All Chapters of 愛されること~夫と義妹に殺されたので、今世では悪女になります: Chapter 141 - Chapter 150

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第140話 娘の友人

「東国光也! 貴様っ――何だ?」勢いよく部屋へ踏み込もうとした実篤の前で、光也は人差し指を唇の前に立てた。静かに。その仕草に、実篤は眉を寄せる。何だ、と不思議そうな顔をしながらも、ひとまず声を落とした。「誰かにつけてこられませんでしたか?」光也が周囲を確認しながら尋ねる。「……警察の世話になるようなことをやらかしたのか?」「心当たりはありませんね」「君が気づいていないだけかもしれないぞ」実篤は深いため息をついた。「それより、実花はどこだ?」「ここにいますっ」実花は光也の背後から声を上げた。実篤からは、光也の身体に隠れて実花の姿がほとんど見えない。光也が背に庇うようにして、実花を前へ出さないようにしていた。「……何をしている?」「実花を叩かせるわけにはいかないので」「なぜ私が実花を叩かねばならん」「昔のドラマにあるでしょう。無断外泊した娘に『この不良娘が!』と平手打ちするような場面が」「実花は外泊をしたわけではない」「まあ、そうですね」「万が一そうだとしても、俺ならお前を殴る」「確かに」光也はあっさり納得し、実花を前へ出した。実篤は娘の姿を頭の天辺から足先まで確認する。一度では足りなかったのか、視線が再び足元から頭まで戻り、もう一度下へ降りた。「見て分かるものですか?」茶々を入れるような光也の言葉を、実篤はひと睨みで黙らせる。髪も服も乱れていない。ただ、泣いた痕がある。「貴様、実花に何をした」「泣かせたのは、あいつです」光也は部屋の奥を示す。そこでようやく、実篤は部屋の奥にあと二人いることに気づいた。光也と実花が二人きりではなかったと分かり、実篤の表情からわ
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第141話 一族の意向

「状況を整理したい」実篤のその言葉に、部屋の空気が引き締まった。光也が注文したルームサービスは、まだ届いていない。京と真理はソファに座り、実花は父の隣へ腰を下ろした。光也だけが少し離れた椅子へ座り、相変わらず落ち着いた様子で足を組んでいる。実篤はまず真理を見た。「女性と偽っていたところを見ると、真理君は東国の当主になる気はない。間違いはないか?」「はい」真理は迷わず頷いた。「僕は東国の当主にはなりたくありません」実篤は続いて光也へ視線を移す。「東国君は?」「俺は藤宮に婿入りするので」「それについては別途話し合いだな」光也がわずかに眉を寄せる。「まだ話し合う必要がありますか?」「……その話はあとだ」光也は渋々口を閉じた。実篤は真理へ向き直る。「では、君は今後どうしたい?」真理は膝の上で拳を握った。「僕は篠原家を継ぎたいです」その声には迷いがなかった。「ただし、それは男として。本来の自分に戻って、もう隠れるような生き方はしたくありません」名前を偽り、女生徒のふりをして。本来の自分を隠して生きることに疲れていた。しかし、自分の存在を明かせば、東国家だけでなく、関係する家々まで混乱させることは分かっている。だから、まだ名乗れない。実篤は静かに頷いた。「それなら、東国君がさっさと当主になれば問題は解決だな」光也は表情を変えずに答える。「その場合は、実花を嫁として東国家へ連れていきますよ?」「何だって?」実篤の眉間に皺が寄った。「当然でしょう。実花は俺の婚約者です」光也は淡々と返す。「俺が東国の当主になれば、実花は東国の当主夫人になる。藤宮家には渡しません」「実花を東国へやるつもりはない」「では、俺と実花の結婚はどうするのです?」「……知らん」「知らんではないでしょう」「……この話も後で、だ」実篤は咳払いをした。京が呆れたように息を吐く。「光也の話は置いておきましょう」「俺の将来の話ですが?」「ややこしくなるから黙ってなさい」実篤は京に感謝するような目を向けたあと、再び話を戻す。「東国君。君から見て、これという人物はいないのか?」「これの基準が難しいのですよ」「……そもそも、だ。君は親戚をきちんと覚えているのか?」光也は少し考えた。「そういえば、ろくに知りませんね」「なぜ
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第142話 男に拘る理由

