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第8話

ヒット作連発作家
翌朝早く、隼人は出かける前に、玄関に紙袋を置いていった。

中には着替え一式が入っていた。サイズはぴったりで、値札もまだ切られていない。

それから、服の下には葉酸のサプリが一箱入っていた。

私はそれを手に取ったまま、しばらく動けなかった。

隼人は、忘れていたのかもしれない。

もう子どもはいない。

これを飲む必要も、もうないのだと。

あるいは、忘れていないのかもしれない。

ただ、どう向き合えばいいのかわからないだけで。

私は葉酸の箱を紙袋へ戻した。捨てはしなかった。

午前十時、インターホンが鳴った。

私は玄関のモニターを確認した。

悠生だった。

彼は昨日と同じ濃紺のスーツ姿だった。ネクタイは曲がり、シャツの襟元のボタンも外れている。

目の下には濃い隈ができていて、一睡もしていないのが見て取れた。

その隣には、運転手の山本が白い百合の花束を抱えて立っていた。

インターホンがもう一度鳴った。

それから彼の声が、ドア越しにくぐもって届いた。

「彩葉、開けろ」

私は玄関に立ったまま、動かなかった。

「中にいるのはわかっている」

彼の声は低く抑えられていた。
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