――その日の退勤後。会社のビルを出たところで美緒と別れ、駅へ向かって歩いていこうとしていると……。 「若菜ちゃん、お疲れ。家まで送っていくよ。乗って」 寛斗さんの車がすぐ側に停まり、運転席の窓が開いて彼がわたしを呼び留めた。多分、わたしと話したいから「送っていく」なんて言ってくれたのだと思うけれど、思いつきだけでそういうことをしないでほしい。こちらにも心の準備というものが必要なのだ。 「寛斗さん! あ……、お疲れさまです。それじゃ……、助手席に失礼します」 わたしは戸惑いの気持ちを隠し、今日は自分でドアを開けて、助手席に乗り込む。わたしがシートベルトを締めたのを確認してから、彼は車をスタートさせた。 「……若菜ちゃん、今日は急にあんな話をされてビックリしたろ? ごめん」 「いえ……。実はわたし、朝のうちに美緒からそういう話が出てるんだって聞かされてたんです。だから、お話の内容にはそれほど驚きませんでした。ただ、てっきり聞かされるのは荒木部長からだと思ってたので、寛斗さんから直接伝えられたことにビックリしました」 「そっか、藤崎さんから……。確か親友なんだっけ?」 「はい、高校時代からの親友です。大学も就職先も、彼女がわたしに合わせてくれた感じですね。『若菜が行くならあたしも!』って」 大学はともかく、就職活動の時には他に何社も内定をもらったと美緒は言っていた。にもかかわらず、わたしが〈連城ホールディングス〉から内定をもらうのを待って、それらを全部断って
最終更新日 : 2026-05-19 続きを読む