『場所はわかるから、すぐに行くね』画面に表示された言葉を、もう一度読む。どこにいるのかも。何があったのかも聞かれなかった。私が連れ出してほしいと伝えたことだけで。来ると決めてくれた。そのことに。胸の奥を締めつけていたものが、少しだけ緩んだ。『はい』返信する。『真哉兄さんの会社が主催しているところです』送ると、すぐに既読がついた。『分かってる』 『もう出るところ』家で仕事をしていると言っていた。着替える時間も。ここまで来る時間も必要なはずなのに。どれくらいかかるのかとは聞かなかった。すぐに行く。その言葉だけで、今は十分だった。スマホを胸元へ抱えそうになり、直前でやめる。鏡の前へ移動し、自分の顔を確認した。化粧は崩れていない。目元も赤くはなっていない。口元へ薄く笑みを作れば。誰にも何があったのかは分からないはずだった。それでも、鏡の中の私は。家を出る前とは違って見えた。ドレスも。パールも。同じように整っている。けれど、楽しみにしていた気持ちだけが削られて。その内側へ疲れが溜まっていた。冷たい水で指先を濡らす。目元へそっと当てる。まだ帰れない。隼人くんが来るまで。真哉兄さんと優のところへ戻らなければならない。私は一度ゆっくり息を吸い、化粧室を出た。***二人は、先ほどと同じ場所にいた。真哉兄さんはスマホを手にしていて。食事のできる店を探している。優はその隣へ立ちながら。会場を行き交う人へ時折会釈を返していた。私に気づくと、優の視線が短く顔へ留まった。何かを確認するような目だった。けれど、何も聞かない。「近くの店、席を用意できるって」真哉兄さんが顔を上げる。「少し遅い時間になるけど、大丈夫?」「うん」返事をしながら、自分の声を確かめる。いつもと変わらなかった。「移動する前に」優が口を開く。「もう少しだけ、ここで案件の確認をしてもいいですか」「もちろん」真哉兄さんは、すぐに仕事の顔へ戻った。「ちょうど、父さんの関係者も何人か戻ってきたから」その言葉に、また人へ紹介されるのかと、身体がわずかに硬くなる。けれど、真哉兄さんは私の反応には気づかず、優へ続けた。「以前の複合開発のことを聞きたいって人がいて」白松家の不動産事業と、東郷側の法務が連携して進めた、
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