婚約者・三浦悠生(みうら ゆうせい)の不妊に振り回され、長い年月と大金を費やして治療を続けた末、私はようやく、跡取りを切望されていた彼の子を授かった。けれど結婚式の前夜、ローカルで話題になっている投稿が目に飛び込んできた。【今日もクールな社長に特別扱いされちゃいました!】動画の中で、結城陽菜(ゆうき ひな)は愛嬌たっぷりに語っていた。「社長って普段はすっごく怖いんですけど、会議中にこっそり机の下で靴を踏んじゃったんです。そしたら笑ってこっちを見てきて、あとでメッセージで『こら、ふざけるな』って送ってきたんですよ!」コメント欄はすっかり盛り上がっていた。【え、これもう完全に脈ありじゃん!氷の社長がデレるの、陽菜ちゃんにだけでしょ!】【社長の身につけてるものチェックして!陽菜ちゃん専用の匂わせアイテムとか絶対ありそう!】さらに下へスクロールすると、投稿者の返信に一枚の写真が添えられていた。そこには、鈍い銀色のネクタイピンが写っていた。陽菜の胸元に留められている。【これ、彼がくれたプレゼントなんです。これを見るたびに俺を思い出せ、って言ってくれました】私はそのネクタイピンを見つめたまま、しばらく黙り込んだ。それは、私・九条彩葉(くじょう あやは)が悠生のために自分の手で磨き上げた、婚約の贈り物だった。そのピンの内側には、今も私と悠生の指紋を重ねて作ったハートが刻まれている。鏡の中の私は、純白のウェディングドレスをまとっていた。けれどその白さが、その瞬間だけはやけに目に刺さった。あのネクタイピンは、先月、私が悠生に贈ったものだった。覚えている。あのとき彼は受け取ると、ちらりと見ただけで、何気なく引き出しに入れた。「こういう無駄なものは、もう作らなくていい。俺の妻になるんだから、家のことをちゃんと回すほうに気を使え」その声はひどく冷たく、まるで不出来な書類を淡々と採点しているようだった。私は、彼がこのネクタイピンを気に入らなかったのだと思っていた。けれど今、そのネクタイピンは陽菜の襟元におさまり、彼女が誇らしげに見せびらかす特別な証になっていた。画面を見た瞬間、胸の奥に、鈍い衝撃が走った。耳の奥で、鈍い音がいつまでも響いていた。十年そばにいても、彼の心は私に向かなかった。冷たい人なのだと思
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