手術をすっぽかすクズ夫。大富豪の娘は即離婚 のすべてのチャプター: チャプター 1 - チャプター 10

11 チャプター

第1話

夫の遠藤雅宏(えんどう まさひろ)が新しく雇った女性秘書である青木莉子(あおき りこ)は気が強く、夫がただ食卓で私に一品取り分けただけで、家中の食器を全部叩き割った。そして、雅宏の目の前から永遠に姿を消してやる、と自殺騒ぎまで起こした。雅宏はその話を聞くや否や、慌てて、肺がんの手術を控えた私を置き去りにして、高速道路を飛ばし、まるで恋愛ドラマのような追走劇を繰り広げた。午後3時、手術の時間になり、申し訳なさそうな雅宏から電話がかかってきた。「社員の命を守るのは、社長としての責任なんだ。莉子を無事に連れ戻したら、必ず病院に行ってお前の手術に付き添って、結婚式の埋め合わせで旅行に連れて行ってやるからさ」しかし、私はもう雅宏を待つ気にはなれなかった。「雅宏、離婚しよう」すると、電話の向こうから雅宏の不満げな声が返ってくる。「莉子はお金持ちのお嬢様なんだ。俺があいつの機嫌を取っているのだって、会社のため、この家のため、そしてお前のためなんだから。なのに、俺を理解してくれないどころか、そんなことを言い出すのか?もう、いい。お前の手術なんかたいしたことないんだから、医者に時間を遅らせるように言え。莉子をなだめたらすぐに行くから。な?これでいいだろ?」そう言い残すと、雅宏は苛立たしげに電話を切った。私はもう一度かける気にもならず、ずっと連絡を絶っていた番号に電話をかける。「お兄ちゃん、私の負け。雅宏と別れて、お兄ちゃんの言う通りにするよ」兄の柴田拓海(しばた たくみ)が小さくため息をついた。「あれほどあいつに固執していたお前が?本当にいいのか?」他の患者は家族に囲まれているのに、私のそばには誰もいない。私は自嘲に満ちた笑いを浮かべる。「もう、あの人なんてどうでもいいの」当時、両親は雅宏との交際を猛反対し、別の縁談を押し付けてきた。しかし、私は雅宏を選び、良家の令嬢という肩書きも、両親との縁さえもすべて捨て、いわゆる「愛情」に賭けたのだった。私が家を出る前日、拓海はこう言った。「お前たちに未来はない。後悔した時はいつでも電話してこい」何があっても助けてやると、そう約束してくれた。でもそれは、雅宏を捨てることを意味していた。私は負けを認めたくなかった。二人の愛ならどんな壁も越え
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第2話

そして今では、莉子のためなら手術を受ける私を放置するほどに。しかも、「お前のためだ」なんて偉そうに言うのだから。だが、もう雅宏のそんな嘘は一切信じない。私がそんなことを考えていると、看護師がやってきた。「遠藤さん、ご家族はもういらっしゃってますか?そろそろ手術の時間ですよ」「え、手術?里香(りか)、病気なのか?」「肺癌なの。お兄ちゃん、サインのために来てくれないかな?」「10分待ってろ。すぐ行く」電話が切れた。私は携帯を握りしめる。涙が次から次へと溢れてきた。やっぱり家族こそが、本当の味方だったのだ。それに引き換え、雅宏からは1通のメッセージすら送られてこなかった。手術が終わった翌日になって、やっとひとつ300円もしない栄養剤が、一本だけ彼の秘書から届けられた。それと同時に、言い訳のようなメッセージも送られてきた。【莉子の機嫌が悪いんだ。だから、一緒に1週間ほど旅行して気晴らしさせてくる。医者には手術を延期させろ。俺が帰ってから付き添うから】莉子が機嫌を損ねると、雅宏はいつも数十万円を平気で渡す。なのに私に届けられたのは、コンビニで買えるような安い栄養剤が一本だけ。雅宏は気持ちが大事なんてよく言っているが、手術しなければならないほどの、私に対して栄養剤一本だけとは、気持ちすら感じられない。昔はそんな彼のことを信じていたが、今は分かる。金を使う先こそが、愛情の向いている先だということが……雅宏はただ、私を適当にあしらっているだけにすぎない。私は呆れて首を振った。送金も受け取らず、はっきりと拒絶の返信をする。【来なくて大丈夫だから】手術なんてとっくに終わったというのに、今さら何しにくるのだ?すると、雅宏から不機嫌そうなメッセージが返ってきた。【ちゃんと理由も説明しただろ?なのに、まだそんな態度を取るのか?今回、莉子は彼女のお父さんに頼んで十億単位の大きな契約を取ってきてくれるかもしれないんだ。いいな?この契約が決まれば、どこへでも連れて行ってやるから】私が信じないと思ってか、証拠の契約書まで送りつけてきた。見ると、その契約相手は私の実家のグループだった。疑問に思っていると、隣から覗き込んできた拓海が急に気まずそうに言った。「バレた?でも、別に無理やり助けるつも
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第3話