「お父様なら、誰を東国の当主に選びますか?」実花の問いに、実篤は迷わなかった。「東国万葉だな」「万葉さん?」京が目を瞬かせる。東国万葉。東国夫人が産んだ三姉妹の長女だ。光也にとっては父親違いの姉にあたる。「女性、ですか?」真理が尋ねる。「東国家の基準で問題になるのは、東国万葉が女性であるという一点だけだ」実篤は不満そうに言った。「旧家の跡取りとして考えれば、実花に引けを取らない優れた人材だ」「引けを取らない、ですか」光也が実花を見る。「それは、随分と優秀なんですね」「君の姉だろう」「そうなのですが、いまいち覚えていなくて」「なぜだ」「異母きょうだいが多すぎます。ときどき増えるし……なぜ減らないのか」「減ったら問題だろう」実花は思わず父の袖を引いた。話が逸れている。実篤は咳払いをする。「ともかく、東国万葉が優秀なのは間違いない」一族の中での立場。人脈。実務能力。周囲からの信頼。どれを考えても、旧家を継ぐ者として申し分ないと実篤は言う。「そもそも夫人との結婚は政略結婚だ。夫人の実家としても、自分たちの血を引く者が継ぐなら異論はないだろう」実篤は一度言葉を切る。「東国の一族は、現当主の女問題で散々苦労させられている」実篤は呆れたように息を吐く。「愛人問題。夫人との不和。外に作った子ども。次期当主を巡る混乱。家の評判も随分と落ちた」真理が俯く。それに気づいた実篤は、静かに付け加えた。「真理君を責めているわけではない。君は被害者だ」真理は小さく頷いた。「東国君が後継者として最有力なのは事実だ」実篤は光也を見る。
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第143話 嫉妬と執着

「反対だ!」光也の大きな声に、実花は驚いた。「絶対に反対だ。囮になるなんて、何を考えている!」光也の反対に、真理も同意する。「そんな危険な真似、やめてよ」真理は実花の目をジッと見る。「もしかして、ご当主が僕の母に執着しているから、ほかの女性には本気で手を出さないと思ってる?」「それは甘い。あの男にとって、それはそれ、これはこれだ」京も光也と真理の言葉に頷く。「そもそも、どうやってご当主に手を出させるつもり? 自分から誘惑してみせるなんて、そんな評判を落とすようなことはやめて頂戴」「でも……」光也が実花の前に膝をつく。「実花、そんな考えは捨てろ」「東国さん……」「俺は藤宮に婿入りすると決めている。君が東国のために危険を冒す必要は一切ない」「ちょっと待て」光也の言葉に実篤が反応した。「何を勝手に決めている」「義父上!」ここで光也は実篤がずっと黙っていたことに気づいた。「なぜ反対しないのです!」「……君もそんな風に興奮するんだな」実篤の言葉に、光也の目がつり上がる。「俺のことよりも、実花のことです!」「君のことを心配して言ったわけではない」「それなら」「でも、実花は君たちのことを気にかけている。どうにかしたいと思っている」「だからって」「現当主の女性問題を利用するという考えは悪くないと思うぞ」「なにをっ」「だから、落ち着け」実花の前に膝をついたままの光也の額を、実篤は指で弾いた。「……デコピンなんて初めてやったが、気持ちのいいものだな」目を開いて驚く光也。「君のそんな顔も見られた」実篤は笑う。そして。「香坂さん」「は、はい」名を呼ばれた京は姿勢を正す。「実花にモデルの話を持ちかけていましたよね?」「はい」「実花を華々しく着飾らせ、東国君と並ぶ姿を世間に印象づけることは可能かな?」「可能ですけれど……どうしてです?」この状況で、どうしてモデルの話が出てきたのか。しかも、光也とセットで注目させてほしいとは。「簡単な話だ。東国の当主に嫉妬させればいい」「嫉妬?」実篤は光也を見る。「東国君を見ていると、少し羨ましく思うことはある」「羨ましい?」光也が意外そうな声を出す。実花も同じ気持ちだった。「東国君はいま、若さも自信もある。何をしても堂々としていられる性格も併せて、若い頃の
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第144話 憧れの人

