飛行機が中東のとある都市に着陸したのは、現地時間の午後八時三十分。背後では戦争の砲火が夜を昼のように照らし出している。私は夫の渡辺舟(わたなべ しゅう)にメッセージを送った。【着いたよ。迎えに来たから、一緒に帰ろう】返事はなかった。慌てて彼の親友、北村真(きたむら まこと)に電話をかけると、相手は言葉を濁した。「お、お前、本当に中東まで行ったのか?」耳元で爆発音が響く。私は焦りで目の前が真っ赤になるようだった。「彼は一体どの地区にいるの?」電話の向こうで数秒の沈黙。「実は、あいつ、出国なんてしてない」風が襟元に吹き込み、冷たさに身震いした。彼の声はさらに低くなった。「出張だって言ったのは、嘘なんだ」電話を切ると、スマホに一枚の写真が届いていた。日付は今日。舟が目を細めて幸せそうに笑っている。腕に女を抱き、誕生日ケーキのろうそくを吹き消しているところだった。一目でわかった。彼女は林優奈(はやし ゆうな)だ。三年前、舟が私に跪いて誓った相手――「もう二度と会わない」と約束した、あの女。舟はどうやら忘れているらしい。今日が私の誕生日でもあることを。スマホがもう一度震えた。【咲季、実は舟、ずっとあいつとは切れてなかったんだ。二人の仲が良さそうだったから、言い出せなくて】私は画面を見つめた。【迎えに来たから、一緒に帰ろう】そのメッセージは、送信エラーで結局送れなかった。――それなら、私ももう、彼の帰りを待つのはやめよう。……「お客様、避難経路より速やかにご退出ください。この場にとどまらないでください」空港に再びアナウンスが流れる。私、時雨咲季(しぐれ さき)は一歩踏み出した途端、足の力が抜けてその場に崩れ落ちた。どれほどの場所を転々としただろう。最後に帰国の飛行機に乗り込んだその瞬間、私はとうとう声を上げて泣いてしまった。帰国後、ぼろぼろの姿のまま法律事務所へ向かった。エレベーターに乗っていると、背後から電話で甘える声が聞こえてくる。「ねえ、私のあのレースのやつ、誰がポケットに突っ込んで隠したの?こっちは下着なしで来てるんだからね、全部あなたのせいなんだから。いいよ、楽しみにしてる。あとでどうやって私を罰するのか、見ものだわ」私は信じられずに振り
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