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モレッティの名は燃え落ちた
モレッティの名は燃え落ちた
작가: アナ・スミス

第1話

작가: アナ・スミス
南イタリアにおいて、ロレンツォ・モレッティが私に狂うほど惚れていることは、誰もが知る事実だった。

それなのに彼は、ナポリでずっと若い愛人を囲っていた。

昔の私によく似た女。

そんな噂を、あとになって耳にした。

ロレンツォは周囲にこう話していたらしい。「あの子は、かつて一番愛した女を思い出させるだけだ」と。同時に、私の耳には絶対入れるなとも命じていた。

全部を知ったのは、妊娠が分かった日のことだった。

私は自分の口で伝えたくて、彼のオフィスへ向かった。けれどドアの前まで来た時、中から若い女の声が聞こえてきて、足が止まる。

「ロレンツォ……私を傍におくのは、あの人に似てるから?」

ドアは少しだけ開いていた。

隙間から見えたのは、昔の私によく似た若い女。彼女は彼のジャケットを羽織り、ロレンツォのグラスを手にしていた。

息の仕方すら分からなくなった。

その時、彼の声が聞こえる。

「お前をあいつと比べるな」

低く、迷いのない声だった。

「ソフィアには、決してお前の代わりはできない」

私は何も言わず、その場を離れた。

足音も立てずに。

その夜、私は母に電話をかけた。

「お母さん。もう決めたわ」

母はしばらく黙っていた。

私は静かに続ける。

「火事を起こしてほしいの。

誰も生き残れないような、大火事に」

そして、ゆっくり目を閉じた。

「全部終わる頃には、ソフィア・モレッティは、この世から消えたことになるの」

電話の向こうで、母は一瞬言葉を失った。けれど次に聞こえてきた声には、隠しきれない安堵が滲んでいた。

「ソフィア……やっと決めたのね」

ほっとしたように、母が小さく笑う。

「今夜のうちに、お父様に手続きを進めてもらうわ。十日もあれば終わるはず。連絡するまで待ってなさい」

通話を終えたあと、私は家へ戻った。

ヴィラに入ると、ロレンツォはすでにリビングで待っていた。

どこか落ち着かない顔をしている。こんな表情を見せるのは珍しかった。

「遅かったな」

視線だけをこちらに向けたまま、低く言う。

「どこ行ってた?」

私は手にしていた薬袋を軽く持ち上げた。

「ちょっと病院。胃の調子悪くて。検査して、薬もらってきただけ」

昔から身体は強いほうじゃない。今回の妊娠も楽ではなく、医者からは無理をしないよう何度も念を押されていた。

私の顔色を探るように見ていたロレンツォは、ようやく本当に聞きたかったことを口にする。

「今日、会社に来ただろ。

なのに、なんでそのまま帰った?」

誰かに見られていたんだ。

私が彼のオフィス前にいたことを。

ただ、ロレンツォはまだ私が「あの場面」を見たかどうかまでは分かっていない。

本当に、一瞬だった。

ビアンカは彼のすぐ隣に座っていて、ロレンツォのジャケットを肩に羽織りながら、彼のグラスに触れていた。

でも、私がもう一度目を向けた時には、彼女はすでに離れていた。

「近くまで行っただけよ」

私は何でもないように答える。

「話してる最中みたいだったし、邪魔しないで帰ったの」

その瞬間、彼の身体からわずかに力が抜けた。さっきまでずっと張り詰めていたのだろう。

胸の奥が、嫌なふうに軋んだ。

結婚して七年。

周囲から見れば、私たちは理想の夫婦だった。

長い時間を一緒に過ごして、それでも変わらず愛し合っている二人。そう思われていたし、私自身も疑ったことなんてなかった。

このまま一生、彼と生きていくんだと信じていた。

でもまさか、こんなにあっさり心が離れていくなんて。

「ただ報告を聞いてただけだ」

ロレンツォはすぐに言った。

「お前も知ってるだろ。あいつ、まだ若いし距離感がおかしいんだよ。少し近かっただけだ」

そう言いながら、自然に私の肩を抱き寄せる。

「ここ最近、ラヴェッロ行ってないな」

声色が少し柔らかくなった。

「明日なら時間取れる。海までドライブして、テラスで飯でも食おう。最初に会ったあのヴィラ、久しぶりに行かないか?」

その場所の話になると、彼はいつも少しだけ優しい顔をする。

私たちが出会ったのは、アマルフィ海岸の名家が開いたサマーパーティーだった。

あの夜、ロレンツォは人混みから私を連れ出して、月明かりのテラスでキスをした。

それ以来、お互いの目に映るのは互いの存在だけになった。

毎年、結婚記念日になると、私たちは必ずあの崖の上のヴィラへ戻った。

恋に落ちた場所へ帰れば、あの日の気持ちも変わらないままでいられる――本気でそう思っていた。

でも今年、記念日が近づいた時、ロレンツォは「忙しい」と言って来なかった。

今なら分かる。

きっと、ビアンカと過ごしていたんだ。

私は小さく息を吐いて、首を横に振った。

「今はやめとくわ。先生に、しばらく安静にしてろって言われてるから」

ロレンツォは「そっか」と頷き、私の髪を撫でようと手を伸ばしてきた。

私が傷つくのはもうどうでもよかった。でも、この子だけは守らなきゃいけない。

私は気づかれない程度にそっと身を引く。

彼の手が途中で止まった。

「ソフィア」

私の顔を覗き込みながら、ロレンツォが静かに言う。

「……なんか怒ってるのか?」

少し間を置いてから、探るように続けた。

「ビアンカが寄りすぎていたこと、まだ気にしてるのか?」

そして困ったように笑う。

「あの子はまだ子どもみたいな歳だぞ。そんな本気で張り合うことないだろ?」

胸がひどく痛んだ。

昔の私も、あのくらい若かった。

けれど顔を上げた時には、もう何も口に出さないようにしていた。

「別に気にしてないわ」

そう答えると、彼はようやく安心したように息を吐いた。

「ならよかった。

来週、クリスティーズのオークションがあるんだ。欲しいものあったら言えよ。買ってくる」

一時間くらい前、私はビアンカのSNSを見ていた。

【来週、初めてのクリスティーズ】

【彼が、「最後の一点はもうお前のものだ」って。】

そんなコメントと一緒に載っていたのは、二人で撮った写真だった。彼の左手にある結婚指輪だけが、妙に目についた。

私はロレンツォを見て、静かに言う。

「私はいいよ。別の人に買ってあげれば?」

彼の目がわずかに曇った。何か言いかけたその時、スマホが震えた。

ビアンカからだった。

送られてきたのは写真一枚。

クラブの上階にあるプライベートスイート。乱れた黒いシーツ。

ベッド脇には女物のガーターが落ちていて、ナイトテーブルには彼のカフスとシグネットリング。

ロレンツォは一瞬画面を見ただけだった。

それでも、その喉仏が緊張で動くのを、私は見逃さなかった。

「ちょっと片づけないといけない仕事ができた」

平静を装った声でそう言う。

「数日は戻らない」

そして彼は、急ぐように部屋を出ていった。平気なふりをしていたけれど、隠しきれない高揚が背中に出ていた。

思い返せば、前にもこんなことは何度もあった。

仕事だと言って、慌てて出て行く夜。

増えていく出張。

長くなる不在。

全部、最初から繋がっていたのかもしれない。

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