愛されること~夫と義妹に殺されたので、今世では悪女になります のすべてのチャプター: チャプター 11

11 チャプター

第11話

「実花」恒一の声を耳にした瞬間、実花の視界がぐらりと揺れた。ほんの少し前まで鮮明だった社交会の景色が、一気に遠ざかっていく。前世の記憶が溢れ出ようとしていることに気づいたときには、遅かった。次の瞬間には、シャンデリアの光がぼやけ、音楽も笑い声も消えていた。人の気配が薄れる。藍色のドレスの重みすら感じなくなる。代わりに浮かび上がってくるのは、忘れたくても忘れられなかった前世の光景。同じ白い光の下にあった、静かで冷たいダイニング。実花の視界の中で恒一は、実花を観ることなく美鈴だけを見ている。義兄妹だから大事にしているだけだと言われ続けた。夫を信じなければいけない。疑ってはいけない。疑うことは、与えられたものに満足しできない『卑しい行為』だと諭された。愛されていると信じることでしか、一ノ瀬恒一の妻でいられなかった。妻でいることに以前の実花は固執していたと言ってもいい。「良い妻になれ」そう言った父親と恒一が、実花にとって振りむいてほしかった。だからその言葉は、命令であると同時に、実花の存在意義だった。だから実花は努力した。父親と恒一に認めてもらうために学び、働き、笑い続けた。「家族だから」「義妹だから」妻も家族のはずではないのか。妻よりも義妹を大事にするのか。そう言いたい気持ちを抑え続けたのは――『家族』という存在に固執したから。家族という単語は、実花にとって呪いのようなものであり、唯一求めた「愛されていないこと」に希望を持たせる『救い』だった。恒一と美鈴の「義兄妹だから」を信じた―――その結果がどうなったのか、いまの実花はもう知っている。.(私の人生って、なんだったのかしらね)現実へ引き戻される感覚の
last update最終更新日 : 2026-05-13
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