All Chapters of 愛されること~夫と義妹に殺されたので、今世では悪女になります: Chapter 131 - Chapter 140

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第130話 相談できる相手

真理と社長室で会ってから、一ヶ月経った。実花の胸には、まだ小さな棘が刺さったままだ。それでも日常は何も変わらない。学校へ行き、授業を受ける。光也とは火曜日のバイトで会う。光也は以前と何も変わらなかった。真理も変わらない。何度か学校に来て、来る前日に実花に連絡が来て、お昼休みに図書室で会う。穏やかに笑うことも。実花へ話しかけてくる声も同じだ。まるで、何事もなかったかのように進んでいる。だからだろう。実花は自分だけ置いていかれている感じがしていた。.「そういえば、この前の土曜日。東国さんと会ったんでしょう?」いつも通り図書室で会うと、真理にそう言われた。土曜日。確かに実花は光也に会わないかと誘われた。(でも……)「ううん。土曜日は用事があって」「そうだったんだ」真理との会話はそこで終わったけれど、実花の中にはモヤッとしたものが残った。(どうして土曜日に東国さんが私を誘うことを知っているの?)どこかで二人は会っていたことになる。そこで二人はどんな会話をしたのか。自分は二人の間でどういう存在なのか。(共通の知人、それとも……)お邪魔虫。実花は隣にいる真理を見る。視線に気づいたのか、真理がこちらを見て首を傾げる。その表情から、敵意とか嫌悪とかは感じない。実花は少しだけ安心した。(あのとき、「今は言えない」って言ったのは……)きっと、本当に事情があるだけなのだ。光也も、真理も、実花を傷つけようとしているわけではない。だから嘘を吐いたり隠したりせず、「今は言えない」と正直に伝えてくれた。「待っていてくれる」と信頼されていると思えば、嬉しくもある。けれど。そんな気持ちは長く続かな
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第131話 誤解を解説

【航視点】「お前、実花ちゃんに何かした?」コーヒーを置きながらそう聞くと、光也は怪訝そうにこちらを見た。「何だ?」「何だじゃねぇよ」航は腕を組み、深く息を吐く。「実花ちゃん、最近様子がおかしいぞ」光也は眉を寄せた。「そんな気はしていたが、そういうこともあるだろう」「まあ、そうだがな」航の曖昧な返事に、光也の眉間にしわが寄る。「実花ちゃんの様子がおかしくなったのって、この前、ほら、例の彼女が会社に来て、実花ちゃんと会った日だぞ」「ああ」光也は納得したように頷く。「その件なら問題ない」「……は?」「実花には、今は言えないこともあると説明した。実花も納得している」航は数秒、言葉を失った。「……納得してる、じゃねぇよ!」思わず机を叩く。光也は少しだけ眉をひそめた。「何だ?」「何だじゃねえよ! お前、なにそれで納得してんだよ!」「……違うのか?」「違うに決まってんだろ!」航は頭を抱えた。(この男、本気で分かってねぇ……)「客観的に考えてみろ」指を一本立てる。「婚約者が、知らない女と社長室で二人きり」二本目。「お前は他人に虫けらほども興味を示さない男だ」「否定はしない……それが問題か?」「それは今回は問題視しない。問題は、そのお前が彼女には親切にしてることだ」光也が首を傾げる。「話をしていただけだぞ」「お前の場合、それが超親切に該当するんだよ!」航は盛大にツッコミを入れた。「実花ちゃんからしたら、不安になるに決まってるだろ」光也は腕を組み、静かに考え込む。「分かったか?」「……いまいち分からない」航は天井を仰いだ
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第132話 「好き」

