愛人に夢中のクズ夫へ。実は私、インフルエンサーなの ~離婚カウントダウン開始よ、首を洗って待ってることね~~ のすべてのチャプター: チャプター 81 - チャプター 90

131 チャプター

第三者の言葉

数日後。都内の法律事務所。弘人は応接室にいた。向かいには顧問弁護士から紹介された弁護士。机の上には資料が並んでいる。離婚協議申入書。財産関係の概要。最低限の情報だけだ。「まず現状を整理しましょう」弁護士が資料へ目を落とす。弘人は黙って聞いていた。「奥様側は既に代理人を選任されています」「正式な協議申入れも行われています」事務的な説明だった。感情はない。だからこそ現実味があった。「そうですか」弘人は短く答える。弁護士は続ける。「少なくとも現時点では、離婚協議を進める意思は固いと考えた方がよろしいかと思います」弘人は黙った。麻衣子は本気だった。離婚届を渡した日から。霧島へ相談していた時も。正式な申し入れをした時も。それは分かっている。だが。第三者の口から改めて言われると重かった。「今後ですが」弁護士が資料を閉じる。「まず須藤様のお考えを確認したいと思います」弘人は顔を上げた。「私の考えですか」「はい」弁護士は頷く。「協議の目的によって対応が変わります」「離婚そのものには応じるお考えなのか」「条件面を整理したいのか」「あるいは関係修復を希望されるのか」静かな口調だった。だが弘人は答えられない。会社のことなら答えられる。監査も。契約も。経営も。だが。麻衣子との離婚については違った。自分がどうしたいのか。整理できていない。それに気づいたのは初めてだった。「…&hellip
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決まった日

数日後。須藤グループ本社。午後。弘人は社長室で資料を確認していた。監査対応はまだ続いている。取引先への説明も終わっていない。だが最近はそれとは別に、もう一つ気になる案件があった。離婚協議。机の上のスマートフォンが震える。弁護士からだった。『先方代理人との調整が終わりました』弘人は耳を傾ける。『初回協議の日程ですが――』弁護士が候補日を告げる。弘人は手帳へ目を落とした。その日は空いている。正確には。空けられる。重要な会議なら調整する。それだけの話だ。だが。その予定だけは妙に重く感じた。「問題ありません」弘人は答える。『承知しました』電話の向こうで弁護士が言う。『正式に日程を確定させます』短いやり取りだった。それだけで終わる。それなのに。通話が切れたあと、弘人はしばらく動けなかった。協議の日が決まった。ただそれだけだ。だが。今までは準備だった。ここからは違う。 ◇◆◇ 同じ頃。麻衣子は移動中の電車の中にいた。スマートフォンが震える。霧島からの連絡だった。『日程が確定しました』続いて日時が送られてくる。麻衣子は確認した。問題はない。『承知しました』短く返信する。それだけだった。次の打ち合わせまで少し時間がある。麻衣子はスケジュールアプリを開き、予定を一つ追加した。離婚協議。それで
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知らされないこと

初回協議を数日後に控えたある日。須藤グループ本社、秘書室。彩花は朝から落ち着かなかった。理由は分からない。ただ最近ずっと胸の奥がざわついている。監査は続いている。仕事も増えた。周囲の視線も変わった。それだけなら、もう慣れているはずだった。 ◇◆◇ 午前中。社長室へ資料を届ける。ノックをして入室する。弘人は電話中だった。「分かりました」普段より低い声。彩花は資料を机へ置く。弘人は軽く頷くだけだった。会話はない。彩花は退室しようとする。その時。弘人の声が耳に入った。「その日程で構いません」日程。何の話だろう。一瞬だけ気になった。だが立ち止まるわけにもいかない。彩花はそのまま部屋を出た。 ◇◆◇ 午後。監査部から追加資料の依頼が届く。彩花はパソコンへ向かう。画面を見つめる。だが集中できない。最近の弘人は何かがおかしい。以前なら。もう少し近かった。少なくともそう思っていた。だが今は違う。仕事の話しかない。目も合わせない。何かを隠しているように見える。 ◇◆◇ その日の夕方。彩花は珍しく残業していた。資料整理が終わらない。オフィスには人も少ない。その時だった。社長室の扉が開く。弘人が出てくる。一人ではなかった。
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初回協議