私は苦笑いを浮かべる。こんな日々をおくらざるを得なくなってしまったなんて、本当にやるせない。私は携帯の電源を切り、莉子の挑発を無視することにした。家に帰り、かつて私と雅宏で誓い合った思い出の品々を処分し始める。ちょうど片付けに追われていると、雅宏から着信があった。「莉子が急に出てきたから、業務にミスがあったらしい。フォローしておいてくれ」昔なら会社のために怒りを堪えて引き受けていただろう。しかし、今ははっきりと断る。「無理」私が拒否するとは思わなかったのか、雅宏の声が不機嫌になった。「少しの手間だろ。なんでそんなこともできないんだよ?」その直後、受話器越しに莉子の甲高い声が割り込んできた。「遠藤部長って、この業界にこんなに長くいるのに、まだ分かっていないんだね。いくら能力があっても、血筋やコネには勝てないってこと。雅宏、私がわざわざ父に頼んで十億単位の仕事を持ってきてあげたのに、受け取らないのは遠藤部長。私のせいじゃないよね?」私は言葉を失った。私が聞いているというのに、ここまで言うなんて。まさか莉子は私の正体を知らないのか?私が考える隙もなく、雅宏が急いで莉子をなだめる。「莉子、あいつは常識を知らないんだ。ここは俺の顔を立てて、怒らないでくれ、な?」次の瞬間、雅宏の表情が厳しいものに一変した。「すぐに行って処理しろ。莉子のサポートができるのは、光栄なことなんだから」その時、家政婦が古い時計を持って私に尋ねてきた。「奥様、これも捨ててしまわれますか?」それは雅宏との初めてのデートで贈った思い出の時計だった。彼は昔、毎日欠かさず着けるほど大事にしていたものだが、今は隅に放り出されて埃を被り、すっかり汚れていた。もういらない。私は頷き、電話口の雅宏に告げた。「遠慮しておくよ。青木さんは雲の上の存在だから、私ごときが彼女のフォローなんて畏れ多いよ」雅宏は家政婦の声が聞こえたのか、不快そうに言う。「家にいるのか?勤務時間中に何をやっている?今すぐ会社に戻って莉子のフォローをしないと、欠勤扱いにして減給、停職処分にするぞ」莉子を助けるため、雅宏は迷わず罰を与えることで私を脅した。そうすれば私が折れるとでも思ったのだろう。しかし私はそんなに甘くない。私は肩
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第4話