「今日はお時間を作っていただいて、ありがとうございます」待ち合わせたカフェで席に着くと、実花は深く頭を下げた。京は柔らかく笑う。「気にしないで。『会いたい』なんて可愛い子にお願いされて断る理由ないじゃない」「でも、急だったのに……」「大丈夫よ、無理なんてしていないから」そう言って紅茶を口に運ぶ。「それにしても、あの光也がこんな常識的で可愛い子と婚約するなんて」思わず頬が熱くなる。「京さんは……」東国家とは懇意にしていますよね。篠原真理のことを何か聞いていますか。そう言いかけた言葉が止まる。「光也さんの、叔母さんなんですよね」口にした瞬間、自分でも恥ずかしくなった。(何を聞いてるの……)それはすでに知っていること。東国のパーティーで光也からそう紹介されている。(話の切り出し方が分からなかったからって……)京は体を小さくする実花を見つめ、笑った。「光也があなたのことを困らせてるの?」実花は思わず顔を上げる。「図星みたいね」「い、いえ……その……」否定しようとして、言葉が続かなかった。京は苦笑する。「あの子ね、昔からそういう子なの」「昔から……?」「昔から、まるで、自分一人で生きてるみたいな子だった」京は懐かしそうに窓の外を眺めた。「誰かに頼ることもしない。甘えることもしない。人を遠ざけるわけじゃないけど、自分から近づくこともない」「……」「傍にいたのは航くらいかしら」実花は静かに耳を傾ける。「今思えば、大人の私
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第133話 涙の理由

「東国さんが、好き……なんです」その言葉を口にした瞬間、これまで感情の蓋をしていた栓が抜けた気がした。ぽろり、と涙が頬を伝う。「あら、あらあら!?」京が慌ててハンカチを差し出した。「え、どうして泣くの!?」「私も……分からなくて」涙が次から次へと溢れてくることしか実花には分からなかった。こんな感情に任せて泣いた記憶がなくて、実花は戸惑う。一方で、京も完全に混乱していた。「え、待って?」「す、すみません……」涙声で謝られて、京は一層混乱する。謝らせたいわけではないのだ。「待ってって言ったのは混乱したからなの。だって、光也とは両想いじゃないの?」「……両想い」実花の目から零れる涙の量が増える。「両想いはいいことよ。今から祝杯をあげたいくらいいい気分なんだから」「でも……」実花は涙を拭う。「東国さんは、他に……」その一言で、京の表情が変わった。「光也、何したの?」低い声だった。実花の涙がびっくりして止まる。ひっくと喉の奥からしゃっくりが出た。「昔からあの子、本当に無神経だったのよ! 女の子には特にね!」何かを思い出したらしい。京は何かに怒っているようだ。「学生時代なんてね、告白しようとして呼び出そうとした女の子に“面倒だからそこで言え”って。あり得る?」「……東国さんなら、変じゃないかなって……」「そうなのよ、あの子らしいって言えば、あの子らしいのよ」でもね、と京は続ける。「本音と建前も理解しないのよ」「それは……」「ええ、そう。あの子らしいといえば、あの子らしいわよね」実花は頷く。「例えばね。『一回だけでいいから』って頼まれたら、本当に一回だけなのよ」「え……」
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第134話 復讐の跡継ぎ

京はスマートフォンをバッグへしまうと、立ち上がった。「行きましょう」「どこにですか?」「ちょっと、ここでは話せないの」そう言ってテーブルを回り込み、実花の手をそっと握る。温かい手だった。「でも」京は真っ直ぐ実花を見つめる。「私を信じてついてきてほしい」その言葉には不思議と迷いがなかった。実花は小さく頷く。「……はい」店を出ると、京は近くの駐車場へ向かった。白いセダンの助手席へ案内され、実花は静かにシートベルトを締める。どこへ向かうのか。聞こうとは思わなかった。京が自分を騙す人ではない。それだけは分かっていた。車がゆっくりと走り始めた、そのとき。スマートフォンが震えた。【東国光也】画面に表示された名前を見て、実花の鼓動が少しだけ速くなる。「光也?」「はい」光也からのメッセージにあった通り、ホテル名と部屋番号を京に伝える。これから光也と会うかもしれないとは思っていた。しかし、実際にそうなると緊張してしまう。「話しておきたいことがあるの」実花は頷いて、静かに耳を傾けた。「光也のお父様――東国の当主にはね、本当に愛した女性がいたの」車窓の景色が流れていく。京は淡々と話し始めた。「彼女と結婚することはなかったわ。彼女には英国人の婚約者がいたから」京が肩を竦める。「東国の当主は別の女性と政略結婚したの。今の妻ね。本人が言うには、『東国家のために』『仕方がなく』だそうよ」愛していたわけではない。東国のため。仕方がなく。「言い訳のようですね」実花の言葉に京は笑う。「その通りよ。自分が浮気するための言い訳。それに乗っかる女
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第135話 真実

