All Chapters of 再婚、そしてまた再婚......気づけば御曹司に溺愛された: Chapter 41 - Chapter 50

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第41話

礼都は眉をわずかにひそめると、自分から3歩も離れた場所に立っている望をひょいと引き寄せた。「まずは話を聞こう」望はごくりと唾を飲み込んだ。「ママの花火工房がお引っ越しするんだ。だから、新しいおうちを探すのを手伝ってくれる?」礼都は興味深そうに眉を上げた。「工房が移転するのか?」望は力いっぱい頷いた。礼都が目をわずかに輝かせたまま黙っているので、望はもじもじしながらポケットに手を突っ込み、一つ、二つ、三つと飴を取り出した。そして机の上へ並べる。「ごめんなさい。僕、これしか持っていなくて......」幼い声でそう言った。それは彼の全財産だった。工房に新しい居場所を見つけるためなら、全部礼都にあげてもいいと思っていた。礼都の鋭く整った口元が、わずかに弧を描く。だがすぐにその表情を消した。視線が少し沈む。まさか梨沙がわざと望に頼ませたのではないだろうか。彼は手を伸ばし、柔らかな髪をくしゃりと撫でた。「それはお母さんに頼まれたのか?」望は首を横に振る。そして小さくため息をついた。幼いのに妙に達観したようなその様子が、思わず笑いを誘う。望はできるだけ分かりやすく説明した。「ひいおばあちゃんと一緒にいた時、ママが工房の人と電話してたんだ。僕、こっそり聞いちゃった......向こうの人が、工房の新しい場所を探すのが大変だって言ってた。高すぎるか、すごく不便な場所ばっかりなんだって。でもおじさんはすごいから、きっとママを助けられると思ったんだ」男は長い指を膝の上に置き、軽く叩いた。なるほど。そういうことか。礼都はしばらく考え込む。どう見ても、直接手を差し伸べるのは得策ではない。あの娘は一見すると柔らかそうだが、芯はかなり頑固だ。施しのような助けは、おそらく受け取らない。望は小さな手で礼都の膝をぽんぽんと叩いた。「おじさん?」礼都は思わず笑った。「分かった。引き受けよう。ただし、このことは秘密だ」望には理由が分からなかった。だがママの力になれるなら何でもよかった。小鳥が餌をついばむような勢いで何度も頷く。柔らかな髪も一緒に揺れた。礼都は目を細める。ひとつの考えが頭の中で形になっていった。――翌朝早く。梨沙は千鶴と朝食を済ませ、昔
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第42話

「夫婦がうまくやっていけるかどうかなんて、結局はお互いを思いやれるかどうかだよ」海渡は頷いた。「ああ。おばあちゃんの言う通りだよ。俺の梨沙への気持ちは、他人は知らなくても、おばあちゃんなら分かっているはずだ。梨沙と結婚するために、俺がおばあちゃんの前で何度土下座したか」その頃を思い出し、千鶴は思わず小さくため息をついた。当時、梨沙は望を連れて戻ってきた。確かに、梨沙が寿永稜平と結婚したのは海渡の事業のためだった。だが千鶴はずっと思っていた。男というものは、こういうことに関して案外器が小さい。将来二人の仲がこじれた時、海渡がこの件を持ち出して梨沙を傷つけるのではないか。そう心配していたため、梨沙には再婚してほしくなかった。しかし海渡は自分の前で何度も頭を下げ、額を床に打ちつけてまで頼み込んだ。それに、この子は自分が手塩にかけて育てた子でもある。性格もよく知っている。浮気性な人間ではないし、昔から梨沙を心から大切にしていた。だからこそ最後には折れ、二人を結ばせたのだった。だがここ数日、千鶴は梨沙の様子がおかしいことに気づいていた。だからこそ、海渡には少し釘を刺しておかなければならなかった。もっとも、海渡の返答には隙がない。千鶴もひとまず安心し、話題を変えた。「結婚してもう2年だろう?そろそろ子どもを作ることも考えたほうがいいかもね」海渡は頷いた。不満げな様子はまったくない。「わかった。おばあちゃんに早く曾孫の顔を見せられるよう頑張るよ」千鶴は機嫌よく笑い出した。その時、梨沙が病室のドアを開けて入ってきた。海渡はすぐに立ち上がる。「今夜は俺がここに残っておばあちゃんに付き添うよ。梨沙は家に帰ってゆっくり休んで。もう何日も病院に泊まり込んでいるだろう?顔色もよくない」梨沙は頷いた。「そう。分かった」海渡は歩み寄り、穏やかな口調で言った。「車はもう家の前に届けてある。明日からそれでおばあちゃんのお見舞いに来ればいいよ」梨沙は小さく返事をした。千鶴は少し呆れたように言う。「だから前から大丈夫だって言ってるじゃない。そんなに気に病まなくていいんだよ。ほら見なさい。海渡なんて車まで買ってくれたのに、まだ浮かない顔をして」海渡は梨沙の肩に手を回し、笑いな
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第43話

