入り口を振り返ると、そこには到底ここにいるはずのない、そして私が今最も顔を合わせづらい人物が立っていた。「智哉さん……っ、どうして、ここに……」私の震える呟きを完全に無視し、智哉さんは長い足を乱暴に動かして部屋の中へと踏み込んでくる。その視線は私を通り越し、上座に座る実の父親へと真っ直ぐに向けられていた。「何のご連絡もなく、私の婚約者を勝手に連れ出されては困ります」お義父様は手元の切子グラスをゆっくりと回し、中に入った冷酒を一口含んだ。「どうしてお前の許可が必要なんだ? 私はただ、ひよりさんと食事がしたかっただけだよ。ひよりさんだって、私の誘いにちゃんと合意してついてきてくれたんだからね」合意という言葉に、智哉さんの顎のラインが怒りでギリッと強張った。智哉さんは鼻で冷たく笑い飛ばした。「合意、ですか。この国で、あなたからの誘いに首を横に振れる人間なんて、最初から一人も存在しませんよ」息子の辛辣な言葉に対しても、お義父様はただ大袈裟に眉をひそめ、困ったようなポーズを取ってみせるだけだで。その一連の動作のすべてが、智哉さんの焦りを誘うための完璧な計算のようにも見えた。確かに彼は巨大グループのトップであり、誰も逆らうことのできない絶対的な権力を持っている。けれど私に向けられた眼差しは常に温厚で、言葉の端々には優しさが滲んでいた。圧などという暴力的なもので私を脅し、無理やり連れ出したわけではない。「まるで私が権力を振りかざして若いお嬢さんを脅し取るような、横暴な人間だとでも言いたいのか?」お義父様の問いかけに対し、智哉さんは一切の妥協を許さない冷酷な視線で見下ろし続けた。「事実、そうでしょう。あなたのその他人を自陣営に巻き込む時の圧がどれほど異常か、ご自分では気づいていないのですか」「そうなのかい?」お義父様は智哉さんの言葉を全く気にする素振りも見せず、むしろ私の方へ柔らかな視線を向けて、困ったように首を傾げてみせた。お義父様は横暴な人なんかじゃない。とても優しくて私を温かく迎え入れてくれた人だと、智哉さんに伝えなければ。「いえ、私は……っ」智哉さんがゆっくりと首を巡らせ、私を漆黒の瞳でギロリと睨みつけてくる。たった一度睨みつけられただけで、呼吸の仕方すら分からなくなってしまう。「ははっ。ひよりさんはお前の方がよっぽど怖いみたいだ
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