作戦会議から三日後、光也の母親である香坂玲が日本へやって来た。京に連れられて部屋へ入ってきた玲を見た瞬間、実花は息を呑んだ。写真では何度も見たことがある人。雑誌の記事も、インタビューも、玲が手がけた衣装も、前の生で夢中になって集めた。玲が掲載されている雑誌を見つければ購入した。気に入った記事は切り抜いてスクラップ帳へ貼っていた。海外で活躍する日本人デザイナー。華やかな世界にいながら、流行に媚びることなく、自分の美しさを貫き続ける女性。前の生の実花にとって、玲は遠い世界にいる憧れの人だった。その玲が今、目の前にいる。「うわあ……」実花は感激のあまり、玲から目を離せなかった。隣に立つ光也が、面白くなさそうに実花を見る。「君、俺をそんな目で見たことがないよな」「玲様が、本当に目の前に……」実花の耳にはほとんど届いていなかった。光也が眉を寄せる。「母は“様”なんて呼ばれるような大層な人物ではないぞ」「そうですか」実花は玲を見つめたまま、いい加減に返事をした。光也の眉間にさらに深いしわが寄る。その様子を見て、玲が楽しそうに笑った。「初めまして。香坂玲です」「は、初めまして」実花は慌てて姿勢を正し、深く頭を下げた。「藤宮実花です」玲は実花の立ち姿をじっと見つめる。背筋の伸ばし方。手を重ねる位置。目上の相手へ向ける視線。一つひとつの動きに、幼い頃から身につけた品が表れていた。「京から話は聞いているわ」玲は実花へ歩み寄る。「写真や動画もたくさん送られてきたわ」ほら、と玲がタブレットを見せる。実花は顔を赤く染め、一方で、光也は眉間にしわを寄せた。「叔母さん、送りすぎだ」光也が京を見る。「服を作るのは玲じゃない。見せなきゃ話が進まないわ」京は悪びれる様子もなかった。光也と京のやり取りを眺めていた玲は、改めて実花へ視線を戻す。息子が実花へ特別な想いを寄せていることも聞いていた。実花もまた光也を想っているらしい。だが、それは実花自身の口から伝えるべきだから、光也にはまだ内緒だと京から言われている。母親として、気にならないわけではない。しかし、今の玲の中では、デザイナーとしての興奮のほうが勝っていた。「綺麗な子だと思ったけれど、実際に会うと全然違うわね」「ありがとうございます」「ただの美人でも、可
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第145話 波紋

「ねえ、見た?」昼休みのオフィス。スマートフォンを覗き込んでいた女性が、興奮したように隣の同僚へ声をかけた。「見た見た。この二人、誰? モデル?」「モデルじゃなくて一般人なんだって」「一般人?」「この男の人知ってる。どっかの会社の社長だよ」「社長? え、どこ? 転職する」「東国グループの次期後継者らしいよ」「東国!?」その場にいた数人が一斉にスマートフォンを覗き込む。画面に映っているのは、藤宮グループの新しい広告だった。歴史あるホテルの豪奢なエントランス。格式高いレストラン。ウエディングプラン。どの広告にも、一組の男女が映っている。男性はデザイナースーツを着こなし、堂々とした佇まいで女性へ手を差し伸べていた。女性はシンプルなワンピースをまとい、その手を静かに重ねている。派手な演出はない。服も、二人の距離も。二人はただ見つめ合うだけ。それだけなのに、目が離せなかった。「こっちは、その婚約者で……え、高校生!?」「高校生モデル?」「ううん、一般人」「一般人?」「藤宮グループ会長の一人娘だって」「……それ、もう一般人じゃないよ」一同が苦笑する。「でも分かる」一人が広告を見つめながら呟いた。「何か、世界が違うよね」「分かる」「すごく綺麗な子なんだけど、綺麗だけじゃないよね」「品がある」「育ちがいいって、こういうのを言うんだね」「ホテルより二人が気になるんだけど」同じような感想は、SNSにも次々と投稿されていた。【誰、この二人】【本当に一般人?】【品格のサンプル】【リアル
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第146話 一昨日来やがれ