梨沙も、まさかここで望に会うとは思っていなかった。彼女が望の手を取ったその時、顔を上げると、一人の背の高い男が大股でこちらへ歩いてくるのが見えた。曽根はそれを見た瞬間、顔色を変え、慌てて立ち上がった。「土岐社長!?」礼都は眉をわずかにひそめ、軽く頷いただけだった。そして梨沙に視線を向ける。「ついでにこの子を連れて帰って寝かせてやってくれ。俺は個室で人と約束がある」梨沙は頷いた。すると礼都が続ける。「明日は出張で遠方に行く。唐沢を迎えに行かせられないから、1日だけ面倒を見てもらえるか」梨沙は柔らかな声で答えた。「分かりました」礼都が立ち去ろうとした時、鋭い眼差しが曽根の顔をかすめる。「仕事上の取引先か?」梨沙が答えようとしたが、曽根が慌てて口を開いた。「はいはい、その通りです!長年のお付き合いなんですよ」礼都は頷き、梨沙に向かって言った。「先に上へ行く」そうして立ち去っていった。彼の姿が見えなくなると、曽根は胸をぽんと叩き、大きく息を吐いた。それから満面の笑みを浮かべて梨沙を見る。「奥様は、どうやって土岐社長とお知り合いになったんですか?」望が幼い声で答えた。「僕だよ。昼はおじさんと一緒で、夜はママと一緒なんだ」その言葉を聞いた瞬間、曽根の背中に冷や汗が流れた。以前から業界では噂があった。海渡の妻は再婚で、最初の結婚相手はかなり年上の男性だったこと。離婚の際には息子も引き取ったこと。彼もただの噂話として聞き流していた。だが今になって考えてみれば――その息子が土岐礼都と関わっている。ならば、その素性は決して単純ではない。曽根は慌てて梨沙にお茶を注いだ。「もう一度考え直しましたが、今後も1年契約を更新しましょう!今は商売が厳しい時代ですから、お互い助け合わないと。奥様には工房を立て直す力がある。だから1年、様子を見ましょう。お互いに一年のチャンスを与えるということで。どうでしょう?」梨沙は心の中でそっとため息をついた。これも礼都の威光を借りたことになるのだろうか。だが、目の前まで運ばれてきた機会を見逃すのは愚か者だ。梨沙は頷き、明るく軽やかな声で言った。「ありがとうございます。1年間、よろしくお願いします。ただ、土岐さんのこと
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第44話