今回のことで、雅宏は完全に怒り狂っているのだろう。それなのに余計な騒ぎを起こすこともなく、あっさりと私を解放してくれた。私は首を横に振る。その方が手間が省けて都合がいい。退職の手続きを済ませたので、引き出しの中から離婚協議書を取り出した。それは雅宏が旅行へ出かける数日前にサインしたものだ。彼に差し出した時、中身すら見ずにサインしてくれた。その時、私は思わず尋ねた。「内容はちゃんと読んだ?よく確かめもせずサインしていいの?」雅宏は、優しげに微笑んでこう言った。「わざわざ読む必要なんてないよ。お前が俺を陥れるはずがないと信じてるから」その熱を帯びた瞳と目が合い、鼓動が一瞬跳ねた。私はてっきり、雅宏の中にまだ私の居場所があるのだと勘違いするほどに。口を開こうとしたその時、莉子が突然ドアを開けて雅宏を急かした。「映画を見るって約束したのに、どうしてまだ仕事なんかしてるの?3つ数えるまでに出てこなかったら、今日はもう行かないから!」雅宏は急かされるのが大嫌いで、以前は私に軽く尋ねられただけでもすぐに怒るような男だった。ところが、莉子がこんなことを言っても腹を立てるどころか、楽しそうに小走りで駆け寄っていく。「俺が悪かった。そんなに怒るなよ……」雅宏は私を信じていたのではなくて、莉子との映画の約束があったから、慌ててサインしただけのことだったのか。5年も妻として雅宏に連れ添ったのに、結局、莉子に勝てないらしい。笑ってしまうくらい情けない話だ。私は目線を落とす。雅宏がもう私を愛していないのなら、彼を自由にしてあげるまでだ。私は離婚届を手に、役所へ向かった。「お相手の方は同席されていないようですが、ご夫婦の合意のもとで離婚届を提出する、という理解でよろしいでしょうか?」私は頷いて、雅宏のサインが入った離婚協議書を職員に見せる。莉子と映画に行くために慌てて署名した雅宏は知らないが、その協議書には、「妻が一人で離婚届を提出しても離婚を認める」「離婚届の夫欄は代筆でも有効とする」という内容が明記されていた。離婚協議書まで見せられた職員は納得したのだろう。職員は私から離婚届を受け取った。記入漏れが無いか確認し、正式に受理のハンコを押した。ようやく、無事に離婚が受理された。私は
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第5話

もし私がいなければ、雅宏はずっと前に工場で働くような生活まで落ちぶれ、終わりの見えないようなつらい生活を送っていたはずだ。それからも雅宏は無言を貫く。それがかえって、仲間を増長させた。「雅宏、お前はもう長年奥さんを養って、いいもの食わせて豪邸にも住まわせてやった。いい加減、もういいんじゃねえか?」「そうだぞ。いつまでもあの冴えない女を養って、人生を終える気か?」「こんなことになるって分かっていたら、何回か飯を食った時に、一緒になっちまえって言わなかったのにさ」「本当だぜ。昔あんな金払いが良かったから、いいところのお嬢様かと思いきや、ただの見栄っ張りだったとはな」「結局、俺たちのせいでお前がこんなことになってしまったかもしれないけど、今からでも軌道修正を手伝ってやるから」この会話を聞いて、私はふっと笑った。類は友を呼ぶとは、まさしくこのことだ。「ただの飯の縁」だと?雅宏を振り向かせるために、大学4年間、私は彼らの食費を全額支払っていた。それに、雅宏と旅行へ行く際も、毎回彼ら全員を一緒に連れていった。雅宏へのプレゼントを買う時でさえ、全員に同じものを贈る気遣いをしていたのに。そうして散々美味い汁だけ吸っておきながら、今は雅宏との離婚を勧めているのだと?だが、彼らがこんなことを言うのは雅宏のためではない。莉子の方が金を持っていて、自分たちに有利になると踏んでいるからだった。「雅宏、世間体が気になるなら、証拠をでっち上げて奥さんに非があることにすればいいんだ、そうすれば……」バタン!もう続きを聞く必要などない。私は勢いよくドアを蹴り開けた。部屋にいた男たちが、一瞬で黙り込んだ。雅宏も動揺を見せ、慌てて弁解を口にしようとする。しかし、まだ自分たちが喧嘩中だと思い出したのか、ふっと顔を背け、時計に目を向けた。「まだ6時にもなっていないぞ。また早退か?反省というものを知らないみたいだな。ならば……」私は呆れたような目で見つめた。雅宏は、私が退職したことすら知らないらしい。莉子の誕生日会の準備で頭がいっぱいになり、誰の退職願かも確認せずに承認したのだろう。莉子のことになると、本当に心を込めてできるみたいだ。私は皮肉な笑みを浮かべ、言葉を遮る。「その必要はないから。私、
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第6話

