話を聞かせたのは良かったぞ。店長。きっと私が力になってやる。私もおじいちゃん子だったからな。気持ちがわかるんだ」 という話をしていた、
last updateLast Updated : 2026-06-05
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サイドストーリー2 猫 前編

47.サイドストーリー2 猫前編 尾崎洋平(おざきようへい)と山口幹雄(やまぐちみきお)は高校の同級生で麻雀仲間だ。社会人になってからも2人は麻雀で繋がっている。『絞りの尾崎』と『先手の山口』でスタイルは全く別だった2人だが、お互い最強雀士と噂された。 ここらの地域で2人の敵はいなかった。そんな2人が今日の麻雀の感想戦を肴にして赤提灯のおでん屋で呑んでた帰り道。ゴソゴソ 2人はなにやら音のする段ボール箱を見つけた。 しっかり閉じてあるが持ち手の穴から中が見える。なにか生き物が、いる。 山口は箱を開けた。中にはまだ小さな子猫と猫の餌が入っていた。餌の缶詰めはあいてないのが中に何個もあった。多分、道路側に段ボールが移動してしまわないように重石として入れたのだろう。「おい、子猫だ。『拾ってください』だってよ」「うわー、かわいい。よくこんなかわいい子猫を捨てれたな」「2人で抱き抱えてみて懐いた方が飼おう」「いいねえ。どっちにも懐いたら?」「そん時はジャンケンだろ」 酔ってた勢いもあって2人はとくに考えもせずにそう決めた。「シャー!」「あ、おれはだめみたい」尾崎は子猫に拒否されたようだ。「にゃん」「あれ、おれは良いんだ。よしよし」 拾ってきたその子猫は山口に懐いた。「まん丸でかわいいなぁ。玉みたいに丸いからおまえは『タマコ』だ」 暑くもなく寒くもない、心地よい西風が吹く、秋のはじめ頃のことだった。────── 近頃、尾崎は仕事で昇進してしっかり稼いでいたが、忙しく働く毎日で麻雀からは離れていた。 一方で山口はここらが人生の分岐点と考え、起業することにした。 2人の接点は麻雀だけなのでこの間しばらく連絡は途絶えたが山口はタマコに餌やりをしたりする時はいつものようにタマコを拾ったあの日の夜を思い出した。  2人は連絡を取り合わなくとも友情は常に心にある。 男の友情とはそんなものだ。────── ──── ── あの日から十数年が過ぎた── 尾崎は結婚もして子供も4人。欲しいものは全てある。人生を謳歌してる成功者になっていた。そんな尾崎の人生ももちろん紆余曲折色々あったし、その友人である山口も色々あった。 先手必勝のスタイルな山口に起業はギャンブルと同じだった。つまり、事業で失敗した。 この数年間で山口は結婚
last updateLast Updated : 2026-06-06
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サイドストーリー2 猫 後編