唐沢は自分の話が出たのを聞くと、慌てて言った。「はい、ぜひお願いします!」少し間を置いてから、唐沢は尋ねる。「土岐様、坂井さんの会社がチャイルドシートを作っていますよね。今、市場に流通している製品の中では最高クラスだと聞きましたが」礼都は軽く相槌を打った。そしてそのまま唐沢に指示する。低く落ち着いた声だった。「明日、人を手配して秋谷さんに一式取り付けてもらえ」唐沢は即座に答えた。「かしこまりました!」別荘の門前に到着すると、唐沢がブレーキを踏んだ。梨沙は望を抱き上げて車を降りる。「今日はありがとうございました」望も手を振った。「おじさん、ばいばーい!」......大西が慌てて駆け寄り、望を受け取ると、千鶴の容体を尋ねた。梨沙は静かに答える。「もう危険な状態は脱しました。あと5日もすれば退院できるって」大西は何度も頷いた。「無事でよかった、本当に......」夜7時過ぎ。明里が足を引きずりながら外から入ってきた。「大西さん、麺を一杯作って部屋まで持ってきて」そう言いながら、リビングにいる梨沙に向かって微笑む。「梨沙さん、お帰りなさい。工房が引っ越したって聞いたけど、どこへ移ったの?」梨沙は顔も上げなかった。「そんなに口が暇なら、床でも舐めて綺麗にしたら?」明里は唇を吊り上げる。「梨沙さんは知ってる?海渡さん、新しくデジタル花火のデザイン工房を作ったの。しかも私が責任者なんだよ。でも私、こういう仕事は初めてだから、ちゃんとできるか分からなくて......だけど海渡さんは、儲かるかどうかなんてどうでもいい、私が楽しければそれでいいって」その時ようやく梨沙は顔を上げた。真っ直ぐに明里を見つめる。「そう。無能な人に期待する人なんて、最初からいないものね」明里の顔が一気に曇った。「梨沙さん、口先だけは達者だね。じゃあ見ていようよ。あなたの伝統花火工房と、私のデジタル花火工房、どっちが優れているか」梨沙は鼻で笑った。「どうして私があなたと比べなきゃいけないの?自分の身の程くらい分かりなさいよ。一日中『海渡さん、海渡さん』って、よくそんなにピーチクパーチク鳴けるものね」明里は冷笑した。「いつまでそんなことを言えるのか、楽しみにしてる
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第45話

「梨沙さん、さっき曽根社長から連絡があって、今から根井白(ねいしろ)で行われる結婚式の準備に向かわなきゃならなくなったんです。私、これから車に乗って現地へ行きます。でも曽根社長は、うちの他のスタッフがみんな辞めたことを知らなくて、どうしても有資格者が二人必要だって言うんです。一人でも大丈夫だって説明したんですけど、向こうが心配してて......」「今どこにいる?私が行く」「中央広場です」「すぐ向かう」梨沙は胃の痛みに耐えながら急いで立ち上がり、簡単に旅行バッグへ荷物を詰めた。それから隣の部屋へ行き、大西の部屋のドアをノックした。「大西さん、急な仕事で出張になったの。たぶん2日くらいで戻るから、望をお願いね。昼間は望を連れて病院へ行って、おばあちゃんの話し相手になってあげて」眠そうな目をこすっていた大西は話を聞いて一瞬ぽかんとしたが、すぐにうなずいた。「はい、わかりました。どうぞお気をつけて!」梨沙は返事をすると、さらに言い添えた。「新しい車にチャイルドシートを取り付けるために代行運転を頼んである。新しい車の鍵はリビングのテーブルに置いておくから、代行の人が来たら渡してあげて」大西は再び了承した。それを聞いてから、梨沙は急いでバッグを持って家を出ると、古い車を走らせて中央広場へ向かった。ちょうど送迎用のワゴン車が出発するところだった。梨沙は最後に車へ乗り込む。初香が慌てて手を振った。「梨沙さん、こっちです、こっち!」梨沙は一路飛ばしてきたせいで、座席に腰を下ろすとようやく息をついた。「間に合ってよかった」初香は彼女の青白い顔色を見て心配そうに尋ねた。「梨沙さん、本当に大丈夫ですか?顔色が悪いですよ......私、献血した後でもこんな顔しませんでした」梨沙は微笑みながら彼女の手の甲を軽く叩いた。目を閉じ、シートにもたれかかる。「大丈夫よ。少し休みたい。着いたら起こして」......根井白に近づいた頃、梨沙のスマホに唐沢から電話が入った。案の定、チャイルドシートの件だった。梨沙は了承すると、アプリで代行運転を手配し、車を持って行ってチャイルドシートを取り付けてもらうよう依頼した。すべて済ませた頃には車も到着していた。時刻は朝8時。空はどんよりと曇り、今に
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第46話

