All Chapters of 愛人に夢中のクズ夫へ。実は私、インフルエンサーなの ~離婚カウントダウン開始よ、首を洗って待ってることね~~: Chapter 121 - Chapter 130

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未来の予定

離婚協議は再開された。だが弘人の耳には、もう内容がほとんど入ってこなかった。『もう大丈夫です』麻衣子の言葉だけが頭の中で繰り返される。一方の麻衣子は冷静だった。資料を確認しながら必要な箇所へ目を通していく。霧島と短く言葉を交わし、条件を確認する。まるで仕事の打ち合わせのようだった。協議は予定より少し早く終わった。弁護士同士が今後の日程を確認する。「次回で最終調整に入れそうですね」霧島が言った。弘人の代理人弁護士も頷く。「その認識で問題ありません」最終調整。その言葉に弘人の胸が重くなる。本当に終わるのだ。今さらながら実感が湧いてくる。「それでは失礼します」霧島が立ち上がる。麻衣子も席を立った。書類を鞄へしまう。その姿を見ているだけで、なぜか焦りが募る。会議室を出ようとした時だった。麻衣子のスマートフォンが震えた。画面を見た麻衣子が小さく笑う。珍しく柔らかい表情だった。「何かありましたか?」霧島が尋ねる。「来月のイベント日程が確定したそうです」麻衣子はそう答えた。「大型案件なので、少し調整が必要で」自然な会話だった。仕事の話だ。ただそれだけのはずなのに。弘人は言いようのない違和感を覚えた。来月。麻衣子は来月の予定を立てている。再来月も。その先も。そこに自分はいない。その当たり前の事実が、急に現実味を帯びた。離婚は紙の上の話ではない。実際に人生が分かれていくということだ。「では、失礼します」麻衣子は弘人へも軽く頭を下げた。取引先へ向けるような礼
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遅かった人

協議の日から数日後。麻衣子は都内のカフェで打ち合わせを終えたところだった。新しい案件の企画書を確認し、担当者と今後のスケジュールを調整する。充実していた。忙しいが、その忙しさが心地良い。店を出たところでスマートフォンが震えた。画面を見た麻衣子は足を止める。弘人だった。しばらく着信画面を見つめる。出るべきか迷った。だが無視する理由もない。麻衣子は通話ボタンを押した。「もしもし」『……麻衣子か』久しぶりに聞く弘人の声だった。以前より少し疲れているように聞こえる。「どうしましたか」麻衣子は淡々と尋ねる。電話の向こうで沈黙が落ちた。何かを言おうとしている。それだけは分かった。『少しだけ時間をもらえないか』「離婚協議の件でしたら、霧島先生を通してください」『違う』弘人は即座に否定した。『そうじゃない』麻衣子は黙る。街の雑踏が遠く聞こえる。信号待ちの人々が横を通り過ぎていく。『一度だけでいい』弘人の声は低かった。『二人で話せないか』麻衣子は目を閉じた。昔の自分なら喜んだかもしれない。何度も望んでいたことだったから。話を聞いてほしかった。向き合ってほしかった。一緒にいてほしかった。だが。今は違う。「何を話すんですか?」静かに尋ねる。弘人は答えられなかった。何を話したいのか。どうしたいのか。自分でも整理できていない。ただ失いたくない。その感情だけで電話を掛けていた。長い沈黙が流れる。
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終わりの日