あまりのことに、雅宏は呆然と私を見つめていた。「お前のお兄さん?じゃあお前はあの柴田グループのお嬢様だって言うのか?」雅宏の仲間たちも誰一人として、状況を飲み込めていない。すぐに、口々に騒ぎ出す。「何かの間違いだろ?妹は莉子さんなんだから」「莉子さん、何か言ってくれよ!柴田家のお嬢様なんだろ?」「まさか、二人とも柴田家の娘で、姉妹とか?」彼らの頭の中では、昼ドラ顔負けのセレブ劇が繰り広げられているらしい。彼らはこう思っているのだろう。莉子は私と腹違いの妹なのではないか?だから苗字が柴田ではなく、青木?莉子も、こんなふうにバレる日が来るとは思ってもみなかっただろう。私を莉子が驚愕の眼差しで見つめている。まさか、本物の柴田家の令嬢がこの私だったなんて、とでも言うように。この半年、莉子は令嬢という身分で、私をこき下ろしてきた。なのに、こんなふうにバレてしまうなんて。雅宏の友人たちに詰め寄られても、莉子は押し黙ったまま。その様子を見た雅宏は、莉子が嘘をついていたことを悟った。しかし、今はそんなことを追及している場合ではない。雅宏は離婚届受理証明書を拾い上げ、私のもとに歩み寄ってきた。「全部誤解なんだ。離婚するつもりなんてないから。今までのことは、俺が悪かった。今すぐ一緒に病院に行こう。だから、もうこんな偽物で俺を騙そうとするな。冗談でも笑えないよ」離婚届受理証明書は雅宏の手に握られているのに、彼はそれでも信じようとしなかった。「これ本物だから」雅宏の顔が凍りつく。いつもなら、すぐに苛立ちを露わにし、私を罵倒しているところだろう。しかし今回は、何があったのか、珍しく我慢強く私に語りかけてきた。「もう嘘なんかつかなくていいから。俺は離婚届にサインなんかしていないんだ。成立するわけがないだろ?」私は彼を鼻で笑い、差し出された手を払いのける。「前に渡した書類のこと、もう忘れちゃった?あの時、青木さんと映画に行くのに急いでいて、内容も見ずに署名したあれだよ。あれが何だったのか教えてあげるね。あれ、離婚協議書だったの。その中に、ちゃんと『妻が一人で離婚届を提出しても離婚を認める』『離婚届の夫欄は代筆でも有効とする』って、書いてあったんだけど、あなたはちゃんと読まなかっ
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第7話

「俺たちに人を見る目がなかったんだ。こんな薄汚い女だったなんてさ」「プレゼントをもらうだけで自分からは一切なし。食事だって一度も奢ってくれたことはないし、いつも俺たちに金を出させてた」「本物のお嬢様って、あれくらい豪快に使う里香さんのことだろ?」私たちがその場を離れようとすると、彼らはまた媚びるようにすり寄ってきた。私は思わず呆れて笑ってしまった。「悪いけど、私、青木さんには到底かなわないから。その褒め言葉、受け取らないでおくね」彼らは途端に気まずそうになった。雅宏が顔色を変えて、必死な様子で聞いてくる。「なあ、いつから聞いてたんだ?」「私の誕生日なんて祝う金がもったいないって話から、全部聞こえてたよ。私、本当に馬鹿みたいだよね。今までずっと、あなたの言うことを信じてたんだから。『仕事が忙しいんだ』って言葉を、本気にして。なのに、本当は誕生日を祝うお金が無駄だったって思ってたのね」ケーキひとつ、いくらするというのだろう?私の給料や成果も、全部彼に渡していたというのに。私にはケーキすら与える価値がないというのか?もっと笑えるのは、ちょっとしたプレゼントでも、けち臭かったこと。私が明らかに雅宏が原因で機嫌を損ねているのに、お詫びとして渡されるのも、一個100円もしないチョコレートや飴ばかり。雅宏はバツが悪そうにうつむいていた。「お前も知ってるだろ?俺は、子供の頃からずっと節約してきたんだ。だから、余計な出費は抑えようと思ってただけで……」余計な出費だなんて、よくもまあ堂々と。雅宏は昔からよく「お金より気持ちが大切」だなんて言っていた。だから私もその言葉を信じて、あまり深く考えずにいた。でも、最近莉子からのあてつけめいた連絡が届くようになって、初めて知った。結局、雅宏のそのケチ臭い性格は、私に対してだけだったらしい。莉子の誕生日に贈るプレゼントは忘れないし、高級車やブランドの時計だって貢いでいた。それに、いつも高いレストランを予約して。まるでお金なんて関係ないみたいに豪遊してたくせに。なのに、私には言い訳ばかり並べ立てて。貧しい子供時代を盾にして騙し続けるつもり?残念だが、もうその嘘にはうんざりなのだ。私は拓海のあとについて、その場を離れる。すると、
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第8話

