離婚協議は再開された。だが弘人の耳には、もう内容がほとんど入ってこなかった。『もう大丈夫です』麻衣子の言葉だけが頭の中で繰り返される。一方の麻衣子は冷静だった。資料を確認しながら必要な箇所へ目を通していく。霧島と短く言葉を交わし、条件を確認する。まるで仕事の打ち合わせのようだった。協議は予定より少し早く終わった。弁護士同士が今後の日程を確認する。「次回で最終調整に入れそうですね」霧島が言った。弘人の代理人弁護士も頷く。「その認識で問題ありません」最終調整。その言葉に弘人の胸が重くなる。本当に終わるのだ。今さらながら実感が湧いてくる。「それでは失礼します」霧島が立ち上がる。麻衣子も席を立った。書類を鞄へしまう。その姿を見ているだけで、なぜか焦りが募る。会議室を出ようとした時だった。麻衣子のスマートフォンが震えた。画面を見た麻衣子が小さく笑う。珍しく柔らかい表情だった。「何かありましたか?」霧島が尋ねる。「来月のイベント日程が確定したそうです」麻衣子はそう答えた。「大型案件なので、少し調整が必要で」自然な会話だった。仕事の話だ。ただそれだけのはずなのに。弘人は言いようのない違和感を覚えた。来月。麻衣子は来月の予定を立てている。再来月も。その先も。そこに自分はいない。その当たり前の事実が、急に現実味を帯びた。離婚は紙の上の話ではない。実際に人生が分かれていくということだ。「では、失礼します」麻衣子は弘人へも軽く頭を下げた。取引先へ向けるような礼
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