「……真理」思わず名前が零れた。真理は申し訳なさそうに実花を見る。その隣には光也がいる。(どうして……)先ほどまではいつも通りだと思った光也が、今はどこか違って見えた。真剣な表情。迷いを断ち切ったような目。何かを決意した。そんな空気が光也を包んでいた。「実花ちゃん」京が実花の背を優しく押す。部屋の中に入るように言われているのは分かる。躊躇してしまう。(あ……)光也が後ろに下がる。招き入れていると分かる動きに抗えず、実花は部屋の中に入った。背中で聞いた扉の閉まる音。逃げ場を失った気がした。「実は彼女は――」「叔母さん」京の言葉を光也が静かに遮った。そして、真理の隣へ歩いていく。(東国さん……)実花の胸が締めつけられる。光也が真理の隣に立つ。自ら。何かを決意した表情で。もう、それだけで十分だった。今から何を告げられるのか。答えは一つしかない。光也は真理へ手を伸ばした。(やっぱり……)光也が真理を抱き寄せる光景など見たくない。けれど。(目が離せない……)実花の目の奥が熱くなる。そして痛いと感じた瞬間――。「……え?」ぐいっと音が聞こえてきそうな勢いで、光也が真理の開襟シャツの襟元を思い切り引き下ろした。真理は少し大きめのシャツを着ていた。シャツのボタンは飛ぶこともなく、そのまま真理の腹部近くまでずり落ちる。「えっ!?」実花は目を見開いた。「光也、あんた何やってんの!?」京が思わず叫ぶ。人の着ている服を無理やり押し下げる。そのよう
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第136話 消えた友だち

「でも、ご当主の言うまま僕を産んで、跡取りに差し出す気はなかった」目が覚めた篠原真琴にとって、東国の当主との関係は清算すべきものだった。だが、子どもはいる。「だから、篠原真琴は事故を利用して、流産したと東国の当主に伝え、日本を離れた」そして篠原真琴が頼ったのが、京たち姉妹だった。「よく光也さんのお母さんが母を受け入れたと思うよ」東国の当主が光也の母親である玲を見初めたのは、真琴に似ているからだった。「母さんはそういうことを気にするタイプではないからな」「東国のご当主はろくな男ではないけれど金払いは良かったから、姉さんは手切れ金でアメリカに行って、ずっと夢だったデザイナーの勉強もできたしね」私も巻き込まれたけれど、と京がため息を吐く。その姿は、光也に困らされる航に似ていた。「東国さんは、お母さんに似ているのですね」思わず実花の口から感想が漏れた。それを聞いた光也が軽く目を瞠り、楽しそうに口角を上げる。「そうかもな」「子どもを女の子として育てることを提案したのは姉さんだしね」「それでも、決めたのは母です」東国家に関わらせない。篠原真琴はそう決めて、真理は女の子として育てられた。「女の子ならって……」「東国の当主は藤宮のお義父上とは違って、後継ぎは男って考えに固執しているんだ」光也の顔が冷たくなる。「藤宮を見習ってほしいものだ」「本当だよ」光也と真理は難しい顔で頷く。「おかげで二十年以上、女として生きる羽目になった」「……二十年?」実花が真理を見た。「僕、本当は二十一歳なんだ」「え?」実花は驚いて目を丸くした。「大学もアメリカで飛び級して卒業している」「ええ!?」それなら、なぜ日本の女子高に通
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第137話 初めてだった

「実花、ごめん……」真理の声に、実花は首を横に振った。違う。真理が悪いわけではない。そう伝えたいのに、涙が邪魔をして言葉にならない。何度も首を振ることしかできなかった。けれど、それを見た真理の顔はますます曇っていく。「実花……」真理は困ったように唇を噛んだ。「僕が男だってことが、嫌だった?」実花は目を見開く。違うと言おうとした。しかし、息を吸うと喉の奥からしゃくり上げる音しか出てこない。「女の格好をしていたことも……気持ち悪いって思った?」実花は強く首を横に振った。それでも真理は、自分を責めるように視線を落とす。「実花と話すときは、気をつけていたつもりだったんだ」恋愛のこと。女性の身体に関わること。真理なりに、踏み込みすぎないよう注意していた。「でも、あくまで気をつけていたつもりでしかない」真理は俯く。「実花が僕を女だと思っていたからこそ、話してくれたこともあったかもしれない」実花はまた首を振る。真理と交わした会話で、嫌だったものなど、一つもない。男と分かった今でさえ。どれも大切だった。初めて友人と交わした、何気ない言葉。一緒に笑った時間。全部、実花にとっては宝物だった。「実花、僕が何か変なことをしたのなら――」「変なこと?」光也の低い声が割って入った。真理の肩がぴくりと揺れる。光也は先ほどまでよりも険しい表情で、真理を見ていた。「お前、学校で実花に何をした?」「何もしてないよ」「今、自分で変なことをしたかもしれないと言っただろう」「そういう意味じゃない」「では、どういう意味だ」光也が一歩、真理へ近づく。「お前が実花
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第138話 篠原真理

