視聴覚室での凄惨な記録に精神を削られた僕たちは、死臭を振り払うように廊下を突き進んだ。 大樹の顔は土気色に沈み、有栖は放心したように僕の袖を掴んでいる。彼女の瞳は、焦点を失ったガラス玉のように虚空を彷徨い、重いショックで意識の半分がどこか遠くへ置き去りにされているようだった。 「……もう、休んでる暇はねぇ。」 大樹が、自分に言い聞かせるように枯れた声を絞り出した。 「次は音楽室だ。まだちゃんと見てないところ…。」 有栖は、壊れた人形のように力なく頷くだけだった。 赤い月光に照らされた彼女の横顔は、死後数日を経た死体のように白く、不気味なほど静かだった。 そのあまりの脆さと儚さに、僕の胸は締め付けられる。かつて蜂蜜入りのお茶をくれたあの眩しい笑顔が嘘のようだ。守らなきゃいけない。 僕が攻略を選択を間違えれば、彼女は本当に壊れてしまう。 僕は握りしめた拳に爪を食い込ませた。この絶望の淵で、彼女を繋ぎ止めておけるのは自分しかいないのだと。 音楽室の重厚な木製扉の前に立つ。 大樹が意を決して取っ手に手をかけ、ゆっくりと引き開けた。 ギィィィ……と、誰かの悲鳴のような音を立てて静寂を切り裂く。流れ込んできたのは、ひんやりと冷たい。 「……誰も、いないな」 大樹が囁く。 カーテンの隙間から差し込む赤い月光が、部屋の中央に鎮座するグランドピアノを照らし出していた。それはまるで、暗闇の中に口を開けて待つ黒い怪物のようだ。 僕たちは、音を立てることを恐れる獲物のように室内へ足を踏み入れた。 有栖はまだ、ぼんやりと夢遊病者のように辺りを見渡している。だが、僕と大樹の全身に、鋭い戦慄が立った。 異常だった。 廃校は確かに綺麗……のはずなのだがこの音楽室で、ピアノの周辺だけが、まるで今さっき磨きあげられたかのように狂気的な輝きを放っている。 黒板
Last Updated : 2026-04-29 Read more