真哉兄さんが、私たちへ気づいた。近くの相手へ一言断り、こちらへ歩いてくる。優も、会話をまとめてあとへ続いた。「綾香」真哉兄さんが私の顔を見る。「絵は見られた?」「少しだけ」「そう」それから。隼人くんへ視線を向ける。今夜の会場にいる誰もが知る綾瀬家の次男。父親に似た容姿を持ち。誰へも感じよく接し。突然現れたにもかかわらず、自然に場の中へ馴染んだ人。けれど。真哉兄さんが今見ているのは、それだけではない。隼人くんが私の隣に立ち。一緒に帰ろうとしている理由を、考えている目だった。「今日は、やっぱり。もう帰るね」私は言った。「少し疲れちゃったから」言い訳を増やさない。誰に何を言われたかも。どうして隼人くんを呼んだのかも。説明しなかった。真哉兄さんの表情へ、わずかな驚きが浮かぶ。「食事は?」「ごめん。今日は行けない」以前なら。仕事の話があるから。優も参加するから。店を取ってくれたから。そうした理由を一つずつ考え。最後には、やはり行くと答えたかもしれない。今は。帰りたい。その気持ちを、そのまま残した。「分かった」真哉兄さんが頷く。それでも。視線は、隼人くんへ向いたままだった。「送るよ」優が言った。「車を呼べますし」声は穏やかだった。私が疲れていることを理解した人の目をしている。先ほど。結婚していた頃にはなかった慈しみを向けられた。今も。私を心配しているのだと分かる。「いえ」隼人くんが、優へ向き直る。「僕が送りますので、お構いなく」柔らかな声だった。優の申し出を競うように遮ったわけではない。自分の方が近い関係だと、周囲へ主張するものでもない。もう決まっていることを。相手が不快にならない言葉で伝えている。「そうですか」優の表情が、ほんの少しだけ止まる。すぐに、いつもの穏やかさへ戻った。「綾香は、それでいい?」私へ決定を返す。「うん」迷いはなかった。「隼人くんに送ってもらう」呼び方が。自然に口から出た。優の視線が、短く止まる。真哉兄さんの目も、わずかに細くなった。隼人くんは、こちらを見なかった。けれど。隣に下ろされた手の指が、ごくわずかに動いた。「分かった」優は、それ以上何も言わなかった。「気をつけて」「ありがとう」優の目は、まだ柔
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