「まずは食事をしよう。里香は一日何も食べていないんだから」母ははっとした様子で手を叩く。「そうよね!うっかりしてたわ。さあご飯にしよう!食べ終わってから、検査に行っても遅くはないからね。それにしても、こんなに痩せちゃって。もっと自分の体を大切にしなきゃ」両親からの愛情に、私は涙で声が詰まった。家族がどれほど私のことを大切に思ってくれているのか、改めて感じた。一方、雅宏にとっての私は、いつだって後回しの存在だった。どちらが本当の家族かなど、考えるまでもなく明らかだ。今までは恋愛のことしか頭になかったせいで、こんな当たり前のことを見落としていた。しかし今、ようやくはっきりと理解できた。今分かったって、遅くはないはず。食事が終わり、私はすぐに両親によって大きな病院へと連れて行かれた。診察の結果、特に問題はないと分かり、二人は心底ほっとしたようだった。翌日、莉子の父親・青木健一郎(あおき けんいちろう)が莉子を連れて、私たちの前に現れると、膝をつきながら、鼻水を流して泣き叫んだ。「申し訳ありませんでした!あの時は魔が差してしまったんです。でも、私は家族を養わなければいけなくて……お願いします。今回だけ……今回だけは許していただけませんか?もう二度としませんから!」そう言うと健一郎は、莉子を容赦なく蹴り飛ばす。「この恥知らずが!拓海様に迷惑をかけるなんて。さっさと謝罪せんか!」しかし、プライドの高い莉子は、悔しげに唇を噛むだけで、最後まで謝罪の言葉を口にしようとしなかった。悔しさに顔を歪ませているだけ。健一郎は怒りを露わにし、莉子を激しく怒鳴りつけた。しかし、いくら二人がそんなことをしても、もう遅いのだ。両親は私の惨状をもう知っていたので、この親子に救済のチャンスなど微塵も与える気はなかった。だから、二人を追い出しただけでなく、今回の経歴詐称騒動も大々的に広めた。もうどこも、この二人を雇ってはくれないだろう。放り出されることになっても、莉子は悪態をつき続けていた。「あんたなんか、ただ家柄が良かっただけじゃない!それだけのくせに!いつか必ず、あんたを超えてみせるんだから」私はそれを聞いて、クスっと笑った。前は私の実力に歯が立たないと言い訳し、今度は生まれ持った家柄が卑
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第9話

