南イタリアにおいて、ロレンツォ・モレッティが私に狂うほど惚れていることは、誰もが知る事実だった。それなのに彼は、ナポリでずっと若い愛人を囲っていた。昔の私によく似た女。そんな噂を、あとになって耳にした。ロレンツォは周囲にこう話していたらしい。「あの子は、かつて一番愛した女を思い出させるだけだ」と。同時に、私の耳には絶対入れるなとも命じていた。全部を知ったのは、妊娠が分かった日のことだった。私は自分の口で伝えたくて、彼のオフィスへ向かった。けれどドアの前まで来た時、中から若い女の声が聞こえてきて、足が止まる。「ロレンツォ……私を傍におくのは、あの人に似てるから?」ドアは少しだけ開いていた。隙間から見えたのは、昔の私によく似た若い女。彼女は彼のジャケットを羽織り、ロレンツォのグラスを手にしていた。息の仕方すら分からなくなった。その時、彼の声が聞こえる。「お前をあいつと比べるな」低く、迷いのない声だった。「ソフィアには、決してお前の代わりはできない」私は何も言わず、その場を離れた。足音も立てずに。その夜、私は母に電話をかけた。「お母さん。もう決めたわ」母はしばらく黙っていた。私は静かに続ける。「火事を起こしてほしいの。誰も生き残れないような、大火事に」そして、ゆっくり目を閉じた。「全部終わる頃には、ソフィア・モレッティは、この世から消えたことになるの」電話の向こうで、母は一瞬言葉を失った。けれど次に聞こえてきた声には、隠しきれない安堵が滲んでいた。「ソフィア……やっと決めたのね」ほっとしたように、母が小さく笑う。「今夜のうちに、お父様に手続きを進めてもらうわ。十日もあれば終わるはず。連絡するまで待ってなさい」通話を終えたあと、私は家へ戻った。ヴィラに入ると、ロレンツォはすでにリビングで待っていた。どこか落ち着かない顔をしている。こんな表情を見せるのは珍しかった。「遅かったな」視線だけをこちらに向けたまま、低く言う。「どこ行ってた?」私は手にしていた薬袋を軽く持ち上げた。「ちょっと病院。胃の調子悪くて。検査して、薬もらってきただけ」昔から身体は強いほうじゃない。今回の妊娠も楽ではなく、医者からは無理をしないよう何度も念を押されて
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