「実花お嬢様」父の秘書である高峰に声をかけられ、実花は読んでいた本から顔を上げた。休日の午後。藤宮家のリビングには、実花のほかに真理がいた。真理はソファに座り、実花のために用意された焼き菓子を当然のように食べている。「どうしたの?」「東国政近様より、実花お嬢様を食事へ招待したいとの申し出がございました」「え……」実花が目を見開く。広告が発表されてから、まだ数日しか経っていない。それなのに、東国の当主である政近から食事の誘いが来た。実篤たちが立てた作戦は、驚くほど早く効果を表した。「情けないくらい簡単に釣れたね」真理が呆れたように呟く。「自分がすべての中心じゃないと気が済まない人なんだよね。光也さんが注目されたことが、よほど面白くなかったんだよ」真理は焼き菓子を一つ摘まみ、口へ運ぶ。「自分の息子が褒められたんだから、喜べばいいのにね」そのとき、リビングの扉が開いた。「東国光也様がいらっしゃいました」藤宮家の使用人に案内されて光也が入ってきた。光也は実花へ向けていた表情を、真理の姿に気づいた途端に曇らせた。「真理、なんでここにいる」挨拶より先に、不満が口から出た。今日は実花と二人で過ごせると思っていたらしい。「実花パパが招待してくれたの」当然のような顔をして真理が答えた。光也の眉間にしわが寄る。「“実花パパ”?」「私は間違いなく実花のパパだが?」光也の不満を笑うように、低い声が奥から答えた。休日で家にいた実篤が、書類を片手にリビングへ入ってくる。真理は笑顔で手を振った。「実花パパ、こんにちは」「よく来たね」ずいぶんと馴染んでいる。光也は気に入らなそうに二人を見比べた。「同じ男なのに、なぜこいつは良いんです?」「性別は同じでも、この子は君じゃない」ふん、と実篤は笑う。「パパと呼ばれるのも新鮮で楽しいしな」実篤はまんざらでもなさそうだった。実花からは幼い頃から一貫して「お父様」と呼ばれている。今さら「パパ」と呼ばれる機会などない。「それならば、俺もパパと呼びますよ」光也が真顔で言い、実篤も真顔で答えた。「東国の父君の次でいいぞ」「それは残念です」光也はあっさりと諦めた。政近を「パパ」と呼ぶ日など一生来ない。実篤もそれを分かったうえで言っているのだろう。二人のやりとりに実花は苦
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第147話 好きな姿で

高峰の提案によって、光也とのデートが決まった。これまでにも二人で出かけたことはあるけれど、今回は違う。光也が好きだと自覚してから、初めて二人で出かけるのだ。(デート……)実花の胸が落ち着かなくなる。.「お嬢様、そろそろ……」「……分かっています」何を着ればいいのか分からない。クローゼットには、実花に似合う服しかない。目利きの西野が実花のために選んで持ってきて、それからさらに使用人たちが厳選したものだけが並んでいる。そこから使用人たちが、今日の気候と、目的がデートだと言うことを配慮して、三着を選び出した。淡い青色だが、灰色がかっているので実花の落ち着いた雰囲気に似合うワンピース。少し大人びているが、実花の初々しさが自然と可愛らしさを添える濃紺のセットアップ。写実的な花柄が施されたブラウスと、オリーブ色のマキシ丈のスカート。「どれになさいますか?」使用人に尋ねられ、実花は困ったように服を見比べた。「……選べません」自分にセンスがないことは自覚している。だから、使用人へ任せてしまえばいい。けれど今日は、それは違う気がした。(東国さんは……)大人っぽいものが好きか。それとも。ほんの少しくらい可愛らしさがあったほうが、光也は喜ぶかもしれない。そう思った途端、胸が熱くなる。(東国さんに喜んでもらうために服を選ぶって……)前の生では、恒一の好みに合わせて服を選んだ。でも、あの頃は嫌われないためだった。嫌われないために、美鈴に似せていた。でも、今回は違う。嫌われないためではない。誰かになろうとしているわけでも
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第148話 デートの反響

