数日後。都内の法律事務所。弘人は応接室にいた。向かいには顧問弁護士から紹介された弁護士。机の上には資料が並んでいる。離婚協議申入書。財産関係の概要。最低限の情報だけだ。「まず現状を整理しましょう」弁護士が資料へ目を落とす。弘人は黙って聞いていた。「奥様側は既に代理人を選任されています」「正式な協議申入れも行われています」事務的な説明だった。感情はない。だからこそ現実味があった。「そうですか」弘人は短く答える。弁護士は続ける。「少なくとも現時点では、離婚協議を進める意思は固いと考えた方がよろしいかと思います」弘人は黙った。麻衣子は本気だった。離婚届を渡した日から。霧島へ相談していた時も。正式な申し入れをした時も。それは分かっている。だが。第三者の口から改めて言われると重かった。「今後ですが」弁護士が資料を閉じる。「まず須藤様のお考えを確認したいと思います」弘人は顔を上げた。「私の考えですか」「はい」弁護士は頷く。「協議の目的によって対応が変わります」「離婚そのものには応じるお考えなのか」「条件面を整理したいのか」「あるいは関係修復を希望されるのか」静かな口調だった。だが弘人は答えられない。会社のことなら答えられる。監査も。契約も。経営も。だが。麻衣子との離婚については違った。自分がどうしたいのか。整理できていない。それに気づいたのは初めてだった。「…&hellip
続きを読む