協議当日。都内の会議室。麻衣子は開始時間の少し前に到着していた。向かいには霧島。机の上には資料が並んでいる。静かな空間だった。緊張はない。ここまで来るために準備してきた。それだけだった。◇◆◇数分後。ドアが開く。弘人が入ってくる。その後ろには代理人弁護士。麻衣子は視線を向ける。弘人もこちらを見た。だが会話はない。以前なら気まずさを感じたかもしれない。今は違う。ただ事実として向き合うだけだった。全員が席へ着く。代理人同士が挨拶を交わす。形式的なやり取り。その後。弘人側の弁護士が口を開いた。「本日はよろしくお願いいたします」霧島も頷く。「こちらこそ」そして協議が始まった。「まず確認ですが」弘人側弁護士が資料へ目を落とす。「須藤様は離婚を希望されているということでよろしいでしょうか」形式的な確認だった。だが重要な質問でもある。麻衣子は迷わない。「はい」短く答えた。「離婚を希望しています」会議室が静かになる。弘人は黙っていた。霧島が続ける。「本日はまず双方の意思確認と今後の進行について整理できればと考えております」弘人側弁護士が頷く。「承知しました」「弘人様のお考えも確認させていただければと思います」視線が弘人へ向く。弘人は一瞬だけ黙った。数秒。会議室の空気が止まる。そして口を開いた。「……現時点では整理できていません」正直な答えだった。麻衣子がわずかに目を上げる。弘人側弁護士も驚いた様子はない。事前に聞いていたのだろう。「離婚に応じるかどうかも含めてですか」霧島が確認する。弘人は頷く。「そうです」短い返答。会議室に沈黙が落ちる。麻衣子は静かに聞いていた。不思議と感情は動かない。怒りもない。失望もない。ただ思う。やはりそうなのだと。弘人はまだ自分がどうしたいのか決めていない。それだけだった。◇◆◇協議は一時間ほどで終了した。財産分与や条件面の詳細には入らない。まずは双方の立場を確認する。そのための時間だった。席を立つ。資料を片付ける。そして帰る。それだけのことだ。会議室を出る前。弘人が一瞬だけ麻衣子を見る。何か言いたそうだった。だが結局何も言わない。麻衣子も同じだった。会話はない。二人は別々の方向へ歩き出す
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方針

協議終了後。会議室には弘人と代理人弁護士だけが残っていた。資料を片付けながら、弁護士が口を開く。「本日はお疲れ様でした」弘人は小さく頷く。正直なところ。疲れていた。仕事とは違う種類の疲労だった。弁護士は手元の資料へ目を落とす。「本日の協議ですが」事務的な口調だった。「先方は離婚の意思を維持されています」弘人は黙って聞いていた。予想外ではない。むしろ予想通りだ。それでも。第三者の口から聞くと重かった。「財産関係についても整理されていました」弁護士は続ける。「協議そのものは進めやすいと思われます」それは良いことのはずだった。本来なら。だが弘人は複雑な気分になる。協議が進む。つまり。離婚も前へ進むということだ。資料を閉じる音が響く。弁護士は弘人を見る。「そこで確認したいのですが」弘人は顔を上げた。「はい」「弘人さんはどうされたいですか」静かな問いだった。責めるわけでもない。誘導するわけでもない。ただ確認しているだけだ。弘人は答えられなかった。会社のことなら即答できる。契約も。監査も。投資も。だが。離婚については違った。「まだ……分かりません」ようやく出た言葉だった。弁護士は驚かない。むしろ予想していたように頷いた。「承知しました」落ち着いた声。「でしたら、まずはそこを整理されるのが先かもしれません」弘人は黙る。弁護士は続けた。「離婚に応じるのか」「条件面を中心に協議するのか」「関係修復を希望されるのか」「方針によって進め方が変わります」極めて実務的な話だった。弘人は窓の外へ視線を向ける。関係修復。その言葉が引っかかった。今まで考えたこともなかった。麻衣子とやり直したいのか。離婚したくないのか。それとも。ただ現状が変わることに戸惑っているだけなのか。自分でも分からない。「次回協議まで少し時間があります」弁護士が立ち上がる。「その間にお考えいただければ十分です」弘人も立ち上がった。短く礼を言う。そして会議室を出る。帰りの車の中。窓の外を眺めながら、弘人は考えていた。先ほどの問い。――弘人さんはどうされたいですか。答えはまだ出ない。だが。初めてその問いから逃げられないと思った。◇◆◇同じ頃。麻衣子は霧島と簡単な打
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知らない予定

