梨沙は俯いたまま、何も言わなかった。そもそも彼女と真希子に、深い関わりなどない。それどころか、今日までは真希子に見下されていた側だ。それなのに今――真希子は、自分に「協力しろ」と持ちかけている。梨沙はよく分かっていた。この世に、ただで手に入るものなんてない。何かを得る覚悟をするなら、同時に何かを失う覚悟もしなければならない。十秒ほど沈黙したあと。梨沙はゆっくり顔を上げた。「......分かりました。協力します。その代わり、40億円ください」真希子の、完璧に整えられた顔から笑みが消えた。信じられないというように梨沙を見つめる。「正気?40億円がどれほどの額か分かって言ってるの?」梨沙は静かに頷いた。「ええ。正気です」真希子は指先でソファの肘掛けを軽く叩く。眉を上げ、梨沙を見下ろした。「40億円は確かに大金だけど......出せない額じゃない。でも現金では渡さない」彼女は淡々と続ける。「こうしましょう。弟さんが使っている生命維持装置、年間レンタル費用は2億4000万円。二十年分なら40億円を超えるわ。その費用、私が負担してあげる」梨沙は小さく笑った。狡猾な女。真希子が、今の自分に現金を渡すはずがない。そんなことをすれば、自分に海渡と真正面から戦う力を与えることになるから。梨沙は大人しくソファに座ったまま、素直に言った。「ありがとうございます、真希子さん」二十年。それだけあれば十分だ。琉生は、この先長い間、最良の治療を受けられる。だが同時に梨沙は理解していた。これがきっと――真希子に堂々と条件を突きつけられる最後の機会だと。打算でも、火事場に付け込む真似だとしても。今しかない。梨沙は再び口を開いた。「今日の写真騒ぎについて、私に騒ぎの言い訳をさせるつもりですよね」真希子の目に、一瞬だけ驚きが過る。視線で続きを促した。梨沙は低い声で言った。「その報酬と、この先一か月、海渡と夫婦を演じ続ける精神的慰謝料として......離婚後、現金1億円。市場価格1億5000万円以上の別荘一軒。それから、私の花火工房の所有権」真希子はようやく安堵したように息を吐いた。「いいわ、約束する。ただし、今日の件を収束させる以外にも条件
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