最終協議の日。麻衣子はいつも通り落ち着いた気持ちで会議室へ向かった。不思議だった。数か月前。離婚を決意したばかりの頃は、こんな日が来ることを想像するだけで苦しかったのに。今は違う。緊張も不安もない。ただ、一つの区切りを迎えるだけだった。会議室にはすでに弘人と代理人弁護士が到着していた。弘人は以前より明らかに痩せて見える。だが麻衣子の心は動かなかった。同情も怒りもない。穏やかな気持ちだった。協議は予定通り始まった。財産分与。慰謝料。今後の手続き。これまで積み上げてきた内容を最終確認していく。「こちらで双方合意ということでよろしいでしょうか」霧島が確認する。麻衣子は頷いた。弘人の代理人弁護士も了承を示す。一つ。また一つ。項目が確定していく。それは夫婦関係の終わりを意味していた。やがて。最後の確認が終わる。会議室に静寂が落ちた。「それでは」霧島が書類を整える。「正式な手続きへ進めます」終わった。その言葉を聞いた瞬間。弘人の表情がわずかに揺れた。終わる。本当に終わる。離婚は決定事項だったはずなのに。いざ現実になると受け入れ難かった。「麻衣子」弘人が呼ぶ。麻衣子は視線を向けた。弘人は何か言おうとする。だが言葉が出ない。謝罪も。後悔も。今さら過ぎる。結局。弘人が絞り出せたのは、たった一言だった。「……すまなかった」会議室が静まる。霧島も。
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離婚成立

一週間後。麻衣子は役所の前に立っていた。空はよく晴れている。少しだけ風があった。手には書類がある。離婚届だった。何度も見た紙だ。離婚を決意した日から、この紙の存在はずっと頭の片隅にあった。隣には霧島がいる。今日は弁護士としてではなく、立会人として同行してくれていた。「緊張していますか?」霧島が尋ねる。麻衣子は少し考えた。そして首を横に振る。「いいえ」自分でも不思議だった。もっと色々な感情があると思っていた。悲しいとか。悔しいとか。寂しいとか。だが実際には違った。胸の中にあるのは静かな解放感だった。長く背負っていた荷物を降ろせる。そんな感覚に近い。「そうですか」霧島は優しく微笑んだ。「それなら良かった」二人は区役所へ入る。受付で書類を提出する。職員が内容を確認する。たったそれだけだった。数分後。「受理されました」職員がそう告げる。その瞬間。麻衣子は瞬きをした。終わった。本当に終わったのだ。結婚生活。流産。裏切り。愛人。離婚協議。長かった。本当に長かった。だが。涙は出なかった。役所を出る。空を見上げる。同じ空なのに、少しだけ広く見えた。スマートフォンが震える。霧島からメッセージが届いたのかと思った。違った。弘人だった。画面を見つめる。しばらく迷う。だが出なかった。今さら
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受理されました

離婚届が受理された日の夕方。弘人は社長室にいた。窓の外では、街の灯りが少しずつ増え始めている。デスクの上には未処理の書類が積まれていた。だが手は止まったままだった。スマートフォンが震える。画面を見る。担当弁護士からだった。弘人は何となく内容を察した。それでも数秒ほど画面を見つめる。開きたくなかった。だが、逃げても意味はない。静かにメールを開く。『本日、離婚届が受理されました』短い文章だった。たった一行。それだけだった。弘人はしばらく動かなかった。受理された。そうか。終わったのか。離婚したかったのは自分だった。そうだ。最初に別れを考えたのは自分だ。麻衣子との生活は息苦しいと思った。彩花といる方が楽しいと思った。だから離婚を受け入れた。そのはずだった。なのに。なぜこんなに苦しいのだろう。弘人は椅子にもたれた。天井を見上げる。社長室は静かだった。静かすぎるほどに。ふと、昔のことを思い出す。帰宅すれば灯りがついていた。食事が用意されていた。疲れていれば温かいお茶が出てきた。当たり前だと思っていた。いや。当たり前ですらなかった。意識したこともなかった。麻衣子はいつもそこにいた。だから失うことなど考えもしなかった。机の引き出しを開く。そこにはまだ、彩花が投げつけた紙が入っている。『退職します』殴り書きされた二行。彩花もいなくなった。会社も落ち着かない。監査は続いている。気付けば。何も残っていなかった。弘人は苦笑する。皮肉なものだ。失うはずのなかったものばかり失っている。その時。社長室のドアがノックされた。「失礼します」入ってきたのは広報部長だった。「May案件の件ですが」弘人は顔を上げる。「どうした」「追加契約のご相談です」広報部長は嬉しそうだった。「想定以上の成果が出ています。先方も継続を希望しておりまして」May。またその名前だった。最近は毎日のように聞く。広報部長は資料を差し出す。「社内でもかなり評判が良くてですね」「特に女性社員からの支持が高いんです」「さすがMayさんだと話題になっています」弘人は資料を受け取った。そこには笑顔のMayが写っている。堂々としていて。自信に満ちていて。成功者の顔だった。そして、その顔
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お疲れ様でした