その端正で見慣れた顔が、澄み切った瞳に映った瞬間、梨沙は慌てて礼都の手を押しのけた。「ありがとうございます、土岐さん......でも、どうしてここに?」礼都は、顔色こそ青白いものの彼女がしっかり立てているのを確認してから手を引いた。「知人の息子さんが結婚するって、式に招待されていてな。君は?」梨沙は、なんて偶然なのだろうと思わずにはいられなかった。「会場の装飾を担当しているのが曽根さんの会社で、うちはその会社と提携しています。なので、今日は私たちが花火の打ち上げを担当しているんです」礼都の視線が、梨沙の額に滲む冷や汗に落ちた。「具合でも悪いのか?」梨沙は慌てて首を振る。「いえ、大丈夫です」そこへ、スマホを手にした唐沢が駆け寄ってきた。「土岐様、こんなところにいらしたんですか。あれ、秋谷さんも?そうだ、ちょうどお電話しようと思ってたんですよ」梨沙は不思議そうに目を瞬かせた。唐沢は礼都をちらりと見てから、声を落として言った。「今朝お電話したでしょう?車をアンテ社に持って行って、後部座席にチャイルドシートを取り付ける件です」梨沙は素直に頷いた。「私がいなかったので、代行運転を頼んで持って行ってもらいました。何か問題でもありましたか?」唐沢は唇を引き結び、何とも言えない表情になる。「スタッフがチャイルドシートを取り付けていた時、車内に監視カメラが4台仕込まれているのを偶然見つけたんです」梨沙の顔色はさらに白くなった。汗で湿った髪が数本、首筋に張り付いている。彼女は少し赤くなった鼻先を軽くこすりながら言った。「そうですか......ありがとうございます、唐沢さん。帰ったら対処します」そう言いながらスマホを見ると、初香から「ベストポイントを見つけました」とメッセージが届いていた。梨沙は軽く挨拶をして、その場を離れようとする。すると礼都が唐沢へ手を差し出した。「飴」唐沢は一瞬きょとんとしたが、慌ててポケットからチョコレートを取り出した。礼都はそれを受け取ると梨沙のもとへ歩み寄り、彼女の手を取って掌にチョコレートを置いた。「たぶん低血糖だ。糖分を補給しろ」梨沙は掌の黒い包装紙を見つめ、ぱちりと瞬きをした。「ありがとうございます」彼女の後ろ姿を見送りながら、
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第47話

もともと胃の具合が悪かった梨沙は、足元がふらつき、そのまま地面に倒れ込んだ。それを見た初香は、カメラマンたちに向かって叫んだ。「これ以上手を出してみなさいよ!今すぐ警察を呼ぶから!」カメラマンは鼻で笑い、梨沙を指差した。「よその結婚式で当たり屋みたいな真似してんじゃねえよ。プロとしてのモラルはないのか?恥ってもんを知らねえのか?」初香の怒りが爆発した。「誰に向かって言ってんのよ!その汚い口を慎みなさいよ!」カメラマンは初香の腕を乱暴につかむ。「てめえ、俺に指差して喚く気か?」梨沙は胃が張り裂けそうなほど痛んでいたが、それでも地面からレンガを拾い上げて立ち上がった。「その子を放しなさい!じゃないと、あんたの商売道具ごと叩き壊すわよ」カメラマンは面白がるように梨沙へ近づく。「ほら、やってみろよ。カメラだけじゃなくて、ついでに俺の頭もぶち割ってみろ」言い争いが激しくなりそうになったその時、結婚式の総合プランナーが慌てて駆けつけた。「あなたたち、何やってるんですか!?もうすぐ本番の見せ場ですよ」梨沙は腹を押さえながら、簡潔に事情を説明した。「もし事故が起きたら、本当にカメラマン一人の責任だけで済むと思いますか?今日の新郎新婦がどんな家柄か、ご存じでしょう」正直なところ、梨沙自身も相手が何者なのかは知らない。ただ、礼都を招待できるほどなのだから、普通の家庭ではないはずだった。プランナーは少し考え込む。そしてカメラマンを脇へ連れて行った。「今日のご家族は普通じゃないんだ。この地域を牛耳る重鎮の家系なんだぞ。絶対にリスクは取れない。わかるな?」カメラマンの顔は不機嫌そのものだった。プランナーはさらに続ける。「君がうちのベテランカメラマンなのはわかってるし、腕も信頼してる。でも今日は見せ場を狙う日じゃない。無難に仕事を終わらせてさっさと撤収しよう。現場で何か起きたら、会社全部まとめても賠償しきれないぞ」ようやくカメラマンは不承不承ながら頷いた。だが立ち去る前に、梨沙と初香を思い切り睨みつけた。初香も負けじと睨み返す。梨沙は後輩の腕を引いた。「相手にする必要はないわ。自分の作品のことしか考えず、お客様の命を軽く見るような人に腹を立てるだけ無駄よ。いずれ現実が思い知らせて
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第48話