翌日。須藤グループ本社。秘書室。彩花は朝からスケジュール表を確認していた。会議。取引先訪問。役員打ち合わせ。いつも通りの予定が並んでいる。だが一件だけ。見慣れない予定が入っていた。午後三時。社外予定。詳細非公開。彩花は眉をひそめる。珍しい。以前なら共有されていたはずだった。少なくとも秘書である自分には。「辻本さん」声を掛けられる。総務部からの確認依頼だった。彩花は慌てて対応する。最近はこういうことばかりだ。監査。確認。追加資料。気が休まらない。以前のように社長のスケジュール管理だけをしていた頃が、遠い昔のように感じる。午後。弘人は予定通り外出した。運転手付きの車が本社を出ていく。彩花は窓越しにそれを見送る。行き先は知らされていない。知る必要がないと言われれば、それまでだ。だが。以前なら共有されていた。少なくとも彩花はそう思っていた。午後遅く。弘人が戻ったのは夕方だった。彩花は追加資料を持って社長室へ向かう。ノック。返事。入室。いつも通りだ。「こちらです」資料を差し出す。弘人は受け取る。「ありがとう」短い言葉。それだけ。会話は続かない。彩花は一瞬だけ待った。何か言われるかもしれない。説明があるかもしれない。だが何もなかった。「失礼します」自分からそう言うしかない。
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届かない距離

翌日。須藤グループ本社。秘書室。彩花は朝から落ち着かなかった。理由は分からない。いや。本当は分かっている。最近の弘人だ。監査が始まってから。少しずつ距離ができた。仕事の話しかしない。以前のような雑談もない。相談もない。気付けば。目を合わせる時間さえ減っていた。それが彩花には苦しかった。午前中。社長室へ書類を届ける。ノック。返事。入室。弘人はパソコンへ視線を向けたままだった。「こちら、契約書です」彩花が差し出す。弘人は受け取る。「ありがとう」それだけ。すぐに書類へ目を戻した。彩花は数秒立ち尽くす。何か言われるかもしれない。そう思った。だが。何もない。「失礼します」小さく頭を下げて部屋を出た。ドアが閉まる。その瞬間。胸の奥が少しだけ痛んだ。 ◇◆◇ 昼休み。社員食堂。彩花は一人で昼食を取っていた。以前は違った。秘書室の同僚と話したり。社長室へ呼ばれたり。忙しくても居場所はあった。だが今は違う。監査以降。周囲との距離も変わった。誰も露骨には何も言わない。それでも空気は変わっている。彩花は俯いた。食欲がない。それでも無理やり箸を動かした。 ◇◆◇ 午後。監査部から追加確認の連絡が入る。
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忙しい一日