「Mayさん、お疲れ様でした!」拍手が起こる。麻衣子は笑顔で頭を下げた。大型プロジェクトの発表会は大成功だった。予定時間を少し延長するほど会場は盛り上がり、企業側の担当者も満足そうな表情を浮かべている。控室へ戻ると、スタッフたちが次々と声を掛けてきた。「SNSの反応もすごいです」「トレンド入りしてますよ」「追加案件の問い合わせも来ています」麻衣子は苦笑した。「そんなにですか?」「そんなにです」担当者が力強く頷く。忙しい一日だった。だが疲労感は不思議と心地良い。自分の仕事が評価される。必要とされる。かつての麻衣子が欲しかったものが、今は自然に手の中にある。イベントが終わり、スタッフへ挨拶をして会場を出る。外はすっかり夕方になっていた。スマートフォンを確認する。仕事関係の連絡がいくつも届いている。その中に、一件だけ見慣れた名前があった。天野悠。『終わりましたか?』短いメッセージだった。麻衣子は思わず笑う。『今終わったところよ』そう返信する。すると、すぐに返事が来た。『お疲れ様でした』『近くにいるので、お祝いにご飯でもどうですか?』麻衣子は足を止めた。以前なら。誰かに誘われても、まず弘人の予定を考えていた。夕食はどうしよう。帰宅時間はどうしよう。そんなことばかり気にしていた。だが今は違う。誰の許可もいらない。誰に遠慮する必要もない。『いいわね』そう返信する。送信ボタンを押した瞬間。胸の奥が少しだけ軽くなった。駅前のカフェ。先に到着していた天野が
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久しぶりの休日

離婚届が受理されてから数日後。麻衣子は珍しく何の予定も入れていなかった。朝。目が覚めても急いで起きる必要がない。スマートフォンを確認する。仕事の連絡はいくつか来ているが、どれも急ぎではなかった。ベッドの上で大きく伸びをする。「……平和ね」思わず呟く。こんな朝はいつ以来だろう。結婚していた頃は、いつも何かに気を張っていた。弘人の予定。食事の準備。帰宅時間。機嫌。離婚を決意してからは離婚協議。仕事の再開。SNS。案件。気付けばずっと走り続けていた。スマートフォンが震える。画面を見る。天野だった。『今日はお休みですか?』麻衣子は吹き出した。『どうして分かったの?』すぐに返信が来る。『朝からSNSが静かだから』『珍しいなと思ったんです』麻衣子は笑う。確かにそうだった。最近は毎日のように何かしら発信している。『正解』『今日は何もない』『だからダラダラしてるの』送信する。すると。『それは良かったです』『少しは休んでください』まるで保護者みたいだ。年下の癖に。麻衣子は苦笑した。『あなたは?』『今日は休みです。おそろいですよ』麻衣子は画面を見つめる。おそろい、だなんて。少しだけ照れ臭い。昔なら。こういうやり取りをしているだけで罪悪感を覚えたかもしれない。既婚者だったから。誰かの妻だったから。だが今は違う。誰に遠慮する必要もない。窓の
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少しだけ違う関係