それは、花束を抱えた莉子が、雅宏にプロポーズしているものだった。そして、雅宏は周囲の冷やかしの声の中、幸せそうに指輪と花を受け取っている。昔、私がプロポーズを夢見ていた時、雅宏はそんなの恥ずかしいと言っていたのに。だから、もし私がこんなことをしようものなら、捨てられていただろう。結局、私が折れるしかなかった。しかし、今にして思えば、雅宏は恥ずかしかったわけではなく、私では釣り合わないと思っていたようだ。動画がグループチャットに上がると、雅宏が急に入ってきた。【消せ。仕事もしないで、こんなことして何が楽しいんだ?】彼の一言に、一同ははっとする。人数が多いグループだったので、皆が雅宏もいることを忘れていたのだ。最悪だ。皆が怖くなり、グループは一切動かなくなる。すると、雅宏が個別にメッセージを送ってきた。【里香、あいつらが言っているようなことはないから。莉子が突然、花束を抱えてプロポーズしてきたんだ。それに、お前も知っての通り、あいつは興奮しやすい性格で、おまけに大口のクライアントだっただろ?だから、その場で断るわけにもいかず、仕方なく合わせただけなんだよ。撮影が終わったあと、すぐに指輪を返して、俺は既婚者だし、結婚するのは無理だってちゃんと伝えたから】私はただ眺めていた。言い訳の並ぶ長文を読んでも、滑稽にしか思えない。でも、返信してあげることにした。【そんなに焦らなくても大丈夫だから。私たち、もう離婚したんだし、誰と付き合おうと私の知ったことじゃないもの】すると、雅宏から悲しげな返信が返ってきた。【里香、お前はどうして変わってしまったんだ?話すら聞いてくれないなんて。前はこんなんじゃなかったはずなのに】それからも、しつこくメッセージが送られてくる。しかし、私は気にしなかった。まあ、確かにそうだ。かつての私は、雅宏が何を言っても、全てを信じてきた。でも、私の信頼を裏切ったのは、彼自身なのだ。一度崩れた信頼を、もう一度築くことなんてできない。その時、静まり返っていたグループチャットがまた動いた。誰かが驚いたように言った。【皆さん、ニュース見てください!青木さんが窃盗で逮捕されました!】私も気になってニュースを開いてみた。そこにはこう書かれていた
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第10話

あれは5年前、新婚当時のこと。私の誕生日、仕事終わりの雅宏と一緒に帰宅している時だった。私は何気なく、その安っぽい人形を指さして「可愛い」と言った。本当にその人形が可愛いと思ったのではなく、もっと私に関心を持ってほしかったのだ。できることなら、誕生日を思い出して欲しくて。しかし雅宏は携帯画面を見ながら、適当にこう返すだけだった。「あぁ、可愛いな。さっさと帰るぞ。まだ仕事が残ってるんだ」だから、私は肩を落として頷くしかできなかった。でも、ドラマみたいに、家に着いたらサプライズがあるんじゃないかとも期待した。雅宏は知らないふりをして、実はこっそりお祝いを準備しているのではないかと。だが、部屋の電気をつけても、そこには何ひとつなかった。あとから雅宏に謝られたのだが、彼は誕生日のことなんてすっかり忘れていたらしい。その後の埋め合わせすらなかった。当時はただ忙しくて、本当に忘れているだけだと思っていた。しかし、今これを見て確信した。5年前のこんな些細な出来事まで、この男は鮮明に覚えているのだ。誕生日を忘れるなんてありえない。かつて貧乏だった私には見向きもしなかった。今、大金持ちだと知るや否や、しっぽを振って擦り寄ってくる。結局、雅宏は私のことなど見ておらず、金しか愛していないのだ。私は、雅宏が差し出した陶器の人形を受け取るふりをして、咄嗟に手を引いた。陶器の人形が雅宏の手から滑り落ち、無残にも砕け散る。その場の空気が冷たく凍りついた。一瞬怒りの表情を浮かべかけた雅宏だったが、必死にこらえて声を絞り出した。「いらないのか?じゃあ何が欲しい?何でも買ってやるよ」私は鼻で笑う。「あなたに買ってもらわなくても、別に困っていないから」雅宏が溜息をついた。私がまだ意地を張っていると思い、呆れているらしい。「ったく、どうすれば機嫌が直るんだよ?」私は首を振った。「私の機嫌なんてどうでもいいでしょ?それに、青木さんは資産家の娘なんだから、彼女とやり直せばいいじゃない?私たちはもう離婚して、すべて終わっているんだよ。私たちの関係なんて誰も知らないし、静かに終わらせるのが一番平和じゃないかな?」私の頑なな拒絶に、雅宏の顔から余裕が消えた。「お前の望み通り、莉子を解雇
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