火曜日。実花が光也の会社でアルバイトをしていると、受付のほうがにわかにざわついた。「荷物かな?」社員の一人が顔を上げ、実花もつられてそちらを見る。やがてフロアへ入ってきたのは、一見すると配送業者にしか見えない人物だった。濃い色のシャツ。動きやすそうなパンツ。深く被った帽子。光也の会社に出入りしている業者の格好で、実花も見慣れているはずだった。その顔が真理でなければ。「こんにちは、東国光也さんはいますかー?」真理が片手を上げる。元気のいい声に社員たちの目が真理に向き、実花は慌てて光也の部屋に案内する。(真理って……)普段は女子生徒として整えられた姿しか見ていなかった。けれど今日は違う。制服の直線的な形が肩幅や骨格を際立たせ、いつもの中性的な雰囲気よりも男性らしさが強く見える。「格好いい……」光也の部屋に入ると同時に、その言葉はするりと口から出た。真理は驚いたあと、嬉しそうに笑う。「ありがとう」友人への素直な感想だった。実花にそれ以上の意味はない。しかし、実花が入ってきたため書類から顔を上げた光也は、その言葉に眉を寄せた。「何の用だ?」声が低い。「挨拶より先にそれ?」「仕事中だ」「実花がアルバイトをしている時間に来れば、二人ともいると思ったんだよ」真理は悪びれた様子もなく、光也の机へ近づいた。「その格好は?」「篠原真理がここに何度も来て、変に目立ったら困るからね」真理は帽子のつばを軽く持ち上げる。配送業者の制服なら、建物への出入りを不審に思われにくい。「それで、何の用だ?」光也がもう一度尋ねる。「この間のデートの反響を、二人と一緒に確認したくて」「反響?」実花は首を傾げる。先日の光也とのデート。食事をして、展覧会を見て、カフェにも立ち寄った。ただ二人で出かけただけのつもりだった。もちろん、政近へ見せつける作戦の一部ではあった。実篤がそのために記者を手配していたことも知っている。だが、実花自身は周囲の目をほとんど意識していなかった。実篤も「問題ない」と言っていた。「すごいことになってるよ」真理はスマートフォンを取り出し、画面を実花へ向けた。そこには、いくつもの投稿が表示されていた。【広告の二人、本当にデートしてた】【東国光也、婚約者への溺愛が隠せてない】【藤宮実花ちゃん
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第149話 歪んだ確信

同じ頃。薄暗い部屋で、恒一も同じ投稿を見ていた。机の上には、何冊もの雑誌が開いたまま積み重ねられている。どのページにも、光也と実花が並んで写っていた。ホテル。レストラン。結婚式場。広告の中で、実花は光也だけを見ている。そして今。スマートフォンの画面には、光也に抱き上げられ、安心したように笑う実花の姿が映っていた。恒一の指に力が入る。(実花の婚約者は、俺のはずだ)そう決まっていた。あの誕生日パーティーで、発表されるはずだった。実花もそれを望んでいた。いつも恒一を追いかけ、恒一に褒められようとしていた。恒一の妻になることを夢見ていたはずだ。それなのに。「どうして……」実花が光也へ向けている笑顔。恒一は、あんな笑顔を向けられた記憶がなかった。胸の奥に、苛立ちが湧き上がったとき。恒一のスマートフォンが震えた。表示されているのは【一ノ瀬美鈴】。『恒一さん、いま大丈夫?』美鈴の声に、恒一の表情は無意識に緩くなる。「ああ、どうした?」そう答えたとき、窓ガラスに映った自分に気づいた。楽しそうな表情をしていた。(なるほど……)美鈴との会話は楽しい。男女の関係になってからは、駆け引きも増えた。二人だけの秘密を持つ背徳感もあり、以前よりさらに楽しい。しかし、そうなる前も美鈴といるのは楽しかった。義妹だからと一歩引くときもあれば、義妹だからと甘えてみせるときもある。しかし常に自分を立ててくれる健気さがあった。(美鈴に嫉妬しているのか)自分が美鈴を大切にしているから。義妹に対してやきもちを焼くなどみっともないと思うが。(まだ十八歳なのだから、俺のほうが寛大になるべきなのだな
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