48.サイドストーリー2 猫後編 ある日、尾崎が上野に行くとホームレスが減っていた。山口もいない。 しばらく待っても山口は一向に姿を見せないので不安になり尾崎は1番近い位置のホームレス仲間を訪問した。「すいません、あの、山口君は…… その、ここの隣の猫飼ってる人知りませんか? ずいぶん人数が減ったように見えるけど」「……ああ、ぐっさんな。やつは前回のホームレスを狙った警官の見回りの時捕まっちまったよ。違法薬物所持でな。覚醒剤やってんのがバレちまった。質の悪い安モンだからやめときゃいいのに、なんでも『大きな勝負の日には持って行くんだ』とか言ってお守りみてーに持ってたのよ。最近はあまり使ってなかったんだけどな。で、可哀想なのがあの猫よ。おれも面倒見てくれって頼まれたんだけどなぁ……」 山口の段ボールの位置にはずいぶん痩せた猫がいた。 「まさかだけど、あの猫は……!」「ぐっさんの猫だよ、ずいぶん痩せちまっただろ……」 たしかに模様はタマコのそれだった。でも、こんなに細くなってしまうなんて。「餌は? みんなが面倒見てるんじゃないんですか?」「たいした忠誠心でさ、誰からも受け付けないんだよあの猫」 猫の餌は置いてあった。 でも口にしないで猫はただやつれていくのだという。 それからというもの、尾崎はなるべく上野に立ち寄った。今日こそは猫に餌をと。食べてくれるまで色々な餌で試した。 お隣のホームレス仲間もそれは同じだったしお向かいさんや斜向かいの人らも猫を心配していた。でも、誰にもなつかないタマコの断食は続き、日に日に衰弱していくタマコがいた。 数週間後 タマコは骨と皮だけになった。 死んじまうぞお前。とみんなが心配していたし餌を無理にでも口に入れようとするがタマコはそれを拒み続ける。  そこに、やっと山口が帰ってきた。「…にゃっ!!! にゃっ……!!」 タマコは山口を見つけると走って飛びついた。 山口は猫の衰弱ぶりに驚き、餌を与えた。もう既に餌は買ってから帰ってきていた。山口もまたタマコに会いたくて仕方なかったのだ。 山口が餌をやるとタマコはがっついて食べた。 タマコが餌を食べる様子に周囲は感動した。その時、尾崎もそこにいた。みんな周りで拍手していた。 忠誠心があり、主人からしか施しを受けない。そんな猫もいるということ。
last updateLast Updated : 2026-06-07
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第2部 三章【コバヤシ君の日報】その6 第一話 アクアリウムノーレート店

49.ここまでのあらすじ 小林は青澤SVや佐々木剛太プロに教わりメキメキと腕を上げていた。 一方、渡辺は夢を叶えようとしていた。というのもアクアリウムはノーレート店を作る計画があった。その1号店は福岡天神店。その際、店長は渡辺ということが決まった。地元福岡にノーレートの雀荘を作るのは渡辺の夢だった。渡辺の夢は見事叶うことになるのか――【登場人物紹介】小林賢こばやしけん主人公。いつも一生懸命な麻雀アクアリウム渋谷2号店の店長。日本プロ麻雀師団所属。渡辺健司わたなべけんじ麻雀アクアリウム渋谷1号店の店長。小林の相棒。鈴乃木大河すずのきたいが麻雀アクアリウム会長。現場は引退して側近たちに任せている。上村大地かみむらだいち麻雀アクアリウムの関東エリア担当マネージャーにして会長側近の1人。渡辺のサポートをする。杜若蘭かきつばたらん麻雀アクアリウム渋谷1号店の副店長。ギャルをそのまま大人にしたような女性。スタイル抜群で背も高い魅力的なスタッフ。神戸緋呂斗かんべひろと麻雀アクアリウム渋谷1号店のチーフ。バカがつくほど真面目でまっすぐ。隠し事は苦手ですぐ言ってしまう方。それゆえ小林たちから信頼されている。青澤正克あおさわまさかつアクアリウムのスーパーバイザー。基本的には渋谷2号店担当。トンボ食いの青澤という異名を持つ男。橋本宴はしもとうたげアクアリウム渋谷1号店のアルバイト。全性愛者で杜若蘭のことを好いている。今は上村のことも気になる様子。長谷川春子はせがわはるこ麻雀アクアリウム渋谷店の常連客だったが、とある理由からしばらく来てなかった。心配事が杞憂に終わり、また常連客として復活した。長谷川雅史はせがわまさし春子の夫でゲームセンター『ロング』の2代目店主。基本的には春子の付き添いだが麻雀の腕は春子より上。恵美笑子えみえみこ小林を慕って来店する主婦。麻雀の腕は中々のものだが、それでも小林の麻雀教室に必ず来て一生懸命に学ぶ。二つ名は『四暗刻のエミ』その6第一話 アクアリウムノーレート店「――というわけで遅くとも来年には福岡で新店舗の店長として働くことが決まったんですよ。アクアリウム初のノーレート店です」「へえ、すごいじゃないか」 渡辺はノーレート店の件を久しぶりに来店した尾崎洋平に話していた。「でも
last updateLast Updated : 2026-06-08
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