配車アプリを開く。初香が配車を依頼すると、近くの車を探し続けたが、2分経っても反応はなく、自動でキャンセルされた。初香は足を踏み鳴らした。「こんな大きなホテルなのに、なんで一台つかまらないの?もう一回......」梨沙は初香の肩を軽く叩いた。「少し先まで歩いてみよう。もしかしたら流しのタクシーが拾えるかもしれないし」ホテル自体は大きかったが、開発されたばかりの新区にある以上、市中心部のような賑やかなナイトライフがないのも無理はない。初香は平気だった。ただ、顔色の悪い梨沙を見ると心配になった。「梨沙さん、本当に大丈夫?」梨沙は笑って首を振った。「ええ、平気よ」二人は道路沿いを歩き始めた。歩けば歩くほど道は長く感じられた。歩けば歩くほど、梨沙の胃の不快感は増していく。だが、自分が倒れてしまえば、初香一人ではきっと慌ててしまう。だから歯を食いしばって耐えるしかなかった。その時。遠くから近づいてくるヘッドライトが、二人の前方を照らした。初香は嬉しそうに振り返る。梨沙が身を避ける暇もなく、車は二人の横で止まった。車窓が下がる。唐沢が愛想よく笑った。「秋谷さん、またお会いしましたね。お二人は......?」梨沙は柔らかな声で答えた。「ウェディング会社の車が先に行ってしまって、私たち、まだ車が捕まらなくて......」唐沢が礼都の意向を確認しようと振り返った瞬間、後部座席から低く掠れた声が響いた。「乗って」初香は何度も頭を下げて礼を言った。空いているのは助手席と後部座席だけだったため、梨沙は覚悟を決めて後部座席のドアを開けた。そして再び礼都の隣に座る。なんとも不思議な感覚だった。望を連れて礼都に会って以来、まるで毎日のように顔を合わせている気がする。海渡と会う時間より多いほどに。車は静かに走り続ける。道路脇の灯りが明るくなったり暗くなったりしながら車内へ差し込み、淡い光の影が頬をかすめていく。礼都は何気なく梨沙の横顔を見た。整った顔には深い皺が刻まれ、片手で腹部を押さえながら、身体を小さく丸めている。「唐沢」「はい」「少し疲れた。ホテルを探して一泊してから帰ろう」唐沢は一瞬沈黙した。「......かしこまりました」
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第49話