【真理視点】「光也さんに近づくために、実花と仲良くなろうと思った」真理は認めた。実花の目が揺れる。その表情を見ていると胸が痛んだが、ここで誤魔化すわけにはいかなかった。「でも、それは最初だけだよ」光也に対して、初めに抱いていたのは興味だった。同情もあったかもしれない。申し訳なさも、少しは感じていた。光也は、親たちが選んだ道の結果を押しつけられた人間だ。父親が真理の母親へ向け続けた執着。自分の過ちを正すことなく、東国家から逃げることを選んだ母親。行き場を失った怒りを、夫の愛人とその子どもへぶつけた東国夫人。そのすべての後始末をするように、光也は東国の後継者へ指名された。東国の次期当主。聞こえだけは立派だ。しかし実際は、親たちが犯した過ちの尻拭いをさせられるような立場だった。「不思議だったんだ」「何が?」実花が涙を拭いながら尋ねる。「光也さんの……態度?」東国の次期当主という肩書きを積極的に使わない。かといって、激しく拒絶するわけでもない。恨んでいる様子もなければ、それを誇りに思っている様子もない。「光也さんにとって、東国の後継者っていう立場は、道端に落ちている石ころみたいに見えた」「石ころ?」実花が目を瞬かせる。「興味があるうちは、蹴るにしろ投げるにしろ、使い道があるなら持っていようって感じ」真理がそう言うと、実花は少しだけ笑った。涙で濡れた目元が柔らかく緩む。「分かるかも」興味がなくなれば、それまで。わざわざ捨てることさえもしない。その場に置きっぱなしにして、やがて存在そのものを忘れそうなもの。光也にとって東国の後継者とは、その程度のものに見えた。「でも、光也さんは東国の次期当主として淡々と実績を上げていた」
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第139話 後継者の基準

光也にも、真理にも、東国の後継者になる気はない。けれど、東国の後継者が決まらなければ、真理は男として生きることができない。事情を聞き終えた実花は、改めてその難しさを感じていた。「光也から見て、これって人はいないの?」京が尋ねる。「“これ”の基準が分からない」光也は迷うことなく答えた。「ああ、そうかもね」京は呆れたように頷いた。「プロジェクトを任せられるか、部門のトップに相応しいかは分かる。だが、東国家となると分からない」光也は肩を竦める。「俺に求められたのは性別と顔だ。俺じゃないとなれば、それなりに条件があるだろうな」「なんか、すごい台詞ね。ホストの条件みたい」そのやり取りを聞いていた真理が、実花を見た。「実花なら分かるんじゃない?」突然話を振られた実花は驚く。「私?」「十八年間、藤宮の一人娘をやってきたんでしょう?」実花自身はずっと、自分が婿に迎えた人が後継者になると思っていた。しかし、父は実花を後継者に、婿となる者はあくまでも補佐だと言った。当然だというような口ぶりだった。「家の歴史とか、いろいろ言っていたでしょ?」「そうだけど……」幼い頃から受けてきた教育も、実は後継者に必要なものだった。そう考えれば、実花はこの中で最も後継者という立場に近い。けれど。「言われたままにやってきた感じだから、後継者の基準なんて分からないわ」実花は正直に答えた。父から学べと言われたことを学び、覚えろと言われたことを覚えた。自分が後継者に向いているから選ばれたのか。一人娘だから選ばれたのか。それすら、きちんと考えたことはなかった。「それならば、お義父上に聞くか」光也が当然のように言う。「あんたね」京がすぐに口を挟んだ。
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