背中へ回っていた腕が。 ゆっくり離れていく。 手のひらが。 服の上を滑らないように。 一度その場で浮き。 それから。 自分の側へ戻る。 身体も。 同じ速さで離れていく。 急に立ち上がらない。 慌てて視線を逸らさない。 私が姿勢を戻すのを待ち。 きちんと座れたことを確かめてから。 隼人くんも。 元の位置へ戻る。 床へ落ちたままだったクッションを拾い。 ソファの端へ置く。 私たちの間へ。 壁のように置くことはしなかった。 ただ。 最初より。 少しだけ離れた場所へ座り直した。 今の距離が近すぎたとも。 これ以上は進まないとも。 言葉では説明しない。 二人が。 また落ち着いて話せる空間を。 自然に作り直した。 胸の奥が。 少しずつ落ち着いていく。 近づいたことが。 嫌だったわけではない。 むしろ。 腕が離れた瞬間。 少しだけ名残惜しいと思った。 もう一度。 近くへ行ってもいいと。 思う自分もいた。 でも。 その気持ちだけで。 どこまで進むのかを決めるには。 まだ少し怖い。 隼人くんは。 私が言葉にする前に。 その迷いごと受け取ったように。 勝手に先へ進まず。 だからといって。 何かを失敗したように。 遠くへ逃げることもなかった。 「……うん」 何への返事か分からないまま。 小さく声が出た。 隼人くんがこちらを見る。 「何?」 「お茶」 「うん」 「冷めるね」 言うと。 隼人くんが。 少しだけ笑った。 「そこは敬語じゃないんだ」 「もう、気にしないで」 「うん」 今度は。 いつもの笑い方に近かった。 私は茶器を持つ。 指先が。 まだ少し落ち着かない。 一口飲む。 淹れたばかりのはずなのに。 味がよく分からなかった。 「美味しい?」 隼人くんに聞かれる。 「たぶん」 「たぶん?」 「今、あんまり分からない」 「俺のせい?」 顔が熱くなる。 「……そうかも」 答えた瞬間。 隼人くんが。 少し驚いたように目を見開いた。 それから。 嬉しそうに笑った。 「そっか」 「何?」 「俺のせいでいいよ」 綾香は。 誤魔化すように。 茶器へ口をつけた。 隼人くんも。 自分の茶器へ手を伸ばす。 けれど。 持ち上
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