休日の昼。麻衣子は駅前のカフェへ向かっていた。待ち合わせ相手は天野悠。離婚前なら少し気を遣っただろう。だが今は違う。友人と食事へ行く。それだけの話だった。店へ入ると、すでに天野が席についていた。麻衣子の姿を見つけると立ち上がる。「こんにちは」「待った?」「いえ。五分くらい前に来ただけです」相変わらず真面目だ。二人は向かい合って座る。注文を済ませると、天野がほっとしたように笑った。「こうして会うの、久しぶりですね」「そう?」麻衣子は首を傾げる。「離婚協議のたびに顔を合わせてた気がするけど」「それは仕事です」天野が苦笑した。「今日は仕事じゃないので」確かにそうだった。霧島の事務所。打ち合わせ。離婚協議。そういう場では何度も会っている。だが今日は違う。誰にも急かされない。時間を気にしなくていい。ただ食事をするためだけに会っている。料理が運ばれてくる。しばらくは他愛ない話が続いた。最近の仕事。流行っている店。共通の知人の話。気付けば自然に笑っている。「何だか顔色が良くなりましたね」天野がふとそう言った。麻衣子はスープを飲みながら笑う。「そうかしら」「そうですよ」天野は頷いた。「離婚協議が始まった頃は、正直かなり無理をされていたと思います」麻衣子は少しだけ考える。否定はできなかった。あの頃は毎日が必死だった。仕事を再開したばかり。離婚協議もある。弘人や彩花の問題もある。前を向いているつ
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最終話

離婚成立から一か月後。麻衣子は都内のカフェにいた。窓際の席。目の前には見慣れた顔が座っている。「お待たせしました」天野が少し慌てた様子で席につく。「十分早いわよ」麻衣子は笑った。相変わらず真面目だ。待ち合わせ時間の十分前には必ず来る。注文したコーヒーが運ばれてくる。二人は近況を話した。仕事の話。事務所の話。最近見た映画の話。他愛ない会話ばかりだ。気付けば、こうして会うことも増えていた。離婚協議が終わってからも。麻衣子と天野の関係は変わらなかった。いや。少しだけ変わったのかもしれない。以前より自然に笑うようになった。以前より気を遣わなくなった。そして何より。以前よりずっと気楽だった。「そういえば」天野が口を開く。珍しく落ち着かない様子だった。コーヒーカップを持ち上げては置き。また持ち上げる。麻衣子は吹き出した。「何?」「いえ……」「その反応は絶対何かあるわよね」天野は観念したように息を吐いた。そして背筋を伸ばす。まるで面接でも受けるような顔だった。「実は」「ええ」「お願いがありまして」麻衣子は思わず笑う。「何よ。そんな改まって」天野は数秒黙った。耳が少し赤い。緊張しているらしい。それが分かった瞬間、麻衣子は余計におかしくなった。「もし」天野がゆっくり言う。「もし僕が司法試験に受かったら」そこで一度言葉が止まる。「――僕と、付き合ってください」
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番外編① 失ったもの

離婚成立から三か月後。弘人は重い足取りで役員会議室へ向かっていた。最近、この部屋へ入るのが嫌だった。会議室の空気は冷えている。以前のような余裕はなかった。役員たちの視線も厳しい。監査問題が尾を引いているからだ。「辻本元秘書の件ですが」資料が配られる。弘人は黙って目を通した。そこには短い記事が添付されていた。『元須藤グループ秘書の辻本彩花容疑者、業務上横領の疑いで逮捕』監査で発覚した不正経費処理。私的流用。刑事告訴。そして逮捕。会議室には重い沈黙が流れる。やがて一人の役員が口を開いた。「社長」弘人は顔を上げる。「管理責任について、どのようにお考えですか」厳しい声だった。弘人は答えられない。別の役員も続く。「株主総会で説明が必要になります」「社長秘書の不正です」「会社として無関係では済みません」弘人は拳を握った。反論できなかった。監査が始まった頃なら違ったかもしれない。だが今は分かる。見ようとしなかったのは自分だ。彩花を信頼していた。いや。信頼ではない。何も確認しなかっただけだ。それどころか、野放しにしていた。その方が自分にとっても都合がよかったから。   会議は予定より長引いた。終わった頃には、弘人の肩にはさらに重い責任が乗せられていた。社長室へ戻る。机の上には新しい資料が積まれている。その一番上にあったのは広報部からの報告書だった。 May大型プロジェクト第二弾&nb
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