朝。麻衣子は都内のスタジオにいた。撮影開始は九時。それにもかかわらず、現場には既に多くのスタッフが集まっている。「おはようございます、Mayさん」「おはようございます」麻衣子は笑顔で挨拶を返した。今日の案件は化粧品メーカーとのタイアップ企画だった。新商品の紹介動画。撮影は午前中いっぱい続く予定になっている。「こちら、本日の進行表です」スタッフから資料を受け取る。麻衣子は目を通した。問題はない。そのままメイクルームへ向かった。撮影は順調だった。カメラマンが頷く。ディレクターも満足そうな顔をしている。「さすがですね」担当者が感心したように言った。「撮り直しがほとんどない」麻衣子は小さく笑う。「慣れているので」Mayとして活動を始めてからもう長い。カメラの前に立つことも。企業担当者と打ち合わせをすることも。今さら緊張することはなかった。「本当に助かります」担当者が笑顔を見せる。麻衣子も軽く会釈した。こうした現場は特別なものではない。今ではすっかり日常の一部だった。 ◇◆◇ 昼過ぎ。撮影が終わる。だが一日はまだ終わらない。次の予定が入っている。タクシーに乗り込み、移動しながらスマートフォンを確認する。メール。案件連絡。打ち合わせ日程。通知が次々と届いていた。その中に一通のメールがあった。先日タイアップした企業からだ。件名を見て、麻衣子はわずかに目を見開く。『年間契約のご相談』
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人気インフルエンサー

翌日。須藤グループ本社。昼休み。彩花は社員食堂の片隅でスマートフォンを見ていた。最近は一人で過ごすことが増えた。監査の件もある。何となく周囲との距離を感じる。そんな時だった。SNSアプリを開いた画面に、見覚えのある名前が表示される。『May』おすすめ投稿だった。彩花は何気なく開く。美容系の投稿。新商品の紹介。丁寧なレビュー。コメント欄には大量の反応が並んでいた。『参考になる』『買いました』『Mayさんの紹介なら安心』そんな言葉が続いている。彩花は少し驚いた。思った以上に人気がある。フォロワー数も多い。企業案件も多そうだ。「……いいわね、こういうの」思わず呟く。自分とは別世界の人間だ。画面をスクロールする。イベント登壇。雑誌掲載。企業コラボ。華やかな実績が並んでいる。最近は監査と仕事ばかりだった。だから余計に眩しく見えた。 ◇◆◇ その頃。都内。麻衣子は撮影現場にいた。今日はアパレルブランドとの案件だった。衣装合わせ。撮影。インタビュー。スケジュールは詰まっている。「Mayさん、こちらお願いします」スタッフに呼ばれる。麻衣子は笑顔で応じた。忙しい。だが充実している。撮影の合間。担当者が資料を見ながら言った。「来月のイベントですが」「追加枠が取れそうです」麻
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遠い世界

土曜日。麻衣子は朝から都内のイベント会場にいた。美容系メディア主催のトークイベント。Mayとして登壇する予定になっている。控室にはスタッフが慌ただしく出入りしていた。「Mayさん、開始十分前です」「ありがとうございます」麻衣子は資料を閉じる。慣れた光景だった。会場には多くの来場者が集まっていた。司会者が紹介する。「本日のゲストは、人気インフルエンサーのMayさんです」拍手が起きる。麻衣子は笑顔で壇上へ上がった。質問に答える。商品の選び方。発信を続けるコツ。仕事との向き合い方。話し始めると時間はあっという間だった。イベント終了後。担当者が声を掛ける。「本日はありがとうございました」「こちらこそ」名刺交換。写真撮影。次の案件相談。予定は次々と増えていく。「来月の企画にもぜひ」「日程が合えば」麻衣子は笑顔で答えた。 ◇◆◇ 同じ頃。彩花は自宅でスマートフォンを見ていた。休日だった。だが気分は晴れない。最近は仕事のことばかり考えている。何となくSNSを開く。すると。おすすめ記事が表示された。『人気インフルエンサーMay、トークイベント開催』彩花は何気なく記事を開いた。掲載されている写真。多くの来場者。華やかな会場。そして壇上の女性。顔ははっきり映っていない。だが。堂々としていた。コメント欄にも反応が並んでいる。『行きたかった』『Ma
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