夜十一時過ぎ。須藤家のリビングには、重たい沈黙が流れていた。麻衣子はソファの前で静かに紅茶を淹れている。湯気が細く立ち上る音だけが、やけに耳についた。その背中を、弘人は鋭い目で見つめていた。——昼間、見た。カフェで笑う麻衣子を。あの男の隣で、穏やかに笑っていた姿を。弘人の中で、ずっと燻っていた違和感が、今やはっきりとした形を持ち始めていた。「……今日」低い声が、静かな部屋に落ちる。麻衣子は振り返らない。「はい?」「お前、誰と会ってた」紅茶を注ぐ手が、一瞬だけ止まった。けれど、それだけだった。麻衣子は何事もなかったようにカップを置き、静かに弘人へ向き直る。「仕事の打ち合わせよ」「仕事?」弘人が鼻で笑う。「お前が?」その言い方には、いつもの見下しが滲んでいた。だが、以前なら怯えていた麻衣子は、もう目を伏せない。「ええ」静かな返事。それが逆に、弘人を苛立たせた。「男と二人で随分楽しそうだったな」麻衣子は数秒、弘人を見つめる。それから小さく息を吐いた。「……見ていたのね」責めるでもなく、動揺するでもない。ただ事実を確認するような声音。弘人は眉を寄せた。「お前、最近おかしいぞ」沈黙。時計の秒針だけが、静かに時を刻む。やがて麻衣子は、テーブルの引き出しから一つの封筒を取り出した。白い封筒。弘人の前に、静かに置く。「……何だ、これ」弘人が訝しげに封を開く。次の瞬間。彼の表情が凍りついた。&md
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