隣から落ち着いた低い声が響いた。梨沙はどうにか顔を上げ、ふっくらとした唇をきゅっと結んだまま言った。「......平気です」礼都の車に乗せてもらって帰るだけでも十分迷惑をかけている。そう言った直後だった。また鋭い痛みが襲ってくる。梨沙は無意識に小さく息を呑んだ。唐沢にははっきり聞こえたらしい。「一番近いサービスエリアまではまだ40分以上あります。秋谷さん、とりあえず温かいお茶でも飲みますか?できるだけ急いで走りますので」梨沙が返事をする前に。胃を押さえていた手を掴まれた。礼都は彼女の手を取り、自分の膝の上へ置くと、掌を上に向けさせた。「少し我慢しろ」礼都の親指が手首の内側の一点を正確に捉え、ぐっと強く押し込む。じんとした痺れにも似た感覚が腕を伝い、胃の痛みが本当に少し和らいだ。梨沙は思わず目を見開いた。ただぼんやりと、伏せられた礼都のまつ毛を見つめる。「少しは楽になったか?」梨沙は慌てて頷いた。胃の痙攣するような痛みが徐々に治まるにつれ、礼都の指が自分の手のツボを押さえている感触がはっきりと伝わってくる。重くて。硬くて。そして熱かった。指先には薄いタコがあるようだったが、ペンを握ってできる類のものではない。その薄いタコが何度も手の甲をかすめ、微かな痒みを残していく。やがて胃の痛みが完全に落ち着くと。梨沙はそっと手を引き戻し、小さな声で呟いた。「ありがとうございます、土岐さん」手の中にあった柔らかな温もりが、不意に消えた。礼都の指先は空を掴む。たった十数分だったのに、いつの間にかそれが当たり前になっていたらしい。急になくなると、少しだけ違和感があった。彼は小さく笑う。親指と人差し指の腹を無意識に擦り合わせながら言った。「気にするな」長時間の移動。梨沙は何度も自分に、眠ってはいけないと言い聞かせた。けれど車の揺れはあまりにも穏やかで。抗いきれず、いつしか目を閉じていた。眠ってしまったのだ。きちんと座っていた身体も、車の動きに合わせて左右に揺れる。唐沢が車線変更をした瞬間、身体が傾き、小さな頭がそのまま礼都の肩にそっと預けられた。――唐沢は病院の前で車を停めた。二人を降ろすと、そのままアクセルを踏んで走り去
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第50話

梨沙は黙り込んだ。曽根はさらに続けた。「昨日の結婚式会場で、もし本当に花火が原因で事故が起きていたら、私の全財産をつぎ込んでも賠償しきれませんでした。奥様が最後まで自分の判断を曲げなかったおかげです」梨沙は「当然のことをしただけです」と答え、それから付け加えた。「それと、これからは『奥様』と呼ばなくていいですよ。秋谷と呼んでください」曽根はすぐに察した。「秋谷さん、ご安心ください。今後は絶対に同じようなことは起こしません。もしまた何かあれば、直接私に連絡してください」梨沙は社交辞令を交わして電話を切った。千鶴がすぐに尋ねる。梨沙は簡単に事情を説明した。千鶴は頷き、ため息をついた。「結局のところ、海渡の顔を立ててくれたんだろうね」梨沙は千鶴の腕に抱きつき、甘えるように言った。「そんなことないよ。私が優秀だからよ。見ていてください」千鶴は声を上げて笑った。だが笑いながら慌てて胸を押さえる。「だめだめ、笑っちゃだめだった」梨沙は自分の考えを口にした。「部屋を借りようと思ってるの。退院したらおばあちゃんを迎えて、それから病院とも相談して琉生も家に連れて帰る。今は機械で生かされている状態だから、機器を家へ運べれば問題ないはずだから」孫のことを思い出した千鶴は、また目を潤ませた。「おばあちゃんだって二人と一緒にいたいよ。でも都北の家賃は高いんだから、無理しないで。私は元気になったら田舎へ帰るから」梨沙は有無を言わせぬ口調で言った。「だめよ。私の言う通りにして、おばあちゃん」千鶴はため息をついた。「海渡だってお金を稼ぐのは大変なんだよ。家に帰っても『お母さん』と呼ぶ相手は実の母親じゃないし、飛田家でも気を遣いながら生きてきたんだから。使わなくていいお金は使わないようにしないと、人様にたかっているみたいに思われてしまうよ」梨沙は微笑むだけで何も言わなかった。リンゴの皮をむきながら、千鶴に手渡す。その時、スマホが鳴った。大西からだった。電話の向こうで大西が慌てた声を上げる。「奥様、早く戻ってきてください!露木さんがどうしても奥様の新しい車で出かけるって言うんです。何度止めても聞いてくれなくて......」梨沙のまつ毛がわずかに揺れた。しかし迷うことなく言った
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