花園優里香(はなぞの ゆりか)が警察署を出た頃には、すでに夜九時を過ぎていた。スマホを開くと、心配してくれるメッセージが大量に届いていた。どれも同僚や友人からのものだった。だが夫の森下光貴(もりした こうき)からは、一通もない。疲れ切った表情に、さらに寂しさが滲んだ。家のドアを開けると、使用人は彼女の姿を見て一瞬固まった。「奥様、どうして……あ、いえ、その、大丈夫ですか?」優里香は、どこか後ろめたそうな使用人の視線を見つめ、唇を引き結んだ。何も言わず、そのまま二階へ向かった。息子の部屋の扉を開けた瞬間、中から電話の声が聞こえてきた。「ねえ、ちゃんと言われた通りにやったよ!本当にママ、おまわりさんに捕まっちゃうの?」弾んだ声だった。楽しそうに身振り手振りを交えながら話していて、ドアの隙間に立つ優里香にはまったく気づいていない。優里香は静かに耳を傾けた。そこで初めて知った。森下優希(もりした ゆうき)は自分がピーナッツアレルギーだと知っていながら、こっそり昼食に砕いたピーナッツを入れたこと。そのあと警察に通報し、「ママがわざと入れた。自分を殺そうとした」と嘘をついたことを。全部、母親である優里香を警察に捕まらせるため。そうすれば、パパと新しいママと一緒に遊びに行けるし、三人で誕生日を過ごせるから。花園美月(はなぞの みづき)との電話を終え、嬉しそうに振り返った優希は、ようやく優里香の存在に気づいた。幼い顔が硬直した。その目に浮かんだのは、はっきりとした驚きと不満の色だった。そして第一声、「なんでおまわりさん、ママを捕まえなかったの?」と言った。優里香は喉が詰まり、悲しみを堪えながら尋ねた。「……そんなにママに捕まってほしかったの?」五年間、全身全霊で育ててきた息子が、こんなにも自分を嫌っていたなんて。「ママが僕とパパと美月おばちゃんが一緒に誕生日を過ごすのを邪魔しないなら、おまわりさんに捕まえさせないよ」優希は幼い顔に「特別に許してあげる」とでも言いたげな表情を浮かべた。「ママってほんとわかんない。美月おばちゃんもおばあちゃんとおじいちゃんの娘なのに、なんでママは何にもできないの?仕事して、ご飯作るだけで、全然優雅じゃないし。美月おばちゃんはママと全然違うよ。美月おばちゃんと出かけるとね、み
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